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このページは、夢枕獏さんの本の感想のページです。

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「シナン」上下 中公文庫(2007年12月読了)★★★★

オスマントルコ時代の著名な建築家・ミマール・コジャ・シナンは、1488年にトルコのカッパドキア地方のアウルナスという小さな村の生まれ。24歳の時にデヴシルメという少年徴集制度によってイェニチェリという兵士団に入り、イスタンブールへと出て、オスマントルコが巨大な帝国を築いたスルタン、スレイマン大帝の下でなんと477もの建築作品を作ることになったという人物。キリスト教徒だったシナンが、信仰と名前を変えてまでデヴシルメに志願したのは、イスタンブールに出て聖(アヤ)ソフィアをその眼で見てみたかったから。聖ソフィアはその当時でこそイスラムのジャーミー(モスク)となっていましたが、元は1千年前にキリスト教徒が建てた建物。村にいたキリスト教の神父から、聖ソフィアこそが人が造り出した最も神がよく見える場所だと聞いて以来、シナンはそれを自分の眼で確かめたいと思っていたのです。

トルコで最も偉大な建築家と呼ばれるシナンの一生を追った小説。元々トルコには興味があるし、とても面白かったのだけれども、夢枕獏さんの小説を書くときの癖のようなものが気になった作品でもありました。それは小説を通して作者の存在が強く感じられるということ。例えば「陰陽師」や「沙門空海唐の国にて鬼と宴す」のような、日本もしくはそれに近い環境の小説の中では、それもまたいいと思うのですが、オスマントルコというまるで違う文化を描く時にそれをされると違和感を感じてしまうし、必要以上に作り物の部分を意識させられてしまい、舞台裏を見せられているようで少々興ざめ。なかなか物語に入ることができず、それが私としては残念でした。それに歴史小説は、いかに作者がその人物を作り上げるかにかかっていると私は思っているのですが、シナンの一生を追いながらも、ハサンやザーティといった人物との友情以外の部分、シナンのもっとプライベートな部分、例えば恋愛観などについては全く触れられていないのです。例えば、スレイマンとロクセラーヌ、そしてイブラヒム、そしてハサンの辺りは面白かっただけに、肝心のシナンについてももっと作りこんで欲しかったところ。シナンの俗物的な部分を描かなかったのは意図的なことで、その分、宮廷ドラマを盛り込んだのかもしれませんが…。聖ソフィアの不完全さと、サン・マルコ寺院における神の不在については面白かったのですが、肝心の神の概念についてはあまり新鮮さはなく、それも残念だったところ。それでも最後は感動的でした。この最後の部分のような、物語的な部分をもっと読みたかったです。

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