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このページは、山本幸久さんの本の感想のページです。

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「笑う招き猫」集英社文庫(2006年12月読了)★★★
ヒトミとアカコは漫才コンビ。大学の時に出会ってから8年、コンビを組んで2年。半年前、売れない芸人たちと一緒に阿佐ヶ谷の喫茶店を借りてライブをしていた時に、桃餐プロの永吉にスカウトされ、その日のシアターQで行われた若手のお笑いたちのクリスマス・ライブが初舞台でした。しかし2人ともすっかりあがってしまい、客席の凍りつくような無反応に撃沈してしまいます。その日の打ち上げでは、アカコが先輩芸人の金ピカラッキョーに無理矢理参加させられた野球拳で、アカコが相手を殴り、2人は逃走。一度は首を覚悟する2人でしたが、徐々に舞台にも慣れ、実力を発揮することに。

第16回小説すばる新人賞を受賞したというデビュー作。
アカコやヒトミは売れて有名人になりたくて、その手段として漫才を選んだのではなく、2人で漫才をやるのが本当に好きで漫才をやっているというコンビ。途中多少波風は立つものの、基本的に自分たちのことが良く分かっているせいか、進むべき道を悩むわけでもなく、才能の壁に突き当たってもがくわけでもなく、芸人の世界のドロドロとした部分に溺れそうになるわけでもなく、基本的にとても順調。初舞台こそ撃沈するものの、2人が本調子を出してしっかりやりさえすれば、それだけ客に受けるというような展開なのが、あまりにも綺麗事すぎるような気もしました… 少々残念。しかし2人のお互いに対する暖かい友情や、マネージャーのデブヨシこと永吉悟や、アカコの祖母の「頼子さん」、自衛隊上がりのヘアメイクアップアーティストの白縫、ピン芸人の乙といった面々の暖かい視線に包まれて、とても気持ち良く読める作品ではありました。
作品の中で一番印象に残ったのは、終盤永吉がテレビに出ていた2人についてコメントする場面。やはりテレビの方が映える人間、舞台の方が映える人間というのはいるのでしょうね。以前吉本の舞台を見に行った時は、テレビでも見る芸人さんが、舞台でもそのままなのに驚いたのですが、永吉が言っている部分は、やはり舞台を先に見ていないと気がつかない部分なのでしょう。その辺りを、見比べてみたいという興味が湧いてきてしまいます。

「幸福ロケット」ポプラ社(2006年2月読了)★★★★★お気に入り
11歳の小学校5年生・山田香な子の不幸は、まずクリスマス・イヴが誕生日だということ、「山田香な子」などという平凡な名前であること、そして両親の仲が良すぎて、父の耀蔵が母・義絵と少しでも長くいるためにと会社を辞めて、母方の祖父の経営する福園工務店に入ってしまったということ。元々は文京区の小石川にある高層マンションに住んでいたのに、父が仕事を変えてしまったため、半年前に葛飾区お花茶屋に引っ越しをして、「フラワーティーハウス」などという名前の賃貸アパートに入ることになってしまったのです。そして香な子の通うお花茶屋小学校では、コーモリこと小森裕樹が隣の席。香な子にとっては、これといって特徴のある男の子ではないのですが、ある日、クラスメートの中でも特に可愛い町野ノドカに、彼をデートに誘うのを手伝って欲しいと頼まれて…。

とても可愛らしい初恋物語。
町野さんに協力を頼まれるまでは、香な子は特に何とも思っていなかった小森くんのことが、何とはなしに気になっていく過程がとても丁寧に描かれていますし、どのエピソードを取っても可愛いですね。夜の京成本線での密かなデート、学校で見ているよりも小森くんが大人っぽく見える場面、自称「クラスで8番目に可愛い」香な子が、自分と町野さんの違いを比べる場面、香な子の抜け駆けに怒る町野さんに対して逆に闘志を燃やすことになる場面… ずんずんと引き込まれました。
香な子の両親や義昭オジサン、元モデルで美人でちょっと怖い鎌倉先生、小森くんのお母さんなど、脇役の面々も魅力的。お父さんの前の会社での頑張りぶりや会社を辞めたエピソードも効いていますし、学校で隠れて煙草を吸い、ジャガーを乗り回す鎌倉先生もかっこいいです。小森くんのお母さんが未来の顔を描くというエピソードも素敵ですね。日下くんが天文にのめりこんでいく様子も何とも微笑ましくて応援したくなります。爽やかでほのぼのとして、気持ちが柔らかくなれるような作品でした。

P.162「面白いな、本て」「本を読むといろんなひとの人生を楽しむことができるもんな」「本を読むのも楽しいけど、本について山田と話すのも楽しいもんな」「だからおれは本を読むんだとおもう」
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