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このページは、山田太一さんの本の感想のページです。

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「異人たちとの夏」新潮文庫(2002年3月読了)★★★★★お気に入り
妻と離婚し、仕事場に使っていたマンションの1室に暮らし始めた、シナリオライターの「私」。環状八号線に面しているため24時間車の音が絶えることなく、ほとんどの部屋が事務所に使われているというマンションですが、「私」はいつしかそこを「静かすぎる」と感じるようになります。「私」の他にマンションに住んでいるのは、3階に住む藤野桂という女性のみ。離婚調停の疲れや、よく仕事で組んでいたプロデューサーの間宮と元妻のことで、しばらく人嫌いのような状態になっていた「私」は、48歳の誕生日にふと思いついて浅草へと向かいます。そして偶然入った浅草園芸ホールで出会ったのは、亡くなった父親そっくりの男。そして彼の家へ連れられて行くと、そこには亡くなった母親そっくりの女性が。30代の夫婦である彼らが、自分の両親であるはずないと思いつつも、「私」は強く惹かれるものを感じます。

第1回山本周五郎賞受賞作品。
なんともいえず美しい物語でした。「異人」の異は「異界」の異。12歳の頃に亡くした両親と、ふとしたことからめぐり合ってしまった「私」。最初は両親に酷似しているにすぎないと思っていた2人が、実は両親その人たちであると分かってしまった時…。この両親を「幽霊」とか「怨霊」という言葉にはめ込んでしまいたくないですね。死んでしまっているはずの人たちですが、生きている人間と同じように、確かな温もりを持っているのですから。単なる主人公の幻想でも願望でもなく、彼らは本当にそこに存在しているのです。そして再現される「家族」の情景。それは12の時以来、「私」が夢見ていた情景です。身の回りに起きる出来事に消耗して、感情すらも失いそうになっていた「私」にとっては、この不思議な団欒の雰囲気は実は一番必要なものだったんでしょうね。でも死んだ人たちに連れていかれてしまってもいい、という想いはよく分かるのですが、そうなってしまうと単なる逃避になってしまいます。最後の「ありがとう」の言葉が心に沁みますね。
この作品は映画化もされていて、「私」に風間杜夫、両親に片岡鶴太郎と秋吉久美子、ケイに名取裕子というキャスティングだそうです。脚本家として名高い山田太一氏のこと、きっと映像化された時に、一番作品の良さが引き出されるのでしょう。ぜひ一度見てみたいです。
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