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このページは、山尾悠子さんの本の感想のページです。

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「ラピスラズリ」国書刊行会(2002年3月読了)★★★★★お気に入り
列車の到着を待つ間にふと立ち寄った深夜の画廊。その画廊にひっそりと展示されていた三葉の銅版画に見入っていた「わたし」に、画廊の主人が声をかけます。「画題(タイトル)をお知りになりたくはありませんか」 …その銅版画の画題は、「人形狂いの奥方への使い」「冬寝室」「使用人の反乱」。何らかの物語の挿絵のように見える銅版画でした。そして画廊を去った私は、幼い頃、同じような光景が繰り広げられたことを思い出すのです。その時の銅版画の画題は、「痘瘡神」「冬の花火」「幼いラウダーテと姉」。

山尾悠子さんの、なんと23年ぶりの新刊という作品なのだそうです。物語は「銅版」「閑日」「竈の秋」「トビアス」「青金石」という5章に分かれ、「銅版」で登場した版画絵が、「閑日」以降で物語として展開していく連作幻想譚となっています。とにかく装丁がとても美しい本。青のクロス張りに箔押し、パラフィン紙。さらに函。ラピスラズリという石に比べるとかなり明るい青ではあるのですが、表紙に飾られたG.F.ウォッツの「希望」という絵が、その青色にとても良く合っていて素敵。
そしてここに描き出されているのは、本当に独特の世界なのですね。全体を通して淡々と静かに描かれているのですが、この静かな文体がイメージを喚起してくれて、時には手触りや匂いを感じるほど。絵画的な美しさがあり、物語の世界に引き込まれてしまいます。「閑日」「竈の秋」では中世風の貴族の屋敷が舞台。「トビアス」で舞台は一転して近未来を思わせる日本へ。そして「青金石」では13世紀のイタリア・アッシジの聖フランチェスコへ。なぜ実は「坊ちゃん」だったのか、ゴーストとは何だったのか、何を意味しているのか分からない部分もあり、きちんと全てを理解しているとは到底言えないのですが、それでもこの作品は、ゆっくりと理解していけばいいのだろうという気にさせてくれます。最後の「青金石」で感じられる希望は、実は時系列的には一番古い物語のはず。最初から希望が約束されていたのですね。この章が最後にあったことが、何とも嬉しくなります。キリスト教的な死と再生を強く感じさせる物語でした。

「山尾悠子作品集成」国書刊行会(2007年5月読了)★★★★★お気に入り



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