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このページは、雪乃紗衣さんの本の感想のページです。

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「彩雲国物語-はじまりの風は紅く」角川ビーンズ文庫(2004年9月読了)★★★★★お気に入り
現在の主上が王座について、早半年。しかし政事に全く興味を示さないどころか、朝議にも出席せず、臣下に任せきりという昏君ぶり。城下にもあまり良くない性癖の噂が流れ始めており、重臣たちは困り果てていました。そこで白羽の矢が当てられたのが、家柄だけは名門中の名門、しかし明日の食事にも困るほどの困窮貴族の令嬢・紅秀麗。朝廷三師の1人である霄太師は、早速紅家を訪れます。秀麗に示された報酬は、なんと金500両。これは一家5人が10年楽に暮らしていけるほどの大金。そしてこの報酬を受け取る代わりに、秀麗は後宮に入って王の妃になり、王に国政への興味を持たせるべく、教育係を務めることになったのです。

第1回ビーンズ小説賞読者賞・奨励賞W受賞作作品。
角川ビーンズ文庫を読むのは初めてなので、どのような雰囲気なのだろうと思っていたのですが、これが意外なほどしっかりとした作品でした。思わず噴き出してしまうような場面もあり、ほろりときてしまう場面もありの、テンポの良い中華風のファンタジーです。
まず、登場人物たちが魅力的。努力家の秀麗もいいですし、兄のような存在の静蘭、仔犬のように人懐こい主上・紫劉輝、異例の出世を遂げている若き武官・藍楸瑛や、朝廷随一の才人と誉れ高い若手文官・李絳攸と、いい男揃い。秀麗の父の紅邵可、そして3人の老臣たち、霄太師、茶太保、宋太傅も、いい味を出しています。しかも、華やかでありながらも、恋愛だけに重点を置いているわけではないところが、また好印象なのです。8年前に起きたという王位争いのエピソードから、王のあり方、朝廷のあり方が問われていきます。朝臣たちが、朝廷に出仕しているからといって無条件に王に忠誠を誓っているのではないというのも、面白いところですね。王の側からだけでなく、家臣の側からも、仕えるに足る王かどうかを品定めしています。名家出身の実力者に認められるかどうかで、王の真価も決まってくるのです。そしてそこで使われる花菖蒲などの小道具も、とても粋。若い王、若い朝廷が成長していく過程も、これからの読みどころとなってきそうです。ただ、主人公であるはずの秀麗が途中の展開で影が薄くなってしまっているのだけは、少々残念でした。主人公にはあくまでも主人公でいて欲しいところです。
国の成り立ちに関わる彩八仙の物語も、いつか読んでみたいものですね。

「彩雲国物語-黄金の約束」角川ビーンズ文庫(2004年9月読了)★★★★★お気に入り
例年にない猛暑に体調を崩し、出仕が出来なくなる官吏が続出、残された官吏たちも過労に倒れるという悪循環が起こります。人手が足りなくて最も困っていたのは財政を預かる戸部。部下をこき使うことで有名な戸部尚書のせいで、元々の人手不足が、危機的状況にまでなっていたのです。王の提案で各省庁から人材を一時的に戸部に貸し出すことになります。そして李絳攸の紹介で、侍童姿をした紅秀麗と、丁度茶州から紅家に静蘭を訪ねて来ていた浪燕青も、戸部の仕事をすることに。しかしこの戸部尚書、常に仮面をつけた、年齢・顔・声ともに不祥の奇人変人と評判の人物だったのです。

彩雲国物語第2弾。
秀麗は絳攸の紹介で外朝に勤めることになり、幼い頃からの夢を一部叶えることになります。秀麗の見る戸部尚書の黄奇人は、厳しいけれど、非常に有能な人材。秀麗がそのことを見抜いたのは、やはり様々な仕事の経験があるからなのでしょうね。厳しい仕事を知れば知るほど、他人の仕事に対する能力は見えてくるはず。そして上司の有能さを知れば知るほど、仕事も面白くなるはず。
そして今回劉輝は、そんな秀麗が国試を受けられるように、女人にも国試の門戸を開こうとしています。彼の恋文や贈り物には、世間知らずが原因の非常識な物も多いのですが、この国試の門戸を広げるということが、秀麗にとっては一番の贈り物。しかしそれはすなわち、秀麗と劉輝の関係の変化をも意味します。最初はただ単に、好きな女性の思いを叶えてやりたいという気持ちから出発したことだけに、その結果のことを思うと切ないですね。彼の恋路の応援をする気はそれほどないのですが、しかし王権を発動することなく、頑張って欲しいところです。
今回は、前巻とは違って、秀麗が物語の展開から取り残されていないのが良かったです。ただ、終盤、劉輝たちが団体客相手に集まった場面で、もう少し派手な場面が見たかった気もしますね。

「彩雲国物語-花は紫宮に咲く」角川ビーンズ文庫(2004年9月読了)★★★★★お気に入り
秀麗は国試を3位の成績、「探花」で及第し、初の女性官吏となることに。しかし街の人々には避けられ、ずっと尊敬していた女性には、しばらく来ないで欲しいと言われ、秀麗は大ショック。しかも外朝初の女性ということで、同期の進士たちにも官吏たちにも冷たい視線を浴びせられ、ひどい嫌がらせを受けることになったのです。それは、史上最年少の13歳で「状元」及第者となった杜影月も同様。しかも監督官となった魯官吏は、目をつけた官吏を徹底的にしごくことで有名な人物でした。初日の集合時刻に遅れそうになった秀麗と影月は早速目をつけられることになります。その日から、秀麗の午前中の仕事は厠掃除、影月は沓磨き。そして午後は午後で、2人とも到底1人ではこなしきれない雑用を押し付けられ、しかも常に官吏たちの妨害に悩まされることに。

彩雲国物語第3弾。
女性だから、まだ子供だからと差別する人々の姿。しかしそんな人々の冷たい視線に晒され、大きな衝撃を受けながらも、顔をあげて前を向いている秀麗の健気さがいとおしいです。一度外朝に上がってしまえば、そこは身分や制度に縛られた世界。一旦外朝に上がってしまえば、普段なら対等の口を利いている楸瑛や絳攸の顔を正面から見ることすら許されませんし、ましてや誰の助けを期待することもできません。楸瑛の、自分の力で乗り越えないと、誰も彼女を認めることはないし、ましてや意味がないという言葉が非常に重かったです。皆がそれぞれに秀麗を守りたいと思いながらも、陰から見守るしかないというのは、読んでいてもとてもつらいところ。しかしその暖かさや優しさが痛いほど伝わってきます。もちろん、この巻で大変なのは、秀麗だけではありません。秀麗を守るために、それに相応しい行動ができる立場と地位、権力を初めて欲した静蘭、そして自分の存在意義について1人密かに悩んでいた絳攸も、この巻で気持ちをふっきり、新しい一歩を踏み出すことになります。官吏としての一歩を踏み出した秀麗を目の当たりにすることになった劉輝も同様。しかし彼も秀麗との関係のあり方を前向きに考えているようですし、最後の決断も実に見事なもの。見る見るうちに王らしさを備えていくのが、とても頼もしいです。
男性だから女性だから、大人だから子供だからという「差別」は無用。しかし男性の良さ、女性の良さを生かすための「区別」は、やはり必要なことですよね。胡蝶が秀麗に贈った言葉が素敵です。

「彩雲国物語-想いは遙かなる茶都へ」角川ビーンズ文庫(2004年10月読了)★★★★★お気に入り
彩雲国初の女性官吏となった秀麗は杜影月と共に、州牧として茶州に赴任することに。州牧の赴任ともなれば、本来ならば多くの護衛や書生、家族を引き連れて華々しい行列を作るもの。しかし不審な追跡者たちを撒く意味もあり、秀麗たちと同行するのは、静蘭と浪燕青、そして香鈴だけ。わずか5人という少人数で秀麗たちは野宿を繰り返し、邑や街で休息をとれる日でも安宿に泊まり、人々の目を欺いていました。官服はもちろん、佩玉も州牧印も持たないという徹底振り。しかし1ヶ月旅をして辿りついた砂恭の街で、秀麗以外の4人は、崔里関塞の官吏たちに捕らえられてしまいます。

彩雲国物語第4弾。今回は秀麗は茶州へ。ということは、都にいる劉輝たちの出番もあまりないということで、実はそれほど期待をしていなかったのですが、やはり面白かったです。前回のようなしみじみと沁みてくる場面こそあまりないものの、今回は活劇的な面白さがありました。皆と離れ離れになってからの、燕青をも感心させた、秀麗の思い切りの良い行動も良かったですし、琳千夜という妙な若様との道中も楽しかったですし、秀麗の護衛となる静蘭と燕青の過去が今回の事件に大きく絡んでいるというのも大きな見所。小さな部分でも二転三転して、州牧として無事に茶州にたどり着くまでの紆余曲折を楽しく読ませてくれます。しかも殺刃賊という派手な存在の裏に、ひっそりと隠されていたものは…。静蘭を敵に回した「彼」の存在からも、目が離せなくなりそうです。それにしても、最後に登場したあの青年は凄いですね。あの強烈な個性が、果たして今後どのような役回りになるのかとても楽しみです。
ところで、秀麗と影月が劉輝から受け取った蕾は、何の花の蕾なのでしょうね。あまり意味はないのかもしれませんが、実はこれがとても気になります。

「彩雲国物語-漆黒の月の宴」角川ビーンズ文庫(2005年3月読了)★★★★
貴陽を出発して2ヶ月弱。秀麗と杜影は金華郡府での殺刃賊の被害の後始末に追われていました。ここで中心となって事後処理に当たっていたのは、州牧補佐の鄭悠舜の指示で州府から金華郡府に派遣されてきたという由准と、与えられた休養を3日で繰り上げて精力的に働き始めた金華の柴太守。しかしそんな時に、茶家が茶州州都・琥lを閉鎖させるように圧力をかけてきたのです。全面封鎖の理由は、新州牧2人は既に琥lに入都を果たしているため、着任式までの間、あらゆる危険を避けるための安全措置とのこと。赴任期限まであと20日余り。3ヶ月の猶予が認められている茶州州牧の着任期限までに着任式が行えない場合は、即時官位剥奪という規則。秀麗たちは慌てて金華郡府を出発することに。

彩雲国物語第5弾。既に茶州に入ってるものの、まだまだ州都にまでは辿り着いていない秀麗たちの道中が続きます。4巻を読んで半年ほどあいただけなのですが、登場人物の名前を思い出すのに少し苦労してしまい、序盤はどうも物語に入り込みにくかったです。登場人物が相当多いことですし、もう少し登場人物表や、これまでのあらすじを充実させて欲しいものです。
王都を離れているということで、相変わらず秀麗や影月、静蘭や燕青が中心。そしてここに茶朔洵が加わります。この5巻は、朔洵がすっかり場をさらってしまったような感がありますね。元々はそれほど好きではないキャラクターだったのですが、ラスト間際の「……いいな」辺りから、妙に惹かれてしまいました。そしてほんの数ページしか登場しない藍龍蓮の存在感も凄いですね。本当は彼にはもっと前面に出て欲しかったのですが、このぐらいが彼には丁度いいかもしれませんね。ページ数は少ないですが、なかなか印象的な場面となっています。あと好きな場面といえば、最初の方の静蘭がお茶を飲む場面と、終盤のお酒を飲む場面。これは静蘭の内面を端的に表していると思います。
ただ、最後の朔洵のシーンには、やはり納得できないものが残りました。いくら奥手だからといって、いくら諦めることを知らないからといって、秀麗はあれで本当に良かったのでしょうか。その後、物語内で何も触れられていないのはなぜなのでしょう。
次回は王都に重点が移ることになりそうですね。王都組が前面に登場するのは久しぶりですし、更に賑やかな展開が楽しめそうです。

「彩雲国物語-朱にまじわれば紅」角川ビーンズ文庫(2005年5月読了)★★★★★お気に入り
【幽霊退治大作戦!】…紅黎深の下で働いている李絳攸は、突然霄太師からの要請で主上付きとなることに。しかしなかなか本人に目通りが叶わず、暇をもてあまして宮城の府庫へ。
【会試直前大騒動!】…会試まであとわずかとなり、王都が騒がしくなっていた頃。気付いたら胡蝶のいる技楼で寝ていた影月は、そこで賃仕事をしていた秀麗の家に滞在することに。
【お見舞い戦線異常あり?】…真冬の川に落ち、風邪をひいて高熱を出した秀麗は、昔のことを色々と思い出します。そしてその頃、紅家には秀麗のお見舞いにと珍客が続々と訪れて…。
【薔薇姫】… 秀麗のお見舞いから帰ってきた劉輝のその後。

彩雲国物語第6弾。今回は外伝ということで、「はじまりの風は紅く」の以前のエピソードや、本編では見えてこなかったエピソードが語られていきます。本編はすっかり舞台を茶州に移しており、それはそれで楽しく読んではいるのですが、やはりこうして読んでみると、やはり王都はいいですね。普段なかなか登場しない人々に会えて、思っていた以上に楽しかったです。私が特に気に入っているのは紅黎深と黄奇人。この2人のコンビの楽しさもさることながら、兄一家が最大の弱みの黎深の、度を越したブラザーコンプレックスぶりが見ていて楽しかったです。それに黄奇人はやはりかっこいいですね。楸瑛の言葉にもありますが、本当に「大人の魅力と余裕全開」でした。劉輝の健気さを見ていると、最終的には劉輝に幸せになって欲しいと思ってしまうのですが(静蘭に幸せになって欲しいという気持ちも同じぐらいあるのですが…)、黄奇人の存在感の前では、劉輝は完全に負けていて、大人と子供のようなその差も可笑しかったです。「からかい」が本当になることはないとは思いますが、それもまた良いかもしれない… と思ってしまいました。
そして今回、秀麗の母上が登場するのも大きいですね。登場するのは少しだけですが、存在感はたっぷり。彼女と邵可のエピソードをもっと色々と読んでみたいです。

「彩雲国物語-欠けゆく白銀の砂時計」角川ビーンズ文庫(2005年8月読了)★★★★★お気に入り
新年の朝賀のために王都に行くことになった秀麗。朝賀は国中の要人が貴陽に集まる年に1回の機会。新年に際して、朝廷百官はもとより七家を始めとする名家の代表はもちろん、各州府の高官も貴陽に馳せ参じることになっているのです。茶州にとって州牧が州外に出向くのは、実に10年ぶりの出来事。それまでは茶州の外では権限のない燕青に代わり、ほとんど茗才が出席していました。今回、秀麗に同行することとなったのは悠瞬、茶家当主となった茶克洵、全商連の柴凛、そして静蘭。秀麗には実は朝賀の他にも大切な用事がありました。それは、秀麗と影月が茶州と他州との格差を埋めるために連日徹夜で資料を当たり、茶州州官たちが不眠の努力で大枠を固めた大事な案件。それに必要不可欠なのは、戸部、礼部、工部の3部署の協力であり、しかし工部の管飛翔尚部は、女性官吏の登用にもその官吏の茶州派遣にも最後まで反対していた人物だったのです。

彩雲国物語第7弾。
ようやく舞台が王都に移ります。やはり王都が舞台ともなると華やかで楽しいですね。しかも朝賀のために都には人物が揃っていますし。今回は大事件こそ起きないのですが、水面下で様々な人物の思惑が交錯し、意外とドラマティックな展開を見せてくれました。
そして今回見逃せないのが龍蓮。一を聞いて千を知り、全てにおいて本質を見抜く天才とされていても、その奇抜な言動やスタイルが目を引いてしまい、奇矯な人物という印象がまず来てしまう龍蓮ですが、「漆黒の月の宴」でも感じたように、やはりその存在感は抜群ですね。しかも藍家でもどうやら特別な存在のようで…。これからこの龍蓮が一体どのような役割を果たすことになるのか、とても楽しみです。
それにしても、劉輝にはますますつらい展開です。秀麗が帰って来ると知っても特に反応を見せずに絳攸に訝しがられ、まるでひびの入った硝子細工のようだと藍楸瑛に思われる劉輝。王としての劉輝と、個人としての劉輝の話。避けられない孤独に関する話がとても重いですし、自分でも分かってしまっている劉輝の姿が切ないです。官吏としての秀麗の活躍を喜び、生き生きと仕事をしている秀麗を見て安心し喜んではいても、同時にそれらのことがが自分との結婚の最大のネックになるのを劉輝は分かっているのですから。しかも劉輝には切り札があり、それを使えば必ず思い通りの結果をもたらすことができるものの、肝心の秀麗の心は失ってしまうかもしれないのですから。しかし普通に中国を舞台にした作品であれば、女性が望まれて後宮に入ることこそが、その一族の最大の名誉と考えられそうなもの。玖琅や黎深たちの劉輝に対する考えには、そのようなことがまるで考慮されていないのが面白いですね。特に玖琅の秀麗に関する分析や論理は、それまで女性官吏について深く考えたことのなかった人間の発言とは思えないものでしたが、とても興味深かったです。
茶州官吏たちが1人残らず思い出しただけで凍りつき、悠瞬でさえ目をそらす、茶州の官吏・茗才についてもまだまだ謎のまま。彼が気にしている邪仙教についても気になります。明かされ始めた影月の謎と相まって、次巻はかなり物語が動きそうな予感です。

「彩雲国物語-心は藍よりも深く」角川ビーンズ文庫(2005年10月読了)★★★★★お気に入り
茶州虎林郡の東、千里山脈に接する石榮村で、腹が膨れる謎の奇病が発生。その知らせを聞いた影月は真っ青になります。その奇病は、かつて影月がいた西華村でも流行り、あっという間に村人たちが死に絶えたという恐ろしい病気だったのです。すぐに近隣の村へ、そして都にいる秀麗に手紙を書く影月。しかしその病気を邪仙教が利用し始めていました。一方、都にいる秀麗は、影月と考えた茶州での研究機関設立に向けて、官吏や全商連相手に奔走していました。

彩雲国物語第8弾。
前巻に続いて影月編。影月の過去の辛い出来事や残された時間についても書かれていますし、堂主様についても分かるこの巻。影月と香鈴の場面を読んでいると、本当に切なくなってしまいます。そしてそんな影月のこともあり、秀麗もますます本気で奔走中。秀麗のハッタリの効いた交渉術がなかなか凄いです。一体いつの間にこのような交渉術を身につけたのでしょう。
世界の中心で愛を叫びながらも、なかなかそれが伝わらない紅黎深が相変わらずいい味を出していますし、その養い子・絳攸も自分の気持ちがきちんと掴めたようで一安心。そして今回初登場の、80歳を超えて今尚、現役官吏として敏腕をふるい続けている黒州州牧・櫂瑜がとても素敵でした。この後、物語にどのように絡んでくることになるのか楽しみな存在です。そして氷の微笑で秀麗を怯えさせた、異能を操る神祗の血族、縹家当主と邵可の因縁も気になります。さらには、三国志に登場する華佗をモデルにしたとしか思えない「華娜」(カダ)には驚かされました。
前巻を読んだ時に思った通り、今回はかなり事態が動いてきましたが、まだまだ水面下状態とも言えそう。次こそ大波乱が待ち受けているのでしょうね。次巻で8色が揃ってしまいますが、どうなるのでしょうね。次は碧色でしょうか。あとがきによると、「影月編」は次回で完結とのことですが、その後も続くことになるのでしょうか。一体どのような展開を見せてくれるのか、次巻もとても楽しみです。

「彩雲国物語-光降る碧の大地」角川ビーンズ文庫(2006年2月読了)★★★★★お気に入り
全商連と秀麗は、準備が出来たものから茶州へ送り出し始めます。既に薬や物資、器具に関しては、秀麗が全商連に出向いた日から輸送を始めており、生肉相手に練習を重ねてきた医師団も、秀麗と共に出発。しかし問題は病だけでなく、秀麗がこの病の元凶だという邪仙教の流した噂なのです。それでも自分にできる最善の策を選び続けようとする秀麗は、燕青と共に茶州入りすることに。そして一足先に虎林郡の石榮村に入っていた影月は、その頃洞窟の中に両手を磔にされて、それでもまだ生きていました。

彩雲国物語第9弾。今回は影月編の完結編。
今まで語られてきた登場人物たちのそれぞれの思いがここに結集してしまったようで、泣けて仕方なかった1冊。秀麗の決意の固さはもちろんのこと、医師団の覚悟、影月の絶望、香鈴のそれでも諦めない一途な思い、医師が来るのを待つのではなく、母親を医師の所へ連れて行こうと考えるシュウランの健気さなど、それぞれの覚悟や決意、そしてずっと大事にしてきた思いが怒涛のように溢れ出してきました。普段は能天気さを前面に出している龍蓮も、今回ばかりは泣かせてくれますね。今回は燕青がすっかりいいところを攫ってしまった感がありますが、静蘭も前巻までの低迷振りから、そろそろ浮上の予感。次の王都編では、今までとは一味違う静蘭の姿を見せてくれるかもしれませんね。不満を挙げるとすれば、今回の騒ぎの中心人物の格でしょうか。どうも釣り合わない気がします。そしてその敵たちが作り出した現象の説明がやや分かりづらかったこと。
これで彩八仙の8色が揃うことになり、ここで完結してしまうのかどうなのかというのが最大の関心事だったのですが、結論から言えば、終わりませんでした。むしろ8色揃ってここからが本番という感じもあります。次に前面に登場するはずの縹家、そして璃桜のお姉さんが楽しみです。

「彩雲国物語-藍より出でて青」角川ビーンズ文庫(2006年4月読了)★★★★★
【王都上陸! 龍蓮台風(タイフーン)】…秀麗、影月、龍蓮の3人が国試最終筆記試験・会試を受け、及第発表を待つ間。龍蓮に周囲は振り回され、楸瑛が龍蓮の世話をすることに。
【初恋成就大奔走!】…春姫の能力が縹家に見出されてしまい焦る英姫は、茶克洵に春姫との初夜を早急に成就するようにと圧力をかけ、克洵はノイローゼ気味になってしまいます。
【心の友へ藍を込めて-龍蓮的州都の歩き方】…久しぶりの連休。秀麗は茶州を去る前に郷土菜を覚えようと凛や香鈴らと共に料理して皆を招くことに。1日目はその食材を買出しにいくついでに、龍蓮の案内で茶州の景勝地を訪れます。そして燕青と静蘭は悠瞬の仕事へ。
【夢は現(うつつ)に降りつもり】…王様の回想。

彩雲国物語第10弾。今回は外伝ということで、「朱にまじわれば紅」より後の、会試の頃や茶州に赴任中のエピソードです。
題名に「藍」が付いていることからも分かるように、「王都上陸! 龍蓮台風」と「心の友へ藍を込めて-龍蓮的州都の歩き方」では、龍蓮が前面に登場。これまでの本編では、存在感こそありながらも、なかなか前面出てこられなかった龍蓮ですが、今回はかなり中心となっており、読んでいてとても楽しかったです。それに、龍蓮自身のことや「龍蓮」という存在のこと、藍家についてなど、これまであまり語られていなかったこともふんだんに盛り込まれており(楸瑛が龍蓮の兄だということ自体、これまではさらりと流されていたはず)、本編を補う重要なエピソードとしても興味深かったです。茶州でのごたごたの間、おそらく龍蓮は秀麗や影月のことを心底から心配していたのでしょうね。ようやく「黎深にとっての邵可」を手に入れた龍蓮の気持ちがとても良く伝わってくる短編でもあり、今回の龍蓮はとても可愛らしく見えました… が、龍蓮はなんと黎深と同じタイプでしたか。言われてみれば納得ではありますが…。それにしても、秀麗、影月、龍蓮の代の試験でも大騒ぎなのに、黎深や黄奇人の代には及ばないというのがすごいですね。さらに龍蓮が横笛で日々の糧を稼いでいたというのは予想通りでしたが、まさかそれ以外にも驚くべき特技があったとは…。そんな龍蓮が胡蝶姐さんにしてやられてしまうところも可笑しかったです。
そして春姫と克洵、柴凛と悠瞬というカップルは、本編ではいつの間にか上手くいっていたという感じだったのですが、「初恋成就大奔走!」で、それほど楽な道ではなかった彼らのことがよく分かります。口がきけずに筆談をして育った春姫の大胆な受け答えも笑えます。
黒い繭とは何なのか、そして秀麗が葉医師に尋ねたこととは何なのか、今後の伏線になりそうな部分も見られ、ますます本編の続きが楽しみになってしまいます。
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