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このページは、柄刀一さんの本の感想のページです。

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「殺意は幽霊館から-天才・龍之介がゆく!」祥伝社文庫(2002年9月読了)★★★★
相模湾に面する温泉地に旅行に出かけた天地龍之介と光章、そして長代一美。夜になって間欠泉を見に出かけた3人は、そのすぐ近くの幽霊館と呼ばれる廃屋の外に、奇妙な人影が宙に浮かんでいるのを目撃します。人形とは到底思えず、肝試しの仕掛けかもしれないと考えた光章と一美は、早速幽霊館の中へ。龍之介も渋々一緒について行きます。幽霊館の中には、地元の小学校の教師・三田村学が教え子8人を連れて肝試しに訪れていました。しかしそんな大掛かりな仕掛けを目撃した人間は誰もおらず…。光章と一美は3階へと上がり、その時窓から女性が飛び降りる姿を目撃します。しかし慌てて下を見下ろしてみても、飛び降り自殺をしたような姿はどこにもなく…。

IQ190の天地龍之介のシリーズ。400円文庫なのであっという間に読み終わってしまう長さですが、その割にはまとまりも良く充実していて面白いです。幽霊騒ぎに見せかけて、最後はきちんと理で落ちるところがいいですね。龍之介の得意分野の謎ということで、死体のトリックも理科の実験のようですが、でも簡単ながらもなかなか説得力のあるもの。思わず実験してみたくなってしまいます。このシリーズは、理系のトリックの割に親しみやすいのが嬉しいですね。
ただ、ホテルのフロントの池淵支配人の話などは不必要かと。こういうのを取り除いて短編にしてしまった方が、作品が引き締まったような気もします。

「凍るタナトス」文藝春秋(2004年2月読了)★★★
病院の中で起きた、入院患者が石膏ギプス包帯が呼吸部位に巻きつけられて窒息死するという事件。被害者は瀬ノ尾是光。日本遺体冷凍保存推進財団、JOPFの理事長であり、JOPFへの全身献体希望者という人物。遺体冷凍保存(クライオニクス)という理念を日本にもたらし、組織化させた先駆者にして功労者だったのです。捜査に携わることになった氷村と望月勇作は、解剖の終わった遺体をJOPFに引渡し、液体窒素に入れる作業に立ち会うことに。しかし数日後、その冷凍保存されていた是光の死体の頭部が破壊されます。そして同じ頃、是光の息子で現理事長の瀬ノ尾光司が撲殺された上、死体を焼かれるという事件が…。

「ifの迷宮」と同じように、人の命に関して問いかける作品。こちらも、おそらく舞台となっているのは近未来。そして「ifの迷宮」での遺伝子に対して、こちらで中心となっているのは「不死」。
是光が石膏ギプス包帯で殺されたのはれっきとした殺人事件。光司の事件もそうです。しかし冷凍保存されていた遺体の頭部が破壊されるというのは、不死を信じている「クライオニスト」にとっては明らかに殺人行為となりますが、警察にとっては、単に死体を損壊しただけの事件。この2つの「死」の存在というのが面白いですね。しかし当初はこの2次的な殺人を巡る警察とクライオニストたちの考え方の違いのようなものが、作品の中心となってくるのかと思っていたのですが… 少し違ったようです。
「ifの迷宮」では、もっと医療的な発展やそれに伴う倫理観、そして近未来の世界がしっくりと馴染んでいたと思うのですが、こちらの作品では、起きる事件の派手さと、「クライオニクス」という観念がバッティングして、お互いの存在を相殺し合ってしまったような気がしました。それに「手配師」の造形も、どことなく違和感。どこがどうというのはよく分からないのですが、モチーフ同士が全体にあまりしっくりと馴染んでいないような…。そして遺体の冷凍保存といえば、ハインラインの「夏への扉」を思い出すのですが、あちらの明るい希望に満ちた雰囲気とは違い、こちらは終始冷たく重苦しい雰囲気。未来に希望を託すと言いながら、単なる現実逃避を感じてしまう場面もあります。重厚な作品ではありますが、元々が、確実ではない技術の進歩に命を託しているという設定なので、根底にもう少し希望を感じたかったです。

「OZの迷宮-ケンタウロスの殺人」講談社ノベルス(2004年1月読了)★★★★
【密室の矢に】…函館市近郊の山裾にある坂出巌の家での週末の食事会。しかし巌が密室状態の書斎で死んでいるのが発見されます。部屋の絨毯には、半分に折れた矢と黒漆塗りの弓が。
【逆密室の夕べ】…北海道警察本部詰めの社会部記者・的場俊夫は、通っているスイミングクラブの管理職たちを連れて、従兄弟の鷲尾恭一の店・蘭駄夢へ。事件の取材のお礼を兼ねて招待したのです。
【獅子の城】…川で死体が発見された犬伏盛也は、その直前に蘭駄夢で食事をとっていました。逮捕されたのは、会社の同僚・的場雅人。弟の疑惑を晴らすために、兄の俊夫が蘭駄夢を訪れます。
【絵の中で溺れた男】…アメリカのヴァージニア州西部の町。芸術家・テッド・マクレーンが、密室状態のアトリエで、死体で発見されます。死因は溺死。製作中の油絵のキャンパスには、川の絵が。
【わらの密室】…かつては同性の恋人であり、今では長い間の圧制者となっている男を殺すために、密室殺人の計画を練る男。彼は慎重に実験を繰り返します。そして現実に事件が起きた時…
【イエローロード(承前・承運)】…初夏の朝、散歩に出た南美希風は女性の悲鳴を聞き駆けつけます。小さなコンクリート製の橋の上から川を見下ろすと、そこには男性が半分沈んでいました。
【ケンタウロスの殺人】…美希風は、心臓移植手術を担当したロナルド・キッドリッジ医師に招かれ、モンタナへ。そこで人間の上半身と馬の胴体というケンタウロスのような白骨死体が発見され…。
【美羽の足跡】…6歳の少女・美羽は、両親を病気で亡くして養護施設で育つ少女。数ヶ月前、ソフトビニール製のウサギがなくなるという出来事があり、現場の足跡から、美羽が疑われていたのですが…。

密室殺人事件ばかりを扱った連作短編集。タイトル通り、「オズの魔法使い」がモチーフとなっています。が、それより何より、この作りはとにかく大胆ですね!驚きました。8編のうちの3編は既に発表されている作品なのですが(「密室の矢」は1994年発刊の「本格推理3」、「逆密室の夕べ」は1995年の「孤島の殺人鬼 本格推理マガジン」、「ケンタウロスの殺人」は、1996年の「本格推理9」の「白銀荘のグリフィン」を大幅改稿)、しかしこれらの作品を既読だった方も、まさかこういう繋がりになるとは考えもしなかったのでは。この中で驚きが強かったのは、「獅子の城」と「わらの密室」。特に「わらの密室」は、人間関係を掴むのが少々大変だったものの、このミスディレクションは…。そして雰囲気が好きだったのは「イエローロード」。この美希風という人物に関しては、もう少し色々と読んでみたいところです。本編最後の「美羽の足跡」は、それまでとは少々毛色の違う物語。しかしそこで起きる出来事よりも、手術後の様々な変化が不思議。これは現実にもあり得ることのようですね。東野圭吾さんの「変身」を思い起こしてしまいます。
全体的にも、1編ずつも面白かったのですが、外国が舞台の作品になると途端に人間関係が掴みづらくなってしまうのは、私のカタカナアレルギーのせいでしょうか。ちなみに「本編必読後のあとがき」は単なるあとがきではなく、これまた1つの作品。これが全体を纏め上げています。思い切りネタバレしていますので、必ず最後に読みましょう。それぞれの短編も順番に!

「火の神の熱い夏」光文社文庫(2004年11月読了)★★★★
突然「ハウス」から上がった火の手。加瀬青治と兄の黄司は、ハウスへと駆けつけます。焼け跡から見つかったのは、彼らの父で、実業家であり、画家でもある加瀬恭治郎の焼死体。部屋の中で背中を刺された上で、火を放たれていたのです。死体の傍らには鍵が落ちており、6年前に死んだ母の遺品が。そして箱の中からは1本のナイフが出てきたのです。

「OZの迷宮」にも登場していた、南美希風が探偵役。230ページ足らずという短い作品ながらも、小気味良く展開される推理のまとまりも良い、中身の濃厚な本格ミステリでした。警察が直接的に鍵の持ち主を疑うところはどうかと思いましたが、彼のアリバイが証明される過程などはとてもよかったと思います。誰も近寄っていないはずの現場に近づくことができた人物は一体誰なのか。冷静な、当事者にとってはいささか冷た過ぎるほどの推論が立てられては崩されていきます。そして全ての可能性が潰された時に、浮かび上がってくるのは…。登場人物たちのアリバイがそれぞれに関連していて、容易には崩せないというのも面白いですし、犯行に隠されていた想いもいいですね。
あとがきによると、火だけでなく、今後水や地、風の神にも登場してもらうようなことが書いてあります。その時は南美希風のシリーズ物となるのでしょうか。楽しみです。
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