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このページは、辻真先さんの本の感想のページです。

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「アリスの国の殺人」徳間文庫(2002年1月読了)★★★
「不思議の国のアリス」を愛するあまり、幻想館に就職して児童書の編集者を目指した綿畑克二。しかし希望とは裏腹に、新しく発刊するコミック誌「コミカ」の編集に配属されてしまい、漫画家の原稿を取るのに四苦八苦する毎日。ある日、行きつけのスナック・蟻巣(ありす)でうたた寝をしてしまった彼は、不思議の国のアリスの夢を見ます。なんと夢の中で、彼は美少女・アリスとの結婚式の真っ最中だったのです。しかし、バージン・ロードを神父の前まで進んだ時、神父がいきなり彼を殺猫犯人として捕まえようと迫ってきて…。そして現実の世界の方では、「コミカ」の編集長・明野重治郎が殺害されます。季節はずれの軽井沢の別荘で、明野は一体誰と待ち合わせをしていたのでしょうか。物語は、夢の中でのチェシャ猫密室殺人事件、現実の世界での明野重治郎殺害事件を追う2本立てになっています。

第35回日本推理作家教会賞受賞作。
綿畑の夢の中の世界は、「不思議の国のアリス」をベースに、ニャロメやら鉄人28号やら、ヒゲオヤジやら、色々な登場人物が入り乱れる奇想天外な世界。そして駄洒落やらしりとりやらといった、「アリス」ならではの言葉遊びがふんだんに盛り込まれています。しかし女王や三月うさぎ、帽子屋などのキャラクターはとても楽しいのですが、私はニャロメや鉄人28号、ヒゲオヤジというキャラクターをよく知らないので、この辺りは少し分かりづらかったです。発表当時に読んでいる人にとっては、その時代の流行り物を上手く取り入れた、かなり痛快(死語)な作品だったのだろうと思うのですが、一旦時勢を逃すと少々つらいものがありますね。
そして現実の世界の明野重治郎殺害事件の方は、夢の世界とは対照的にひたすらシリアス。明野をめぐる人間関係や、その愛憎が徐々に浮き彫りにされていき、丹念に推理されていきます。駄洒落と笑いの夢の世界に対して、綺麗事では済まされない現実を描いているといった印象。私は現実世界のパートの方が好きですね。これはこれで1作品として完成していると思います。
そして最後には、驚くようなトリックが明らかになり、2つの世界は1つへと。しかし読み終わってみると、何のために夢のパートがここまで前面に出ていたのかと思ってしまいます。結果的に現実逃避をする手助けをしていただけのような気が…。それまで楽しく読めただけに少々残念です。
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