Livre TOP≫HOME≫
Livre

このページは、鳥飼否宇さんの本の感想のページです。

line
「中空」角川文庫(2004年11月読了)★★★
フリーのフォトグラファー・猫田夏海は、屋久杉の年輪に圧倒される屋久島での仕事に消耗し、鹿児島在住の鳶山久志の元を訪れます。鳶山は大学時代、野生生物研究会で夏海の3年先輩だったという古い友人。そして小料理屋で5年ぶりの祝杯を挙げていた2人は、池旅庵という人物に竹茂村の話を聞くことに。大隈半島の先端近くにある竹茂という集落では現在、竹の花が満開だと言うのです。マダケやハチクでは約120年おきとも言われる珍しい竹の花を見るために、2人は旅庵に1日遅れで竹茂へと向かうことに。

第21回横溝正史賞佳作受賞作品。舞台は、わずか7世帯、12人の人間しかないという竹茂村。荘子の思想を大切にしている一種のユートピア村で、日本の世間一般の価値体系や論理体系が通用しない場所でもあります。元々竹の花に興味があったということもあり、非常に楽しみに読み始めました。クローズドサークルとしてもなかなか面白いですね。しかし結局、中心となる猫田夏海にあまり馴染めないまま終わってしまったような…。彼女の天然系のキャラクターと軽妙な語り口がこの作品の良い所ではあるのでしょうけれど、軽妙というよりは、むしろ浮いているような印象。中で起きている事件が非常に陰惨なものにも関わらず、彼女の存在のおかげで重苦しくならずに済んでいるのですが、しかし少々ちぐはぐに感じられてしまいました。分かっていることとはいえ、ワトソン役があまりに偸閑すぎたような気がします。
しかし恵光の「中空」についての話は面白かったですし、やはり竹の存在がいいですね。1つ1つはシンプルで地味ながらも、林全体を見渡すと華やいで賑やか。竹林全体に霞をかけたような妖しげで幻想的な雰囲気を醸し出すという竹の花。読みながら、竹の花が見てみたくて仕方なかったです。
Livre TOP≫HOME≫
JardinSoleil

Copyright 2000-2011 Shiki. All rights reserved.