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このページは、竹内真さんの本の感想のページです。

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「ビールボーイズ」東京創元社(2008年9月読了)★★★★

第一回ビール祭は1983年、金山正吉が小学校6年生の時。参加者は秘密基地の正式メンバーである正吉、津々見広治郎、田中勇の3人と、その日だけ特別招かれた紅一点の宗方薫。3人の男子が密かに恋心を抱いていた茜が引っ越すことになり、薫が仲良しの茜を連れて来ることを期待して、女人禁制の秘密基地となっていた納屋に薫を誘ったのです。茜が引っ越すことになったのは、北海道新山市から月星ビールが撤退することになり、茜の父親が東京に転勤になったため。残念ながら茜は不参加でしたが、4人は「茜に引越しさせた奴らに復讐」と称して缶ビールを飲むことに。

「カレーライフ」のビール版。小学校の時に出会った正吉、広治郎、勇、薫という4人の人生が、転校や進学、就職、結婚によって近づいたり離れたりしながら、20年ほどの年月が流れていくという物語。キーワードはビール。人生の節目節目というほどではないですが、何かある時は常にビールを片手にしている彼ら。
「カレーライフ」のようにみんなで力を合わせて自分たちのカレーを作り上げたのとは少し違い、こちらの作品では、実際にビールを作る作業に携わるのは正吉のみ。他の面々も大事な仲間ではあるのですが、ビール作りに直接関わることはありません。「カレーライフ」では色々なカレーを作るシーンが楽しく美味しそうだったので、こちらでも実際のビール作りで試行錯誤する場面を期待してしまったのですが、そういった場面はありませんでした。残念。やはり、どこの家庭でも作られる料理であるカレー、基本は同じであっても工夫次第で様々なバリエーションが楽しめるカレーと、基本的に大企業で作ったものを飲むだけというビールとでは、存在として違うということなのでしょう。実際にはオーストラリアで正吉が出会ったウィリアムが言うような「人は、それぞれの場所で闘うものじゃないかな」という状態ですね。しかしビールを造る場面はあります。これがまたとても美味しそうなのです。正吉の造るビールはイギリスのエールタイプのビールで、日本で一般的に飲まれているラガータイプとはまた違うもの。「がーっと飲むのに向いたビールもあれば、じっくり飲むのに向いたビールもある。俺が造ってんのは、たっぷり時間をかけて味わう価値のあるビールなんだ」という言葉には、実際に正吉の作ったビールを飲んでみたくなりますし、自分でも造ることを体験できたら、そしてそのビールを味わうことができたら、きっととても楽しいだろうなと思いますね。
物語には10回のビール祭に合わせて10回のビールのコラムが挟み込まれています。これがまた楽しい薀蓄たっぷり。物語を読んでいる途中でコラムを読むのは、流れが分断されてしまうようで気になってしまったのですが、実際には次のビール祭りの章にも関わりがある内容となっているところが上手いですね。これをじっくり読んでおけば、ちょっとしたビール通になれるかもしれません。


「シチュエーションパズルの攻防-珊瑚朗先生無頼控」東京創元社(2008年9月読了)★★★

【クロロフォルムの厩火事】…三流私立大学の文学部に入学したせいで、叔母の経営する銀座の文壇バー・ミューズの小僧にさせられてしまった左貴了。ミステリー作家の辻堂珊瑚朗に出会います。
【シチュエーションパズルの攻防】…開店前店に届いた不思議な謎の書かれたファックス。数日後、その話を聞いたミステリ作家の藤沢敬五は答を即答するのですが…。
【ダブルヘッダーの伝説】…大学のお笑い研究会の合宿旅行で了は蓼科高原の貸別荘へ。その時世話になったペンションで、辻堂珊瑚朗と藤沢敬五が対談している記事を見つけます。
【クリスマスカードの舞台裏】…実家の納戸で、辻堂珊瑚朗から叔母への絵葉書を見つけた了。その意味深長な文面から、了は叔母の帰省を待ちわびるようになります。
【アームチェアの極意】…1人でカウンターに座る客はほとんどいないミューズで、2回来店して2回ともカウンターに腰掛けていたのは作家の甲賀。1度目は辻堂と会話を交わして元気になるのですが…。

竹内真さんとしてはとても珍しいミステリ作品。連作短編集です。
語り手は了という大学生の青年ですが、中心となっているのはミステリ作家の辻堂珊瑚朗。彼がまるで安楽椅子探偵のように様々な謎を解き明かしていくのですが、この作品の場合、その謎解きそのものよりも、辻堂珊瑚朗が出してくる回答によって辻堂自身の粋さを感じさせるのが一番の魅力なのかもしれません。真実よりもその場に相応しい回答。それは相手によって自分を演じ分けてしまうという辻堂自身のようでもありますし、銀座のバーという世界一流の嗜みのようでもあります。
ミューズに男性スタッフが増えたことを見抜く最初の推理がまるでシャーロック・ホームズのようで、期待してしまったのですが、それ以降はミステリ的にはそれほどでもなく…。竹内真さんらしさも、あまり感じられなかったですね。竹内真さんといえば青春小説、という先入観を打破しようと、わざわざ夜の世界を選ばれたのでしょうか? 昼にせよ夜にせよ、いつものように登場人物たちの人間的魅力をもっと感じさせて欲しかったです。しかし文壇バーが舞台となっていることもあり、登場する作家たちは誰がモデルとなのだろうと考える楽しみがありますね。最後の「アームチェアの極意」に登場する甲賀は、竹内真さんご自身なのでしょうか。となると、いずれ「安楽椅子探偵」という言葉の定義と矛盾ような安楽椅子探偵物の長編が読める日も来るのかもしれないですね。その時は、あまり2時間物のミステリ番組のような作品ではない方が嬉しいですが…。

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