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このページは、武田泰淳さんの本の感想のページです。

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「十三妹」中央公論新社(2002年6月読了)★★★
科挙合格を目指す安公子は、学問好きの善良な人物。そしてそんな彼の妻の1人は十三妹(シイサンメイ)こと可玉鳳。ようやく二十歳を越したばかりの彼女は、元々女剣客、女忍者、女賊だったとさえ噂のある豪傑でした。しかし旅の途中で安公子と知り合って結婚して以来、現在は家庭に入り、安公子の第二夫人としての穏やかな生活を送っています。冷静で腕が立ち、しかも美貌の十三妹を愛しながらも、何かと頭が上がらない安公子と、家族や夫を立てようとする十三妹。そんな時、揚子江中流の河川工事のために揚州に出向いていた安公子の父親が失脚し、安公子は早速揚州へと向かうことに。父親を救うためには少なくも銀三千両が必要だったのです。旅に出た世間知らずの安公子の前に現れるのは錦毛鼠こと白玉堂、十三妹のライバルとも言われる存在でした。安公子はあっという間に様々なトラブルに巻き込まれることに。しかし、そこでもまた十三妹の実力と根強い人気を思い知ることになります。

今から35年ほど前に朝日新聞に連載されていたという、幻の作品の文庫化。解説の田中芳樹氏によると、「日本人によって書かれた中国武侠小説の先駆け」なのだそうです。中国三大古典である「三侠五義」「児女英雄伝」「儒林外史」のパスティーシュ、しかもそれら3冊を1冊にまとめあげたという作品。「三侠五義」からは白玉堂、「児女英雄伝」からはこの作品の主人公ともいえる十三妹が登場します。しかし「三侠五義」の舞台は宋代前期、「児女英雄伝」「儒林外史」は清代後期ということで、700年もの時代的な隔たりがあるのです。そんな時代のギャップを感じさせず、1つの話に纏め上げてしまうというのは凄いですね。ただ、まだまだ日本にこういった小説が普及していなかった頃に書かれただけあって、色々と苦しい部分も見られます。今なら「科挙」という言葉で済むところが「国家試験」と書かれていたり。今なら必要ないような説明も多く見られます。
物語には魅力的な登場人物がたくさん登場。白玉堂や十三妹といった名前を既に知っている人には、それだけでも楽しいのではないでしょうか。鶴田謙二さんの挿絵もとても雰囲気が出ています。その他にも安公子の第一夫人やその親たちといった人達ののんびりした安家の雰囲気でいい感じ。ただ、物語的には少々中途半端な気もしますね。新聞に連載されていたという割には対象年齢も低めのように感じますし、本来続編が書かれる予定があったということもあって、終わり方も少々惜しいところ。
それでもやはり、この作品の元となった3作品を読んでみたくなります。一番気になるのは、十三妹が安公子のどこを好きになったのか。いくら勉強ができて美青年でお金持ちでも、この作品の安公子は少々情けなさすぎます。結婚した辺りの経緯が全く説明されていないので、逆にそれがとても気になります。
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