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このページは、日明恩さんの本の感想のページです。

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「それでも、警官は微笑う」講談社(2004年6月読了)★★★★
池袋署の31歳の巡査部長・武本正純と28歳の警部補・潮崎哲夫がコンビニで逮捕したのは、「ミチオ」こと石島道雄。武本が昨年来追い続けていた銃をミチオが持っているという情報があり、武本が職務質問をしようとしたところ、ミチオはいきなり銃を出してコンビニに立て篭もったのです。その銃は、全長165ミリ、銃身長95ミリ、重量は770グラムという、9ミリ口径にしては小型な銃。しかし小型な見かけからは想像できない威力を持ち、この3年ほどで、国内でもかなりの数が押収されていました。その銃の精度から見ても、裏に大規模な組織の存在があると考えられていたにも関わらず、警察にもその核心はまるで掴めないまま。そして、ミチオのコンビニ立て篭もり現場で武本が知り合ったのは、麻薬取締官の宮田剛でした。宮田がミチオに目をつけていたのは、ミチオが常習している覚醒剤が理由。しかし実は、宮田が密かに真相を追っていた5年前の泉真彦の自殺事件の時に使われていた銃もまた、この銃と同一のものだったのです。

第25回メフィスト賞受賞作。
武本のような、大柄な身体に厳つい顔、そして無口な刑事というのは今までもいたと思いますし、その無骨な刑事と組むのが、彼とは正反対の今時の若者というパターンもこれまでも沢山あったと思います。しかしこの作品の潮崎哲夫の存在は、そういう若い刑事たちとはまた一味違いますね。一見、口の軽いお調子者の我儘お坊ちゃんのように見えた潮崎ですが、その饒舌さは豊富な知識に裏づけされたものですし、ミステリマニアなところも微笑ましく、能天気な明るさの影に見え隠れする、意外と芯の通った言動も良かったです。茶道家元の次男坊という設定も楽しいですね。そして、「どうせ悔やむなら、何もしないでしなかったことを悔やむより、やってしまって悔やんだ方がましだ」という父の教えを大切にしている武本も、とてもいい味を出しています。「キチク」というあだ名をつけられながらも、とても人間臭い刑事。ただ、この2人に比べると、宮田の存在感が少々足りなく感じられたのが残念。悪役の林も、あまり印象に残りませんでした。これで悪役としての魅力を発散しているような人物だともっと物語が面白くなったと思うのですが、無への訓練を受けた通りの無個性な人格になってしまっているようで…。
ネットさえできれば全て分かるような書き方はどうかと思いましたし、途中の潮崎の行動には、どうしても納得できないものがあります。都合が良すぎるところも目につきました。しかし物語全体としてはとても面白かったですし、その事件が全て片付いた後に訪れる彼女の反撃には驚かされました。なかなか深いですね。そして合田刑事(高村薫)、リコ(柴田よしき)、安積警部補(今野敏)、片山刑事と三毛猫(赤川次郎)、鮫島警部(大沢在昌)、岩崎白昼夢警視(胡桃沢耕史)、百舌(逢坂剛)、「奪取」など、既存作品や登場する人物たちを知っているとニヤリとさせられる部分も多く、楽しかったです。

「そして、警官は奔る(はしる)」講談社(2004年6月読了)★★★★★
独身の歯科医・三鷹健太郎の、子供のいないはずの家から女の子の声が聞こえるとの通報が隣家の主婦からあり、早速その家へと向かった蒲田署刑事課強盗犯係の武本と和田。その家の中に閉じ込められていたのは、小学校低学年ぐらいの少女・リサ。部屋の中には、おびただしい数の洋服や様々な鬘、そしてポルノショップに売っているようなSMグッズが所狭しと並べられていました。彼女の母親はフィリピンからの不法滞在者・タニア、鶯谷の路上にいる売春婦。日本で生まれ、国籍を持たないリサは、母親によって、三鷹に金で売られたのです。

武本と潮崎のシリーズ第2弾。武本は池袋署から蒲田署に異動になり、ここでは和田という刑事とコンビを組んでいます。
児童虐待がきっかけで浮かび上がってきた、不法滞在者や国籍のない子供たちの問題。そしてそんな子供たちを救おうとする善意の一般人や医師の存在。ここでは不法滞在者の病院受け入れの問題や子供の戸籍の問題などが詳しく説明されていきます。非常に重い問題ですが、普段の生活ではあまり係わり合いのない部分だけに、とても考えさせられますね。彼らのやっていることは、明らかに法に違反した行為。しかし現実には、そんな行為が子供たちを救っているのです。それを知ってしまった武本や潮崎は、遵法すべき法律との狭間で苦悩することになるのですが、やはり武本の「後ろめたいことをしている自覚があるのなら、止めるか、きちんと手続きを取って堂々とすれば良い。難しいのかも知れませんが、そうするべきだと思います」という言葉が一番大切な部分ですね。あまりに正論すぎて苦笑するしかないような言葉ですが、ずしりと響いてきました。
今回、武本と深く関わってくるのは、蒲田署一の「温情」派と言われる生活安全課少年係の小菅と、元は本庁知能犯担当だった、「冷血」和田弘一。「法は人を改心させることができるか」という命題に、この2人がまるで正反対の道を示しています。しかし捜査に対する態度も取調べのやり方も正反対の2人ですが、はからずも、「甘やかすのと、優しくするのは違う」と同じことを言うことになるのです。今回のテーマは、「警察官ってのは、何なんだろうな」という小菅の言葉なのでしょうね。今回の武本や潮崎は、この2人の姿に学ぶことによって大きく成長することになりますし、この2人を含めた、大きな意味での人間ドラマが見事。500ページを越す長編ですが、その長さをまるで感じさせなかったです。
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