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このページは、高楼方子さんの本の感想のページです。

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「時計坂の家」リブリオ出版(2005年7月読了)★★★★★お気に入り
2回しか会ったことのない同い年の従姉妹・マリカからの7年ぶりの手紙に誘われて、フー子は12歳の夏休みに汀館にある母方の祖母の家へと行くことに。祖母は母が幼い頃に亡くなっており、時計坂にある祖父の家に現在住んでいるのは、祖父とお手伝いのリサさんの2人。フー子が普段あまり使われることがないらしい2階への階段を上ると、そこにはさらに3段ほどの階段があり、釘で打ち付けられたドアがありました。不思議に思ったフー子が窓枠から外を覗くと、その時耳元で時計の音が響きます。そこには大きな丸い懐中時計がかけられていたのです。そして閉じていたはずの懐中時計の蓋が開いて時計の針が3時を指した時、時計は花に変わり、その向こうには緑の園が…。

ごく普通の風景から不思議な世界へと繋がっていくというのはは、この作品にもモチーフとして登場するC.S.ルイスの「ナルニア」を始めとして様々な作品に見られるモチーフですが、それでもやはり魅力的ですね。夏の白っぽい日差しに少し色褪せて感じるような現実世界に対して、緑の園の中の瑞々しい色彩と、茉莉花の甘い香りがとても印象的。しかしこの異世界は、物干しから落ちて死んだと言われているフー子の祖母が、本当はその向こうに行ったきりになってしまったのではないかという疑惑もあり、美しく幻想的でありながら、どこか迂闊に人間が触ってはいけないような死の影を帯びています。読み始めた時は、柏葉幸子さんの「霧のむこうのふしぎな町」を初めて読んだ時のような感覚でしたが、この独特な雰囲気は、フィリッパ・ピアスの「トムは真夜中の庭で」の方が近いかもしれませんね。時計台の天使のからくり、懐中時計、それらを作ったロシア人時計細工師・チェルヌイシェフ、緑の園の地図のようなスカーフ、マトリョーシカ人形… それらのモチーフがそれぞれに不思議な引力を持っているようで、フー子もまた絡め取られるように惹きこまれていきます。
おばあさんに続いて、フー子もまた絡め取られそうになったと知った時のおじいさんの言葉が哀しく、そして重いです。おじいさんもまたその世界に行ける可能性があっただけに、その強さもまた哀しく感じられます。おばあさんがいなくなった時、フー子のお母さんはまだかなり幼かったようですが、実は彼女も薄々感づいていたのでしょうか。極端に実際家になった背景には、この出来事も影響しているのかもしれませんね。児童向けのファンタジーとしては珍しいほどの現実的な緊迫感もあり、色々と考え始めると、どんどん奥の深さが実感させられるような物語でした。実姉だという千葉史子さんによる挿絵や装幀が物語の世界にぴったり。さらにイメージを膨らませてくれます。

「十一月の扉」新潮文庫(2006年11月読了)★★★
弟の新品の双眼鏡をのぞいた時、目に飛び込んできたのは木立の間からのぞく、赤茶色の屋根の白い洋館。それは十一月荘でした。翌日の日曜日、思わず自転車でその家を見に行く爽子。近くに素敵な文具屋を見つけ、端正で重厚な芸術品のようなノートを思い切って購入したこともあり、爽子の心は浮き立ちます。しかし翌日、学校から帰ってきた爽子を待ち構えていたのは、父の突然の転勤の知らせ。爽子は中学2年生の2学期の途中という中途半端な時期に転校するのではなく、3学期から新しい中学に行きたい、そしてそれまでの2ヶ月間を十一月荘で下宿をしたい、と考え始めます。

2000年の産経児童出版文化賞フジテレビ賞を受賞したという作品。2ヶ月間家族の元を離れて、新しい環境に飛び込む爽子の物語。素敵な洋館に素敵な文房具屋、かっこいいけれど口が悪い少年、本が好きな少女、とくれば、スタジオジブリの「耳をすませば」ですね。まさにあの映像を思い起こさせるような雰囲気です。
しかし私には爽子がどうも中学2年生とは思えず、読みながらずっと違和感を感じ続けてしまいました。たとえ嫌なことがあっても、冷静に自分の気持ちを分析したり、自分の書く物語にぶつけてみたりと理性的に乗り越えてしまう爽子は、普段の振る舞いや言葉遣いも大人びた少女。それだけなら構わないですし、そういう少女が実際にいることも否定はしません。しかし爽子の言葉遣いはどうなのでしょう。特に爽子の内面の気持ちを描写する時の言葉には若さが感じられず、一体いつの時代の中学生なのかと思わず考えてしまいます。しかも時々わざとはしゃがせて、無理矢理子供っぽさを演出しているような印象。爽子が書く物語も同様です。爽子をめぐる現実と、爽子がドードー鳥のノートに書くぬいぐるみたちの物語が二重写しになっているところは、趣向として楽しいながらも、筆達者な中にわざと幼さや拙さを打ち出しているようで、読むのがつらかったです。高楼方子さん自身が、爽子のような少女だったのかもしれませんが…。十一月荘で爽子が出会う閑さん、馥子さん、苑子さんといった面々がそれぞれに自然体で、しなやかな強さを持って生きていて、とても素敵だっただけに残念でした。閑さんに英語を習いに来る少年・耿介も気に入っていたのですが、彼らのその後はどうなるのでしょうね。その辺りだけは気になります。
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