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このページは、竹下文子さんの本の感想のページです。

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「星とトランペット」講談社文庫(2007年12月読了)★★★★★

野外音楽堂で夜空のコンサートが大成功に終わった夜、トランペット吹きのドンさんが出会ったのは不思議な男性。落し物でも探しているかのように、身体をかがめて地面をきょろきょろ見回しながら歩いているのです。その男性が拾っていたのは、ぴかぴかと光る小さな物。それは素晴らしい音楽が空気をぴりぴり震わせるとぱらぱらと落ちてくるのだという星くずでした… という表題作「星とトランペット」他、全11編の短編集。

竹下文子さんの初めての短編集。ほとんどの作品が10代に書かれたのだそうです。トランペットを吹くとパラパラと星くずの降ってくる夜空、思わず寝転んでみたくなるような木漏れ日が差し込む林の中の小さな空き地、おだやかに打ち寄せる波にすべるように進んでくる船、麦藁帽子をかぶった途端に見えてくる懐かしい景色、フルート吹きを探しながらるるこが歩き回る様々な場所。どれも目の前に情景が広がるようですし、匂いや感触、そして吹いてくる風も感じられるよう。牧野鈴子さんのイラストもとても素敵です。
私が特に好きなのは、なぜか動物ばかりが本を買いに来る「タンポポ書店のお客さま」、トラックの運転手らしいヤスさんとキャベツを手にしたルリコ、そして未亡人のアイダ夫人、店主の4つの話が1つに溶け合う「いつもの店」。「野のピアノ」に出てくる自動車事故で小指をなくしたピアニストの、「ぼくにはまだ九本の指がある。この指で、やさしいやさしい曲をひこう。十本の指先に心を集めるのはむずかしかった。だけど、九本なら、すこしやさしいかもしれない。一本ぶんだけ、やさしいかもしれない」という言葉も素敵でした。

収録作:「月売りの話」「星とトランペット」「花と手品師」「タンポポ書店のお客さま」「日曜日には夢を」「ノラさん」「野のピアノ」「ポケットの中のきりん」「砂町通り」「フルートふきはどこへいったの」「いつもの店」


「星占師のいた街」偕成社(2008年1月読了)★★★★★

【12のオルゴール】…12の月それぞれの12のスケッチ。
【ノアの箱舟】…ごみごみした街中の古いレンガ造りのビルのてっぺんにある、みすぼらしい箱舟に住んでいた年寄りのノア。ノアはオスの三毛猫を飼い、周りの空いた場所でゼラニウムなどの花を育て、夜になると下に降りて占い師をして暮らしていました。
【ポリーさんのおうむ】…住んでいる古いアパートの前にあるぽっかりと広い空地が気に入っていた綾乃は、突然工事が始まって驚きます。しばらくして建ったのは、お洒落な豪華マンションでした。

ほんのりと不思議な雰囲気が漂うファンタジーの物語集。目の前に鮮やかな情景が広がるのは、他の竹下文子さんの作品と同様で、今回もとても綺麗です。「12のオルゴール」では、季節折々の情景が広がりますし、「ノアの箱舟」では、ビルの上に箱舟があって老人と猫が住んでいるという不思議な情景もさることながら、最後にそれが深い水の底に沈んだ街から船出する場面にとても夢があって素敵。いずれ大洪水が起きると言う老人に、てっきり聖書のような大洪水が起きるのかと思いきや…。この「ノアの箱舟」が、本の題名の「星占師のいた街」ということなのですね。牧野鈴子さんの表紙や挿絵もとても雰囲気に合っていて綺麗です。

収録作:「12のオルゴール」…「オルゴール」「小鳥売り」「花屋」「麦畑」「風」「雨あがり」「船」「ほたる」「白い笛」「手紙」「クリスマスツリー」「電車にのって」
「ノアの箱舟」「ポリーさんのおうむ」


「むぎわらぼうし」講談社(2009年2月読了)★★★★

夏も終わったある日のこと、るるこはおねえさんと一緒に隣町のおばさんのところに遊びに行くことになります。その時るるこがかぶろうとしたのは、大好きなむぎわらぼうし。しかしおねえさんは、もう夏も終わっているし、そんなむぎわらぼうしをかぶって行くなら、るるこのことは連れていかない、と言うのです。

竹下文子さんの物語に伊勢英子さんが絵をつけた絵本。
大人になった今は夏といえば「暑い」だけで、早く秋になって欲しいと思うだけになっているのですが、これは子供の頃の夏のわくわく感を思い出すようなお話でした。夏のわくわく感と、夏の終わりのあの寂しさと。子供の頃、夏の終わりを感じる頃になると、どこか物寂しくなっていたのですね。帽子もなのですが、母が夏服を仕舞い始めるのを見ると、どこか物寂しくなっていたのを思い出します。特に子供の頃というのは毎年のように成長するので、お気に入りだった服も次の年にまた着られるとは限らないですから。
そしてこの本では、いつもの伊勢英子さんの絵とはタッチが少し違うと聞いていたのですが、本当に違っていて驚きました。私がいつも見ている伊勢英子さんの絵よりも、もっとタッチが太くて大胆な印象。驚きながらページをめくっていると、そこにいきなり現れたのは、夏の海。お日さまの陽射しが眩しく、波や水しぶきがきらきら光ってる、まさに夏の海でした。そして夏の海で遊んだ後は、秋へと移り変わる色… 色だけでこれだけ表現できるとは、やはり伊勢英子さんの絵は素敵です。


「木苺通信」偕成社(2007年12月読了)★★★★★お気に入り

満開の桜林の中でふるふると優しく鳴っている電話の音、夜になると赤・緑・紫・橙色と足元を淡く照らしてくれるランタン野菜。浅瀬で水浴びをしているオレンジ色のドラゴンたち、北の崖で見つけた白い貝から聞こえる音楽。銀河からじかに汲んだレモン・星ソーダを飲みながら夏の花の花びらの花火を見る<星祭り>。雲のレストランの出す様々な雲の料理、家の中にいる人がすっぽりと夕焼けに包み込まれてしまう<夕焼け窓>… 木苺谷を舞台にした、24の短編集。

24の短編はどれもとても短いのですが、読んでいると心がどんどん和らいでくるような暖かさがあります。架空の世界のファンタジーのようでいて、現実の世界の延長線上での物語のようでもあり、どことなく懐かしい気分になる不思議な物語。淡い不思議さが、読んでいると驚くほどすんなりと受け入れられてしまいます。
この世界では、季節にもそれぞれ<風の月>や<氷の月>、<霜の月>、<鳥の月>、<虹の月>、<葉の月>、<花の月>、<実の月>、<芽の月>といった名前がつけられており、たとえば風の月は3ヶ月ほども続く冬のこと。鳥の月はランタン野菜の季節を蒔く時期。風向丘に集まってソーダ水を飲みながら静かに語り合い、花火を眺める<星祭り>や、藤やあけびの蔓でリースを作って柊やまつぼっくり、赤いカカラの実、金や銀の草の穂で賑やかに飾ってあちこちに掛け、黄色いかぼちゃを甘く煮て古風なパイを作る<冬至祭>といった季節折々の行事があり、折り紙の船を飛ばす<船の日>があります。季節の移り変わりやその豊かな色彩が感じられ、自然の静かで柔らかな美しさがとても印象的。冒頭に収められている写真も、黒井健さんによる挿し絵も素敵です。どれもいいのですが、私が特に気に入ったのは「ランタン野菜の季節」や「焚火においで」、「秋のソナタ」、「木の実は森に」、「夕焼けのむこうの国」。今回は冬の寒い日に読んだせいか、暖かい色彩が感じられる話に特に惹かれましたが、季節ごとに読み返せば、そのたびに惹かれる場面は違うかもしれませんね。

収録作:「花の下で」「ランタン野菜の季節」「ドラゴン・クリーク」「100万年オルゴール」「汽車に手をふって」「星祭りの夜」「木琴森へ」「焚火においで」「冬の魚たち」「風の月のスープ」「ハッピー・バースディ」「金曜日は船の日」「ワルツの薔薇」「銀色たんぽぽの夢」「果実時計」「月とヨー・ヨー」「水の王国」「秋のソナタ」「木の実は森に」「まわれ水車」「鏡の中の粉雪」「夕焼けのむこうの国」「鳥のように」


「風町通信」偕成社(2007年2月読了)★★★★★

「その町へ行くのに特別な切符や旅券はいらない」という、風町を舞台にした掌編集。「風町から」に15編、「風町まで」に13編が収められています。

一見普通の町のように見えて、実は小さな不思議でいっぱいの場所。井辻朱美さんの「風街」のように、この風町も地球上のどこかに存在しているのでしょうか。丁度、柏葉幸子さんの「霧のむこうのふしぎな町」のあの町が、必要とする人ならどこからでも一歩踏み出すだけで行けてしまうように、この「風町」も、本を読んでいる人がたとえどこにいても、そのすぐ隣にありそうな。読んでいると、自分も無性にそこに居たくなってしまうような魅力的な場所です。
私が特に気に入ったのは、坂の上の閑静なお屋敷町に迷い込んだ時に、偶然結婚式に参会することになった「婚礼」、屋上で大判のスケッチブックを広げ、「大きな青い花びらを押し花にするような具合に」空の色をぴったりと挟み込む「青い空」。アジサイ色の傘を買う「雨が待ってる」。
魔女のような黒い服で夜の散歩をする「月の光」や、月の香りの中で綱渡りをする「星を拾う」など、印象的な夜が描かれた物語もありますし、夜しか開いていないレノ氏のお店もとても魅力的。しかし全体的に見ると、昼間のイメージが残ります。そして、題名に入っている「風」ももちろん印象的なのですが、私にとってはむしろ「水」の方が強く印象に残りました。喫茶店の床をいくすじも流れる川、夜の間にバケツの水の中に落ちた星くらげ、青一色の部屋で人魚のように泳ぐリサ伯母さん、アジサイの傘を差している間にすっぽりと水に沈んでしまう街… ライムソーダ色の窓ガラスを通してみる町並みも水の中の世界のよう。
そのせいか、全体的に夢の中の物語を集めたような、ソフトフォーカス感が漂います。字が大きめですし、物語も童話風なので分類としては児童書なのかもしれませんが、これはむしろ大人の方が楽しめる本なのではないでしょうか。飯田和好さんのイラストもこの雰囲気にぴったりです。

収録作:「風町から」…「贈り物」「婚礼」「かもめ」「青い空」「窓ガラス」「風電話」「月の光」「喫茶店」「音楽会」「飛行機雲」「橋の上で」「聖夜」「灯台」「トランプ」「改札口」
「風町まで」…「日時計のジョー」「彼女の青空」「木の家」「雨が待っている」「ゆりかもめ館」「トマト畑に雨が降る」「ポケットにピストル」「アイスクリーム・ブレイク」「地図のない町」「星を拾う」「笛吹きの木」「風町郵便局」「風町まで」


「窓のそばで」偕成社(2008年1月読了)★★★★

窓のそばでおやつのさくらんぼを食べていたルイコは、最後の1つを食べようかどうしようか迷っている時に、風も吹かないのに窓のカーテンが外にひっぱられていくのに気づきます。それは昨日おかあさんが取り替えた夏の白いレースのカーテン。引っ張っていたのは、窓の外のさくらの木の枝に座っている葉っぱとよく似た緑色ずくめの服を着た男の人でした。今度結婚するので、お嫁さんに白いベールをあげたいというのです。

ルイコという小学生の女の子が主人公の連作短編集。対象年齢がやや低めのようですが、この本でも日常の風景のすぐ隣にある不思議な世界にすんなりと入っていけてしまいます。そして相変わらず季節ごとに移り変わる情景がとても鮮やか。特に印象に残ったのは「星の店」。ずっと閉まったきりの「なんにもない店」だと思っていたお店が、実は「星屋」だったという物語。お気に入りだったのに小さくなってしまったセーターの物語「うさぎ」もとても可愛らしい物語です。

収録作:「窓のそばで」「さくらんぼ」「ラジオ」「星の店」「蜜蜂」「毛布」「しゃぼん玉」「うさぎ」「パズル」「ポケット」「飛行機」「さかなつり」

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