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このページは、涼元悠一さんの本の感想のページです。

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「青猫の街」新潮社(2003年6月読了)★★★★
1996年10月。システムエンジニアの神野俊幸の元に、高校時代の友人Aが行方不明になったという連絡が入ります。神野が早速Aのアパートに向かうと、GATEWAY2000を使っていたはずのAの部屋には、ジャンクショップでも既にまともな値段がつかないようなパソコンが1台ぽつんと置かれているだけでした。丁度故郷の静岡の高校の同窓会の案内を受け取った神野は、久しぶりに出席、なんとAがホームレスの格好をして渋谷をうろついていたという噂を聞くことになります。東京に戻った後、神野は偶然知り合った、探偵事務所を経営している「センセイ」こと佐伯啓次郎にAのことを相談。そしてインターネットの検索から、どうやらAとよく似た状況で失踪したプログラマーが他にもいることを掴みます。その失踪には、どうやら「青猫」というキーワードが深く関わっているらしいのですが…。

第10回ファンタジーノベル大賞優秀賞受賞作品。SEの主人公が、パソコンソフトの開発に携わっていた友人Aを探すため、検索エンジンやパソコン通信を駆使して探していきます。そこに「青猫」の謎も絡んできて、ファンタジーというよりは、ほとんどミステリのような様相。
まず、パソコンに日常的に触れているか、それもいつ頃からパソコンに触れているのかによって、まるで評価が変わってきてしまいそうです。それも初期の初期からやっていればいるほど、懐かしさも相まって評価が高くなるかもしれません。パソコン通信ですら、ほとんど消滅しているこの時代に、草の根BBSという言葉を知っている読者がどれほどいるのでしょう。なのに、これでもかと新旧のパソコン用語が登場します。しかしだからといって、パソコンを日頃全く使っていない読者の評価が低くなりそうというのとは少し違うのです。この作品における、パソコンの操作方法に関する説明は絶妙。妙にリアリティのある描写に、パソコンに馴染みのない読者は翻弄され、逆に評価が高くなりそうな気もします。そしてそういう人にとっては、この作品は紛れもなくファンタジーなのではないかと思ったりもします。
ネットの中の闇の部分が、妙にリアルに迫ってきて怖いですね。そして様々な謎はラストへと収束していきます。ついミステリとして読んでしまったので、このラストには少々拍子抜けしてしまったのですが、ファンタジーとして読むならば、なかなか余韻の残るラストだったように思います。
左開きで横書きというスタイルも、この作品にぴったり。右開きの縦書きでは、ここまでの雰囲気は出なかったでしょう。ネットに関する部分の表記にも違和感がなく、そういう意味でもとても良かったです。
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