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このページは、新野剛志さんの本の感想のページです。

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「八月のマルクス」講談社文庫(2003年1月読了)★★★★
かつては売れっ子のお笑いタレント。しかし人気絶頂だった5年前に身に覚えのないレイプ・スキャンダルを書き立てられて母親が自殺、芸能界を引退。現在はマンションの大家をしながら、細々と生計を立てている笠原雄二。そんな笠原の元に5年ぶりに現れたのは、笠原の元相方の立川誠でした。「セロリジャム」を解消した後も、お笑い界の頂点に君臨してきた立川は、自分が末期癌であることを告白し、「すまねえ」という言葉を残して翌朝姿を消します。次に笠原を訪ねてきたのは、警察の刑事2人。週刊誌の記者・片倉が殺されたというのです。片倉は笠原の5年前のスキャンダルを書きたてた記者。最近では立川と新しい恋人・大島梨子の仲をスクープしていました。立川なら自分のアリバイが立証できると刑事に答える笠原ですが、立川は仕事に穴をあけて失踪していたのです。

第45回江戸川乱歩賞受賞作品。著者略歴によると、新野剛志氏は会社を辞めてホームレス同然の生活をしながら、この作品を執筆したとのこと。
芸能界、それも元売れっ子のお笑いタレントが主人公ということで、軽いノリの作品かと思ったのですが、まるで違いました。もちろん芸能界やTV局とその周辺、そしてマスコミが舞台となり、アイドル歌手や後輩のお笑いタレント、芸能プロダクションの人間などが多数登場するのですが、主人公の笠原の性格が地味なせいか、華やかさはほとんどありません。あまりにお笑い芸人らしい色合いがなさすぎて、却って拍子抜けするほど。
しかし全体の勢いや流れはとても良かったですし、とても読みやすい作品だと思います。最初のうちこそ、物語の糸が切れそうになりながらも細々と繋がっているという印象でしたが、思いがけない事実が出てくるに従い、意外な部分に繋がりが出てきて、それが最終的には原点に戻ってきて驚かされることになりました。犯人の動機など少々解せない部分もありましたが、しかしラストに至る収束感や、最後のシーンはとても良かったです。ちなみに題名の「マルクス」とは、共産主義の彼ではありません。「八月」というのも読んでからのお楽しみ。
立川は、毒のあるギャグを売り物にしていたという点でも、ビートたけしを彷彿とさせますね。
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