Livre TOP≫HOME≫
Livre

このページは、澁澤龍彦さんの本の感想のページです。

line
「東西不思議物語」河出文庫(2006年8月読了)★★★★
若い頃からヨーロッパの不思議物語を集めてきたという澁澤龍彦氏ですが、いつしか日本の不思議物語にも目を向けるようになったのだそうです。そしてそういう時期に新聞連載という形で書かれたのが本書。日本やヨーロッパ、あるいはインドや中国における不思議譚・怪異譚を紹介する本です。

本人が文庫版あとがきに書いているように、「軽い読物として書き流」されている部分も目につきますし、既にどこかで聞いたような話も多かったのですが、古今東西の不思議譚を網羅した上での考察が楽しめますし、さすが澁澤氏の文章は古さを感じさせず、今読んでもとても読みやすいです。いつもながらの澁澤氏の幅広い知識にも感心させられますし、自分の好きなものを気楽にコレクションしている楽しさを感じさせてくれるのが好印象。前口上にも、「私は学者ではないから、七面倒くさい理窟をつけるのはあまり好きなほうではなく、ただ読者とともに、もっぱら驚いたり楽しんだりするために、五十篇に近い不思議物語をここに集めたにすぎないのである。したがって、読者のほうでも、あまり肩肱張らずに、私とともに驚いたり楽しんだりして下さればそれで結構なのである」とありますが、確かにそういった読み方が相応しい本ですね。さすが河出文庫の「澁澤龍彦コレクション」の1冊目にあるように、澁澤作品の入門編に相応しい1冊と言えそうです。
それにしても、各地に伝わる伝承やおとぎ話でもよく見られる現象ですが、古今東西、やはり似たような怪異譚が多いものですね。やはり人間の願望や恐怖には共通なものがあるのでしょうか。
「最も古い神話や伝説のなかに、私たちは最新のSFのテーマを発見することができる」という言葉も面白かったですし、私の中で一番強く印象に残ったのは、「大が小を兼ねる芸のこと」という章の中で、「ヨーロッパでは、ユートピアの別世界に到達するためには、いつも危難にみちた海を越えてゆく必要があった。ところが中国では、桃源郷に到達するには、ただ洞窟や木の洞をひょいとくぐり抜けたり、壺の中へひょいと身を躍らせるだけで十分だったらしいのである。」(P.197)と書かれていたこと。これは確かにその通りですね。ヨーロッパ産のファンタジーも、いつしか鏡を通り抜けたり戸棚の中をくぐり抜けて異世界に行ったりしていますが、本来海を越えるイメージがとても強いです。中国でも、仙人の住む蓬莱山は海上にある島だと考えられており、秦の始皇帝も不老不死の薬を求めて徐福を派遣していますが、なぜか山のイメージが強いです。海の上にはあっても、やっぱり蓬莱「山」だからなのでしょうか。それとやはり、中国にはヨーロッパにおけるヴァイキングのような存在がなかったからなのでしょうか。倭寇による襲来はありましたが、これは中国でも明の時代。あまり古くないですし、時代を遡って考えてみても、やはり常に海よりも内陸部に目が向いてるような気がします。仙人修行も、まず山に入るところから始まります。東西のファンタジーの起源の違いとしても興味深いですね。

「鬼神を使う魔法博士のこと」「肉体から抜け出る魂のこと」 「ポルターガイストのこと」「頭の二つある蛇のこと」「銅版画を彫らせた霊のこと」 「光の加減で見える異様な顔のこと」「未来を占う鏡のこと」「石の上に現れた顔のこと」 「自己現幻視のこと」「口をきく人形のこと」「二人同夢のこと」 「天から降るゴッサマーのこと」「屁っぴり男のこと」「ウツボ舟の女のこと」 「天女の接吻のこと」「幽霊好きのイギリス人のこと」「古道具のお化けのこと」 「鳥にも化すウブメのこと」「リモコンの鉢のこと」「キツネを使う妖術のこと」 「空中浮遊のこと」「トラツグミ別名ヌエのこと」「幻術師果心居士のこと」 「天狗と妖霊星のこと」「悪魔と修道士のこと」「二度のショックのこと」「迷信家と邪視のこと」「女神のいる仙境のこと」「神話とSF的イメージのこと」 「栄光の手のこと」「骸骨の踊りのこと」「天狗にさらわれた少年のこと」 「石の中の生き物のこと」「海の怪のこと」「隠れ蓑願望のこと」「破壊された人造人間のこと」 「腹のなかの応声虫のこと」「百鬼夜行のこと」「アレクサンドロス大王、海底探検のこと」 「不気味な童謡のこと」「大が小を兼ねる芸のこと」「もう一人の自分のこと」 「ガマが変じて大将となること」「女護の島のこと」「不死の人のこと」「遠方透視のこと」「黒ミサに必要なパンのこと」「さまざまな占いのこと」「百物語ならびに結びのこと」

「世界悪女物語」河出文庫(2004年3月再読)★★★★
古くは前1世紀エジプトのクレオパトラから、20世紀のナチスドイツのゲッペルス博士夫人・マグダ・ゲッペルスまで、13人の悪女たちが紹介されています。13人のうち12人までが西洋の女性で、東洋からは則天武后のみの紹介というのが少々寂しいのですが、書かれた年代としては妥当なところでしょうか。誰が見ても文句のない悪女もいれば、それほどの悪女ぶりを感じられない悪女もいて、これはやはり澁澤氏の好みなのでしょうね。
これを読んでいて思うのは、悪女には毒が良く似合うということ。ルクレチア・ボルジアや、ブランヴィリエ侯爵夫人、カトリーヌ・ド・メディチなど、実際に毒殺に長けていた悪女も多いのですが、それ以上に彼女たちの存在そのものが既に毒そのものですね。権力欲や虚栄心、美への執着など、それぞれに望むところは違っていても、彼女たちが自分だけでなく、確実に周囲の人生をも狂わせています。
最後のマグダ・ゲッペルスだけが写真で、他は皆絵画のみ。マグダ・ゲッペルスは悪女となってしまうのも納得の美女であることが分かるのですが、絵画だけだと今ひとつ分かりづらいのが残念ですね。もっと早く写真が発明されていれば良かったのですが、しかしこればかりは仕方ないですね。

「ルクレチア・ボルジア」「エルゼベエト・バートリ」「ブランヴィリエ侯爵夫人」「エリザベス女王」「メアリ・スチュアート」「カトリーヌ・ド・メディチ」「マリー・アントワネット」「アグリッピナ」「クレオパトラ」「フレデンゴとブリュヌオー」「則天武后」「マグダ・ゲッペルス」

「異端の肖像」河出文庫(2004年12月読了)★★★★
バヴァリアの狂王・ルドヴィヒ2世、20世紀の魔術師・ゲオルギー・イヴァーノヴィッチ・グルジエフ、生きていたシャルリュス男爵・ロベール・ド・モンテスキュー、バベルの塔の隠遁者・ウィリアム・ベックフォード、幼児殺戮者・ジル・ド・レエ、恐怖の大天使・サンジュスト、デカダン少年皇帝・ヘリオガバルスという、3世紀から20世紀までの異端とされる7人の人物の研究。丁度、「世界悪女物語」の男性版といったところのようです。
私がきちんと知っていたのは、ヴィスコンティ監督の映画で有名になったルドヴィヒ2世ぐらいで、後は名前を聞いたことがある程度だったのですが、なかなか個性的で面白い人物が揃っていて楽しめました。それぞれに写真や肖像画、彫像などが掲載されているというのも嬉しいところ。現代の基準からはあまり美男とは思えない人物が、実はとても美少年でモテたという説明をされているのを読むと、その人間がもし現代人だったら… などついつい意地悪なことを考えてしまうのですが、人間の魅力は顔の美醜だけではないですものね。実際のところは、どのような人物だったのだろう… と想像がふくらみます。

「幻想博物誌」河出文庫(2004年3月読了)★★★★★お気に入り
澁澤龍彦氏が自分好みの生物ばかりを集めた本。ここで取り上げられているのは、犀や象のように実在の生物から、絶滅してしまったドードーのような生物、クラーケンやセイレーン、ゴルゴンのように架空の生物まで様々。そして作中には、プリニウスの「博物誌」の引用が多く見られます。それは、蝶は露から生まれるなどの荒唐無稽な説だったりもするのですが、澁澤龍彦氏がこの本の影響を受け、この作品の基礎となっているのは確実でしょう。
この中で特に印象に残ったのは、大山猫の章の、大山猫の尿がリュンクリウム(大山猫石)と呼ばれる柘榴石によく似た燃えるような輝きを放つ石になるというくだり。黄琥珀も同じ種類の産物なのだそうです。そしてゴルゴンの章の、海藻がメドゥーサの首に触れて珊瑚になったという話。様々な生物たちが古今東西のエピソードと共に紹介されていくのですが、その中でも、大好きなギリシャ神話の世界が広がることが多く、たとえそのエピソード自体は既に知っているものであったとしても、とても楽しめました。

「スキタイの羊」「犀の図」「スキヤポデス」「クラーケンとタッツェルヴェルム」「ドードー」「蟻の伝説」「スフィンクス」「象」「毛虫と蝶」「人魚の進化」「大山猫」「原初の魚」「ゴルゴン」「フェニクス」「貝」「ミノタウロス」「火鼠とサラマンドラ」「グノーム」「海胆とペンタグラムマ」「バジリスクス」「鳥のいろいろ」「虫のいろいろ」「ケンタウロス」「キマイ」

「夢の宇宙誌-コスモグラフィア・ファンタスティカ」河出文庫(2004年3月読了)★★★★
古今東西の書物や絵画などから、澁澤龍彦好みのモチーフが色々と紹介されていきます。60年代に出版された十数冊の著書の中でも、一番気に入っているという1冊。このスタイルが70年代に出版された「胡桃の中の世界」や「思考の紋章学」に引き継がれていくのだそうです。
最初の「玩具について」の章では、自動人形や色々な仕掛けが施された時計などの機械が紹介され、「ホムンクルス」やスタフ・マイリンクの「ゴーレム」などの項目があり、その後には「天使について」や「アンドロギュヌスについて」「世界の終わりについて」という章が続くという、目次からしてとても惹かれる内容。しかし1冊の半分ほどを占める「玩具について」の章で、私自身の興味の有無がはっきり分かれてしまったせいか、「幻想博物誌」ほどには、引き込まれることはありませんでした。ギリシャ神話などへの発展が少なかったせいもあるかもしれません。それでも確かに澁澤龍彦の世界で、やはりこの全体を流れる雰囲気には惹かれますね。最後の審判の絵が好んで描かれたのは、おっぴらに裸体をかきたかったためではないかという意見が面白かったです。本当にそうだったのかもしれないですね。

「玩具について」「天使について」「アンドロギュヌスについて」「世界の終わりについて」

「私のプリニウス」河出文庫(2004年12月読了)★★★★
2000年も昔に、古代ローマの博物学者プリニウスが記した「博物誌」全37巻。当時の文献や思想を知る上でも大変貴重な書と言える本書を、澁澤龍彦氏が気の向くまま読み解き、興味の赴くまま紹介した本。

一読して、「博物誌」からの引用が非常に多いのには驚きました。これは、澁澤氏が引用魔だと言うプリニウスの上を張った、氏独特の遊び心なのでしょうか。プリニウスはアリストテレスやヘロドトスの丸写しをしていると言いながらも、そのおかげで当時の貴重な文献を読むことができるのであると注釈入りで、澁澤氏自身もかなりの部分を引用しています。しかしそれに対する澁澤氏本人のコメントも充実。プリニウスへの本家の博物誌を読もうと思ってもなかなか大変ですし、これは入門編として好適な1冊でしょうね。
現実には存在し得ないような幻想的な種族や動物、植物などが事細かに説明されているのは、やはり読んでいてわくわくしてしまいます。「あんな嘘八百やでたらめ」と繰り返しながらも、澁澤龍彦氏が惹かれたのも良く分かりますね。私自身、この博物誌の世界のような世界がとても好きですし、こういった本を読みながら、現実と幻想の間で想像が膨らませるのがとても楽しいです。

「夢のかたち-言葉の標本函」河出文庫(2006年6月読了)★★★★
「他人から聞かされる夢の物語くらい、退屈なものはない」と書きながらも、「夢を語るという一つの文学ジャンルにも、独自のおもしろさがある」という澁澤龍彦。ここに収められたのは、澁澤龍彦氏による「いずれも読者の知的好奇心を満たすに足るような、興味津々たる人間情念のドキュメント」。夢に関する記述全126編。

夢というのは妙に頭に残っていることもあれば、目が覚めた途端に忘れてしまうこともありますが、南方熊楠「土宣法竜宛書簡」によると、「すべて夢さむるときに身をちょっとでも動かせばたちまち忘るるものなり」なのだそうです。目が覚めてもじっと動かずに目をつぶっていれば思い出せるとのこと。そしてプリニウスの「博物誌」によれば、夢を最も多く見るのは春と秋の近づく頃で、仰向きに寝ればさらに多くの夢を見るのだそうです。しかしうつ伏せに寝ていると夢を見なくなるのだとか。そんな実際的な記述もあれば、物語の中で登場人物が語るとりとめのない夢の話もあります。もちろんそういった物語の中の夢の話は、実生活とは違い、物語の展開上で何らかの影響を及ぼすもの。既読の作品の夢の話は、そこだけ取り上げると、作品全体を読んだ時の印象とはどこか違うのが不思議。逆に、ここに取り上げられた美しかったり不思議だったり残酷だったりといった夢が、その物語ではどのような役割を果たしているのか、ぜひ読んでみたくなるものも多いです。
文章が読みやすいと思えば、澁澤龍彦氏自身が訳したテキストも多いようですね。

「日記」マリ・バシュキルツェフ、「解放されたエルサレム」タッソー、「夢の記」明恵上人、「オデュッセイア」ホメーロス、「さかしま」ユイスマンス、「ソネット」ゴンゴラ、「煉獄の魂」メリメ、「眠りの連(示壽)」トリスタン・コルビエール、「ウェヌスとタンホイザーの物語」オーブリ・ビアズレー、「グラディーヴァ」イエンゼン、「美味礼賛」ブリヤ=サヴァラン、「月の王」ギヨーム・アポリネール、「フビライ汗」コールリッジ、「ローランの歌」、「わが生涯」ベンヴェヌート・チェッリーニ、「カリフ・ハケムの物語」ジェラール・ド・ネルヴァル、「雲根志」木内石亭、「エレホン」サミュエル・バトラー、「幻想」イェイツ、「不謹慎な宝石」ディドロ、「ウィルヘルム・マイスターの遍歴時代」ゲーテ、「空の青」ジョルジュ・バタイユ…

「オブジェを求めて-言葉の標本函」河出文庫(2006年6月読了)★★★★
古今東西の文学作品や歴史的名著の中から、オブジェというテーマで120編もの文章を採集した一大コレクション。本来オブジェとは、自然物・人工物を問わず、目の前に存在するもの全てを指す用語なのですが、この本の中でのオブジェはもっと狭く限定されています。澁澤龍彦氏好みのオブジェとは、「どちらかといえば役に立たないもの、無用のもの、遊戯的なもの、用途不明のもの、あるいは本来の用途とは別の目的で使用されているもの」。

「言葉の標本函」シリーズの2冊目。今回のテーマは「オブジェ」です。ここに登場する様々なオブジェは、さすが澁澤龍彦氏の好みを感じさせられるもの。しかし「言葉の標本函」シリーズの中では、他の2冊ほどには惹かれませんでした。私にとっては、物よりも人間の方が、より興味を引くということかもしれません。

「解放されたエルサレム」タッソー、「医師の宗教」トマス・ブラウン、「ビザンティウムへの船出」イェイツ、「さかしま」ユイスマンス、「美の芸術家」ナサニエル・ホーソン、「アフロディット」ピエール・ルイス、「グリーン・チャイルド」ハーバード・リー、「スマラ、あるいは夜の悪魔たち」シャルル・ノディエ、「アレフ」「砂時計」ホルヘ、ルイス・ボルヘス、「死都ブリュージュ」ジョルジュ・ロデンバック、「ザイスの学徒」ノヴァーリス、「雲根志」木内石亭、「クリティアス」プラトン、「イシス」ヴィリエ・ド・リラダン、「球と教授たち」マルセル・ベアリュ、「異物」ピエール・ド・マンディアルグ…

「天使から怪物まで-言葉の標本函」河出文庫(2006年6月読了)★★★★
靴屋の哲学者ヤーコブ・ベーメの意見によれば歯も性器もない天使という存在は、あるいは怪物なのではないか。「種がある以上、怪物は偏在する」という基本的なテーマの下に集められた118編。

「『天使から怪物まで』と題して、私が本巻にあつめた百十八篇の断章は、いわば私の主宰する、サドのそれにも比すべき乱交パーティの円環だと思ってくだされば幸甚である」とある通り、怪物から畸形、そして天使に至るまでの紹介には強いエロティシズムが感じられ、今までの3冊で一番澁澤龍彦的エッセンスが強く感じられる1冊となっています。私自身、天使や悪魔には元々興味があるので、3冊の「言葉の標本函」の中で一番面白かったです。考えてみれば、悪魔であるサタンも元は天上で一番高貴な天使・ルシファー。そして様々な文学に登場する怪物は、それぞれに悪魔の表した姿とも考えられます。天使と悪魔は環のように繋がっているということなのでしょうね。

「ゴーレム」グスタフ・マイリンク、「解放されたエルサレム」タッソー、「ニルス・クリムの地下旅行」ルドヴィー・ホルベア、「物の性質について」パラケルスス、「エジプトのイザベラ」アヒム・フォン・アルニム、「撰集抄」、「化学の結婚」ヨハン・ヴァレンティン・アンドレーエ、「ヴァテック」ウィリアム・ベックフォード、「天界と地獄」スウェーデンボリ、「人間の尊厳について」ピコ・デッラ・ミランドラ、「未来のイヴ」ヴィリエ・ド・リラダン、ヤーコブ・ベーメ「アウロラ」、「セラフィータ」バルザック…

「夢のある部屋」河出文庫(2006年6月読了)★★★★
1960年代後半から1980年代初めまで、女性誌「ミセス」を始めとする、様々な雑誌やPR誌に書かれてきた文章を1冊にまとめたもの。「夢のある部屋」「夢のある風景」と分かれてはいますが、内容的にそれほど違いはありません。むしろ、「夢のある部屋」の「鏡の魔法」という章に掲載されている写真の凸面鏡の来歴が、「夢のある風景」の「横浜で見つけた鏡」の章で語られていたりと、かなりの繋がりがあります。それもそのはず、元々は「夢のある部屋」だけで1冊の本として刊行されていたそうで、河出書房新社の編集部が、それに関連のある未収録エッセイを集めて、新たに編集したのだそうです。
ここに書かれているのは、澁澤龍彦氏の愛蔵品の数々や美意識について。実際の部屋の写真も収録されて、自宅居間に置かれた古い時計や愛蔵のガラス器、サド侯爵も部屋に飾っていたという髑髏(しゃれこうべ)、四谷シモン作の球体関節人形などのコレクションも楽しめるのが楽しいです。そして、四季折々の北鎌倉という場所に対する思いも語られていきます。この中で特に印象に残ったのは、「夢のある部屋」の前半の章。ギリシャ神話や古今東西の詩人たちの話は、読んでいるとその世界が広がるようで楽しかったです。
他の作品とは一味違う、澁澤龍彦氏が身近に感じられるような気軽なエッセイ。いつも澁澤氏の作品を読んでいる時に感じるような圧倒的な博識ぶりは、この作品に関してはそれほどでもなかったように思いますが、むしろ気楽な雰囲気だからこそ、澁澤作品への入門として読むのにも向いていると思います。そして何よりも驚いたのは、執筆されてから50年も経とうという文章もあるというのに、全く古さを感じさせないこと。日常についての話が中心となっているので、もちろん時代を感じさせる部分もあるのですが、今読んでもまるで違和感を感じさせないとは凄いですね。澁澤氏の普遍性を感じさせられました。
Livre TOP≫HOME≫
JardinSoleil

Copyright 2000-2011 Shiki. All rights reserved.