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このページは、清涼院流水さんの本の感想のページです。

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「コズミック-世紀末探偵神話」講談社ノベルス(2000年5月読了)★★★
マスコミ各社、警視庁、日本探偵倶楽部に届いた犯罪予告状。そこには密室卿の名前で「今年、1200個の密室で1200人が殺される。誰にも止めることはできない。」という言葉が。そしてこの予告状通り、不可解な密室殺人事件が次々と起こります。毎日3〜4人の被害者の首が切られ、しかも背中には被害者自身の血で文字が記されています。JDCが総力をあげて事件の解明に努めるのですが、なかなか事件が解決できないうちに、被害者の数はどんどん増えて…。

清両院流水氏のデビュー作。第2回メフィスト賞受賞作品です。
講談社ノベルスでは普通に「コズミック」「ジョーカー」と出版されていたのですが、文庫化にあたってそれぞれを上下巻に分けて「コズミック-流」「コズミック-水」「ジョーカー-清」「ジョーカー-涼」として出版されました。「コズミック-流」→「ジョーカー-清」「ジョーカー-涼」→「コズミック-水」という順番で読む、いわゆる「清涼IN流水」が第3の理想的な読み方なのだそうです。両作品を通読して初めて浮かび上がる仕掛けがほどこしてあるそうなのですが、これに関してはあまりよく分かりませんでした。
とにかく次々と人が殺されます。トリックという言葉が虚しくなってしまうような連続殺人。このホラー映画のような密室殺人にどう決着がつくのでしょう。JDCの探偵たちは真相を看破しているというのに、それが事件の解決にはなかなか結びつかない所がもどかしいところ。しかもかなり気を持たせる書き方なので、これで結末に納得できなかったら、本を投げたくもなるでしょうね。そして、やっとのことで解明された真相は… これがまた凄いの一言です。
JDCの探偵はみな個性的で、各自が独特な推理方法を持っているので、そういうのはなかなか面白いところですね。まあそこに現実感があるかというのはまた別の話なのですが、私はそれほど嫌いではないです。馬鹿馬鹿しさを楽しむ余裕が必要ですが。

「ジョーカー-旧約探偵神話」講談社ノベルス(2000年4月読了)★★★★
「関西本格の会」の合宿が行われている幻影城で起った連続殺人事件。犯人は自らを「芸術家(アーティスト)と名乗り、集まった推理作家や周囲の人々の命を次々と奪っていきます。警察もJDC(日本探偵倶楽部)の名探偵たちも芸術家の不可能犯罪に翻弄され、推理は二転三転、なかなか真相をつかむことができません。そして最後に登場するJDCの切り札・九十九十九(つくもじゅうきゅう)の「神通理気」推理によって真相が解き明かされます。

私の周囲では、清涼院氏ほど色々と否定的なことを言われ、しかし「必ず」読まれている作家さんはいません。ということで、かなり期待して読んだのですが、まさに期待通りでした。
まず文章。基本的に読みやすいのですが、クセがありますね。会話に♪やハートマークを付けるのは、如何なものかと。これに慣れるのにかなりかかってしまいました。次に内容。作者の清涼院氏はきっとかなり楽しみながら、この作品を書かれたのでしょうね。トリックや言葉遊びが三重四重にも仕掛けられ、物凄い凝り方です。最後は驚きを通りこして呆れてしまうほど。しかし非常に計算され尽くしている作品とも言うことができるでしょう。本当に驚きました。物語はかなり飛躍するので、どのように収集をつけるのかというのも興味深いところなのですが、必ずしもきちんとした解明がされるとは限りません。しかも最後は現実感のない、ぶっとびの解決編。
このような点が本格ファンには受け入れられない要素だと思うのですが、JDCの探偵は個性的で面白いですし、凝りに凝った言葉遊びも楽しかったです。ミステリとしてよりも、普通の小説として読んだ方が読後感は良いかもしれません。(私はそう読みました。)その方が全体の現実離れした雰囲気も楽しめるのでは。ちなみに私が気に入ったのは九十九十九。しかし作者も書いてますが、彼が主人公だと小説が成り立たないでしょうね。ウルトラマンの必殺技のようなものですから。(笑)

「エル-全日本じゃんけんトーナメント」幻冬舎ノベルス(2006年1月読了)★★★
平凡な、というよりはむしろこれまで14年間アンラッキーな人生を送ってきた中学3年生のぼく「木村彰一」は、姉の百合子が勝手に応募した全日本じゃんけんトーナメントの、極楽ドームで行われる決勝トーナメントに出場することになります。参加者は全国3000万人の中から予選を勝ち抜いた1024人。そしてこの日彰一が引いたのは778。778はなんと過去12回のトーナメントでただ1つだけ勝利したもののいない番号。そして最初の対戦相手は、777という最強のラッキーナンバーを引いた水野守。777をひいた人間は、これまでの12回で決勝に7人も進出しているのです。

以前読んだ時と同様、文章に音符マークやらハートマークやらがついているのが気になって仕方がなかったのですが、意外と楽しめました。じゃんけんというゲームを使っているところが分かりやすく、良く知っているゲームなだけに面白いものですね。確かにじゃんけんには、ただ勝負すれば勝率は単純に3分の1になるところが、事前に何を出すかという打ち合わせをしてしまうと、相手が素直に出すのかそれとも裏をかこうとするのか色々と考えてしまい、逆に難しくなってしまうところがありますよね。
しかしオチは特に意外でもなく、2通りに示された読み方をしてみても、期待したほど印象が変わることがなかったのが残念でした。

「トップラン」幻冬舎文庫(2001年11月読了)★★★
全五巻の隔月刊行。()内の数字は巻数をあらわしています。
【ここが最前線(1)】…2000年1月。20歳を迎えたばかりの音羽恋子は、ふと出かけたマクドナルドで、「よろず鑑定師」貴船天使(きふねてんし)と名乗る不思議な男に出会います。彼は恋子に謎を出し、正解した恋子に1万円を渡します。さらに「トップランテスト」を渡し、この心理テストに回答して1月末までに貴船を見つけ出して手渡すことができたら、残り99万円をくれると言うのです。
【恋人は誘拐犯(2)】…無事にトップランテストを貴船天使に渡し、第一関門はクリアした恋子。次の関門は、7500万円の入ったアタッシェケースを2月1日からの2ヶ月間、家族に内緒で預かるということでした。家族に見つかった時点で一巻の終り。もちろんそのお金を使ってもいけないという条件付き。しかしこの関門をクリアした時点で、その7500万円は恋子の物になるというのです。
【身代金ローン(3)】…恋子の携帯電話にかかってきた、見知らぬ男からの電話。それは姉の銀子を誘拐するという電話でした。身代金は3億7529万9500円。それは恋子のトップランテストでの金額でした。恋子は作戦を開始することに。
【クイズ大逆転(4)】…友達の麻由美の誕生日に、松子や銀子、貴船天使、そして2組の両親をも呼んだ恋子の計画は、その日皆の前で貴船天使にアタッシェケースのお金の説明をさせるということ。貴船天使自身もそれを薄々感じていたらしく、すぐに皆を少年狼という人物の元へと案内します。
【最終話に専念(5)】…少年狼から説明がきけるかどうかは、相手の主張が正しいかどうかを当てる「一巻の終りクイズ」次第。水面下で繰り広げられる駆け引き、そして最後の2問の出題者は恋子と少年狼。このクイズの勝敗にすべてがかかります。
【大航海をラン(6)】…恋子たちは春人と無事再会。しかし笙造が貴船天使を追って消えてしまいます。恋子に接触してきた自称・狐森ひかるの秘書の残した言葉は「NEWSをよく見ること」でした。

またまた清涼院氏らしい凝った作りです。恋子と銀子の両親の音羽夫婦と隣に住む藤夫婦は、2組の兄妹同士が結婚したというカップル。藤夫婦には子供がいないことから、恋子と銀子はどちらの夫婦をも両親のように思って育っています。そして隣同士の両方の家にそれぞれの娘の部屋があり… 一応これも物語の進行上重要な要素となっています。そういった物理的な設定の他にも、当然のように言葉遊びも多くあり、説明も相変わらず十分すぎるほど。
最初は設定の説明などで停滞気味だった物語も、後半は加速度的に進みます。「一巻の終りクイズ」なども設定としては面白いですし、物語の流れもなんとなく良い方に落ち着きますね。どうしても牽強付会な面は気になりますが、清涼院さんの作風を十分理解した上で楽しもうという人には楽しい作品なのではないでしょうか。良くも悪くもとても清涼院氏らしい作品と言えると思います。
ただ、2000年の時事的な話題やその他の説明事項などのくどさには閉口しました。これらの部分を整理すれば、物語の分量は半分以下になってしまいそうです。そもそも1冊が300ページ強しかないのに、そのうちの最初の20〜30ページは前巻のあらすじなのですから。
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