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このページは、沢木耕太郎さんの本の感想のページです。

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「深夜特急」1〜6 新潮文庫(2005年3月読了)★★★★
友人との、「インドのデリーからロンドンまで乗り合いバスで行くことができるか」という賭けから、26歳の沢木耕太郎さんが仕事も何もかも投げ捨て、机の引き出しから一円硬貨までかき集めて日本を脱出。アジアからヨーロッパまでを歩き回ったという旅行記。なんと出発地点のデリーまで半年かかっており、全工程でも1年にも及ぶ長旅となっています。1巻は「香港・マカオ」、2巻は「マレー半島・シンガポール」、3巻は「インド・ネパール」、4巻は「シルクロード」、5巻は「トルコ・ギリシャ・地中海」6巻は「南ヨーロッパ・ロンドン」編。

日本冒険小説協会大賞特別賞受賞作品
1巻がいきなりインドの安宿で始まったのには驚きましたが、この旅のそもそもの基本はデリーにあったのですね。1章が終わって改めて、旅の始めからきちんと順序を追って書かれていくことになります。2巻だけはやや低調で、書いてる本人があまり楽しんでいないのが伝わってきてしまったのですが、他の部分はとても面白かったです。特に印象に残ったのは、マカオのカジノでの「大小」という博打の話や、香港やペナンで泊まっていた娼婦宿のエピソード。こういった体験は、やはり男性ならではですね。 パキスタンでの乗り合いバスのチキン・レースもとても怖そうで、でも読んでいる側にとってはとても面白かったです。それにインドというのはやはり面白い素材ですね。読んでいるだけでもその空気が伝わってくるような気がします。例えば妹尾河童さんの「河童が覗いたインド」も、椎名誠さんの「インドでわしも考えた」も、それぞれに本当に面白かったですし、他の国の話以上に書いてる人間が表れるのかもしれませんね。…それだけに、2巻でタイもマレーシアもシンガポールもほとんど楽しんでいなかったのだけがとても残念。確かに香港のあの活気に惹かれる気持ちは良く分かりますが、しかしタイやマレーシア、シンガポールも十分に魅力的な国です。香港とはまた違う魅力や活力をなぜ楽しもうと思わなかったのか…。自分の殻に篭もってしまい、物事を決め付けている筆者の頑なさが歯がゆかったです。勿体ないですね。しかも沢木さん自身が書いている通り、なぜ自分が楽しめなかったのか後で気が付いても「すべてはもう手遅れだ。人生と同じように、旅もまた二度と同じことをやり直すわけにはいかないのだから…」なのです。
そして全6巻の中で一番印象に残ったのは、イスタンブールのハナモチ氏が言ってた「チャイの国」の話。これには目の前が開けるような思いがしました。確かに日本は「茶」ですし、そこからトルコに至るまでの他の国でもお茶は「チャ」や「チャイ」ですものね。「C」の茶の国が仲間だというのは、本当にそうなのかも。そして「ティー」とか「テ」の「T」の茶の国を通り抜けてたどり着いたユーラシアの西端で再び「C」の茶の国となるというのがとても感動的でした。
1〜3巻ではそれほど「行きたい」とは思わなかったのですが、4巻以降は読むほどに「行きたい」が募りましたし、すっかり自分も沢木さんと一緒に旅をしてる気になりました。沢木さんは、この1年間でどれだけの人と出会い、別れていったのでしょう。旅の醍醐味はやはり、新しい土地とそこにいる人々との出会いにこそありますよね。楽しかったり切なかったり不安になったり、もちろん良いことばかりではないですが、読んでいるとまたあの感覚を味わいたくなってきてしまいます。それに、こういう本を読んでいると、今の自分の殻を打ち破りたくなってきてしまいます。やりたいと思いつつ、無意識のうちに諦めていることのどれほど多いことか。沢木さんの旅行を通して、自分ときちんと向き合っているような気分になりました。
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