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このページは、酒見賢一さんの本の感想のページです。

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「泣き虫弱虫諸葛孔明」文藝春秋(2005年8月読了)★★★★★お気に入り

「後宮小説」が「シンデレラ+三国志+金瓶梅+ラスト・エンペラー」の面白さと評されて初めて読んでみたという「三国志」。その三国志を諸葛孔明を中心に描いていった作品。

酒見賢一版三国志。というよりもむしろ、三国志読本かもしれません。「正史三国志」も「三国志演義」も漢字が難しくて読めずに、適当に和訳された「三国志」をつらつらと眺めたのだそうですが、その言葉が信じがたいほど非常に詳しく、斬新な解釈が沢山あり、しかも絶妙な突っ込みです。劉備軍(孔明参加前)に対する曹操の評価が「ほとんど小学校低学年クラス、まったく恐れぬに足りぬただの陽気な野郎ども」であったり、劉備の息子の劉禅が生まれる時に、母親の甘夫人が北斗を呑み込む夢をみた、白鶴が役所に来て40数回鳴いた、産屋に妙なる香りが満ちた等、様々な神秘現象が起きてるそうなのですが、それに対して「凄まじい神秘現象のもとに生まれても駄目なヤツは駄目だという歴史的教訓を示すために書かれているのだとしか思われない」という言葉が出るなど、酒見さん独自の考えも随所に登場。「陋巷に在り」でも、時々挟まれる薀蓄部分が非常に面白かったのですが、こちらは薀蓄がメインとなっているのですね。
孔明をただの宇宙的変人、それも村一番の鼻つまみ者のように描いているのも面白かったですし、その孔明と良い夫婦になってしまう黄氏の朗らかな聡明さ、孔明に振り回され続ける諸葛均の悲哀も面白く、徐庶や孔明を巡る、劉備、関羽、張飛の三義兄弟の描写もとても面白かったです。
しかも後半では、英語版の三国志「Romance of the Three Kingdoms」に関する話なども織り交ぜて、三国志雑学話といった印象。「三国志」未体験者にも分かりやすく書かれているとは思いますが、やはりある程度知っている方が楽しめるでしょうね。全編を通して三国志の舞台裏を覗いているような気分でした。この本1冊で描かれているのは、孔明の幼少時代のエピソードから、三顧の礼で孔明を劉備陣に招き入れるところまで。続編も連載中だそうなのでとても楽しみです。
しかしなぜ「泣き虫弱虫〜」という題名になったのでしょうね。孔明が泣き虫弱虫だったとしたら、それは子供時代だけの話。これだけはあまり合っているように思えないのですが…。


「中国雑話-中国的思想」文春新書(2008年2月読了)★★★★

NHKのラジオ中国語講座に1年半に渡って連載したという「中国古今人物論」を加筆修正したもの。「劉備」「仙人」「関羽」「易的世界」「孫子」「李衛公問対」「中国拳法」「王向斎」の8章に分けて、「中国」というキーワードのみで興味に任せて綴っていった、中国に関する「雑多な読み物」。

最初は人物伝でいくつもりだったらしく、三国志で有名な「劉備」から始まり、その後も「仙人」や「関羽」とくるのですが、気がつけば易や兵法、そして拳法へと話が発展しており、一読した印象は雑多というよりもまとまりがないというよりも何よりも「アンバランス」。ただ、人物伝で通してもおそらく面白い読み物になったとは思いますし、実際関羽が最高神のようになってしまう話なども面白いのですが、この辺りはどちらかといえば、不特定多数の読者のために広く浅く読みやすい物を書いたという印象。それよりも本文の半分近くを占める「中国拳法」と「王向斎」の章がやけにマニアックで面白いのです。中国拳法に特化してしまうというのはラジオ講座の連載にはあまり相応しくないかもしれませんが、これだけで1冊書いてしまっても良かったのではないかと思ってしまうほど。やはりあまり型にはめたようなことをしない方が力を発揮する作家さんなのでしょうね。しかもこの「中国拳法」や「王向斎」の章は、そのまま小説になりそうなエピソードが満載。いつか本当に小説で読める日が来るのかもしれませんね。あと私が気に入ったのは、「李衛公問対」。いつの時代にも、オタクと呼ばれるようなマニアックな存在はあるものなのですね。本当に李世民と李靖の対談ではないにせよ、相当の兵法の知識の持ち主が書いたもののようです。一度読んでみたくなりました。

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