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このページは、澤木喬さんの本の感想のページです。

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「いざ言問はむ都鳥」創元推理文庫(2001年10月読了)★★★★
植物学科の助手をしている沢木敬は、大学での研究やフィールドワークの傍ら、アマチュアオーケストラで趣味のバイオリンを弾くという人物。植物学者ならではの観察眼は、日常の生活でも生かされています。その日も丁度フィールドワークの旅を終えて始発電車で戻ってきた沢木と樋口陽一は、道に散らばった都忘れの花びらを見ながら、なぜこの時期の夜明けの道にそんな花びらが散らばっているのか考え始めます。探偵役は、この沢木の同僚の樋口陽一です。

4編からなる連作短編集です。各章の名前を伊勢物語や古今和歌集の和歌から取っているという風流な一冊。主人公が植物の研究者、趣味はバイオリンというだけあって、独特な柔らかい雰囲気を持っている作品です。職業柄フィールドワークの場面も多く、植物の説明もかなりあるのですが、これがまるで煩くないのがいいですね。植物が好きな人には、かなり興味深い本なのではないでしょうか。
日常の謎ということで北村薫氏の著作と比べられやすいのではないかと思うのですが、この作品の中に出てくる謎の答は、北村氏の日常の謎とは大きく違います。平凡な謎から樋口によって引き出されるのは、明らかに毒がたっぷり含まれた答ばかり。植物の持つ柔らかさとのギャップの大きさに驚いてしまいました。しかも樋口がある瞬間すべてを悟るという形が多いため、謎解きはいきなり深い部分にまで踏み込むのです。読んでいても、話についていくのがやっと。謎解き以外の部分でも、例えば現在のシーンと回想シーンとの区別があまり明確でなく、最初のうちは話の流れがつかめずに少々苦労しました。しかし謎に対する伏線のはり方はとてもさりげなく、しかもかなり効果的です。連作短編集としての、全体的な仕掛けも見事でした。

収録作品…「いざ言問はむ都鳥」「ゆく水にかずかくよりもはかなきは」「飛び立ちかねつ鳥にしあらねば」「むすびし水のこほれるを」
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