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このページは、菅浩江さんの本の感想のページです。

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「歌の翼に-ピアノ教室は謎だらけ」祥伝社ノンノベル(2003年11月読了)★★★★
【バイエルとソナチネ】…最近変質者が出る話をしていた、数田楽器店の数田幸代と、ピアノ教師の杉原亮子。丁度その時、小学校6年生のユイカが、変な男を見たと言って大騒ぎになります。
【英雄と皇帝】…中学1年で「英雄ポロネーズ」に挑戦しているハルナ。母親がピアノの練習に熱心で、家には防音室まであるのに、そこでピアノを練習すると頭が痛くなるとハルナは言うのです。
【大きな古時計】…商店街の時計屋の前で、アナログ時計を見上げていた少女に、友達の朝倉マモルが一目惚れ。打ち明ける前に失恋してしまったと聞き、数田慎太郎はなんとかしようと考えます。
【マイ・ウェイ】…音楽療法士を目指している大八木千鶴は、亮子に誘われるがまま亮子の家へ。しかしお喋りをしている時、柵の外から怪しげな男が亮子の家の中を覗き込んでいるのに気付きます。
【タランテラ】…金沢実千代が受け持つ小学校4年の生徒・マナとジュンは、何かにつけ張り合い、教則本の進み方もほぼ同じ。2人の競争を毎週のように見せられる実千代はうんざりしていました。
【いつか王子様が】…いじめられているというハヅキを見て、千鶴はOL時代の夢見がちな後輩・三重を思い出します。その時、当の三重が妙な楽譜がロッカーに入っていたと店にやってきます。
【トロイメライ】…亮子と声楽家の花田裕美子は千鶴に連れられて、千鶴が音楽療法士として訪問している老人ホームへ。上品そうな老婦人と下町風のおばちゃんの諍いに巻き込まれることに。
【ラプソディ・イン・ブルー】…亮子がいなくなります。その日亮子と約束をしていた裕美子の携帯には、「現実と向き合うためにある人物と会ってくる」と入っており、数田楽器店は大騒ぎに。
【お母さま聞いてちょうだい】…発表会も近づいた頃、生徒たちの弾く曲の仕上がりが遅れていることから、亮子は生徒達が何か企んでいることを察知。千鶴と裕美子に、やめさせて欲しいと頼むことに。

名門音楽大学のピアノ科を主席で卒業しながらも人前での演奏ができず、現在は商店街にある数田楽器店でピアノを教えている杉原亮子。彼女の身の回りで起きた小さな出来事を集めた、日常の謎系の連作短編集です。まるで加納朋子さんのような雰囲気ですね。これが菅さんの作品とは驚きました。
いかにも育ちが良く、おっとりとした世間知らずのお嬢さんに見えにも関わらず、何か人には言えない過去があるらしい亮子。時々見せる鋭い視点もその過去に根ざしたもののようで、ほんわかとした優しい笑顔の裏に隠されている過去とは何なのか、読み進めるにつれ興味がつのります。前半はほのぼのとしていますが、後半になるにつれて亮子の過去に近づいて、徐々にシリアスモードに。
この中では、「英雄と皇帝」「トロイメライ」が良かったです。「英雄と皇帝」で出てきた音楽的な話、ホワイトノイズやテープの話がとても興味深かったですし、「トロイメライ」でのマツオカさんとアダチさんの決着のつけ方も好き。しかしいくつかの作品では、作品をミステリとして成立させるためにトリックに無理をしているのではないかという印象が残ってしまいました。特に「いつか王子様が」、これはどうなのでしょう。これでは受け取った側が気持ち悪いだけなのでは…。全部を読み終わって全体的に見てみると、ミステリの謎の部分よりも亮子自身の物語の方が、私にとっては魅力的だったような気がします。特に最後の章に溢れる暖かさには、読んでいる私まで嬉しくなってしまいました。
しかし千鶴が「マイ・ウェイ」の中で感じているのですが、ドビュッシーはまだしも、モーツァルトが「きらきらしくも華やかな、ロマン溢れる曲」だったとは今まで思いもしませんでした。印象も様々ですね。

「プレシャス・ライアー」カッパノベルス(2004年7月読了)★★★★
VR(バーチャルリアリティ)が、そう表記することすら恥であるほどに、日常生活に浸透した近未来。金森詳子は、次世代コンピューターの研究所を主宰している12歳年上の従兄・谷津原禎一郎にアルバイトを頼まれてVRの世界へ。コンピューターを仕事とするあまり、どうしても技術面にばかり目がいってしまう禎一郎に代わり、VRではどのようなものがオリジナリティとして賞賛されるか、素人の目で見てきて欲しいと頼まれたのです。しかしVRの世界は想像以上に陳腐。緑地公園にいることに退屈した詳子は、次の世界、アートの殿堂へと向かいます。そこで出会ったのは、不思議の国のアリスそのままの姿をした「アリス」と名乗る少女でした。

「週刊アスキー」に連載されていたというSF作品。
確かな質感を持ち、硬度可変ジェルのグローブや嗅覚刺激ユニットのおかげでリアルな触感や香りまで楽しむことができるVR、行き先案内はもちろんのこと、商品の説明や価格など様々な情報がポップアップされ、レイヤーが重ねられていく街歩き用の情報ゴーグルなどが、一般的に使いこなされている世界。スーパーコンピューターに関しては少々疑問も残りましたが、今のままいけば、コンピューターはこの作品に描かれているように発展していくのだろうなというリアル感があります。何でもできるはずのVRで、敢えてごく普通の緑地公園を作るというのが分かるような気がして興味深いですし、アリスの語るシニフィアン(記号表記)やシニフィエ(記号内容)が面白かったです。アングラサイトでの攻防も、いかにもこういうことが起こりそうで、その映像を想像するのが楽しいですね。
ラストに明かされる真相はあまりに予想範囲内でしたが、それによって、それまで感じていた違和感が説明されたような気がします。おそらくこの造形は、確信犯だったのでしょうね。
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