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このページは、須賀敦子さんの本の感想のページです。

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「須賀敦子全集6」河出文庫(2007年11月読了)★★★★

「イタリア文学論」…ナタリア・ギンズブルグ論、イタリア中世詩論、イタリア現代詩論、文学史をめぐって、という4章に分けられた、イタリア文学論。
「翻訳書あとがき」…須賀敦子さんが訳したナタリア・ギンズブルグ作品、アントニオ・タブッキ作品、そしてイタロ・カルヴィーノの「なぜ古典を読むのか」につけられたあとがき集。

イタリア文学論と、須賀さんが邦訳したイタリア文学の訳者後書きを集めた第6巻。イタリア文学論で取り上げられているのは、まずナタリア・ギンズブルグの「ある家族の会話」、イタリア中世詩論としてダンテ以前のイタリアにおける最も重要な宗教詩人と言われるヤコポーネ・ダ・トーディや宗教詩ラウデ、ダンテに影響を与えたトゥルバドゥールやダンテの「新生」について。さらに「イタリア現代詩論」としてウンベルト・サーバやエウジェニオ・モンターレ、現代詩の創始者と言われるウンガレッティなど。最後に日本で発刊された「イタリア文学史」に関する書評。このイタリア文学論に関してはかなり専門的な内容で、ダンテの「神曲」は読んでいるものの、ウンベルト・サーバなどの名前は須賀敦子さんの著作を通して知った程度の私にとっては少し難しかったです。研究論文もあれば、講演の原稿もあり、やはり講演の原稿の方が初心者にとっては読みやすい内容。しかしいずれにせよ、それらの作品に対する須賀さんの愛情はひしひしと感じられます。そして講演での須賀さんによるイタリア詩の朗読は、ぜひ聴いてみたかったです。やはり他のヨーロッパ言語に比べて音楽的に感じられるでしょうね。
後半の翻訳書あとがきには既読のものもいくつかあったのですが、改めて読んでもエッセイとして楽しめるものばかりでした。イタリア語を全く異質な日本語に置き換えるという作業は相当大変だったのではないかと思いますが、これ以上の日本語を生み出す翻訳者はいなかったのではないかと思えるほど。それは前半のイタリア詩を取り上げた文章での須賀さんの訳を読むだけでも十分感じられます。


「須賀敦子全集7」河出文庫(2007年11月読了)★★★★

「どんぐりのたわごと」…須賀敦子さんがローマ留学時代に1人で企画・製作、コルシア書店で出版して日本に送っていた冊子。全15号で、7号には「こうちゃん」が収録されています。
「日記」…夫・ペッピーノの死から4年。翻訳の仕事をしながらミラノに住み続ける須賀敦子さんの、ミラノを去ることになるまでの日記。

「どんぐりのたわごと」は、企画から執筆、原稿の邦訳、製作、日本への発送を須賀敦子さんが1人でやっていたという冊子。しかしもちろんこの時の須賀敦子さんの後ろからは、コルシア書店の仲間たちが須賀さんを支えていて、様々なアドバイスをしていたはずです。そしてこの中で特に印象に残ったのは、第3号に載っていたコルシア書店の中心となっていたダヴィデ・マリア・トゥロルド神父の詩。2m近い大男で、かなり破天荒なイメージのあるトゥロルド神父。人間的に大きく、懐も深いけれど、カトリック特有の細々とした様式的な部分にはあまり馴染めなかったのではないかと思う彼が、これほどまでに繊細で甘やかな詩を書いていたとは。そして第8号のジャン・ジオノによる「希望をうえて幸福をそだてた男」も印象に残りました。須賀さんがイタリア人の友人に宮沢賢治の話をしていたのがきっかけで、教えてもらったという物語。これはとても素敵な話ですね。そしてウンベルト・サーバの詩。もちろん「こうちゃん」も。この文字だけのこうちゃんを読むと、再読のせいもあるとは思いますが、酒井駒子さんの挿絵入りの絵本で読んだ時よりもすんなりと頭の中に入ってくるような気がしましたし、同時に酒井駒子さんの挿絵入りの本をもう一度読み返してみたくなります。この「こうちゃん」や「希望をうえて幸福をそだてた男」といった文章はキリスト教というよりも自然を描いたといった印象の作品ですが、これらの冊子は全体的にとてもキリスト教色の強い読み物。おそらく日本のカトリック教会に置かれていたのでしょうね。カトリック信者としてキリスト教に正面から向き合い、キリスト教や信仰のことなどを考えていこうとする須賀さんの姿が清々しいです。
そして後半はペッピーノの死後、ミラノでの生活を続けていた須賀さんの日記。後に書かれたエッセイとは違い、こういったプライベートな日記には、人の私生活を勝手に覗き込むような居心地の悪さを感じるのですが、その分、素顔の須賀さんに触れることができるよう。須賀さんが夫のいないミラノでの生活に限界を感じていたこと、それでも続いていく人間関係に充実しながらも疲れていたことなどが感じ取れるようで、興味深いです。

「須賀敦子全集8」河出文庫(2007年11月読了)★★★★

「書簡」…イタリア時代の須賀敦子さんが、両親や友人、そして後の夫となるペッピーノ・リッカに宛てて書いた手紙。
「『聖心(みこころ)の使徒』所収エッセイ」…日本祈祷の使徒会の「聖心の使徒」に、1957年から1968年にかけて発表された作品及び、コルシア・デイ・セルヴィ会報誌に発表された作品の翻訳。
「荒野の師父らのことば」…1960年から1962年にかけて「聖心の使徒」に連載された翻訳をまとめたもの。
「ノート・未定稿」…構想のまま、結局未完成に終わってしまった「アルザスの曲りくねった道」に関するノートと未定稿。
「年譜」…須賀敦子さんの記した日記や手紙、作品などから日時の分かる事柄に、家族や友人知人の証言などを補って作成された、詳細な年譜。

須賀敦子全集最終巻。
両親、特に母への手紙は、全体を通してとても明るいトーン。手紙はかなりの頻度で書かれており、日常生活のこまごまとしたことが逐一書かれています。しかし「忙しい毎日だけれども元気なので心配しないで」ということを強調しすぎていて、逆にかなり無理をしていたのではないかと勘ぐってしまうような文面。慣れない外国暮らしとはいえ、少々痛々しくもあります。そしてそんな両親への手紙と対照的なのが、夫となるペッピーノへの手紙。こちらには素直な心情が吐露されており、ペッピーノに対する信頼の厚さが感じられます。丁重な文面ながらも、抑えられた情熱が文面からあふれ出してきそうですし、2人の間で徐々に愛が深まっていく様子がとてもよく分かり、ペッピーノの返信が読みたくなってしまうほどです。
残念で堪らなかったのは、最晩年に構想中だったという小説「アルザスの曲りくねった道」が、結局未完のままに終わってしまったこと。これは書かれていたら、最高傑作となっていたでしょうね。完成された作品を読みたかったです。
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