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このページは、末吉暁子さんの本の感想のページです。

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「黒ばらさんの7つの魔法」偕成社(2007年12月読了)★★★★

黒ばらさんこと黒原かほりは、135歳になる魔法使い。魔法使いとは言っても使える魔法は、50年近く前にドイツのハロケン山にある魔法学校で習った飛行術と変身術しかないという二級魔法使いなのですが、日頃は駅ビルの一室を借りて、悩める人たちの心の相談に乗る仕事をしています。そんなある日、アカシア団地の黒ばらさんの部屋のベランダにドサッと降り立ったのは、首輪をつけていない年取った黒猫。最初は、定期購読している毎週金曜日に届く「魔界通信」かと思う黒ばらさんでしたが、その日は水曜日。いつものこうもりの配達夫ではなく黒猫がいるのを見た黒ばらさんは、団地の上の部屋から落ちたのかと思って猫を部屋に入れることに。

突然飛び込んできた黒猫に静かな生活を引っかき回されたり、親友のヘブジバーに呼び出されて訪れたベニスでは、エメラルドのような瞳をした素敵な青年に恋したりする魔女の黒ばらさんの連作短編集。牧野鈴子さんの表紙がとても美しい1冊です。
黒ばらさんは団地住まいですし、使える魔法は変身術と飛行術だけ。悩み相談の仕事をしているなんてあまり魔女らしくないのですが、必要があればごく普通に街中を飛ぶこともあり、しっかり現代の魔女という感じ。しかし一見40歳ぐらいに見える黒ばらさんなんですが、その年は実は135歳。それでもベニスで素敵な青年に胸をときめかせたりしているのを見ると、まだまだしっかり乙女心が健在で、可愛いのです。
この中で特に面白かったのは、「黒ばらさんのカンボランダ」。ザバブルグの森に住む13番目の魔女、いばら姫の誕生祝いのパーティに招かれずに腹を立てたあの魔女が、なぜか地球の環境問題に目覚めて、「地球の土と緑をすくう委員会」の名前の下に、あらゆる害に強く繁殖力抜群のカンボランダという木を開発し、その種を世界中の魔法使いや魔女たちに送りつけてきたという物語。確かに繁殖力抜群のカンボランダなのですが、実はひどい花粉症を引き起こすことが分かり、そうなると今度は枯葉剤を送りつけてきて… しかし生き延びた木は意外な力を発揮して、結局環境浄化に一役買うことになります。
魔女だとは言っても、黒ばらさんが使える魔法は変身術と飛行術だけ。もちろん問題が起きればその力を利用することになるのですが、ここに書かれているのはそれでは解決できない問題ばかり。飛行術と変身術では、病気の人を治すこともできないのです。結局、魔法よりももっと人間として大切なものの存在に気づかされる黒ばらさん。この黒ばらさんの人間としての魅力が一番の作品ですね。

収録:「黒ばらさんと空からきた猫」「黒ばらさんのベニスの恋」「黒ばらさんのうぬぼれ鏡」「黒ばらさんとふしぎな少年」「黒ばらさんのカンボランダ」「黒ばらさんと楽園のとんぼ」「黒ばらさんと白ばらさん」


「黒ばらさんの魔法の旅立ち」偕成社(2007年12月読了)★★★★

世間の魔法ブームのおかげで、本業の悩み相談室の他にも雑誌の占いやらコラムやら、講演やらテレビ出演やら、ひっぱりだこの黒ばらさん。しかし人の悩みに誠実に答える黒ばらさんにも実は、誰にも言えない悩みがありました。毎日の忙しさのせいか、最近魔法が上手く使えなくなってしまったのです。そんなある日、仕事を終えて帰ろうとした黒ばらさんの悩み相談室を訪ねてきたのは、宗田義之と名乗る男性。以前黒ばらさんが出会った超能力を秘めた不思議な少年・ひでくんこと宗田秀之の父親でした。小学校を卒業したひでくんが、黒ばらさんのすすめでドイツの魔法学校に特待生として入学してから15年。月に1度や2度は連絡をしていた息子からの便りが、今年になってからまるでないと心配する父親に、黒ばらさんは自分が連絡を取ってみると約束するのですが…。

前作から15年ぶりの新作というこの作品では、作中でも15年の月日が流れて、黒ばらさんは今や150歳となっています。前回も登場したひでくんをめぐる物語。前回も黒ばらさんにまとわり付いていたカラスのケケーロや、黒ばらさんが名付け親になったというノームのスキデンユキデンが活躍、妖精の世界に入り込んでの活躍となりますし、いばら姫の物語や妖精の取替え子の伝説が上手く絡められていて、前回の日常的な物語に比べるとファンタジー度が高くなっていますね。妖精の市場の描写も楽しいですし、妖精と魔女の違いもきちんと描き分けられているのが好印象。市場で出会う妖精たちも、妖精の城で出会う妖精の王や女王たちも、アイルランド辺りの本格的な妖精を彷彿とさせて良かったですし、いばら姫の思わぬ解釈にはにやりとさせられました。本当の姿を見通してしまうスキデンユキデンの能力も、効果的なところで一役買っていていいですね。そして今回、予想もしなかった黒ばらさんの過去まで判明して、それが物語の展開に大きく関係していました。
ただ、黒ばらさんの魔法が不調な理由に何かはっきりとしたものがあるのかと思っていたので、その辺りの解決方法は少し不満。ただ年を取って魔法の腕が錆び付いただけということだったのでしょうか。

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