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このページは、西澤保彦さんの本の感想のページです。

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「キス」徳間書店(2006年5月読了)★★★
【勃って逝け、乙女のもとへ】…人生最後の晩餐にとフランス料理店に入った蜷原康正は、声を潜める様子もなく猥談に盛り上がる2人の女性を見かけて驚きます。
【うらがえし】…死んだ親から受け継いだ喫茶店<プレネール>に入ってきた少年を一目見た途端、松島理佐はそれが高校の時の先輩だった坪田俊介の息子だと確信します。
【キス】…樋口あかりは、20年前に死んだ伊尾木梨緒に再会したくて、悩み事を解決してくれる現代の魔女、レイディNこと森奈津子のオフィスを訪ねます。
【舞踏会の夜】…シロクマはレストランのバイトでクビになり、今は24時間営業のファミリーレストランに入り浸り状態。相談のために待ち合わせた森奈津子に自作の小説を見せます。

「なつこ、 孤島に囚われ」「両性具有迷宮」に続く森奈津子シリーズの連作短編集。
相変わらずのエロティックぶりです。特に最初の2作は凄いですね。エロティックなシーン満載。それでもエロティックなだけでなく、落としどころが面白いのがさすが西澤作品ですが… エロティックシーンに圧倒されてしまい、肝心な内容についての感想を書くのは非常に難しいです。表題作「キス」と4作目の「舞踏会の夜」は、前2作に比べるとそれほどエロティックではなく、むしろ「キス」はロマンティックでメランコリックな作品ですし、「舞踏会の夜」は、思いがけないシロクマの文才を楽しむことができます。ここにはいくつかの小編が紹介されているのですが、これは西澤さんご自身がかつて書き、しかし公には発表にはいたらなかったものを、今回手を入れた上で登場させたもののようです。「凶歩する男」もそんな一編。面白かったです。
今回初登場で、森奈津子さんとディープなエロ話を繰り広げる美人編集者・遅塚久美子さんも、実在の方なのだそうです。

「春の魔法のおすそわけ」中央公論新社(2006年11月読了)★★
人の波に流されるままに地下鉄の改札を抜けて地上に出て初めて、自分が九段坂にいることに気づいた鈴木小夜子。典型的な二日酔い症状で頭が割れそうに痛む小夜子は、前夜自分がどこで誰と何をしていたのかまるで思い出せない状態。しかも小夜子が持っているはずのポシェットは、いつの間にか2千万円の現金の入ったセミショルダーと入れ替わっていたのです。じき45歳の売れない作家である自分自身の全財産が丁度2千万円。自分のキャッシュカードや保険証など全てを失くした代わりに、小夜子はこの2千万円を一気に使い切ってしまおうと考え、目についた美青年に声をかけるのですが…。

タイトルはとても爽やかなのですが、蓋を開けてみれば、人生に疲れた二日酔いの独身中年女性が迎え酒をしつつ、周囲に絡みつつ、展開する物語。酒臭い息がこちらまで漂ってきそうです。酒を飲んで記憶を失い、それでもまだ飲み続け、しかも電車の中で爆睡している姿には、まるで感情移入できません。小夜子のだらしなさもあまりにリアルで、逆に不愉快になってしまいそうなほど。
それにしても、これはなぜノン・シリーズの作品として出されたのでしょう。それほどエロティックではないのですが、森奈津子シリーズのノリのような気がするのですが…。というよりも、森奈津子シリーズにしてしまった方が、あり得ない展開を開き直って楽しめたのではないかとも思います。謎も一応ありますが、小夜子が謎に思っているだけで、読者には謎でも何でもありません。どちらかといえば、ミステリよりもラブ・コメディです。

「ソフトタッチ・オペレーション」講談社ノベルス(2006年12月読了)★★★★
【無為侵入】…神麻嗣子が保科に尋ねたのは、特定の相手を、それと意識させずに、住んでいる家から立ち退かせることは可能かということ。妙な例が実際に3件もあったのです。
【闇からの声】…雪に飛び散る血飛沫の夢。「私」は血塗れの包丁を持っており、父は何かを叫び、母が見慣れたベージュのロングコートを着て倒れているのです。
【捕食】…大学時代の保科がスキーに行った時のこと。吹雪の中で道に迷った保科は、山の中の屋敷に辿り着きます。そこの主が語った奇妙な物語。
【変奏曲<白い密室>】…かをりが優子の家のドアチャイムを鳴らしたのは、優子がトイレから飛び出したのとほぼ同時。これから仲間内で条治の家に集まって余興の曲の練習をするのです。
【ソフトタッチ・オペレーション】…看板娘のマイが目当てで、毎晩のように<ぱられる>に通っている上地浩美。その日は臨時休業だったのに、マイに特別に入れてもらって飲むことに。

神麻嗣子シリーズ第8弾。今回は短編が5編収められています。
レギュラー陣の登場があまりないのが寂しかったものの、相変わらず楽しいシリーズ。安定していますね。「無為侵入」は、まさに西澤さんらしい、このシリーズらしい作品。そのようなことに能力と労力を使うのか、という気はしますが…。「闇からの声」と「捕食」はホラータッチの作品。「闇からの声」のねたはすぐに分かってしまったのですが、今回読んだ中では「捕食」が一番好きでした。ただ、大学時代の保科さんが見られるなら、聡子さんのこともぜひ見たかったのですが、結局登場せず残念。「変奏曲<白い密室>」と「ソフトタッチ・オペレーション」は、このシリーズらしい、とても西澤さんらしい作品。しかし密室物を書くためには、密室を作り出すための状況を考えるというのがまず最初の作業なのだろうとは思いますが、「ソフトタッチ・オペレーション」は、あまりにも強引な密室なのではないでしょうか。例の作品に対するオマージュだとしても、これは少々辛いものがあると思います。
タックシリーズだけでなく、こちらのシリーズにも闇の部分があったはずなのですが、最近はとんとご無沙汰。それを書いてしまえばシリーズが終わってしまうのかもしれませんが、そろそろそちらの進展も気になるところです。
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