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このページは、仁木英之さんの本の感想のページです。

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「僕僕先生」新潮社(2007年9月読了)★★★★★

唐の玄宗皇帝の時代。十分裕福に暮らせるだけの金品を溜め込んで光州無隷県の県令を引退した父・王滔のおかげで、無為に100歳まで暮らしても十分おつりがくるということに気づいた王弁は、その日から机を離れ、武具を持つこともなく、佳肴を楽しみ風光を愛でる日々。父は、まだ22歳の息子が日がな一日庭でぼおっとしている不甲斐なさに怒る日々。そんなある日、近年黄土山に仙人が住み始めたと聞いた王滔は、息子に供物を持たせて、仙人に会いに行かせることに。しかしそこにいたのは、王弁が想像したような老爺の仙人ではなく、若く美しい少女でした。少女は「僕僕」と名乗ります。仙骨はないものの、「仙縁」はあるという王弁は、早速僕僕と酒を酌み交わし始めます。

第18回日本ファンタジーノベル大賞大賞受賞作。
何万年も生きているらしい仙人の僕僕が、なんと美少女の姿をしており、仙人だという説得力を出す時だけ老人の姿になるというのが人を食っていて楽しいですし、少女の姿をしていると、くるくると表情が変わる本物の可憐な少女に見えてくるのが不思議。そしてそんな僕僕に、日々ふわふわと生きていただけで覇気が全くなかった王弁が惹かれて、徐々に自分を持ち始めるというのもいいですね。僕僕が王弁のどこに惹かれたのかは今ひとつ分からないのですが。2人の間の淡い恋心がとても爽やかで可愛らしくて、ほのぼのとしています。
時代背景としては、玄宗皇帝が即位して間もない頃。楊貴妃がまだ現れておらず、玄宗皇帝が優秀な皇帝として唐を治めていた頃です。中国の神話を始め、「列仙伝」などに登場する仙人の名前、「山海経」に登場するような異形、そして中国史の実在の人物などの名前があちこちにばらまかれていて、中国物好きとしては堪らないところ。ただ、今のままの緩めの雰囲気もとても心地良かったのですが、エピソード同士の繋がりが薄くて少し散漫になっているようなところもあります。もう少し整理すればもっとずっと芯の通った話になったのかもしれないと思うと、少々惜しいですが、それでもまるで作中に登場している桃や梨、杏の花の香りが漂うお酒をお相伴させてもらったような、気持ちの良い酩酊感を感じる作品でした。


「薄妃の恋-僕僕先生」新潮社(2007年9月読了)★★★★★

【羊羹比賽】…5年ぶりに姿を見せた師匠とともに、桃花の花びらが舞う街道をゆく王弁。光州を出た2人はのんびりと南西へと向かい、長江で呼び出した巨大な亀の珠鼈(しゅべつ)と共に荊州江陵府の春の祭りへ。そこにあったのは荊州一の料理人を決めるという料理大会の高札でした。
【陽児雷児】…珠鼈と別れた2人は、洞庭湖の南側の潭州長沙城から船で湘水を下っていました。水が豊かで湿気の多い潭州。しかし今年は長沙の辺りだけ雨が降らなかったと船頭が話します。
【飄飄薄妃】…長沙から醴陵へと向かった2人。漉水で釣りをしている時に王弁が気付いたのは、1組の男女の声。2人はその男女を酒楼でも見かけ、僕僕は男の方が死にかけていると言い出します。
【健忘収支】…薄妃も加わり、3人は南嶽衡山へ。僕僕が南嶽の主神である魏夫人に挨拶に行っている間に王弁に話しかけたのは、湘潭の薬種屋の一行でした。
【黒髪黒卵】…さらに南下した僕僕、王弁、薄妃の3人は衡州の中心都市・衡陽へ。町に入った途端、市での苗人同士の喧嘩騒ぎに関わりあうことになります。
【奪心之歌】…衡陽からさらに南下。永州の境を越えた辺りで王弁が体調を崩します。零陵の町で3人が耳にしたのは若い娘の歌声と琴の音色でした。

「僕僕先生」の続編。僕僕が去ってから5年の月日が流れ、王弁は仙道に通じたものとして皇帝に「通真先生」という名前をもらい、立派な道観を建ててもらって薬師としてひとり立ちしています。
僕僕は空白の5年間に何をしていたのか、なぜ今帰って来たのか、僕僕はどんどん南下して王弁をどこに連れて行こうとしているのか、その辺りはあまりはっきりと語られていないのですが、どうやらまだしばらく物語は続きそうなので、また明らかにされることもあるのでしょうね。王弁は少し一人前になってきたものの、まだまだ僕僕にいいようにからかわれており、そんな2人のやり取りは相変わらずほのぼのとしています。その2人と一緒に旅することになる亀の珠鼈や薄妃もいい味を出していて、読んでいて楽しい作品です。

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