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このページは、毛利志生子さんの本の感想のページです。

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「風の王国」集英社コバルト文庫(2005年6月読了)★★★★

李世民が長兄である建成と末弟・元吉を玄武門で討ち、皇帝の位についてから12年後。16歳の李翠蘭は突然宮城に呼ばれて驚きます。翠蘭は、李世民の側妾腹の兄で、現在中書侍郎の役職についている淑鵬の娘。しかし実は、元吉が淑鵬の婚約者だった翠蘭の母を無理矢理浚った時に出来た子。そのため母に疎まれており、李世民の姪でありながら、母方の祖父母の家で商家の跡取り娘として育てられてきていたのです。複雑な事情から結婚を諦めていた翠蘭は、男装して商売に携わる一方で、乗馬や剣、弓を扱う腕は並の男以上。しかしそんな翠蘭に李世民は自分の娘となり、公主として西の辺境の地・吐蕃へと嫁げと命じます。文成公主として嫁入りする翠蘭に同行することになったのは、祖父母の養女となった元占い師の劉朱瓔、そして幼馴染の武人・尉遅慧でした。

古代チベットを舞台にしたシリーズ。実際にチベットに降嫁した文成公主をモデルにした物語で、かなり史実に基づいているのだそうです。これは翠蘭の吐蕃(チベット)への道中が描かれた第1巻。
皇帝の一存で辺境の地へと嫁がされるとは、まるで漢の時代の王昭君のような設定。しかも男勝りで恋を知らない少女が、自分を助けてくれた男に恋をするという、まさに少女小説の王道のような展開。しかしそれがとても良いのです。やはりこれは心理描写の積み重ねが丁寧だからなのでしょうね。特に翠蘭が川に落ちてから後の気持ちの変化が濃やかに書かれており、どう展開するのか容易に想像できてしまうほどの王道の展開にも関わらず、とても楽しめました。ただ、吐蕃や吐谷渾に関する辺りが少々分かりにくかったようにも思います。どうしても人数が多くなるので仕方ないのかもしれませんが、もう少し個性を際立たせて欲しかったところ。それに翠蘭は自分が偽公主であることをとても気にしているのですが、なぜなのでしょう。この時代、養女に入って嫁ぐということは一般的ではなかったのでしょうか? 仮にも皇帝と血の繋がった姪であれば、何も問題ないのではないかと思うのですが。
今後幼馴染の武人・尉遅慧と元占い師の劉朱瓔がどのような役回りを担うことになるのでしょうね。慧と翠蘭のあっさりとした関係も良かったですし、長安に留め置かれた吐蕃の宰相・ガル・トンツェンが、これから物語にどう絡んでくるのか楽しみです。


「風の王国-天の玉座」集英社コバルト文庫(2005年6月読了)★★★★★

吐蕃王・クンソン・クンツェンことリジムと無事に結婚式を挙げた翠蘭。しかしいきなり儀式で羊の血を飲まされて気持ちが悪くなることに。しかも初めて見る吐蕃の城は、翠蘭にはまるで牢獄のよう。赭面の人々も恐ろしく、匂いの強い食べ物が苦手な翠蘭にとっては、チーズや干肉といった吐蕃独特の食事も食欲を減退するばかり。それでも聖寿大祭まであと40日ほどと迫っており、リジムは連日の会議で多忙、翠蘭を十分構ってやることができないのです。そんな折り、ヤルルンの南のニェムの地からケーセクが姪のジスンを連れ、リジムの父・ソンツェン・ガムポの使者としてツァシューを訪れます。ジスンは15歳ながらも絶世の美女。5年前にリジムに会った時に、側妾になる約束をしたというのですが…。

「風の王国」シリーズ2冊目。
たとえリジムと翠蘭のお互いを思う気持ちがあっても、民族が違えば生活習慣も違い、なかなか順風満帆といはいかないようです。吐蕃の慣習に慣れようとするあまり、失敗をすれば縮こまってしまう翠蘭に、そんな翠蘭を気遣いながらもなかなか行動に表せないリジム。そしてそんな2人の間に亀裂を入れようとしているかのようなジスン。このジスンの登場がこれまたあまりに王道なのですが、やりすぎの一歩手前に留まっています。あっさり派のリジムと翠蘭に、あまりあからさまな波乱は似合わないと思いますし、どちらかといえば、翠蘭は色々考えすぎて自滅、リジムもそんな翠蘭を前におろおろ、という展開が良く似合うのでないかと…。リジムと前妻マンモジェ・ティカルの子・ラセルもとても良い子のようでほっとしました。しかし翠蘭の大きな味方となりそうだった人物の損失が痛いですね。今回朱瓔はともかく、慧はどうしたのでしょう。次回に期待。
そして風俗や歴史的な面からの吐蕃の描写も面白かったです。チベットという国のことはほとんど何も知らないので、とても新鮮。色々と想像できて楽しいですね。


「風の王国-女王の谷」集英社コバルト文庫(2005年6月読了)★★★★★

ツァシューでの議会に出席する同盟国・スムパの王に女王の谷(ゲムモロン)の女王・カウラが同行。スムパはヤルモタン、ツェベル、カムサ、ゲムモロンの4カ国の連合国家。ゲムモロンだけは代々女王の統べる国であり、女王は同時にヤルモタンの王妃でもあるのです。ツァシューに着いた女王のカウラは傲慢な態度で翠蘭を無視、失礼な言動を繰り返します。しかしそんなカウラが帰国して数ヵ月後、スムパからは再びゲムモロンの外務官・ムェンデクが。ムェンデクはリジムと翠蘭に、カウラが亡くなったことを告げ、50日後に行われる新しい女王の即位式に出席して欲しいと要請します。

「風の王国」シリーズ3冊目。
前巻で登場しなかった尉遅慧が登場します。どうやら2巻の出来事が起きている頃は、他の場所に出かけていたようですね。翠蘭とリジムの仲もすっかり安定したようです。妖艶なカウラに誘惑されそうになっても、リジムはカウラの大きな真珠の耳飾のことなど全く覚えておらず、翠蘭の花の形の髪飾りしか覚えていなかったところなど、本当に微笑ましいです。翠蘭が唐から持ってきた櫛を加工してリジムにプレゼントするところもいいですね。しかし周囲はそんな2人を放っておいてくれません。今回はリジムのいないところで、翠蘭が騒ぎに巻き込まれることになります。カウラの死の真相は何だったのか、何故ラトナは次期女王の座から逃げるのか、なぜタシバール王は変わってしまったのか。実際に分かってみれば若干拍子抜けな理由であったりもしたのですが、しかし現実とはそのようなものなのかもしれないですね。それだけに終盤の儀式の場面は印象に残りました。
最後の慧の言葉には、どのぐらい真実が含まれていたのでしょうね。試しに言ってみただけ、だったらいいのですが… ちょっぴり切ないです。


「風の王国-竜の棲む淵」集英社コバルト文庫(2005年6月読了)★★★★★

宰相のガル・トンツェン・ユルスンが2年ぶりに唐から帰国。しかしガルが翠蘭に差し出した唐からの土産の茶は、翠蘭の祖父母の店の刻印のあるものだったのです。ガルに自分が偽公主であることを知っているのかと悩む翠蘭。しかしリジムには話さず、朱瓔に相談するだけに留めることに。ソンツェン・ガムポからの、西吐蕃にも王妃を披露せよというかねてからの要望により、リジムたちはヤルルンへ。しかし途中で立ち寄ったコムポという小国の王女・リュカが、穏やかならぬことを考えており…。

「風の王国」シリーズ4冊目。
翠蘭の記憶が吐蕃に出立する前日まで残っているというのが、あまりに都合の良すぎる展開のような気もしますし、記憶喪失の間にも何かリジムに改めて恋心を抱くような出来事が欲しかったところ。そして最後は、記憶の珠が無事に戻ったということなのでしょうね。それに関する描写がもう少しはっきりと欲しかったです。ガル・トンツェン・ユルスンとは一応和やかにやっていますが、どこか不気味。それとは逆に サンボータと朱嬰が良い雰囲気ですね。元々1巻でも一緒に馬に乗っていましたし、仲良くなればと思っていたのに、2冊目3冊目ではすっかり忘れていました。
吐蕃に関することも毎回少しずつ紹介されていくのも楽しいです。しかしこれまで気付いていなかったのですが、このシリーズは実在の人物を描いており、しかも史実にかなり忠実なよう。そうなると、物語がどこまで進むことになるのか気になります。できれば幸せな部分までにしておいて欲しいのですが…。


「風の王国-月神の爪」集英社コバルト文庫(2005年8月読了)★★★★★

翠蘭が吐蕃に嫁いで1年半。リジムと翠蘭は、リジムの父であるソンツェン・ガムポ大王に会うため、西の王都・ヤルルンへと向かいます。その途中で大王の使者として現れたのは、執務補佐次官のキュンポ・ガクレキュン。リジムたちは、正妃である「月神」の異名を持つ美女・リティクメンと、リジムの養母・ドルテが静養のために滞在しているリゥの谷の館に寄り、2人を同道してヤルルンの城へと向かうことに。

「風の王国」シリーズ5冊目。
とうとう自分が偽公主であることを ソンツェン・ガムポ王に言わなければならなくなります。しかしこれが今回のクライマックスというわけではないのですね。このシリーズを読み始めた時から、世民の娘ではなく姪というのがそれほどの問題なのかとずっと思い続けていたので、そこで引っ張らなくて逆にほっとしました。偽公主問題は、案外あっさりと終了。
初登場のソンツェン・ガムポは、かなりの狸親父という印象でしたが、それでも決めるべきところは決めてくれました。包み込むべき人間はしっかりと包み込み、さすが大王の風格。エピローグもなかなか良かったですし、彼なら彼女のことを大きな愛情で幸せにしてくれるのでしょう。このソンツェン・ガムポと一緒にいるとリジムが妙に子供っぽく見えてきて可笑しかったです。まだまだリジムには太刀打ちできない大物ぶりですね。それに引き換え残念だったのは、セデレクの底が少々浅すぎたということ。一応リジムの親友という設定なのですから、もう少し魅力的に書いて欲しかったところです。どうしようもない性格なのに憎めない、という人物だったら良かったのですが…。これではリジムに見る目がなかったということになり、リジムにまで悪影響。逆に政治面では、冷静でも、孫のこととなると別人になってしまうスツェにリアリティがありました。しかし今回死ぬ人間が多かったのも、彼の性格を良く現していましたし、それだけ緊迫感がある展開だったと言えると思います。これまでのシリーズの中で一番面白かったです。

P.229「その手は、かさかさと乾いていて、ほのかに温かかった。」


「風の王国-河辺情話」集英社コバルト文庫(2006年1月読了)★★★★

翠蘭に別れを告げた尉遅慧は、赤兎と共に吐蕃の東の王都ツァシューを発ち西域へ。それから4ヶ月で隣国のシャンシュンに入り、シャンシュン人の案内人・カロンを得て、シャンシュンの北の町タシガンへと辿り着きます。ツァシューを発って以来実に8ヶ月。そしてタシガンに入った慧たちの目に入ったのは街中での喧嘩騒ぎでした。カロンに言われて止めに入った慧は、2人の男に難癖をつけられていたセギンという少年を助け、セギンの家がやっているというウィシスの宿に泊まることに。しかしウィシスの宿は1年前から休業中。一行は女主人のウィシスに宿泊を断られて、近くのシルイックの宿へと向かう一行ですが、ウィシスの名前を出した途端、ここでも宿泊を断られるのです。結局どこにも泊めてもらえる宿はなく、一行はウィシスの宿に逆戻りします。

「風の王国」シリーズ6冊目。今回は尉遅慧が主人公となる番外編。
翠蘭やリジムがまるで登場しないので少し淋しかったのですが、「女王の谷」で吐蕃を発った慧のその後も気になっていたので、この番外編は大歓迎。ました。しかし両親亡き後、姉と弟が2人でやっている塩商人の官符を狙った極悪商人… という絵に描いたような展開。このシリーズは良くも悪くも王道な展開が魅力的ではあるのですが、舞台を日本に変えればそのまま水戸黄門のエピソードとして通用しそうなほどですね。それでも相変わらず飄々としている慧はもちろん、ウィシスとセギンという姉弟も可愛かったですし、人の良い案内人・カロンも愛嬌があり、楽しかったです。赤兎の鬱々とした思いも良く分かりますし、彼の場合ワルぶってはいても、悪役になりきれないところがいいのですね。悪役ゴルバも色々と辛いところでした。
次はぜひ本編を読みたいですが、慧のその後もまだまだ気になります。このまま無事にサマルカンドに辿り着いて欲しい反面、慧にシャンシュンに仕えて欲しいと願っているカロンや、これからまた新たに道を歩み始めるウィシスと、またいずれぜひ再会して欲しいところ。そしてこの番外編を読むと、シリーズの題名の「風の王国」の「風」が一番良く似合うのは」この慧のような気がしました。


「風の王国-朱玉翠華伝」集英社コバルト文庫(2006年9月読了)★★★

翠蘭と朱玉の出会いとなった「天河の水」や吐蕃へ嫁ぐことが決まった翠蘭の後宮での日々を描く「花の名前」、「天の玉座」の後日譚「凍れる月を踏んで」、記憶喪失になっている間の翠蘭のエピソード「愛情的交錯伝」、など雑誌の「コバルト」で発表されていたという短編と、イラストを描いてらっしゃる増田メグミさんのまんがという全6編が収められています。

「風の王国」シリーズ7冊目。
最初は「小説+まんが」と聞いて読むのを躊躇っていたのですが、色々なサイド・ストーリーが読めて、結果的にはなかなか面白かったです。まんがとは言っても以前から挿絵を描いてらっしゃる増田メグミさんの作品なので、違和感もなかったですし。この中で興味深かったのは、やはり翠蘭と朱玉の出会いとなった「天河の水」でしょうか。そして吐蕃へ嫁ぐことが決まった翠蘭の後宮での日々を描いた「花の名前」も面白かったです。朱玉がこれほどまでに翠蘭の祖父母に可愛がられていたとは知らなかったので、それだけでとても暖かい気持ちになれるような気がしましたし、唐の太宗皇帝の後宮が舞台となるだけあって、歴史的に有名な人物もさりげなく登場していて楽しかったです。ここに登場する李世民の妃・楊妃は、隋の煬帝の娘。そして同じく登場する武才人は、後の則天武后(武則天)なのですね。翠蘭の慕う呉王の李恪も登場します。これは後に皇位争いで謀反人として自殺させられる人物。高宗皇帝として3代目皇帝になる晋王李治も、この作品の中では12歳の若さです。

「朱玉翠華伝」(まんが)、「天河の水」(小説)、「金狼隻眼伝」(まんが)、「花の名前」(小説)、「凍れる月を踏んで」(小説)、「愛情的交錯伝」前後編(小説)


「風の王国-目容の毒」集英社コバルト文庫(2006年8月読了)★★★★

セデレクの反逆から1ヶ月経った頃。ツァン・プーに残って、反逆の後処理をするリジムを手伝っていた翠蘭ですが、ここにきてツァン・プーの西南と領地を接するシャンシュンの小王が手勢を率いて攻め込んできたため、ガルに連れられて急遽ヤルルンに戻ることになります。ツァン・プーの新領主・ガクレキュンがヤルルンに行って留守ということもあり、リジム自ら迎撃せねばならず、その間翠蘭を城に置いておくのは不安だというのです。そしてヤルルンに戻った翠蘭を出迎えたのは、ソンツェン・ガムポの第三妃のドルテの顔色の悪さ、第二妃・ティツンがヤルルンの家畜たちに毒を盛っているという噂、そしてソンツェン・ガムポの寺院建立の計画に反対の大司祭・バーサンが出仕しない状態が続いているという事態でした。

「風の王国」シリーズ8冊目。物語としては、5巻の「月神の爪」からの続きとなります。
今回は、冒頭でこそリジムがいるものの、台詞もないまま翠蘭と離れ離れになってしまいます。結局、終盤に少し登場する程度で、ガルと翠蘭が中心。リジムと翠蘭のラブラブぶりを楽しめなかったのは残念だったのですが、物語自体は相変わらず面白かったです。それに、やはりソンツェン・ガムポがいい味を出していますね。相変わらずの狸親父ぶりながらも、決めるべきところはきっちり決め、押さえるべきところはきっちり押さえているのが魅力的。ソンツェン・ガムポの第二妃・ティツンも良かったです。ただ、彼女に関して言えば、もう少し悪役になって欲しかった気も…。「物事の良し悪しをはっきりと口に出してしまう、白黒をはっきりつけなければ気が済まない性格というだけで、実は良い人」という設定の彼女。たとえ八方の状態になったとしても、もっと敵を恐れずに、はっきりした物言いをし続けて欲しかったのですが、後半は毒気があまりなくて少し物足りなかったです。
そして今回は、最後にまた大きな展開がありました。次作以降もとても楽しみです。


「風の王国-臥虎の森」集英社コバルト文庫(2006年12月読了)★★★★

翠蘭は滞在していたセルクン・レウゲルの領主・ミチェンの屋敷から、ツァシューへと向かうことに。しかし途中、ロ・バクチェ・イーガンが治めるエウデ・ロガを通り、イーガンに勧められたこともあり、エウデ・ロガに滞在することに。そしてほどなくリジムやラセル、朱瓔、さらには毎年エウデ・ロガで薬草摘みをするリュカもやって来て、翠蘭と合流することになります。久しぶりの再会に喜ぶ翠蘭やラセルたち。そして翠蘭とリジムを屋敷に残し、リュカやイーガン、朱瓔、サンボータらは薬草摘みに出かけることに。しかしその帰り道に森の民に襲われ、朱瓔とサンボータは崖の下へと転落してしまうのです。

「風の王国」シリーズ9冊目。
翠蘭が懐妊。ということは、翠蘭は今までのような無鉄砲な行動は許されない身になったということ。飛び出していきたい気持ちはとてもよく伝わってくるのですが、リジムや他の人々のこと、そして何より自分自身のおなかにいる子供のことを考えて、じっと我慢しています。しかし翠蘭が動かないおかげで、逆に周囲の人々の動きに焦点が当てられて、いつもとは違う楽しみがありました。サンボータと朱瓔にスポットライトが当たっていますし、森の民ヴィンタク族の長・ホルクや巫子・ラミカも魅力的。エウデ・ロガの良民には優しい領主・イーガンの二面性やその原因も、今回は悪役は悪役と切って捨てられないところがいいですね。翠蘭とリジムの周囲で、様々なドラマが同時進行しているという印象でした。


「風の王国-花陰の鳥」集英社コバルト文庫(2008年5月読了)★★★★

母と叔父の会話から、ソンツェン・ガムポ王が2人目の妃を探していることを知ったモン・ティモニェン・ドンテン。ソンツェン・ガムポは、15年前に毒殺された父王の跡を継いで吐蕃の王になり、今は名君と讃えられる人物。しかしティモニェンにとっては、宰相だった父・マンツァプを謀反人であると斬り殺した仇でもある人物。ティモニェンの母は未だにソンツェン・ガムポを恨み続け、しかし数年前から王都・ヤルルンで父の仕事を引き継いでいるティモニェンの兄・スルナンは、その素晴らしさを讃える手紙をよこすのです。一体ソンツェン・ガムポとはどういった人物なのだろうとティモニェンは考えていました。そして丁度その時現れた、婚約者気取りで図々しいツェルホンの領主・テペックから逃れたい思いもあり、ソンツェン・ガムポの2人目の妃に名乗りを上げたと言ってしまうのですが…。

「風の王国」シリーズ10冊目。
今回はソンツェン・ガムポとリジムの生母であり、本編では既に亡くなっているティモニェンの物語。本編よりも若々しいソンツェン・ガムポが魅力的ですし、リジムとはやはり父子なのだと改めて感じさせられます。ソンツェン・ガムポとティモニェンの出会いも、どこかリジムと翠蘭の出会いを彷彿とさせますね。しかしソンツェン・ガムポ王が時には冷酷非情になれるという部分は、リジムにはない部分。リジムはソンツェン・ガムポほど、ドライかつクールに間違いを犯した人間を切り捨てられるほど強くはありません。それがリジムの良さでもあるのですが…。そしてソンツェン・ガムポの王妃であり、リジムの幼い頃に亡くなった母、という部分からもっと儚げな美女を想像していたティモニェンですが、外見も愛嬌がある程度で決して美女ではなかったようですね。精神的にも前向きで行動力があり、楽観的で、むしろ逞しいイメージだったようで、少し驚きました。この辺りも、翠蘭にどこか似ているように感じられますが、きちんと自分の頭で物事を判断し、下手に外見を取り繕うことをしない真っ直ぐなティモニェンの姿はとても魅力的でした。

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