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このページは、森見登美彦さんの本の感想のページです。

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「太陽の塔」新潮社(2005年3月読了)★★★★
京大農学部の研究室に在籍しながらも、訳あって休学中の京大5年生・森本。今はラーメン屋でバイトをし、男臭い友人たちとの交流の傍ら、1年前のクリスマスに自分を振ることになった「水尾さん」を研究対象として密かにつけまわすのが日課となっています。しかしそんなある日、彼女の住むマンションの下で彼女の帰宅を待っていた森本は、見知らぬ男に、彼女が迷惑しているから付け回すのはやめて欲しいと言われてしまうことに。

第15回日本ファンタジーノベル大賞受賞作品。
爆笑できるというよりは、ニヤリとできる作品。文章が、まるで明治期の文学青年のような雰囲気ですね。硬さを感じさせるのですが、それは決して文章を書き慣れないためではなく、照れ隠しのためにわざとそういう風に書いているような感じ。主人公たちは、自分たちがモテないのも、実はモテたいのも棚上げして、今の自分たちには女性は必要ないなどと嘯き、ひたすら強がっています。自分たちのことを素晴らしい人間だと信じきっているのです。「何かしらの点で、彼らは根本的に間違っている。なぜなら、私が間違っているはずがないからだ。」という冒頭の文章からも分かるように、時にはとんでもない鼻持ちならない勘違い振りを見せてくれるのですが、しかしその勘違いの方向がまるでずれているので、逆に微笑ましくなってしまいますね。飄々としながら、しっかり理論武装。この雰囲気は東大生では出せないでしょう。京大生ならではのような気がします。ここには私の大学時代とはまた全然違う大学生活が繰り広げられているのですが、それでもなんだかとても良く分かってしまうのが可笑しいです。
この作品のどこがファンタジーノベル大賞という意見もあるだろうと思うのですが、彼らの自己愛と自己欺瞞、そしてその妄想ぶりこそがファンタジーなのでしょうね。愛すべき馬鹿、そんな言葉がぴったりの清々しい青春小説です。読みながら自分の若い頃の馬鹿な行動を思い出して、赤面して走り出したくなってしまう人もいるかも。土地勘があるとさらに楽しめること請け合いです。

「夜は短し歩けよ乙女」角川書店(2007年4月読了)★★★★
【夜は短し歩けよ乙女】…5月の終わり。大学のクラブのOBの結婚パーティに出席した「私」は、ひそかに想いを寄せる後輩の乙女が二次会に出ないのを見て、その後をつけていきます。
【深海魚たち】…夏。黒髪の乙女が古本市に行くという信頼すべき筋からの情報を得た「私」は、偶然を装って古本市へ。同じ本に手を伸ばして彼女に譲り、売店で一緒にラムネを飲む計画なのです。
【ご都合主義者かく語りき】…晩秋。「ナカメ作戦」のために学園祭へとやって来た「私」は、学園祭事務局長に「韋駄天コタツ」と「偏屈王事件」の話を聞くことに。
【魔風邪恋風邪】…師走。羽貫も学園祭事務局長も「私」もパンツ総番長も紀子さんも、その他町中の人々もたちの悪い風邪に倒れ、その原因が李白さんの風邪だと判明します。

クラブの後輩の黒髪の乙女に一目惚れした冴えない大学生が、「なるべく彼女の目にとまる作戦」、略して「ナカメ作戦」を駆使しつつ、ひたすら彼女を追いかけるという物語。先輩のことなど一顧だにしない乙女に自分の存在を認識させるべく、彼は悪戦苦闘するのですが、当の乙女はどこ吹く風、次から次へと「オモチロイ」ことに興味を持ってふらふらと行ってしまいます。言ってみれば全編通して彼が彼女を追いかけているだけの話なのですが、その「黒髪の乙女」が実は酒豪で相当の天然ボケ、というよりもむしろあまりにも純粋無垢、他方追いかける先輩大学生は妄想炸裂、そして奇怪至極としか言いようのない強烈な個性の持ち主に囲まれて、レトロな語り口も相まって摩訶不思議な空間が生まれるのですね。そしてこれだけ妖怪じみた人々が登場する割に、最後が爽やかなのが驚くほど。
彼女に「おともだちパンチ」を伝授したお姉さんの話もぜひ読んでみたいところです。おともだちパンチ、思わず自分でも手を握って確かめてしまいます。ちなみにこの作品の登場人物が、「四畳半神話大系」や「新釈 走れメロス他四篇」にも登場するのだそうです。
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