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このページは、森博嗣さんの本の感想のページです。

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「月は幽咽のデバイス」講談社ノベルス(2000年1月読了)★★★
瀬在丸紅子の旧友・篠塚莉英の住む豪邸は、「薔薇屋敷」「月夜邸」「黒竹御殿」などの異名を持ち、狼男が住むともバンパイアが出るとも噂されているいわくつきの邸宅。ここで開かれた篠塚莉英の結婚発表のパーティの席で事件が起こります。殺されていたのは歌山佐季という女性。現場は皆がいたリビングのすぐ隣のオーディオ・ルーム。その部屋は、衆人監視の中でいつのまにか密室状態になっていたのです。そしてそこに居合わせたのは、またしても紅子と保呂草、紫子と練無といういつものメンバーでした。

Vシリーズ3作目。3作目ともなると登場人物もこなれてきたのか、1、2作目に比べてテンポ良く読めます。登場人物の会話が良いですね。このキレはやはり森氏ならではでしょう。しかし2作目でも思ったのですが、林と七夏の二人が絡むエピソードには、何か意味があるのでしょうか。ない方が余程すっきりすると思うのですが、今後の事件や出来事の伏線になっているのでしょうか。
肝心のメイントリックには驚かされたのですが、それに繋がる小トリックの方は見当がついてしまったのが残念。それと、このシリーズを通して言えることなのですが、もう少し密度が濃ければ…というところでしょうか。

「完全燃焼をすれば、煙は立ちませんけどね。」(紅子・P.25)
「偶然のうちの半分は、人の努力の結晶です。」(保呂草・P.48)

「夢・出会い・魔性」講談社ノベルス(2000年5月読了)★★★
紫子、練無、紅子、保呂草の4人が上京します。紫子と練無と紅子はクイズ番組に出演のため、保呂草はそれに合わせてN放送に勤める友人を訪ねるため。保呂草は友人・辻谷に再会し、早速仕事の依頼を受けます。それは紫子たちが出場するクイズ番組のプロデューサーである柳川が、死んだ女性の幽霊に付きまとわれ、脅迫されているのを調べてほしいというもの。保呂草は東京在住の稲沢を紹介するのですが、しかし稲沢が柳川に会う前に柳川は殺されてしまいます。その現場に出入りするのを目撃されていたのは、アイドルの立花亜裕美。亜裕美は練無をつれて失踪することに。

Vシリーズ4作目。レギュラーの登場人物もすっかり落ち着いた感があります。練無と紫子のやりとりも軽快ですし、紅子と保呂草も場面場面を締めています。しかし今更ながらに紫子の大阪弁に馴染めません…。森さんの奥様は大阪の方のはずですが、普段このような大阪弁を話してらっしゃるのでしょうか。この大阪弁で読みやすさが半減しているような気がします。私が大阪人でなければ、気にならなかったはずの部分なのですが。
犯人が犯人たる所以に少し説得力が足りないと思うのですが、全体的なトリックはまずまず。それより本筋には全然関係ないのですが、ちょっとした驚きが最後に待っていたのが新鮮でした。
題名の元ネタは「夢で逢いましょう」。英題の「You May Die in My Show」がまたお洒落な感じで、しかもきちんと本筋に沿っている所がさすがです。こういうちょっとしたお遊びが森作品の魅力の1つですね。

「女王の百年密室-God Save The Queen」幻冬舎(2000年10月読了)★★★★
22世紀。サエバ・ミチルはパートナーのロイディと共に、ナビゲーターの故障で道に迷います。そして2人は、草原で出会った老人・マイカ・ジュクに言われるがまま、高い塀に囲まれた街・ルナティック・シティに入ることに。ここはどこの国家にも属せず、独自の女王を持ち、建国以来100年もの間完全に外界から遮断されているという不思議な街。しかしミチルたちが来ることは、既に神によって予言されていたのです。女王をはじめとする住人たちに歓迎を受けるミチルとロイディ。しかしミチルはこの100年前に時間が止まってしまったようなこの街にとまどいます。色々とミチルの常識が通用しないことが多い中でも、特に不思議なのは「死」の概念がないということでした。どうやら「永い眠り」という言葉が、「死」と同意義らしいのですが…。そしてミチルたちの歓迎パーティーの間に、この国の王子が何者かによって絞殺されます。

ミステリ作品というよりも、ミステリ風味のあるSF。舞台は森作品初の未来となっています。しかし森作品は、その独特な世界や登場人物、小物使いに魅力があるので、読んだことがある人にとっては舞台が現代でも未来でも違和感はないのではないでしょうか。逆に言えば、どんな設定にしても見事に森ワールドになってしまうとも言えると思います。
初めはなかなか色々な設定が把握できず、理解するのに少し手間取りました。ミチルはルナティック・シティの常識が分からずにとまどうだけなのですが、読んでる側にとっては、ミチル側の常識もルナティック・シティ側の常識も分からないのですから。しかし一旦理解できれば、あとは早かったです。短めの文章がテンポ良く、「死生観」や「罪」と「罰」など哲学的な重いテーマがある割には、さらっと読めます。しかしミチルとロイディの関係には驚きました。このアイディアはすごいですね。

「魔剣天翔」講談社ノベルス(2000年9月読了)★★★★
世界的に有名な画家・関根朔太が出資し、その娘・関根杏奈もパイロットとして在籍するエアロバティックス・チーム「エンジェル・マヌーヴァ」。そのチームの日本での航空ショーに、関根杏奈の後輩である練無と阿漕荘の面々もやって来るのですが、ショーの最中に2機が接触し墜落してしまいます。しかもその1機のパイロット・西崎勇輝は、飛行中に背中から撃たれて死亡していたのです。2人乗りの飛行機の後部座席に座っていたはずの彼がなぜ背後から撃たれたのか? 犯人は同乗していた女性記者なのか? そして関根朔太が隠し持つと噂される、エアロバティックス・チームの名前の由来ともなった美術品・エンジェル・マヌーヴァとは。この資産価値の高い伝説の短剣をめぐって、様々な人間の思惑が入り乱れます。

Vシリーズ5作目。最初は犀川と萌絵のS&Mシリーズに比べるとかなり見劣りがするように感じられたこちらのシリーズも、だんだんと調子が出てきているようで、巻を重ねるごとに良い感じになってきています。今回は紅子さんとへっ君の会話も楽しめますし、かなりテンポよく読める作品です。しかし紅子さんや練無がいくら頑張っても、キャラクターのアピール度ではやっぱり犀川や萌絵には今一歩及ばないのですが。
今回の謎は空中密室。謎自体はそれほど大したことはないのですが、失われた魔剣もからんで楽しいつくりになってます。滅多に人前には姿を現さないという関根朔太の存在も良いですね。軽く億を下らない短剣という小物使いの上手さも、森先生の持ち味の1つでしょう。ただ、脅迫状に関する謎がそのまま残ってしまったのが残念。あれは結局何だったのでしょうか。それと本の中での季節(冬)と刊行された今の季節とのズレがなんとも…。今は9月とはいえ、まだまだ残暑がきつく夏のよう。できればもう少し刊行日を考慮して欲しかったです。

「工学部・水柿助教授の日常」幻冬舎(2001年5月読了)★★★★
国立大学工学部建築学科の助教授である水柿君と、奥さんの須磨子さんの日常を描いた、まるでエッセイのような小説です。
まず、森博嗣ファンには確実にヒットするであろう文体ですね。「森博嗣の文章が好き」という人には本当にオススメです。森さんのエッセンスが濃縮されており、まさに森ワールド。言ってみれば、犀川先生のジョークを集めてつなぎ合わせたような感じでしょうか。森さん自身の言葉へのこだわりも垣間見えるところも、とても面白いです。「私も実はそう思っていた」と思える部分も多いですし。
内容的には、思いついたことを思いついたままに書いているという印象。時にはミステリらしい要素も含んではいますが、それ以外の部分の方が多いでしょうね。話がどんどん飛躍していくところが、また面白いのですが、しかし「結局の所、何を書きたいの?」と思ってしまう人もいるかもしれないですね。プライベートな話も多いので、ミステリファン向けというよりも森博嗣ファン向けでしょう。ちなみにここに書かれていることは、名前を変えたり脚色はされているものの、基本的にすべて事実だそうです。各章の題名もなんとも言えずいい味を出しています。この長いタイトルを読んでいるだけで、ワクワクしてしまいます。

「ブルマもハンバーガも居酒屋の梅干しで消えた鞄と博士たち」
「ミステリィサークルもコンクリート試験体も海の藻屑と消えた笑えない津市の史的指摘」
「試験にまつわる封印その他もろもろを今さら蒸し返す行為の意義に関する事例報告および考察(「これでも小説か」の疑問を抱えつつ)」
「若き水柿君の悩みとかよりも客観的なノスタルジィあるいは今さら理解するビニル袋の望遠だよ」
「世界食べ歩きとか世界不思議発見とかボルトと机と上履きでゴー(タイトル短くしてくれって言われちゃった)」

「今夜はパラシュート博物館へ」講談社ノベルス(2001年1月読了)★★★★
【どちらかが魔女】…西之園家恒例の夕食会。出席者は萌絵、萌絵の叔母・睦子、犀川創平、喜多北斗、大御坊安朋、大御坊が連れてきた木原恵郁子。犀川がイタリアの絵の釘の謎、木原恵郁子と大御坊が大学のSF研にいた頃の不思議な出来事を語ります。
【双頭の鷲の旗の下に】…犀川と喜多の母校である私立T学園の文化祭。犀川と喜多だけでなく、萌絵と国枝桃子も訪れます。この学校では、前日に校舎の窓ガラスに銃痕と思えるような小さな穴がいくつもあいているのが発見され、ちょっとした騒ぎになっていました。
【ぶるぶる人形にうってつけの夜】…夏休み。大学の図書館のロビーの案内板には「ぶるぶる人形を追跡する会」というポスターが。足をとめた小鳥遊練無に、フランソワと名乗る女性が話し掛けます。
【ゲームの国】…磯莉卑呂矛(いそりひろむ)は、アシスタントであるメテ・クレモナと共に一之大島へ。昔この島にいた殺人鬼・車田飛六が、亡くなってから26年目に、予言通り蘇ったというのです。
【私の崖はこの夏のアウトライン】…海岸の風景、岩肌や塩水、波が恐ろしくて仕方ないにも関わらず、何度かその崖を訪れている「私」。今回訪れると、そこには白い眼帯をした髪の長い青年が。
【卒業文集】…小学6年生の生徒たちが産休中の若尾満智子先生に作文を綴ります。
【恋の坂ナイトグライド】…「僕」は、明日日本からいなくなってしまう「彼女」と過ごす最後の夜、恋の坂へと向かいます。ここで他にはないトリップができるというのです。
【素敵な模型屋さん】…小さい頃から模型が好きで好きで仕方のないという少年の話。

一応犀川&萌絵のシリーズは終わってしまったとは言え、こういう短編集ではまだ読めるのが嬉しいですね。メフィストに掲載された作品はすでに読んでいるので、それほど目新しいというわけでもなかったのですが、最初の「どちらかが魔女」を読み始めた時、「やはり私は犀川先生に会いたかったんだ」としみじみ思ってしまいました。登場人物の行動も会話も、文章すらも、Vシリーズとは一味違います。文章の理系度が高いのでしょうか。この感覚は久々です。 「双頭の鷲の旗の下に」にはちょっとしたお楽しみも用意されていますし、これだけでもサービス満点の短編集と言えるかも。
後半はノン・シリーズの短編。どれもとても森さんらしいですね。特に「私の崖はこの夏のアウトライン」はいかにも森さんの短編の本領発揮。「ゲームの国」もそうですね。「卒業文集」は最後できれいに落としてくれる作品で、ほっと一息つかせてくれます。「素敵な模型屋さん」にでてくる少年は、やはり森さんご自身なのでしょうか。読後感が素敵なお話でした。

「臨機応答・変問自在-森助教授VS理系大学生」集英社新書(2004年5月読了)★★★★
作家であり、国立N大学工学部建築学科の助教授でもある森博嗣氏は、毎回の授業の出席を取る代わりに学生に短い質問を提出させ、それに短い回答をつけたものを、Q&A集のプリントとして次回の授業に配るということを繰り返しているのだそうです。それらの質問の95%以上が授業内容に関する専門的な質疑応答。しかし時には、全く関係のない質問がそこから零れ落ちてくることもあり、この本に収められているのは、そんな専門外の質問。馬鹿馬鹿しい質問もあれば、なるほどと思う質問もあります。しかし「質問をさせる」と言葉で言うことは簡単ですが、毎回の授業で約50人の質問に答え続けるというのは相当大変なこと。それを20年も続けているというのですから驚きます。そしてこの「質問させる」ことによって、学生の勉強を受動的な状態から能動的な状態へと確実に変化させているのですから、やはり凄いことですね。
子供の頃は勉強が嫌いだったという人が大半なのではないかと思いますし、私自身もそうだったのですが、大人になってからの勉強の楽しさに開眼したという人も結構多いはず。その違いは何なのだろうとずっと考えていたのですが、この本のまえがきを読んで納得。「小学校、中学校、高校までに学習することの大半は、勉強のしかた、つまり道具の使い方なのである。(中略)したがって、大学生になれば、ようやくこれらを利用して自分の力で学習が可能になる。道具を使って好きなものを作る段階になるのだ」。確かに勉強の仕方がまるで違うというのは大きいですね。そして、自分の好きなものを追求する自由も与えられるということも。自分が好きなことを勉強し始めた時点で、「勉強」という言葉の定義が変わりそうです。それが研究という言葉に通じるのでしょうか。

P.222「面白い本は、人に教えないことにしています。人からすすめられるだけで、面白さの何割かが失われるから」

「恋恋蓮歩の演習」講談社ノベルス(2001年5月読了)★★★
大笛梨枝はN大学の大学院生。大学の教官の代わりに通うことになった文化教室の古建築講座で、羽村怜人と出会います。他の受講生は皆かなり年上だったということもあり、自然に親しくなる2人。そしてその親しさは徐々に恋愛へと移行し、豪華客船ヒミコに乗って香港まで行く予定をたてるまでになります。一方阿漕荘の面々。保呂草は仕事で鈴鹿財閥の邸宅を張り込みを、紫子はその手伝いをしていました。鈴鹿幸郎が関根朔太の自画像をもってヒミコに乗り込むという各務亜樹良の情報から、保呂草と紫子も名古屋港から宮崎までの船旅をすることに。しかしこの2人と一緒に見学として船に乗り込んだ紅子と練無までもがまんまと無賃乗船に成功。しかし出航して間もなく、男性客の1人が船から落ちたという騒ぎが持ち上がります。

Vシリーズ6作目。題名通り、森作品に珍しく、登場人物の恋愛や恋心を中心に話が進みます。登場人物がとる行動のきっかけも、そのほとんどが恋がらみ。しかしここまで恋が前面に押し出されていながらも、さらっとした森作品らしさはそのままです。そんな恋愛模様の中で、いつもながらの保呂草の仕事が進行していくのですが、今回登場する関根朔太の自画像も、結局は単なる小道具。やはり今回はいろいろな登場人物の恋がメインとなったお話でした。結末もなんともロマンティックですし、これからの話の展開(恋の行方)も楽しみですね。たまにはこういうのもよろしいのではないでしょうか。

「スカイ・クロラ」中央公論新社(2001年11月読了)★★★★
新しく最前線の基地に配属になった、カンナミ・ユーヒチ。カンナミは戦闘機のパイロットで、この基地では散香マークBという飛行機に乗ることになります。どうやらカンナミの前には、クリタジンロウという人物が乗っていたらしい飛行機。自分が急な転属でこの基地に送り込まれたことから、カンナミはいろいろな人にクリタについて尋ねるのですが、誰に聞いてもさっぱり要領を得ません。死んだのか、それとも単に配置変えになったのか、それすらも分らないのです。そして上司の草薙水素(クサナギスイト)に、いきなり、「貴女は、キルドレですか?」と尋ねるカンナミ。キルドレとは何なのか。そして2回目の大戦のあとの実験とは?

設定の説明などがほとんどなく、いきなりカンナミは飛行機に乗り始めます。「殺し合い」「敵機」などといった言葉から、どうやら戦争中らしいということは推察できるのですが、舞台となる場所も時代も全くわからないのです。もちろん敵の実体もまるで見えてきません。カンナミたちは、戦闘をして賃金をもらっているので、少なくとも第二次大戦中の話ではないということだけは確かなのですが…。これはきっと近未来の物語なのでしょうね。それも「女王の百年密室」のような、森さんの想像上の場所の物語。登場人物の名前もどれも日本人名でありながら、しかしカタカナ表記が混ざっているため、どこか違う場所の名前のようにも感じられます。現実感が希薄で起伏が少なく、しかし余分なものは全て削ぎ落とされた文章は、まるで詩を読んでいるような印象。これは森さんらしさがよく表れた作品と言えると思います。
飛行機に乗ってる場面が非常に多く、読んでいる側に非常によく雰囲気が伝わってきます。細かい専門用語など知らなくても十分雰囲気は理解できますし、本の装丁に使われている空の写真が、より身近に感じられてきます。しかしそれがまた、物語全体の非現実的な雰囲気を盛り上げているように思える作品です。

「墜ちていく僕たち」集英社(2001年11月読了)★★★★★
【墜ちていく僕たち】(Falling Ropewalkers)…いつものように小林先輩が下宿に来て、インスタントラーメンを作った相沢愛樹。それを一口味見した瞬間、彼は不思議な感覚と共に気を失います。そして気が付いてみると、なんとラーメンを食べた2人共、男から女になっていたのです。
【舞い上がる俺たち】(The Beautiful in Our Take off)…即売会用の同人誌を徹夜で作っている女2人。夜食にインスタントラーメンを作って食べたあと、気がつくと2人は男性になっていました。
【どうしようもない私たち】(The Beat of Rolling Rubbish)…私は和子。今は裸の死体で、刑事にじろじろと見られている…。会社の社長と部長に二股をかけていた高橋和子は、さらに同窓会で再会した初恋の相手ともつきあい始め、そして思いがけず、初恋の相手と一緒に死んでしまうことに。
【どうしたの、君たち】(Pretty You and Blue My Life)…写真が趣味の「私」は、ふとしたことで相沢愛樹に夢中になり、密かに彼の隣の部屋に引っ越します。そして「墜ちていく僕たち」の出来事が。隣にいたはずの青年はいったいどこへ…?
【そこはかとなく怪しい人たち】(The Phantom on Peaple's Head)…小説家の大島真由子は大急ぎで原稿を仕上げ、ラーメンを食べてから好きなバンドのライブへ出かけます。ライブ終了後、憧れのスター・亜紀陛下から会いたいという伝言を受け取り、舞い上がるのですが…。

戸棚の奥にあった古いインスタントラーメンを食べると、なぜか性別が変わってしまう、という共通のモチーフを持つ連作短編集。同じ設定でも、これだけのバリエーションが違う物語になるのが面白いですね。ラーメンを食べるだけで性別が変わるという全く奇妙な話なのですが、さすが森さんと言うべきか、すんなりと読めてしまうのが不思議なぐらいです。もちろんそこには合理的な説明は全くありません。そして実際に性別が変わった登場人物たちの反応もさまざまで、そこも面白いところです。意外と驚かない人が多いのですが、たまに自殺するまで思いつめてしまう人もいます。しかしどの反応もなぜか納得できてしまうのは、森さんの独特な語り口のせいなのでしょうか。それとも周到な人物造形なのでしょうか。5つの短編同士のリンクの度合いもそこはかとなくて結構好き。表題作の「墜ちていく僕たち」と、その裏話のような「どうしたの、君たち」が一番良かったです。
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