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このページは、光瀬龍さんの本の感想のページです。

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「百億の昼と千億の夜」ハヤカワ文庫JA(2005年2月読了)★★★★
その昔、銀河系にこの惑星が生まれ、長い年月を経て生物が誕生し、さらに長い年月が流れた頃…
アトランティス王国の伝説に憧れていたギリシャの哲学者・プラトンは、ある隠退神官が持っているというアトランティス王国について記された文書を求めてサイスへ。アトランティスは、海神ポセイドンの守りを受けた美しい島。高度な文明にも関わらず、不幸なことに一夜にして海底に没してしまったといいます。そしてプラトンが訪ねた、アトランティスの子孫たちが住む村・エルカシアには、今まで見たこともない技術があり、砂嵐の中倒れたプラトンは、司政官・オリオナエとしてアトランティス王国の滅亡を体験することに。一方釈迦国では、悉達多太子が出家しようとしていました。4人の波羅門僧に連れられて兜率天へと向かう悉達多でしたが、しかし救いを求めて来たはずの天上界もまた、現世と同じように荒廃していたのです。梵天王に会い、それらの破壊が阿修羅王によるものと知った悉達多は、阿修羅王に会うことを決意。そして 五十六億七千万年後の末法の世にこの世に下生し人々を救うとされている弥勒菩薩が、実は錆びた坐像であることを知ることに。さらにエルサレムでは、ナザレのイエスが大天使ミカエルの言葉を受けて布教活動を行っていました。そしてイエスは十字架に磔の刑に処せられることになるのですが… それらの出来事は全て宇宙開発委員会の“シ”によるものだったのです。

まず光瀬龍さんによる原作を読み、その難解さに思わず萩尾望都さんによる漫画版も読むことに。宇宙の始まりから生命の誕生、そして破滅への道。なんとも壮大で、しかも濃密な物語。もちろん私たちが日々恩恵を受けている太陽も恒星の1つですし、その輝きが永遠ではないことは分かっています。しかしその破滅がまさか、最初から組み込まれていたとは。誰にもその終焉を止めることができないとは。そしてその終焉から救ってくれる存在など、最初から何もいなかったとは。「百億の昼と千億の夜」という言葉は、実際の長さなど想像もつかないほどの時間を表しています。その果てしない時間の中で、人間の日々の営みなどどれほどのものだというのでしょう。時間的にも空間的にも想像もつかないほど広大な宇宙の存在に対して、あまりに卑小な存在の私たち。この壮大な物語にはこれ以上ないほどぴったりで、そして魅力的なタイトルですね。破滅が必定だからこそ、救いの観念が生まれるというのは、考えて見れば当たり前。しかしこの作品を読むまで、その当たり前のことをあまり考えたことがなかったように思います。そしてこの作品の中では、そのことにまず疑問を抱いたのが阿修羅王。この阿修羅王がとても魅力的なのです。この作品の中では少女の姿をしており、それにまず驚かされたのですが、しかし性別は変わりながらも、興福寺の三面六臂の阿修羅像のイメージはそのまま。特に漫画版での阿修羅王の表情の1つ1つに目が奪われるようでした。まず光瀬さんの原作ありきであることは勿論なのですが、萩尾望都さんの漫画は本当に素晴らしいですね。漫画版なら十分5つ星。文字と絵という違う表現方法によって、原作をこれほど生かし、洗練させたその力量とセンスが素晴らしいです。
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