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このページは、舞城王太郎さんの本の感想のページです。

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「世界は密室でできている。」講談社ノベルス(2003年7月読了)★★★★★
福井県西暁町。19歳の涼子が突然飛び降り自殺をしたということで、弟のルンババこと番場潤二郎12歳と、その友達・西村友紀夫13歳は大きなショックを受けます。小学校の頃から登校拒否となっていた涼子には家出癖があり、半年に1度は、ふらりと家を出たかと思うと、数週間かけて日本中の至る所にてくてくと歩いて行くというのを繰り返していました。番場家の両親は涼子を部屋に押し込めるために、部屋の戸には外から鍵をかけ、窓には鉄格子を取り付けていたのですが、そのたびに涼子はなんとか部屋を抜け出し、結局屋根から落ちて死ぬことになってしまったのです。そして2年後。2人は中学3年生となり、修学旅行で東京を訪れることに。しかし都庁を見学している時に、見知らぬ不倫カップルの痴話喧嘩に巻き込まれた友紀夫は、喧嘩を止めようとして、井上椿の拳を受けてノックアウト。椿の車に乗せられて、埼玉にある椿の自宅へと運ばれます。その後、椿の高校2年生の妹・榎の無免許運転で無事東京に戻り、一旦はこれで縁が切れたと安心する友紀夫でしたが、追ってきたルンババもまた井上姉妹と知り合いとなり、友紀夫の人生に井上姉妹が強引に入り込んでくることに。

「煙か土か食い物」で第19回のメフィスト賞を受賞した舞城王太郎氏の3作目。物語としては、前2作と関連しながらも、一応独立した形態になっているようです。
「何とかと煙は高いところが好きと人は言うようだし父も母もルンババも僕に向かってそう言うのでどうやら僕は煙であるようだった。」という文章で始まるこの作品は、とにかく物凄いパワーを感じさせます。句読点と改行の極端に少ない文体は、独特のリズムとパワーを持って迫ってきますし、視覚的にもページに文字がぎっしりと詰め込まれていて、とても濃厚。読み始めた頃は戸惑いましたが、すぐにこの世界の中に引きずり込まれてしまいました。良い意味で破壊力がたっぷり。文章とは… などという既成概念も打ち砕かれてしまいます。
この作品の中で起きる事件は、涼子の自殺を抜きにして、5つでしょうか。これをいつの間にか名探偵となっていた「ルンババ12」が、読者に気を持たせる間もなくバッタバッタと解決していきます。密室が沢山で、さすが密室本。しかし事件自体もどうかと思いますが、この謎解きには本当に笑ってしまいますね。こういうのをとんでもミステリと言うのでしょうか!それでもこの世界の中にあると、まるで名探偵に見えてくるのが不思議。とは言え、読者が謎解きをする余地はほとんどなさそうですし、本格ミステリは期待しない方が無難かと思います。ミステリはあくまでも添え物。主体はあくまでも、12歳の時の涼子の自殺によって彼らが失った物、得た物、それに伴う成長などの青春物語。この文体で切なさが描かれてしまうというのも、また信じられないような気がしてしまうのですが。
パワフルな文章と恐ろしいほどの力技でねじ伏せられる、爽やかな青春小説、ミステリ風味。ヘタウマな絵もだんだん上手く見えてくるのが不思議。ということで、頑張れエノキ嬢。ボンバイエー←なしなし。
舞城作品の最初の1冊にいいと薦められて読んだこの作品、確かにこれは入門編にぴったりですね。

(しかし友紀夫が飲み込んだあの白い仁丹の場面には吐きそうになりました…)
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