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このページは、茂市久美子さんの本の感想のページです。

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「にこりん村のふしぎな郵便」ポプラ社(2008年2月読了)★★★

【春一番がふいた日に】…にこりん村にある小さな郵便局。ある日局長さんが残って仕事をしていると、人間の姿をしたきつねがやって来ます。今晩春一番の風に乗って青い月町に行くことになっているので、そこから山のてっぺんのもみの木に手紙が出せるか確かめに来たのです。
【おじぞうさまからのハガキ】…ぽかぽかと暖かなある日、郵便ポストから妙なハガキが出てきます。差出人は一本松のおじぞうさまになっているのですが…。
【風鈴】…いつにもまして暑い夏。郵便局にやって来たのは見知らぬ女の子でした。都会ではもう1ヶ月も雨が降らず、アスファルトのせいで夜も暑いので、風鈴を送るのだというのです。
【ネコの郵便車】…野山で柿や野ぶどうが色づく秋。郵便ポストに入っていたのは、「ネコの国かつぶし町にぼし二匹目117 のらのみいこさま」宛ての手紙。局長はさも困ったように手紙をポケットに入れます。
【キツネのかいたふしぎな絵】…冷たい北風がふく日。青い月町に絵の勉強に行ったきつねから小包が届きます。

山にかこまれた小さな村で育ったという茂市久美子さん。小さい頃、部屋の窓から見える円柱形のポストを見るたびに、ポストの中に手紙の中身が分かる妖精がひっそりと住んでいそうで、そしてポストの入り口はおとぎの国やサンタクロースの国へと繋がっていそうで、胸をワクワクさせたのだそうです。残念ながら、私は円柱形のポストを見てもそういったことを想像したことがないのですが、言われてみると確かにそんな感じがしてきます。実はポストを利用しているのは、人間だけではないのかもしれませんね。


「風の誘い」講談社(2008年2月読了)★★★★

2月ももうすぐ終わりだというのに、真冬のように寒い日。骨董通りの外れにある旅行会社をやめてきたばかりの「わたし」に、冷たい突風と共に1枚のちらしが絡み付いてきます。それは骨董通りにあるシャーリマールという古い絨毯の専門店が、春にインドへの買い付けに行く人材を募集しているちらしでした。数週間前にも、ショーウインドーに飾られた高価な絨毯に引き寄せられるような思いをしたばかりの「わたし」は、早速店を訪ねることに。店の中は壁にかけられた絨毯でまるで庭園のよう。やはり素人には無理だったかと思う「わたし」に、白いターバンを巻いた老人はこれらの絨毯は全てインドのカシミールで織られたものだと言い、インドで若草の中にひなげしを織り込んだ春の絨毯を探してきて欲しいのだと説明します。

「わたし」が老人に頼まれてインドに探しに行ったのは3つ。若草の中にひなげしを織り込んだ絨毯と、ジャイプールの壷と、アグラの宝石箱。それぞれを見つける時に、「わたし」はその品を扱う人たちの語る物語を聞くことになります。壷を作っているおじいさんの話は、白地に青い花を絵付けした壷を385個作ることになる若者の話「魔法の壷」、青とも紫ともつかない7つの石の花が象眼されている白い大理石の宝石箱を作った若者が語るのは「フセインと七人の舞姫の話」。そしてひなげしを織り込んだ絨毯を扱う商人の語る物語。実際にインドを旅した時にカシミールで織られた絹の絨毯に心をとりこにされたという茂市久美子さんなので、それぞれの描写がとても美しく幻想的。
あまりに全てが順調に流れますし、若干あっさりしすぎているような気もするのですが、それがまた運命的でもあり夢物語のようでもあり、いいところなのかもしれません。とても素敵な物語。YA寄りの児童書として書かれているようですが、もっと大人向けにしっかりと書かれていても良かったのではないかと思ってしまうほどです。


「つるばら村のパン屋さん」講談社(2008年1月再読)★★★★★お気に入り

三日月屋は、つるばら村でただ1つのパン屋さん。宅配専門で、まだお店はないのですが、注文を受けるとパン職人のくるみさんがわらぶき屋根の農家の台所でパンを焼いて、どこへでも届けます。くるみさんは元々は町のパン屋さんで働いていたのですが、2月もそろそろ終わる頃におばあさんの家だったその農家に引っ越して来て、広い台所に中古のオーブンと調理用の大きなテーブルを入れて試作を繰り返し、ようやく春になった頃に「三日月屋」を開いたのです。しかし沢山の注文があったのは、最初の1週間だけ。しばらく経つと、お店の存在はまるで忘れられてしまったかのようになり…。
【はちみつのパン】…ある夜、台所のドアがトントン鳴ったのに気づいたくるみさんがドアをあけると、戸口にはレコードの乗った古い蓄音機とたんぽぽのはちみつの入った壷、そして手紙が置いてありました。
【ドングリのパン】…雨の季節。1週間ぶりに雨が上がり、どこからかパンの焼ける香ばしい匂いがしてくるのに気づいたくるみさんは、自分でも気づかないうちに自転車で匂いを追いかけます。
【三日月のパン】…穏やかな秋の午後に入った注文は、月見が原のホテル・フローラから、朝食用の三日月パンを30個届けて欲しいというもの。初めての大きな注文に、くるみさんは張り切ります。
【クリスマスのパン】…秋の終わり頃から夕方に駅前でパンを売るようになったくるみさん。その帰りに自転車でぶつかってしまった若者が蜂蜜を欲しがっているのを知り、くるみさんは家へ連れて帰ります。
【あんこのパン】…1月の終わり、つるばら村が一番寒い頃。晩にパンの注文にやって来たのは黒いトラネコ。友達が村のそば屋の猫になったので、お祝いにあんパンを20個注文したいというのです。
【ジャムのパン】…くるみさんが三日月屋をひらいて1年と1ヶ月。花のジャムをつめたジャムパンを焼きたいので、一晩台所を貸して欲しいという電話が入ります。

つるばら村シリーズの1作目。
パン屋のくるみさんが主人公のファンタジー。登場するパンがとても美味しそうです。綺麗な音楽を聞かせながら作ったたんぽぽのはちみつ入りのパン、優しい木の実の香りが広がるドングリのパン、夜露や朝露を使った三日月パン、木の実やドライフルーツをたっぷり入れたクリスマスのパン、生地にかつおぶしを混ぜておへそに煮干を乗せたあんパン、ツルバラの花びらのジャムを入れたジャムパン。元々パン職人として働いていたくるみさんですが、お客さまも人間に限らず様々で、そんなお客さまにヒントをもらうので、新しいパンのレパートリーがどんどん増えていくのです。美味しそうなパンの描写は、読んでいると美味しい香りが漂ってくるようですし、くるみさんとお客さまの温かい交流に心のなかがほっこりと温かくなるようです。
松本悦子さんの表紙や挿絵も柔らかい優しい雰囲気の作風にとてもよく似合っていて素敵です。


「こもれび村のあんぺい先生」あかね書房(2008年2月読了)★★★★★

【月夜の森】…大学病院の内科のお医者さんのあんぺい先生は、毎日忙しくて疲れきっていました。そんなある晩、11時すぎに病院を出たあんぺい先生は道に迷ってしまいます。そして通りがかった「月夜の森」という喫茶店に入ることに。
【森の診療所】…9月末、列車に何時間もゆられてこもれび村についたあんぺい先生。村の人間だけでなく、山にいる動物などの不思議な患者も診て欲しいと言われて驚きます。
【霧ふり山の仕立屋】…アカトンボの群れが飛んできた日。初めて診療所にやって来た患者は、霧ふり山の仕立屋のタラ。徹夜の仕立物で、首がまわらないほど肩がこってしまったというのです。
【キツネの商売】…あんぺい先生がこもれび村に来て1ヶ月。診療所の後ろのカラマツ林で金色の落ち葉を集めていたキツネに挨拶されて、あんぺい先生はびっくりします。
【真夜中の訪問者】…12月なかば。真夜中にやって来たのはつんつんとがった髪に、白い長い服を着て、金色の笛を持った男の子。寒いところにずっと立っていて風邪をひいたらしいのです。
【早春の患者さん】…あんぺい先生がこもれび村にやって来て半年。その日診療所にやってきたのは、ウグイスの若者でした。今年が初鳴き、しかもこぶし係に選ばれて、緊張して眠れないというのです。
【くしゃみにご用心】…若葉の季節。あんぺい先生を最初に診療所へ案内してうれたたぬまさんがやって来ます。くしゃみをしたらしっぽが生えてしまったというのです。
【梅雨なのに雨がふらないわけ】…ちっとも雨の降らない6月。診療所にやって来たのはカッパでした。竜ヶ池の新米の竜が歯痛で空にのぼれないので、薬が欲しいというのです。
【遠くの人を呼ぶ術】…梅雨も明けた7月半ば。リュックをかついで霧ふり山を登り始めたあんぺい先生。シラビソ小屋に近づくと、ジャムを煮る甘い匂いが漂ってきました。

こもれび村の診療所にやって来たあんぺい先生の物語。つるばら村と何か関連があるのかと期待して読み始めたのですが、全く関係ないようです。しかし不思議なお客さんがパンを注文するつるばら村のシリーズと同様、不思議な患者さんが次々と現れるので、全体的な雰囲気は同じような感じ。あんぺい先生のほのぼのとした雰囲気が、こもれび村の雰囲気にとてもよく似合いますね。モリさんの、コケモモやブルーベリーなど森じゅうのジャムになる実を集めて煮たばらいろのジャムも美味しそう。これでこの物語は終わりなのかもしれませんが、今回はこもれび村の村人たちがそれほど登場しなかったので、また機会があればそういったお話を読んでみたいです。こみねゆらさんの表紙と挿絵も素敵ですね。あんぺい先生もモリさんもイメージにぴったりです。つるばら村の最初の3冊同様、大人でも十分楽しめるファンタジーです。


「トチノキ村の雑貨屋さん」あすなろ書房(2008年2月読了)★★★

トチノキ村のマルハナ商店は、村でたった一軒の雑貨屋さん。せまい店のたなには、生活にひつようなものがたいがい何でも揃っており、花田サクラさんというおばあさんが1人できりもりをしています。
【トチノキ山のろうそく】…野山が淡い緑に包まれた春。店にやって来たのは、若葉のような色の服を着た小さな娘さん。秋になったらミツロウソクを千本作るので灯心が欲しいというのです。
【カッパの土笛】…夜の9時になって店を閉めようとしたサクラさん。その時、お店に小さなカッパが飛び込んできます。今晩はお祭りなので、キュウリにつけるおみそが欲しいというのです。
【ウサギの漬物】…ある朝、サクラさんが見せをあけると、外の木箱の台の上に「木枯らし漬け」と書いた紙がはってある小さなビニール袋がいくつも並んでいました。
【キツネのあんだえりまき】…山が開き色に染まり始めた頃。朝からの強い雨でお客さんが来ないので、サクラさんは町まで毛糸を買いに行こうと考えます。その時やって来たのは、キツネでした。
【おやまのおかゆ】…秋も終わりに近づいたある夕暮れ、サクラさんが外に出ると見慣れないおかっぱの女の子が立っていました。柿が欲しそうな女の子に、サクラさんは柿を3つあげることに。
【てんぐのうちわ】…12月の最初の月曜日。サクラさんはお正月用品を仕入れにバスに乗って町まで出かけます。しかし帰りのバスが雪で動かなくなり、村まで歩いて帰ろうとしたサクラさんは道に迷って…。

他の茂市久美子さんの「○○村の△△さん」という題名のついた作品と同じく、村のお店でちょっぴり不思議な出来事が起きる連作短編集なのですが、二俣英五郎さんの版画のような挿絵のせいか、他の本に比べるとどこか和風の民話の雰囲気が漂います。


「ゆうすげ村の小さな旅館」講談社(2008年2月読了)★★★★

ゆうすげ村にあるゆうすげ旅館は、小さな旅館。原田つぼみさんという年をとったおかみさんがひとりで切り盛りをしています。
【ウサギのダイコン】…5月。林道の工事のために、久しぶりに6人ものお客さんが滞在しているゆうすげ旅館。しかし1週間もするとつぼみさんは疲れてきて、誰かお手伝いが欲しいと考え始めます。
【満月の水】…雨の季節。しとしとと静かに雨が降る晩に泊まりに来たのは不思議な若者。つめとぎ平で天水、特に満月の水を集める小さな店を経営しているというのですが…。
【天の川のたんざく】…まもなく七夕。雨があがって東の空に大きな虹がかかった夜にやって来たのは、ひょろりと背の高いおばあさん。次の虹が出るまでとめてもらいたいと言うのです。
【ゆうすげ平の盆踊り】…お盆も間近の8月のある日。つぼみさんは、数週間前にゆうすげ旅館に泊まって黄色い鼻緒をくれた今吉下駄店の今野吉造さんから、盆踊り大会の招待状を受け取ります。
【おだんごのすきなお客さま】…十五夜。泊まりではなく夕飯だけ、それもおだんごづくしの夕飯をお願いしたいという電話が入り、つぼみさんは驚きます。
【霜のふる夜に】…秋のもみじ祭りの晩。お祭りで万華鏡のお店を出していたおじいさんがゆうすげ旅館にやって来ます。おじいさんは部屋に荷物を置き、これからゆうすげ平まで霜を集めに行くと言います。
【干し柿】…木枯らしの季節。近くの山にウメモドキやノイバラの枝を取りに出かけたつぼみさんは、帰りに道に迷ってしまうのですが、灰色のさるに出会い、さるの家に呼ばれることに。
【お正月さんのぽち袋】…12月も半ばをすぎたある日、ゆうすげ旅館に宅配便が届きます。しかしそこにはつぼみさんの知らない人の名前が。夜になって真っ白なネズミが荷物を取りに来ます。
【七草】…お正月の三が日を過ぎてやって来た今年初めてのお客さまは、7人のむすめさんたち。揃いの若草色のコートを着た彼女たちは、持参した七草を料理して欲しいとつぼみさんに頼みます。
【帽子をとらないお客さま】…2月になってまもない朝、ゆうすげ旅館にやって来たのは、小太りの人のよさそうな男の人。しかしかぶっている大きな山高帽子を決してとろうとしないのです。
【花の旅の添乗員】…3月も半ばを過ぎた頃。ゆうすげ旅館に小枝のように細くて瞳の大きな女の人がやってきます。宿帳の職業欄に書かれていたのは「フラワートラベル ツアーコンダクター」でした。
【クマの風船】…山から雪も消えた4月なかば。ゆうすげ旅館にやって来たのは、四角い風呂敷包みを持った大柄な若者。仕事で薬をお得意さんに届けに来たところだというのです。

つるばら村の隣のゆうすげ村にあるゆうすげ旅館を舞台にした物語。てっきりつるばら村も登場するかと思って期待していたのですが、この本が書かれた時点では「つるばら村のパン屋さん」しか書かれていなかったせいか、つるばら村は全く登場しませんし、もちろん三日月屋のくるみさんや青木家具店の林太郎さんも登場しません。それが残念。それでもまだまだ若いくるみさんやナオシさん、林太郎さんといった面々と違って年をとっているつぼみさんは、懐が大きくて包み込んでくれるような優しさがあります。


「つるばら村の三日月屋さん」講談社(2008年1月再読)★★★★★お気に入り

【キツネのパン】…5月1日、つるばら村の駅前に赤いトタン屋根の小さなお店、三日月屋を開いたくるみさん。開店記念として全てのパンを半額にしたためパンはあっという間に売り切れてしまいます。お店を閉めようとした時にやって来たのは、おいなり山のキツネでした。
【カッパのパン】…三日月屋が開いて1ヵ月半。売り上げの落ちる雨の日の晩、くるみさんの家にいる猫のニボシがくわえて来たのは、バターの代わりに味噌を塗ったキュウリのサンドイッチの注文の手紙でした。
【カエルのパン】…お店ができる前から隣の村に1週間に1度自転車でパンを売りに行くくるみさん。雨のせいかパンは売れ残ってしまいます。帰り道にくるみさんを呼び止めたのはカエルでした。
【魔術師のパン】…つるばら村の夏祭りに魔術師が来ることになっており、楽しみにしていたくるみさん。しかしその日の午後にやって来た黒ネコが注文したのは、手間と時間のかかるカレーパンでした。
【十五夜のパン】…赤トンボが飛び始めた頃。アイシャドーをたっぷりつけた女の人から、十五夜のお月さまの光を入れた生地でバターロールを50個焼いて欲しいという注文が入ります。
【はちみつのパン】…10月。台風の風で屋根の一部が飛んでしまうのですが、それを拾ったクマが届けに来てくれます。くるみさんはお礼にはちみつとクルミとレーズンの入った大きなパンを焼くことに。
【木枯らしのパン】…11月。パンの売り上げが急に以前の倍になり、大忙しのくるみさん。今一番人気があるのは、村のリンゴで作ったアップルパイでした。
【クリスマスのパン】…12月に入り、クリスマスのパンの予約を始めたくるみさんは、隣の村に行った帰りにきんちゃく袋を拾います。持ち主のおじいさんが何か食べたいというので、お店に連れてくることに。
【ウサギのパン】…お正月を過ぎてもお客はさっぱり来ない日が続いたある日、ヨモギのパンを30個作って欲しいという注文が入ります。ウサギはみずみずしいヨモギの葉を持ってきていました。
【バレンタインデーのパン】…バレンタインデーの前日。パンの作り方を教えて欲しいとユキちゃんという女の子がやって来ます。三日月パンにチョコレートを入れてある人に贈りたいというのです。
【春風のパン】…3月になってからよく来るおばあさんが買うのは、いつも決まって三日月パンを2個。しかしその日は三日月パンが売り切れていたのです。くるみさんは代わりのパンを焼くことに。
【結婚式のパン】…ウメもサクラもツルバラも一度に咲いて、村じゅうがピンクのもやにおおわれたようなつるばら村。くるみさんは1週間後に迫った開店1周年記念セールのことで頭がいっぱいでした。

つるばら村シリーズの2作目。
前作ではまだお店を持たずに宅配専門だったくるみさんですが、この作品では、念願のお店を駅前に開いています。その名も「三日月屋」。くるみさんお得意の三日月パンからとった名前なのです。もちろん人間のお客さんも多いのですが、相変わらず不思議な存在の注文も多くて、とても夢がいっぱい。普通のキツネやカエル、ネコやウサギといった動物たちもいるのですが、中にはカッパのお客さんもいますし、木の精や風の精といった妖精的な存在も。やはりそれだけパンの焼ける香ばしい香りは魅力的なのでしょうね。村のリンゴや高原のヨモギ、十五夜の月の光など、季節折々の自然を生かしたパンはどれもとても美味しそう。つるばら村には行ったことがないはずなのに、読んでいるだけで様々な情景が懐かしさと共に浮かび上がってくるようです。


「つるばら村のくるみさん」講談社(2008年1月再読)★★★★

駅前に三日月屋ができて3年。早く屋根を赤いトタンから赤いれんがに変えたいくるみさんは、毎週金曜日につるばら村の隣のゆうすげ村にもパンを売りに行くようになりました。ゆうすげ村にはパン屋がなく、くるみさんのパンを楽しみにしてくれているお得意さんが何人もいるのです。
【三日月屋のパン】…若葉の光り輝く季節。いつものようにゆうすげ村にパンを売りにやって来たくるみさん。しかしその日は全然売れません。なんと前の日にあさひ町のパン屋が来たというのです。
【プリンのパン】…梅雨前。今年はパンの売り上げは伸び悩み、三日月ベーカリーで食べた試食のプリンパンを探してお客さんが来店する始末。くるみさんは、自分もプリンパンを作る決心をします。
【七夕のパン】…梅雨の合間の晴れた夜に店に飛び込んできたのは、見かけない若者。レストラン・アルタイルに雲のアルコールを届けに行く途中、パンを買いに寄ったというのです。
【台風のパン】…秋。ゆうすげ村にパンを売りに行く途中で森の水のみ場に寄ったくるみさん。そこで出会った真っ白なシカは、小さなヒマラヤの岩塩でチョコレートパンを買っていきます。
【天狗のパン】…12月。パンケーキの注文が入ります。三日月屋ではパンケーキは売っていないのですが、白樺の樹液で作ったシロップがあると聞いたくるみさんは、翌朝作りに行く約束をすることに。
【節分のパン】…2月限定の新商品は、はちみつを加えてこっくり煮た黒豆がたっぷり入ったあんパン。そして節分の日の晩に猫のニボシが連れてきたのは、小さな鬼の男の子でした。
【デートのパン】…開店4周年記念セールを翌日にひかえた三日月屋にやって来たのは、三日月ベーカリーの星野ひとみでした。

つるばら村のシリーズ3作目。
せっかく念願のお店を開いたくるみさんですが、今回は名前もそっくりの「三日月ベーカリー」が進出してきて売り上げが落ちてしまい、やきもきすることになります。三日月ベーカリーはライトバンでパンを売りに回っていて、扱っているパンの種類もかなり多いのです。そして笛吹き山のブナの森で養蜂をしているナオシさんも、別の意味で気になる存在。それでもくるみさんにできることは、毎日自分のベストを尽くすことだけ。最初は三日月ベーカリーのことを気にしていたくるみさんも、やがて自分のペースを取り戻して美味しいパンを作ることに専念し始めます。そして最後に出会った三日月ベーカリーの「星野ひとみ」に教わるのは、パン屋の仕事はパンを売るだけではないということ。
今回もたぬきの親子に教えてもらったプリンを入れたプリンパンや、はちみつを入れてこっくりと煮た黒豆で作ったあんパンなど、新しいレパートリーが増えますし、雲のアルコールやヒマラヤの岩塩なども、じきに新商品に繋がるのかもしれませんね。楽しみです。


「つるばら村の家具屋さん」講談社(2008年2月読了)★★★★

【家具屋さんのラブチェア】…若葉が日に日に濃くなる5月。つるばら村の青木家具店の林太郎さんを訪ねて来たのは、猫のニボシでした。お天気の良い日に1日椅子を貸して欲しいというのです。
【キツネのたんす】…梅雨入りも間近いある日の夕方。工房に入って来たのは立派な背広を着て帽子を目深にかぶったキツネ。嫁に行く娘のためにキリのたんすを作って欲しいというのです。
【トチノキのスプーン】…7月の初め。林太郎さんの奥さんの美樹さんが最近熱心に作っているのは、トチノキのスプーン。しかし漆を塗って深みのあるアメ色になったスプーンは全然売れなかったのです。
【家宝になったお皿】…真夏。林太郎さんの5歳の息子・幹太は、近所の小川で自分と同じぐらいのカッパの子が泣いているのを見つけます。遊んでいるうちに迷子になったというのです。
【ミズメの長持】…まだまだ暑い9月。軽トラックで高原のゆうすげ平を通った林太郎さんが車の外に出て巨大な入道雲を眺めていると、1人の大男が現れます。
【ウサギのかんばん】…キンモクセイの甘い香りが漂う頃。美樹さんが幹太を保育園に送って帰ってくると、工房の古いラブチェアにはウサギがちんまりと座っていました。看板の注文に来たのです。
【星をとる鉤】…もうすぐ冬。青木家具店にやって来たのは、ライオンのたてがみのような頭をした不思議な若者。大きな金色の鉤にオノオレカンバの木の柄をつけて欲しいというのです。
【大みそかのお客さま】…おおみそかの午後、あちこちにお歳暮を届けた帰り、車の前方に現れたのは不思議な人影。それはなんと長方形の板をかついだイノシシでした。
【クルミの椅子】…お正月も過ぎた静かな夜。ガラス戸を叩く音に美樹さんが戸を開けると、そこに立っていたのは白い小さな木馬。友達の人形が座る木の椅子を作って欲しいというのです。
【春の木山の春まつり】…立春を過ぎても寒いある朝。お店に入って来たのは赤いオーバーを着た女の子。春の木山の春まつりの抽選会の景品にするために、商品を寄付して欲しいというのです。
【ふしぎなクリの板】…厳しい寒さがゆるんできた3月。工房にやって来たのは、四角い一枚板を抱えた男の子。母親が嫁入りの時に持ってきたその板でちゃぶ台を作って欲しいというのです。
【あらしでたおれたヤマザクラ】…4月の嵐の翌朝。養蜂家のナオシさんから、裏山のヤマザクラが倒れてしまったと聞いた林太郎さんは、午後になると早速ナオシさんの家へと向かいます。

つるばら村シリーズの4作目。今回はパン屋の三日月屋のくるみさんではなく、青木家具店の林太郎さん一家の物語となっています。ある時インテリアの情報誌で読んだ、クリの木の中から子グマのミイラが出てきたという話から、岩手に住む家具屋さんの工藤宏太さんとそのご家族に出会い、木に対する見方が変わり、そのご家族をモデルに家具屋さんの物語がどんどんふくらんだのだそうです。様々な木のそれぞれの特徴を大切生かして、様々な家具や小物を作り上げていくところを読むと、その家具屋さんご一家がどれだけ木を大切にしながら家具を作っているのかが伝わってくるようです。
これまでつるばら村のシリーズの絵を描いてこられた中村悦子さんに代わり、本書の挿絵は柿田ゆかりさん。柿田ゆかりさんの絵も可愛らしいのですが、中村悦子さんの絵をとても気に入っていただけに少し残念。それぞれの物語が短いせいもあるのでしょうけれど、対象年齢もくるみさんのシリーズよりも若干下がったような気がします。


「つるばら村のはちみつ屋さん」講談社(2008年2月読了)★★★★

つるばら村で一番高い山、笛吹き山はふもとまでブナの森におおわれていて、トチノキやシナノキなど、みつばちが花の蜜をあつめられる木が沢山生えています。村井ナオシさんはこの山のふもとで1年中みつばちを飼って1人で暮らしている若い養蜂家です。
【春はじめてのはちみつ】…5月の半ば。都会に住んでいる隈野さんから葉書が届きます。隈野さんはナオシさんのおじいさんの代から、毎年その春初めてのはちみつを注文してくるお得意さんなのです。
【花の番人】…笛吹き山のブナの森でトチノキが花の季節を迎えます。そんなある日、突然見知らぬ男の人が現れます。小鳥におそわれて逃げ回っているうちに、道に迷ってしまったというのです。
【七夕のケーキ】…何日も続いた雨があがったある日の夕方、ナオシさんが家に帰ろうとすると、見知らぬ女の子が立っていました。取り除いた新しいみつばちの巣が欲しいというのです。
【ウサギのコーヒー】…8月、この夏一番のうだるように暑い昼下がり。ナオシさんが昼寝をしているところに訪ねて来たのは、蝶ネクタイをしたウサギ。タンポポのはちみつが欲しいというのですが…。
【天狗のうちわ】…ようやく涼しくなった9月の夜。中秋の名月を見ようと外に出たナオシさんは、空を飛ぶ不思議な影を見て驚きます。気になってつい笛吹き山を上っていくことに。
【イノシシのつなひき】…木の葉が色を変え始めた10月。森で出会ったイノシシにはちみつを分けて欲しいと頼まれたナオシさん。ごはんを炊く時にほんの少し混ぜたいというのです。
【落ち葉のふとん】…木の葉が舞い散る季節。みつばちの巣箱に入れる落ち葉を集めに裏に林に出かけたナオシさんは、落ち葉を集めているキツネの若者に出会います。
【クリスマスのイチゴ】…12月半ば。巣箱の周りの雪の上にイタチの足跡を見つけたナオシさんは、被害に遭う前にと町へ金網を買いに出かけます。しかし帰ってみると、巣箱が1つなくなっていたのです。
【山の染め物屋】…前日までの寒さが一気にゆるんだ1月のある朝。ナオシさんは森の木の枝に白い布がひっかかっているのに気づきます。みつばちのフンだらけなので、帰って洗濯をするのですが…。
【冬将軍のろうそく】…立春が過ぎたというのにまだまだ寒い日。ナオシさんのところを訪ねてきたのは見事な銀髪の紳士。ボダイジュかシナノキのみつろうそくを探しているというのです。
【南風のシャベル】…冷たい北風が弱まってきたある朝、訪ねてきたのはくるみさんの猫のニボシ。明日のホワイトデーのことを忘れていないかどうか確認しにやって来たのです。
【まほうの手】…日に日に雪が消えてきた4月。ナオシさんの所にやって来た見知らぬおじいさんは、ナオシさんの祖父の源吉さんのことを知っていました。なんと隈野熊太さんだったのです。

つるばら村シリーズの5作目。今回の主人公は笛吹き山で養蜂をしているナオシさん。養蜂家だけあって、トチノキやシナノキ、タンポポ、ソバ、イチゴなど、様々な花のはちみつやみつろう、みつろうそくがいっぱい登場して、今にも甘い香りが漂ってきそうです。
「つるばら村のくるみさん」で登場するナオシさんは、「ぼさぼさ頭に、毛虫みたいなまゆして、おまえだなんて、まったく、いつも、なれなれしいんだから」なんてくるみさんに思われていますが、こちらの本でのナオシさんはそんな風に馴れ馴れしいところもなく、むしろ礼儀正しい好青年に見えます。みつばちの世話の様子も細やかですし、とても気持ちの良い青年。このナオシさんと隈野さんにもモデルがいるようですが、実際にそのモデルとなる人と会って、少し雰囲気が変わったのでしょうか? ナオシさんとくるみさんとの仲は少しずつですが進展しているようですね。猫のニボシが間に入ってやきもきしているのが可笑しいです。
それにしても、みつばちが一生かかって集めるはちみつがスプーンにわずか半分とは驚きました。

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