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このページは、森絵都さんの本の感想のページです。

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「DIVE!! 1 前宙返り3回半抱え型」講談社(2003年4月読了)★★★★★お気に入り
8歳の頃から飛込みを始め、現在は中学1年の坂井知季は、同じ年のレイジや陵とわいわいと練習することを楽しんでいるものの、今ひとつ成績は振るわない状態。この3人が在籍するミズキダイビングクラブ(MDC)は、大手スポーツメーカーミズキの直営するダイビングクラブ。しかし赤字経営による存続の危機をささやかれ、最近もコーチが1人関西のダイビングクラブに引き抜かれたばかりでした。そんな彼らの希望の星は、現在高校1年生の冨士谷要一。3年連続中学生チャンピオンの実績があり、高1にしてインターハイの最有力候補と言われてる彼は、両親共に元飛込みのオリンピック選手というサラブレッド。父はこのクラブのコーチでもあります。そんなある日クラブに現れたのは、麻木夏陽子という若い女性。思わず「クラブをつぶしに来たのか」と言ってしまう知季に返ってきた答は、「つぶしに来たんじゃないわ。守りに来たのよ」。なんと夏陽子は新しいコーチだったのです。初対面の時から夏陽子は知季に興味を示し、個人的に毎朝の自主トレメニューを渡します。中学選抜の関東大会でもビリに近い成績の知季を相手に、なんとオリンピックを目指すのだと言う夏陽子。しかし実際に夏陽子の指導を受けるようになって、知季は見る間に力をつけていきます。そして夏陽子が連れてきたのは、故郷の津軽では20mの岸壁から飛んでいるという沖津飛沫。幻のダイバーと言われる沖津白波の孫でした。

飛込みという、10mの高さから時速60kmで急降下し、そのわずか1.4秒の間に空中演技を行い入水するスポーツをテーマに、少年たちの熱い物語となっています。
この物語が始まった頃の知季は、飛込みの選手としてとても中途半端な状態。既に弟からスポーツバカと呼ばれていますし、実際に飛込みの練習で忙しい毎日を送っています。しかし6年間クラブに通い続けてはいるものの、適当に練習をサボって友達と遊んでいますし、飛込みという競技に対する姿勢もそれほど真剣とは言えないもの。本人はそれでも十分真剣なつもりなのですが、特に高い目標を持っているわけでもありません。それが夏陽子の登場をきっかけに、知季はめきめきと実力をつけていきます。そして得がたいライバルも得ることに。しかしその代償はとても大きいのです。なぜ友達も勉強も旅行も恋も好きな食べ物も休日も、何もかも犠牲にしてまで飛込みをするのか、辛い思いや嫌な思いすることになってもこれからも飛込みを続けているのか、知季の中でその問題が大きく浮上してきます。しかしそのような葛藤を経て、知季も一皮剥けることに。彼のように素直な人間は、1つ迷いをふっきると強いものなのでしょうね。こうやって見ると典型的なスポ根モノと言えそうですが、しかし森絵都さんにかかると陳腐にならず、まるで違うキラキラ感を見せてくれるのが不思議なほど。きっと上辺だけの綺麗事ではないからなのでしょうね。努力しても報われるとは限らないですし、スポーツマンシップも確かに決して爽やかなだけではありません。
しかし知季の純粋さは、見せ付けられるレイジと陵にとっては、相当キツイものがあるでしょうね。陵も自分の内面のもやもやとした部分をよく知っているからこそ、スポーツが決して綺麗事ではないと知っていたからこそ、初めて負けた時に悔しさをさらけ出した要一を身近に感じて好きになったのでしょう。知季のような素直で無心で、しかも才能がある人間には、自分のもやもやとした部分を自覚させられるだけになってしまいそうです。
飛び込みは存在としてはまだまだ地味な存在の競技ではありますが、その一瞬の美しさにはいつも見惚れてしまいます。この競技らしい躍動感がたっぷり詰まった作品です。

「ショート・トリップ」理論社(2004年1月読了)★★★★
「Further sight 旅のかけら」というタイトルで、毎日中学生新聞に連載されていたという作品40編。あまり「旅」という感じはしなかったのですが、ファンタジーだったり寓話風だったり、ブラックだったり、コミカルだったりと40編の作品はとてもバラエティ豊かで、ニヤリとさせられたり、クスクス笑ってしまったりと楽しめました。時々同じキャラクターが繰り返し登場するのですが、私は王様と鈴木くんがお気に入り。長崎訓子さんの挿絵も、雰囲気にとても合っていますね。

収録作品:「究極の選択」「王様とカメと鈴木くん」「ならず者18号」「共有」「冒険王ヤーヤー」「ヒッチハイカー、ヨーコ」「時間旅行」「大きなダディと小さなフランツェ」「定められた旅」「厳然たる三色の法則」「脱サラの二人」「借り物競争」「奇跡の犬」「ザ・リトル・ファシスト」「二五00年、宇宙の旅」「いとしのローラ」「おのおのの苦情」「ミステリー・トレイン」「異文化探訪」「日曜日の朝は…」「銀色の町」「Trauma」「パン爺の旅行鞄」「紫の恐怖」「アーニャの道」「フルーティー・デイズ」「ドクター・ガナイの航海記」「ミッシング・プライド」「運命-unescapable journey-」「パッカラキン五世の生涯」「注文のいらないレストラン」「ジャンピエール・ロッシ」「帰郷」「花園」「試食の人」「月」「王様と鈴木くん」「アフター・フライ」「ビフォア・フライ」

「DIVE!! 2 スワンダイブ」講談社(2003年4月読了)★★★★★お気に入り
オリンピックへの第一歩ともいえる、アジア合同強化合宿。これは中国の飛込み界が提唱し、各国の参加を呼びかけたこのイベントには、選考会で6人の中高生が選ばれることになっていました。中国の一流コーチ陣の指導が受けられ、しかも合宿に参加すれば自動的に次期オリンピックの候補者となれるとあり、知季、レイジ、陵、要一、飛沫は国内の他の競技会を全て捨て、この選考会に目標を絞ります。そしてとうとう迎えた選考会の日。海でしか飛ばない飛沫も、初めての試合にはさすがに緊張気味。そして豪快な空中演技と、これまた豪快な入水が特徴の飛沫は、各選手10回ずつの入水によって競われる高飛び込みの最初の飛び込みを、なんとノー・スプラッシュで決め、周囲を唖然とさせます。そつのない演技にノー・スプラッシュで、要一に次ぐ2位に位置する飛沫。しかし夏陽子はそんな飛沫に、「あなたはあんな寝ぼけた飛込みをするために、津軽からのこのこ上京してきたわけ?」と言い放つのです。

「DIVE!!」2冊目は、津軽の頑固者・沖津飛沫が主人公となります。
主人公がいきなり変わったのには驚きましたが、となると、この作品は群像劇だったのですね。
点数や競技の説明もスムーズですし、飛び込み大会に出る各選手の紹介もいいですね。表立って登場しない他の選手の個性にもなかなか楽しいものがあります。それに、それを説明する要一もまたいいのです。説明の後、水戸黄門のように立ち去る姿が最高。
知季のように見る見るうちに上達しても、飛沫のように人目を惹きつける圧倒的な魅力を持っていても、それがすぐに得点に結びつくとは限りません。セコい技ばかり使う辻利彦が、試合ではいい結果を残しているのがその証拠。しかし世の中結果を見る人間だけではありません。飛沫の技は、飛込みを知らない一般人の目をも惹きつけます。それはチャンピオンである要一ですら得られない視線。しかしこれまで自分に流れる沖津の血のため、自分自身のために飛んでいた飛沫。海でしか飛ばないと言い切っていた飛沫には、敢えてコンクリート・ドラゴンで飛び、ジャッジに採点される意味が見出せないでいます。そんな飛沫は一旦津軽へと帰ることになるのですが、ここで恋人・恭子や祖父・白波の話が挿入されているのがとても良いですね。要一や知季、夏陽子らとの交流ももちろん良いのですが、この交流から垣間見える飛沫の姿は、やはりどうしても対外的な姿という気がします。同じように心を描いていても、もっと強い、外に曝け出せる部分のような気がするのです。しかし恭子と白波の2人によって描き出されるのは、もっと微妙で柔らかい飛沫の心の奥底の部分。それまで以上に濃やかに描かれ、飛沫という人物を伝えてくれるような気がします。
安定した演技をこなす要一、ダイヤモンドの瞳を持つ知季、天性の華を持った飛沫。まだまだ先は見えません。

「にんきものをめざせ!-にんきものの本3」童心社(2006年4月読了)★★★★★
今年のバレンタイン・デーには、クラスメイトの「ふじしろけいた」にチョコレートをあげた「かなえ」。しかしクラスメートの女子たちに断然人気なのは「キンキン」。「かなえ」は周囲の女子たちに、「げてものずき」「きはたしか?」と変人扱いされてしまいます。確かに「けいたくん」は、「キンキン」に比べて顔はへぼいし、足は短いし、勉強もできないし、スポーツもダメ。しかし「かなえ」は、「けいた」のいいところを沢山知っているのです。

にんきものシリーズ第3弾。
「かなえ」だけが「けいた」の素敵な部分に気づいている、という言ってみればありがちな展開とも言える物語なのですが、思わず微笑ましくなってしまうような可愛い作品となっています。自分だけが「けいた」の素敵なところを知っていることを「嬉しいこと」だと受けとめ、自分の気持ちに素直に向き合う「かなえ」が可愛らしいからなのでしょうね。周囲に何を言われても、「かなえ」は自分が「けいた」のことを好きなことを恥ずかしがったりしません。それは簡単なようでいて、実は難しいことなのではないでしょうか。そして周囲にはいつも元気いっぱいの女の子に見えていても、「かなえ」には「かなえ」なりの繊細な部分もあるのです。
笑える度合いは最初の2冊に比べて減っているのですが、それでも幸せな気持ちで閉じられる作品でした。前の2冊は幼稚園の子供でも楽しめると思うのですが、こちらは小学校2〜3年ぐらいが対象年齢でしょうか。女の子が主人公のせいか、ほんの少しですが大人っぽい話になりますね。

「にんきもののはつこい-にんきものの本4」童心社(2006年4月読了)★★★★★
クラスの男子に人気者の「きさらぎまいこ」は、女子からは嫌われ者。男子の前でだけか弱いふりをしているぶりっこだと、女子の間での評判は最悪。しかし「まいこ」に言わせれば、「もてるためにがんばってなにがわるいのよ!」。実は「まいこ」は、プロポーションを保つために毎朝6時に起きてジョギングをしたり、鏡に向かって笑顔の練習をしたり、半径5メートル以内に男子が来たら声を高くするなど、日々の努力を積み重ねているのです。そんな「まいこ」の将来の夢は、「ましょうのおんな」になることでした。

にんきものシリーズ第3弾。
小学校の時にこんな女の子いたなあ、と懐かしくなるような話。もちろんその時の「きさらぎまいこ」は自分ではなく、「他の女子」の立場から「きさらぎまいこ」を眺める立場。しかしこの本で「きさらぎまいこ」の立場に立ってみると、男の子の前で可愛い子ぶっている彼女が、やけに可愛く見えてきます。誰も知らないだけで、彼女は日々努力しているのです。その努力を誰が責められるでしょう。彼女は彼女なりに自分の生き方を模索していただけなのです。それが他の女子にはあからさまに見えても、それはまだ「まいこ」が小学生の女の子だから上手く立ち回りきれないだけ。彼女が今の彼女に至った経過を考えると、とても健気な女の子に見えてきますし、開き直る気持ちが良く分かります。それでも、最後に本当に大切なものに気づいた「まいこ」が、お母さんに言った台詞が良いですし、「まいこ」の変化をクラスの女子たちが敏感に察知しているところも嬉しいです。
この作品は、シリーズの中でも一番大人っぽいです。「ましょうのおんな」などという言葉も出てきますし、小学校高学年以上の女の子の方が楽しめそうです。

「あいうえおちゃん」理論社(2006年4月読了)★★
森絵都さんの文章と荒井良二さんの絵によるあいうえお絵本。

「あきすに あったら あきらめな」「いんどに いったら いんどかれー」など、リズムのある文章が沢山。やはり小さな子供用の本なのだろうと思いながら見ていたら、中には「しごとに しっぱい しゃっきんく」「そろいも そろって そらわらい」「そうりも そろそろ そだいごみ」「なんでも ないよと なまへんじ」「みんなを みちびく みのもんた」「りんぐで りゅうけつ りきどうざん」「りょうしん りょうほう りすとらちゅう」など、あまり子供向けとは言えないような文章も目について驚きました。むしろ大人向けの絵本だったのでしょうか。子供と一緒に見ている時に、そういった文章を子供にどうやって説明するのでしょう? 対象年齢が良く分からない収まりの悪さを感じます。子供向けならもっと子供向けらしく、可愛らしくして欲しかったと思いますし、大人向けならばもっとブラックにしても楽しかったのではないでしょうか。今の状態では、どちらともつかず中途半端です。
しかし読んでいると、自分でも1つ2つ捻り出してみたくなってきますね。

「DIVE!! 3 SSスペシャル’99」講談社(2003年4月読了)★★★★★お気に入り
予定よりかなり早くオリンピック代表が内定したという知らせがMDCに入り、戸惑う面々。選ばれたのは関西の実力者・寺本健一郎と、要一の2人でした。いつかは必ずオリンピックにと思っていた要一も、選考会を抜きにした、あまりに早い内定に戸惑います。しかも3人の枠があるはずなのに、2人しか代表になれないというのです。しかし要一自身とは関係のないところで、既に何かが動き出していました。ミズキ本社に呼ばれた要一は、自分がCMに出演することも既に決まっているのに驚かされます。内定が決まったばかりだというのに、CMの筋書きまで決まっているのはなぜなのか、そもそも早すぎる内定が出されたのは何故なのか。そしてなぜ3人の枠が2人になってしまったのか。頭痛を理由に練習を休んだ要一は、それから1週間ずるずると休み続けることに。しかしそんな要一を次に驚かせたのは、中国の若手選手を招いて日中親善試合を開催し、その成績を元に決めたという格好を装って内定を発表するという知らせでした。試合を始める前からなぜ成績の予測がつくというのか。それならばなぜその親善試合を正式な選考会としてしまわないのか。要一はこれの知らせをきっかけに練習へと戻るのですが、1週間のブランクは大きく、これまでにないスランプにはまりこんでしまいます。そしてどうしても釈然としない要一は、とうとう日水連の前原会長に面談を申し込むことに。

「DIVE!!」3冊目。1巻の未完の大器・知希、2巻の天性の華・飛沫に続き、ハンサムでクールな優等生・冨士谷要一が主人公となります。
自分自身の実力で勝ち取ったはずのオリンピックへの切符。もちろん実力としては十分です。しかしそれが誰かのお膳立ての上に用意され、自分はその上で踊らされているだけではないのかと思ってしまった時、これまでの要一の緊張の糸がぷっつりと切れてしまったようです。自他共に認める才能を持ち、しかしその上に努力を怠らず、常に自分を磨いてきた要一。「疾走しつづける自分の迷いなき背中のみが敗者への餞だ」と考え、飛込みのために犠牲にしてきたものも飛込みのためと割り切ってきた要一。そんな彼がここまで何かに拘るのは、もしかしたら生まれて初めてなのかもしれませんね。それはやはり自分のアイデンティティに関わることだからなのでしょう。もちろん大きなチャンスには違いないですし、今大人しく受けておかないと5年後9年後にはもうチャンスはないかもしれません。それでも結果的に自分に素直に行動してしまう要一。熱いですね。現実の世界でこの行動に出られる人間は、そう多くないはず。というよりも、ほとんどいないのではないでしょうか。相変わらずの優等生ではあるのですが、しかし今までひたすらカッコ良さを追求し、自分が一番であるためにひたすら努力を重ねてきた要一がここで見せたカッコ悪さは、彼を一段と魅力的にしているようです。ただの優等生なんて、面白みがないですものね。それに「イケてる」はずの要一が、敢えて自分の挑戦する技に「SSスペシャル’99」などというダサいネーミングをするところがまたいいですね。(笑)

「DIVE!! 4 コンクリート・ドラゴン」講談社(2003年4月読了)★★★★★お気に入り
1999年、シドニー・オリンピックの代表の座をかけた選考会が行われます。寺本健一郎の代表はほぼ確定として、2人目の代表に対して前原会長の出した条件は600点以上の点数をとること。自分で夢を掴むために一度は代表の座を蹴った要一も、腰に爆弾を抱えている飛沫も、素晴らしい成長ぶりを見せている知季も、オリンピックへの夢はほとんど諦めているレイジも、皆神戸へと集まります。しかしそこには大きな番狂わせが。なんと要一が高熱を出していたのです。

「DIVE!!」4巻目。最終巻です。
この1冊だけは特に誰が主役ということもなく、知季、飛沫、要一の3人はもちろん、夏陽子、冨士谷コーチ、そして彼らの周囲の人々の視点を通して多角的に語られていきます。物語はいよいよ試合に入り、1章ごとに飛込みも1巡するという構成。誰も唯一の主人公ではないということは、試合に臨んでいるそれぞれが主役ということ。「最終的にはおそらく○○だろう」とは思っていても、最後の最後まで予断を許しません。断片を繋ぎ合わせたような描き方は緊迫感たっぷり。それぞれの思惑や憶測が絡み合い影響し合い、思わぬ焦りや高ぶりを呼び起こします。そして各章の終わりにはその何巡目かの結果が書かれており、物語は否応なしに盛り上がっていくことに。文字だけで、これほど飛込みを臨場感たっぷりに味わうことができるとは驚くほど。
知季、飛沫、要一の3人はもちろん、冨士谷コーチにも夏陽子にも、これまで脇役だったレイジにも、飛沫の恋人・恭子や祖母の文にも、知季の弟・ヒロや未羽にもスポットライトは当たります。ピンキー山田にすら。たとえ試合に出場しなくても、試合に臨むそれぞれにそれぞれの時間とそれに対する想いがあります。それにしても、ピンキー山田がこんな風に物語に食い込んでくるとは驚きました。(笑)
そして試合が終わった時。物語はいきなり暗い屋内からシドニーの青空へ。やはり予想通りの奇跡的で綺麗なハッピーエンドとなりましたが、それまでの緊迫感たっぷりの過程もとても良かったので大満足。読んでる側をも思いっきり熱くさせてくれる、素晴らしい作品でした。

P.189「うん。余裕じゃきっとだめなんだ。もっとぎりぎりの、危機一髪の、もうダメってくらいにならなきゃ、メロスは燃えないんだよ」

「永遠の出口」集英社(2004年1月読了)★★★★★お気に入り
岸本紀子の家族は、両親と3歳年上の姉の景子の4人。幼い頃の紀子は、「永遠」という言葉に弱く、姉から「永遠に」「一生」「死ぬまでもう見られないのね」、などの言葉を言われるたびに、焦燥感に襲われ、自分が見逃してしまった何かを嘆いているような子供。しかし「永遠に〜できない」もののあまりの多さを観念した時、初めて姉の言葉にも動じなくなり、ようやく永遠の出口へと辿り着くのです。

9つの章では、紀子の小学校3年生の時から高校卒業の時まで、1つずつ年をとっていく紀子の姿が連作短編集的に描かれていきます。小学校の時のお誕生会のこと、魔女のような女教師のこと、小学校時代との決別、そして訪れる中学生時代…。それは現在起きていることを書き綴っていったというよりも、愛情たっぷりに過去を振り返っているというスタンス。しかもそこに登場する「パティ&ジミー」や「キキとララ」などのサンリオの小物、「トシちゃん・マッチ・ヨッちゃん」のアイドルの姿が、なんとも懐かしいですね。「各グループに一人はいた(というか、一人しかいなかった)ヨッちゃんファン」という言葉や、そんなたのきん全盛期に、新沼謙二ファンが混ざっていたという状況は、本当にそうだったなあと笑ってしまいました。友達との関係では、お誕生日会に呼び合ったこと、「電話する」「手紙書く」と言いながらも、学校が違えば疎遠になっていく友達のこと、「大人から見た自分とここにいる自分との間に太陽系ほどの開きがあるのを感じた」こと、まだ教訓など何1つ身につけていない最初の恋愛の話など、こちらも読んでいると自分自身の少女時代のことをしみじみと思い出さずにはいられなかったです。ノスタルジーたっぷり。
たとえ時代が変わっていっても、10代の頃の思いというものはそれほど変わらないはず。そういう意味では、とても普遍的な物語とも言えるのでしょうね。紀子の生き方には起伏があるにせよ、その姿は常に淡々と描かれているだけ。それでも「普通」「平凡」という言葉の持つ底力を見せ付けられたような気がしました。変に教訓めいた部分がないのもとても良かったです。

「ぼくだけのこと」理論社(2006年5月読了)★★★
さんにんきょうだいのなかで、ぼくだけ、みぎのほっぺにえくぼができる。ごにんかぞくのなかで、ぼくだけ、いつもかにさされる。クラスのなかよししちにんぐみのなかで、ぼくだけさかだちあるきができる。にじゅうよにんのクラスメイトのなかで、ぼくだけ、げいのうじんのサインをもってない。がっこうのよんひゃくごじゅうにんのせいとのなかで、ぼくだけ、ひんけつをおこしてたおれた。ぼくだけができること、ぼくだけができないこと、いろいろの絵本。

森絵都さんの文章とスギヤマカナヨさんの絵による絵本です。
「ぼく」である「ようたくん」が、自分だけができること、自分だけができないことなどを1つずつ挙げていきます。そのそれぞれに、周囲の人間の証言が載っているというのも楽しいところ。良いことも悪いことも、嬉しいことも情けないことも、自分1人だけのことだと考えると、それが特別に思えてきて、自分のことがもっと好きになれそうですね。
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