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このページは、森崎朝香さんの本の感想のページです。

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「雄飛の花嫁-涙珠流転」講談社X文庫(2005年5月読了)★★★★★お気に入り
綏国(すいこく)公主・珠枝(しゅし)は、綏の3代目の王であった先王・淙燿昊(そうようこう)とその寵妃・彩珠の娘。しかし燿昊は珠枝が10歳の時に崩御。高貴な生まれではないどころか、両親もおらず、燿昊が宴で偶然見初めた舞姫であった彩珠の地位はたちまちのうちに転落。珠枝もまた、王大后である淙淑凰の冷たい視線にさらされるようになります。そして2年後、彩珠は流行病であっけなくこの世を去ることに。それからというもの、珠枝は後宮の中で1人ぼっち。現在綏王となっている異母兄・燿桂や異母妹・仙華は珠枝に優しいものの、誰もが認める公主は愛くるしい仙華のみなのです。そんなある日、北方の新興国・閃(せん)が急速に領土を拡大しながら南下、綏にも肉迫。苦しい睨み合いの中、閃からの使者が和睦の条件として要求したのは、閃の国王と綏の公主との婚姻だったのです。そして選ばれたのは珠枝。3年で迎えに行くという燿桂の言葉を頼みに、珠枝は閃王・巴飛鷹(はひよう)の元に嫁ぐことに。

物語としてはとてもオーソドックス。意外な展開もほとんどなく、安心して読めます。しかしこれが読ませてくれるのですね。不安と緊張のあまり思わぬ行動をとってしまう珠枝の危うさやいじらしさがとても切なく、胸に迫ってきます。相対する飛鷹もいいですね。珠枝が本当の気持ちに気付いた時の飛鷹の見せる小さな焦りと、「落ち着かなくていい。逃げる必要もないんだ、公主。泣いていい。」という言葉が何とも言えずに良かったです。飛鷹の包容力がとても素敵。2人の関係はとても微笑ましいですし、読んでいて心が暖かくなるような気がしました。
そして燿桂も最後には、自分が失ってしまったものの大きさに気付くことになるのですね。飛鷹と珠枝のことを考えると、彼の意志の弱さや行動力の欠如が有難く感じるのですが…。そんな燿桂に無邪気に甘える仙華の姿は、愛らしいどころかむしろ痛々しく感じられます。何事も起きなければ、彼女も愛らしいままでいられたのにと思うととても皮肉。この辺りの描写もとても細やかで良かったです。

「天の階-竜天女伝」講談社X文庫(2005年5月読了)★★★★
皇太子であった15の頃から3人、死産を加えると実に7人もの子供に恵まれている乾王朝5代目皇帝・炯明。しかしその子供のことごとくが女児。男児が生まれないことに一抹の不安を抱いていた炯明帝は、1人の仙人に相談します。その仙人の答は、11年前の仲秋の満月の晩、星が流れた頃に生まれた女児が、少なくとも1人は男児を生むとのこと。早速国中に高官たちが散り、条件に合う女児を捜し求めます。そして全国で9人の女児が見つかり、7年後、揃って後宮へと迎え入れられることに。

「雄飛の花嫁」とは同じ世界の物語ですが、直接的な繋がりはなく、何百年も経った時代が舞台となっています。「雄飛の花嫁」の珠枝や飛鷹は、歴史の中の人物として登場。
酒見賢一さんの「後宮小説」を彷彿とさせる設定。しかしこちらは少々人数が多すぎたようにも思います。9人のうち名前が登場し、多少なりとも人となりが分かるのは、2人の姉の美しさを羨む安錦華、才色兼備な宰相の娘・ケ玉鳳、本が何よりも好きな海霞、母思いの愛蓮、身体の弱い祥明の4人だけ。あとの5人はどうなったのでしょう。陳徳妃などは、完全に名前だけの登場です。9人という設定にするなら、9人ともに一度はきちんと触れ欲しかったですし、4人しか触れていないにも関わらず、その4人の描き方掘り下げ方はごく浅いもので、かなり物足りなく感じられてしまいました。「最後に選ばれるのは誰なのか」というミステリ的な興味を引くためだったのかもしれませんし、中国風の物語ということで、書き手には9という数が重要だったのかもしれません。しかし読み終えてみれば、4〜5人もいればそれで十分だったという印象。
そして後宮での寵争いの一方で、同じ時に生まれたらしい月季のことが語られるのですが、この2つの流れもあまりしっくりと馴染んでいなかったように思います。彼女に関してラストに明らかになる真相も、現実感を失うだけの結果だったよう。それまでは面白く読んでいただけに、すっかり拍子抜けしてしまいました。「雄飛の花嫁」が良かっただけに、色々と欠点が目についてしまったのがとても残念。それでもしっかりと読ませる物語を書く作家さんだと思うので、今後の作品にも期待です。
そういえば、この王の名前は「炯」。「雄飛の花嫁」に登場する蓮と同じ苗字なのですね。彼女と何らかの繋がりがあるのでしょうか。炯王朝の興る物語も読んでみたいものです。

「翔佯の花嫁-片月放浪」講談社X文庫(2005年9月読了)★★★
10歳の時に生まれ育った城が閃の攻撃によって焼け落ち、母を失った瓔国公主・香月は、16歳の時に閃の2代目の王・巴翔鳳に嫁ぐことになります。表向きは、閃と瓔の和睦のため。しかし香月にとっては、母の命を奪った巴翔鳳を暗殺するため。香月は4年もの間、刺客としての訓練を受けていたのです。しかし1ヶ月経っても、香月の寝所を訪れようとはしない巴翔鳳。痺れを切らした香月は、瓔から連れてきた侍女・夏葉と共に巴翔鳳の元に忍び込みます。しかし機会は掴みながらも暗殺は敢えなく失敗。それでも巴翔鳳は香月を捕らえようとはせず、逆にその日から香月の元へと通い始めたのです。

「雄飛の花嫁」で登場した新興国・閃もこの物語の頃には建国50周年。初代閃王・巴飛鷹も代替わりして今は2代目の巴翔凰の治世。巴翔凰は巴飛鷹の孫に当たり、香月が嫁いできた時点では、珠枝は15年ほど前に亡くなっているようです。
「雄飛の花嫁」のように、すれ違いから徐々に惹かれあうパターンかと思いきや、これはまた違う物語なのですね。とても切ない物語。しかし意外性を突いてくれるのはいいのですが、奇をてらいすぎたという気もします。これならば、ありきたりでも予想通りの物語を気持ち良く読ませてもらった方が良かったような…。あくまでも覇気のない王にはまるで惹かれませんでしたし、彼がいい所を見せてくれるのは、本当に最後の最後だけ。香月にも感情移入できませんでした。2人が不器用なのは分かるのですが、結局これでは恋愛以前の問題です。その辺りをきっちりと描いてもらわないと、物語の中に入り込むことができません。しかも彼の出奔の謎はまたそのうち別の物語となるのでしょうか? そうでないのならば、その辺りをきっちりと説明して欲しかったのですが。
悪くはなかったのですが、3作で徐々にパワーダウンしているような気がして心配。この世界の雰囲気はいいだけに、もう少し頑張って欲しいところです。

「鳳挙の花嫁-朱明探求」講談社X文庫(2006年3月読了)★★★★★
呂朱桃は、綏の後宮に勤める18歳の少女。貴族の家に生まれながらも母は亡くなり、亡くなるとすぐに父が愛妾とその子供3人を家に入れたため、母の実家で伯母に育てられていました。伯母はかつて公主・珠枝が閃に嫁いだ時に同行した玉梅。蛮族に馴染むことが出来ずに帰国した玉梅は既に後宮に戻ることもできず、国王の口利きで結婚するものの、夫はすぐに愛妾を作って家を出てしまい、今は珠枝を怨んで愚痴をこぼす毎日。周囲にまるで味方がいなかった朱桃は7歳の時に舞に出会い、良い師匠についたこともあって、ぐんぐんと上達。そして朱桃の舞を見た官吏の口利きで、14歳の時に後宮に上がることになったのです。そして18歳になった朱桃は、ある日国王・燿桂に呼ばれ、綏の重臣・曹仲英と共に閃に赴くことに。任務は、年老いた閃王・巴飛鷹の跡を継ぐ孫の巴翔鳳の人物を見極めること。国王・燿桂と王妃・仙華の1人息子・燿環は見るからに暗愚であり、燿桂は自分の死後、綏を閃王に託すことを考えていたのです。

「雄飛の花嫁」「翔佯の花嫁」の間の歴史を埋めるような物語。この作品では、燿桂は既に64歳、巴飛鷹は燿桂よりもさらに年上で、珠枝は10数年前に亡くなっています。
巴翔鳳とその従弟・稜伽の関係は、「翔佯の花嫁」に直接繋がってくる物語。前2冊が不調だったので読むのを迷いましたが、結果的には「翔佯の花嫁」で分からないまま残されてしまっていた部分や納得できなかった部分を今回の物語で補完してもらえて大満足。稜伽の性格もこれでようやく掴めました。題名に「花嫁」とはあっても、朱桃は政略結婚の駒として考えられているわけではないので、恋愛色は薄め。むしろ、それほど深く掘り下げるわけではないですが、国に対する考え方や誇りがテーマです。今回好きだったのは、まず閃にある廟のシーン。そして舞のシーン、特に巴翔鳳と舞うシーンが良かったです。
森崎さんはあとがきで「ハッピーエンドとは言いにくい結末」と書いてらっしゃいましたが、これはある意味きちんとハッピーエンドになっているのではないでしょうか。なぜそこで引いてしまうのかという気持ちはありますが、「翔佯の花嫁」の展開も既に分っていましたし、希望が十分持てるラストですし。この作品と「雄飛の花嫁」「翔佯の花嫁」で綺麗に3部作になっていると思います。
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