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このページは、茅田砂胡さんの本の感想のページです。

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「レディ・ガンナーの大追跡」上下 角川スニーカー文庫(2002年2月読了)★★★★
エルリッヒ伯爵とその友人たちが作っている「奇抜倶楽部」。この回の趣旨は、珍しく優れた物を持ち寄って競うということ。3ヶ月に1度会合を開き、その時の題目に合わせて、これはという物を持ち寄って披露するのです。そして次回の題目は「変化するインシード」。本来インシードは、人間との混血になることによってその種の特徴を失い、人間そのものの外見と能力しかないもの。しかし前回の会合の時に、バーンホーフ氏が持参したのは、半人半馬へと形態変化(トランスフォーム)を遂げる少女だったのです。そんなある日、所用のためバナディスを訪問したヴェンダース氏は、バナディスに住んでいる妹の家を訪れ、そこの娘・シンシアからキャサリンが美術の授業で描いた絵の話を聞きます。キャサリンは体は人間、上半身は羽毛に覆われ、背中に大きな翼を生やしているベラフォードの絵を描いていました。そして、他にも変身できるインシードの行方を追う人々がキャサリンの周りに出没。キャサリンはニーナと蛇のヘンリーと共に、ゲルスタンへと向かうことに。

異種人類(アナザーレイス)と無形種(ノンフォーマー)の人間たち。そしてそれぞれの種族の純血種と混血。さまざまな種族の違う者たちが共存するためにはどうすればよいのか…。六カ国の人間の代表と、異種人類たちの会議はかなりの見物ですね。本当に人間の愚かしさを再認識させられてしまいます。それに普通の人間とインシードの区別もできないくせに、相手が「けだもの」だと思い込みたい人間たち。こういう人たちは集団になると、恐ろしいパワーを発揮します。そして起きるのは、中世の魔女狩りと同じ現象。人間というのは、なぜ別の存在と上手く共存できないんでしょうね?同じ人間同士でも、人種や宗教、外見が自分と違うというだけで、同じ人間だとは認められないという人もいるようなので、無理もない話なのかもしれませんが。でもいくら美男美女になるとは言っても、私も基本的に爬虫類は苦手だし…。あ、でも私の場合は、大切だと思う存在なら人でも動物でも構わないです。ましてやちゃんと人間に見える人たちなんだったら、まるで問題ナシ。…ということが主題テーマかとは思いますが、話自体は決して教訓めいたものではなく、ごくごく楽しい冒険小説です。後半のキャサリンの勇敢な行動力と聡明な先制パンチには拍手。

「真の淑女とは人前で暑くなったり、寒くなったり、お腹が空いたり、疲れたりしないもの」
キャサリンの学校の礼儀作法の先生の言葉が耳に痛いです。

「レディ・ガンナーと宝石泥棒」角川スニーカー文庫(2003年3月読了)★★★★
ゲルスタンでの事件で知り合ったミュリエルに招かれて、キャサリンはローム王国へ。ローム王国では現国王が即位10周年、皇太后が60歳の誕生日を迎え、さらに国王に待望の王子が誕生ということで、祝賀式典が開かれることになっていたのです。ミュリエルに招かれたキャサリンは、学校の夏期休暇を利用してローム王国へ。しかし行きのゴールド・メダリオンの船上でキャサリンは、裕福な家に育ったらしい女性がジェネロという名の召使と思しき男性と駆け落ちの相談をしているのを耳にしてしまいます。父親の意思にそむいて駆け落ちをするなど決して許されず、もしそれを本気で決行しようとするなら、周囲の人間はまず何が何でも止めるのがキャサリンの生きる世界の常識。今度こそ平穏無事な旅行をするつもりだったキャサリンは、その話を聞かなかったことにしてしまうのですが、しかし声しか知らないその女性とローム王国で再会することになってしまい、結局宝石盗難事件にまで巻き込まれることに。

前回に比べて格段に明るい物語となっています。教訓めいた部分もなくなるわけではないですが、今回はかなり薄められていますね。前回も特に気になったわけではないのですが、今回はそれ以上に楽しんで読めました。これまでは無形種(ノンフォーマー)の人間たちが圧倒的に悪役となっていましたが、今回は逆。そういう面もとても好感が持てますね。ノンフォーマーにばかり悪役をやらせるというのも、考えてみれば逆差別のようなものですから。そして今回も異種人類(アナザーレイス)たちが賑やかに活躍してくれますし、ミュリエルとダムーの関係にも、ほんのちょっぴりですが変化が訪れそうな兆し。今後の展開も楽しみです。
ローム王国のイメージはそのものずばりイタリア。ゲルスタンはドイツでしたものね。街並みの描写や人々の雰囲気など、イタリアを想像して読むとまた楽しめます。(その割にミュリエルという名前がイタリアっぽくないのですが、これは先に決められてしまっていて、仕方がなかったのでしょうか。)ただ、表紙はきっとキャサリンとアンジェラとミュリエルですよね。どう見てもミュリエルが美少女には見えないのが気になるのですが…。

「レディ・ガンナーと二人の皇子」上中下 角川スニーカー文庫(2006年5月読了)★★★★
フロレンティア滞在中にエルディア国王の訃報を聞いたキャサリン・ウィンスロウは、父であるエリオット卿と共にエルディアへ。キャサリンは、初めて知ったエルディアの特殊なしきたりに驚かされます。必ず直系男子が王位を継がなければならないとされているこの国では、息子がいることが国王となる大きな条件。そのため皇太子には、16歳になると妃八家と呼ばれるエルディア国の8つの有力な貴族の家柄の娘たちが側室に送り込まれ、現在まだ独身の28歳の皇太子にも12歳の息子が既に5人いました。先に生まれた5人の息子たちが次期皇太子となる権利を持ち、新国王が即位する時に次期皇太子が定められ、国王はその息子の母親と結婚するのです。そして一方、その頃エルディア有数の漁港・エルラドの魚河岸の一角の食堂では、ケイティとダムー、ベラフォードの目の前でとヴィンセントが見知らぬ2人の男に連れ去られていました。

上下巻になる予定が、上中下巻となり、結局完結まで2年も待たされてしまいましたが、今回もドタバタぶりが楽しかったです。エルディアの貴族たちの見事なまでの自己中心的な物の考え方や、それらの人々に振り回される娘たち、息子たちが気の毒ではありましたが、そういった因習を吹き飛ばしてくれるキャサリンや異種人類の仲間たちの活躍はやはり気持ちいいですね。特に今回初登場のギデオン伯爵や鷲のドーザがかっこよかったです。
今回のエルディアのイメージはスペイン。やはりイタリアの次はスペインが隣国ということになるのでしょうか。次々に違う国がモデルとなっているらしいところも、このシリーズのお楽しみの1つですね。

「大鷲の誓い-デルフィニア戦記外伝」中央公論社C★NOVELS(2006年5月読了)★★★★★
ラモナ騎士団のナシアス・ジャンペールとティレドン騎士団のノラ・バルロが出会ったのは、2人がまだ叙勲前の騎士見習いの時。デルフィニアに数多く存在する騎士団たちの親交を計るために開かれる対抗試合で、ナシアスが並み居る強豪を次々と打ち倒して勝者となった時、まだ10代始めだったバルロがナシアスに挑んだのです。勝負はあっという間につきます。ナシアスの圧倒的勝利。叩き落された剣を拾おうともせずに、背を向けるバルロ。しかしその時、ナシアスはバルロに礼を逸していることを指摘したのです。格式高い家柄と影響力から第二の王家とも言われる大貴族・サヴォア公爵家の1人息子であるバルロは、これまで自分の歓心を買おうと必死になる人間にばかり取り囲まれて育っていました。自分の言いなりになる人間に慣れているバルロは、サヴォアの名にも家格にも左右されないナシアスに興味を抱きます。

デルフィニア戦記外伝。
中心となるのはナシアスとバルロであり、ウォルもほとんど登場しないどころか、リィは名前だけの登場です。「スカーレット・ウィザード」はまだしも、「暁の天使たち」以降の、ただオールスターを勢ぞろいさせた内輪受けの遊びといった作風に馴染めず、茅田さんの作品に対する興味すら失いかけていた私ですが、この作品はかつてのデルフィニア戦記の雰囲気でとても楽しめました。本編を楽しんだ人なら誰でも、にやりとしながら読めるのではないでしょうか。そしてそれ以上に、少年時代のナシアスとバルロの出会いややり取りが良かったです。2人の出会いはこの年齢、このタイミングならではと思えるもの。これより早くても遅くても、親友にはなれなかったでしょう。本編からも想像のつく、傲慢なバルロに冷静なナシアスの少年時代の姿ですが、やはりさすが茅田さん、読ませてくれます。その後の本編とも重なる時期のエピソードに関しては、個人的にはなくても良かったように思えるのですが、それでもあの世界に再会できて本当にしみじみと嬉しくなりました。
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