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このページは、神月摩由璃さんの本の感想のページです。

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「幾千の夜を超えて」現代教養文庫(2005年1月読了)★★★★★お気に入り
【緑なす夢】…初夏の午後。1人の年老いた魔道師が大きな木の根元で、若い頃の思い出を語り始めます。彼は神秘の大森林で真理を悟り、さらにエルフに学ぶことになったのです。
【リュスリナの剣】…ティーナン草原の草の民・レューシャは、銀の角笛を求めて旅に出たまま行方を絶ったリュスランを探しに、部族に伝わるリュスリナの剣を持って旅に出ます。
【幾千の夜を超えて】… 幼い頃に両親を亡くした「忘れられた詩」の一族・ジェイは、航海の間に知り合ったオルフラムという男と、20年ぶりに生まれ故郷・レックランドへと向かいます。

同一の創作神話世界・フォワイエルを舞台にした3編の物語。
「緑なす夢」はエルフの村で学んだ老魔道師の思い出、「リュスリナの剣」は草の民・レューシャの旅、「幾千の夜を超えて」は、忘れられし詩の一族(ウヴリエヴェル)のジェイと、舞台は同じでも直接的には関係のない物語です。おそらく時代も相当流れているのでしょうね。物語としては「幾千の夜を超えて」が総括的な1編となっていますが、登場する人間たちよりもむしろ、この世界が主人公となっているのだといった感じ。美しく端整な描写から、タニス・リーを思いおこしましたが、闇の妖しさを思わせるタニス・リーに対して、神月摩由璃さんは月光の清冽さを感じさせるような気がします。特に表題作「幾千の夜を超えて」の描写が素晴らしいですね。しかしこの神話世界の世界観は本当に素晴らしいのに、これだけでお仕舞いとは勿体無さ過ぎる気がします。もう続きは書かれないのでしょうか。
本のカバーの裏にこの世界の地図が載っていたのには驚きました。これを見ると、世界の広がりが実感できますし、3つの物語の舞台となっている場所が全く違うのが良く分かります。森川珠衣さんによる作中のイラストも素晴らしいですね。

「SF&ファンタジー・ガイド-摩由璃の本棚」現代教養文庫(2005年5月読了)★★★
ゲーム雑誌「ウォーロック」に3年に渡って連載されていたという、SF&ファンタジー作品の紹介を1冊にまとめたもの。

全37章で紹介されている作家は40人以上。シリーズ物も多く紹介されているので、本の冊数にしたら相当の数が紹介されていることになります。本の紹介と一緒に語られる文章は、軽快なエッセイそのもの。…と言いたいところなのですが、ゲーム雑誌ということで対象となる読者が10代中心となるせいか、「幾千の夜を超えて」とは文体がまるで違うのですね。ティーンズ文庫を読んでいるような文章。☆や★といったマークも多用されており、私にとってはそれが非常に読みにくかったです。
とは言うものの、紹介されているSF&ファンタジー作品はとても面白そうなものばかり。この本は1989年に出版されていますし、それから15年、この本自体既に絶版となっています。そしてこの本に紹介されてはいても、その15年間に絶版や品切れとなり、現在では入手が難しくなってしまったという作品も多そうです。しかし神月摩由璃さんが「幾千の夜を超えて」を生み出した作家であること、そしてここに紹介されている本で私が既読のものは全て本当に面白いことから、かなり信頼性の高いレビューなのではないかと思っています。紹介されている本、少なくとも小説関係はいずれ読んでみたいものです。

「花輪竜一郎さんの優雅な生活」ハヤカワハィ!ブックス(2006年1月読了)★★★
【花輪竜一郎さんの優雅な生活】…目が覚めると、ベッドから半分ずり落ちていた若手ライトSF作家の花輪竜一郎。締め切りはとっくに過ぎており、ケンタウルスが原稿を取りにやって来て…。
【ミノタウロス計画】…ケンタウロスのルドルフの実家の牧場を訪ねた竜一郎。しかし豊穣祈願の夏祭りを控えて賑やかな牧場の養鶏場に何者かがバジリスクを放ち、大騒ぎになります。
【入居者募集中!】…ブラウニーの不動産屋から鍵を受け取り、早速引越しを始める竜一郎。しかしブラウニーに言われた通りにきちんと注意書きを読んでいると…。
【魔法使いの丁稚】…突然の土砂降りの雨。竜一郎の部屋の窓から飛び込んできたのは、プテラノドンによく似た小竜・ハネ吉。ミニ竜便の配達先が1つ分からなくて困っていたのです。
【決闘、めごヶ原】…ピッツァ・ルドルフとケンタウロス・フライド・チキンの上り調子にはらわたが煮えくり返る思いのミノタウロスたちは、ケンタウロスたちに果たし状を渡します。
【西部温泉以上ナシ】…年末の福引で温泉旅行が当たった竜一郎は、雪を眺めながら露天風呂にのんびり。しかし作家竜も編集者もハネ吉も言う<おちかづき>とは…?

交番ではケルベロスが居眠り中、牛丼の美濃屋では愛想の良いミノタウロスが牛丼を作り、隣の菓子屋には寡黙がゴーレムが人形焼を作っています。ヒドラの交通整理、信号代わりに出てくるのはチェシャ猫。ついふらふらと線路に飛び込みたくなるほど魅力的な、地下鉄の構内アナウンスはおそらくセイレーン。地下鉄を走るのはドラゴン。そんなファンタジー好きにはお馴染みの存在が楽しげに動き回り、しかも笑えるネタも詰まっているのですから堪りません。クトゥルフの影響も濃いのでしょうね。そちらは残念ながらあまり良く知らないのですが、ギリシャ神話はもちろん、作中に名前が登場していたトールキン、C.S.ルイス、ロイド・アリグザンダー、ルイス・キャロル、W.B.イェイツやブルフィンチ辺りは大好き。雪女や水戸黄門、南総里見八犬伝などの時代劇のパロディなどもあり、分かったものに関しては十分楽しめました。気楽に楽しめるファンタジーです。

「リュスリナの剣-暁の書」ハヤカワ文庫ハィ!ブックス(2006年1月読了)★★★★★
3つの月が夜空を統べる艶やかな夜の草原。草の民・イシュワル族の娘・レューシャは、<娘たちの祭>の最後の日が来る前に旅立とうとしていました。そこに現れたのは、白い被り布を被った背の高い男。それはレューシャの異母兄・アズュルでした。アズュルに問い詰められたレューシャは、リュスランを探しに行くのだと答えます。リュスランは3年前、15歳の時にオラジェウスのキャラバンに加わって一族を離れて旅に出たのですが、1年後の<娘たちの祭>までに帰るという約束にも関わらず、もう2年以上が経っていたのです。アズュルはリュスランはもう死んだのだとレューシャに言い聞かせます。しかし旅に出る前にまじない師の老婆に託して行った香命木の火はまだ燃えており、冬の終わりからレューシャはリュスランが助けを求める夢を見続けていたのです。

「幾千の夜を越えて」の中に登場していた「リュスリナの剣」がが元となっている物語。最初読んだ時もタニス・リーを思い起こしましたが、やはりアズュルやリュスランという登場人物の名前にも影響が感じられますね。ここで描かれる世界もまた、タニス・リーほどの妖艶さはないものの、幻想的な美しい世界。草の民たちに伝わるというルグナンとイゾルの伝説もとても効果的に世界を構築していると思いますし、草の民たちの住む草原、山間の小さな村、オアシス都市ハリールなど、それぞれの町や村の情景も鮮やか。やはりとても魅力的です。
しかし この1巻「暁の書」だけで、続編が刊行されていないのがとても残念。出版元は早川書房ですし、今からでも続編を書いて頂きたいものですが…。

「魔州奇譚1-渇きの月」小学館キャンパス文庫(2006年1月読了)★★★
その頃東京では、「姿無き殺戮者」による連続猟奇殺人事件が起きていました。被害者は皆一様に喉から胸までを引き裂かれ、心臓を抜き取られて死んでおり、しかし辺りには血の一滴も落ちていない状態。しかも目撃者は誰もいないのです。そしてその11人目の犠牲者となりそうになったのは、久遠谷高校に通う15歳の神矢千尋でした。周囲には誰もいないのに、ガラスに映った千尋の横に突然黒い人影が湧き、血のように赤い眼をした鼻面の長い毛むくじゃらの犬のような顔が、いきなり千尋に襲い掛かります。そこに現れたのは、千尋がその日の昼間見かけていたYAMAHA V-MAXというバイクに乗った少年。少年の革手袋の指からは黒っぽい弾丸のようなものが立て続けに打ち出され、怪物はたじろいだように消えうせます。自分のことを知っているらしい少年を不審に思う千尋に、少年は「それでもイサワか」という言葉を投げかけます。イサワとは3年前に亡くなった千尋の母の旧姓、石和のことなのでしょうか。

「幾千の夜を越えて」の印象が強いので、主に異世界ファンタジーを書いてらっしゃる方なのかと思い込んでいたのですが、この作品は現代の日本が舞台なのですね。東京の自由が丘を舞台にした作品。物語の主な流れとしては、まだ自分の才能に気づいていない少年が、有無を言わさず騒ぎに巻き込まれることによって、その才能や素質を開花させていくというもの。かなり王道の展開です。
千尋の持つ「みどりの指」とは、生命を持つ動植物に通じる才能。石和と石動の家系が操るのは、本来無機質なはずの鉱物。(陵が操る石の中には、琥珀などの有機質の宝石も含まれているようですが) その組み合わせが少々異質に感じられてしまいました。それにパワーストーンとしての宝石の扱いがいかにもティーンズ向けという感じで軽く感じられてしまいますね。それでも金の石動と銀の石和という2つの家、そしてお互いに相手の金と銀になるという設定はとても面白かったですし、「リュカオンの鏡」という小道具もいいですね。石和や石動といった家に関してもまだまだ分からない部分が多いですし、火夜王や風守、真闇姫などの正体もまだ明かされていません。それらは続編で解明されるのでしょうか。

「魔州奇譚2-火焔の女王」小学館キャンパス文庫(2006年1月読了)★★★★
深夜の路上で女性の首が切り落とされるという事件が立て続けに起こります。2週間で合計5件。首は、まだその人間が生きている間に斬られており、それらの切り口はまるで居合いのように整っていました。被害者はいずれも女性ながらも、職業や家族構成はバラバラ。容姿のレベルやタイプも様々で、共通点といえば全員髪が長かったことだけ。犯人は髪を斬らないように気をつけていたらしく、遺体の周囲には首と一緒に斬られたと思われる髪は一筋も残されていませんでした。石動陵は、その裏に火夜王が絡んでいるのではないかと考え、調べ始めます。一方、学校から帰ろうとする千尋に声をかけたのは、フェラーリ・F40に乗る年上の美女。石動緋沙子と名乗るその美女は陵の従姉で婚約者なのだと言い、千尋をドライブに連れ出します。

「魔州奇譚」第2巻。今回狙われるのは女性の「みどりの黒髪」です。
前回のような安っぽいパワーストーン的部分はほとんどなくなりましたし(やはり前回のは、読者が入りやすくするためだったのでしょうか)、登場人物たちの造形も落ち着いたせいか、1巻よりも面白かったです。それに女性の髪という妖しさを感じさせる部分が中心となっているせいか、描写にも神月摩由璃さんらしい妖しい美しさが多く見られたように思います。ただ、あとがきによると3巻が完結編となるはずだったようなのですが、結局は出版されていないようですね。1巻も2巻もそれぞれに一応完結はしているものの、2巻でも新たな疑問がいくつか登場、物語全体としてはまだまだ分からない部分が多く残されてしまっただけに、続きが読めないのはとても残念です。
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