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このページは、今野敏さんの本の感想のページです。

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「最前線-東京湾臨海署安積班」角川春樹事務所(2003年5月読了)★★★★★
【暗殺予告】…香港からハリウッドに進出したスター・サミュエル・ポーが来日。香港マフィアの刺客に狙われていると怯えるポーのために、本庁警備部から応援要請があり、安積と村雨と桜井が警備に回ることに。海ではその日、密航者騒ぎがあり、こちらには須田と黒木が回ることになるのですが…。
【被害者】…安積警部補が娘の涼子と夕食を約束した日の午後、管内で発砲事件が起きたという知らせが。銃を持った中年男がスピード逮捕されるのですが、安積は被害者の態度と前科にひっかかり…。
【梅雨晴れ】…放火事件を調べていた須田が、帰りのゆりかもめの中で障害沙汰を起こした少年を現行犯逮捕。被害者の中年男性は病院へと連れて行かれることに。しかし別件で指名手配されている容疑者の顔写真を見た須田は、それがゆりかもめの中で殴られていた男性に似ていることに気付きます。
【最前線】…安積・村雨と共に、竹の塚署の東京湾金融業者殺人事件の特別捜査本部を訪れた桜井は、5年ぶりに大橋と再会。大橋はかつて臨海署で一緒に働いていた仲間。久しぶりに会う大橋は、桜井よりも2歳年上にすぎないにもかかわらず、すっかり一人前の刑事の風格を漂わせていました。
【射殺】…管内で白人男性の射殺死体が発見され、アメリカのロサンゼルス警察からアンディー・ウッド捜査官が臨海署を訪れます。サム・ベイカーという男が組織の金を着服して国外に逃亡、殺し屋が追った形跡があるというのです。ウッドは射殺死体がベイカーであることを確認、捜査に加わることに。
【夕映え】…不動産業者が刺殺される事件があり、品川署に捜査本部が立つことに。助っ人を要請され、安積も須田と共に品川署へ。そこにいたのは、安積が刑事になって初めて組んだ三国俊治でした。

安積警部補シリーズの短編集。
いつもにも増して、上の人間にでも下の人間にでも、自分が正しいと思うことを伝えるという安積警部補の姿勢が大きくクローズアップされていたように思います。それは「暗殺予告」「夕映え」に一番大きく現れているようです。こういう姿勢を凛として持っている人だからこそ、部下も皆、安積警部補を信じてついていけるのでしょう。そしてその安積警部補を育てたという三国刑事もとても渋いいい男でした。こうなってみると、「昔はなかなか跳ねっ返りだった」という安積警部補の若い頃の物語も読んでみたくなってしまいます。自分よりも出世した部下に20年ぶりに会ったら、という安積警部補と村雨の話にもなかなか深いものがありますね。
そして今回、「被害者」に安積警部補の娘・涼子が登場します。この涼子と安積警部補の会話がいいですね。もちろん涼子の凛とした姿を見れば、これは全くの父親譲りだと分かります。似た者親子。しかしそれは安積警部補自身には全く分かっていないのです。「父親失格ではない」という言葉が、娘の口から出たというのが大きいですね。周囲の思いやりも嬉しいところ。
珍しい桜井視点は「最前線」。安積警部補に苦手意識を持たれているため、少々損な役回りの村雨の良い部分について色々と語られているのがいいですね。舞台は警察においていますが、このまま普通の会社のサラリーマンの人間関係にも置き換えられるシリーズ。やはり人間がいいですね、このシリーズは。

「青の調査ファイル」講談社ノベルス(2003年4月読了)★★★★★
TBNテレビの心霊物の2時間スペシャル番組の撮影中に、スタッフの怪死事件が起きます。心霊マンションとして地元では有名なマンションの一室で一通り撮影を終えた撮影隊は、そのまま打ち上げへ。しかし朝になって、夜通しカメラをまわし続けていた無人の部屋にADの戸川一郎がテープを取りに入ると、そこにはチーフディレクターの細田康夫の死体があったのです。戸川が部屋に入ったのは、朝の5時。テープの長さが3時間分のため、午前2時にもディレクターの千葉光義が部屋に入っていました。しかしその時には、細田はまだ打ち上げの店で飲んでいたのです。現場を訪れた警視庁捜査一課の川那部検死官は遺体を検死し、これを事故死と断定します。しかし赤城左門が検死官の所見に異を唱え、赤城と青山翔がなぜか霊能者の安達春輔に特に関心を示したこともあり、科学捜査研究所の桜庭所長はSTが事件としての捜査を始められるように各方面に働きかけることに。

STシリーズ4作目。今回は心霊現象。川那部検死官とも真っ向から対立し、事件を事件として認めさせるところから物語は始まります。今回は美形のプロファイラー・青山翔が珍しくやる気を出して積極的。いつも「ねえ、もう帰ろうよ」が口癖の彼にしては珍しいですね。この口癖が出てこないと妙な気分になる私は、既にしっかりとメンバーに感情移入しているようです。しかし百合根警視は、一体いつになったらSTの面々を100パーセント信用するようになるのでしょうね。STと仕事を進めるにつれ、STに徐々に心酔していく目黒署の北森係長と、最初から川那部検死官派の佐分利耕助の対比も興味深かったのですが、今回は川那部検死官自身にも興味が湧いてきました。彼も根っからの悪役ではなく、実はただの意地っ張りで、案外善良な人間だったりするのでしょうか。この後の彼の動向を読むのも、とても楽しみになってきました。
霊能力や霊現象について科学的に解明しながらも、頭から否定することはないというのが良いですね。もちろん科学的に説明がつく事柄も多いとは思いますが、全ての出来事が科学で解明できると言い切ってしまうのは、人間として傲慢なことなのではないかと思いますから。

「憑物祓い-鬼龍光一シリーズ2」学研M文庫(2004年11月読了)★★★★
渋谷のクラブ「フェロー」で、15人の若者たちが殺されるという事件が起こります。15人がお互いに殺しあったらしいこと、被害者の中に少年もいたことから、、少年一課の富野も捜査一課の田端課長の指名で現場へと向かい、そのまま特別捜査本部に吸い上げられることに。そして渋谷の事件の4日後、続いて六本木の「ウィッチタ」でも、13人の死体が見つかる事件が。どちらの現場にも、ダビデの星とも言われる六芒星が残されていました。そしてその現場には、鬼龍光一が現れて…。

鬼龍光一シリーズ第2弾。
五芒星が日本を含めた世界各地で力を持っているということ、六芒星がダビデの星として、こちらも強力な力を持っているのは知っていましたが、この六芒星が陰陽道では、誰もが恐れるほど強力な呪をかけることができる「カゴメ紋」と呼ばれ存在だというのは知りませんでした。今回は、鬼龍に「関わらないほうがいい」と言わせるほどの、強力な呪を扱う敵が登場します。そしてその敵に対するのは、相変わらずの富野と鬼龍光一と安倍孝景の3人組。力では圧倒的な鬼龍光一、感情の起伏が激しく少々子供っぽい孝景、そしてまるでこの2人の保護者のような富野。この富野はなんと出雲系のトミノナガスネ彦の血をひいており、鬼龍光一や孝景と同様の霊的な力を持っているのだそうです。今のところは亡者の誘惑が効かない程度ですが、そのうち何かもっと陰陽道的な活躍をする日もくるかもしれないですね。

「赤の調査ファイル」講談社ノベルス(2003年8月読了)★★★★★
熱が下がらず大学病院に行った武藤嘉和は、インフルエンザという診断を受けます。医者にはアレルギーがあると申告、処方された薬も湿疹が出た時点で服用をやめたにも関わらず、数日後、薬物アレルギーが急激に発症して急死。残された妻は、医療ミスとして病院側を相手取り民事訴訟を起こします。STの赤城左門が監察医に呼ばれて病院側の責任を追及するものの、遺族側はあえなく敗訴。結審の直後、遺族は病院側の業務上過失致死を追及するために刑事告訴の手続きをとります。この捜査にはSTのメンバーが当たることになるのですが、しかし監察医に呼ばれた時から赤城の態度がどこか変。問題となっている京和大学は、実は赤城の出身校。色々とあって、結局飛び出すことになってしまった場所だったのです。

STシリーズ5作目。今回のテーマは医療ミス。SJS(スティーブンスジョンソン症候群)とTEN(中毒性表皮壊死症)を中心に、病院自体だけでなく、大学の医学部の構造までをも考えさせられる物語です。日頃医者にあまりかからない人間ほど、医者の存在を神格化しているという意味の発言もありましたが、確かに病院での医者という存在は絶対。たとえ治療に疑問や不満があっても、たとえ医療ミスが起きても、なかなか口に出して非難することが難しい場所です。それどころか、単なる質問すらもなかなか聞くことができず、たとえ聞いたとしても怒鳴られてしまっておしまいということも確かにあり得るのです。しかも重大な病気であればあるほど相手の医者に任せるしかなく、言葉は悪いのですが、患者が気弱になっているところに付け込まれている印象もありますね。もちろんこれは決して世の中の病院や医者全ての話ではありませんし、たくさんの名医も存在していると思うのですが…。医者に限らず、「先生」と呼ばれる職業には常に、一般の人間とは多少感覚がズレてしまう危険性を孕んでいると思います。今回、それらの大学病院の内幕の他に、大学の医学部〜研修医時代の赤城のことも明かされているのが非常に興味深いですね。
いつもとは少々事件の色合いが違いますが、これもまさしく1つの殺人事件。そして最後は確かにミステリ。しかしこの行動は、やはり許されるものではないでしょう。言い訳はいくらでもあるのでしょうけれど、残された人間の気持ちを考えると、確かに人間の屑としか言いようがないです。

「黄の調査ファイル」講談社ノベルス(2003年2月読了)★★★★★
STのメ ンバーが呼び出されたのは、足立区にある小さなマンションの一室で、4人の若者たちが死んでいたという事件。4人は阿久津昇観という人物の主宰する苦楽苑という宗教法人の信者。死因は明らかに一酸化炭素中毒。部屋の中には七輪があり、窓やドアの新聞受けには内側からガムテープで目張りがされ、体内からはアルコールと睡眠薬も検出され、当初は集団自殺と思われます。しかしあまりに整然としすぎた部屋の様子を不審に思った青山が確かめてみると、貼られていたガムテープからは指紋が残っていなかったことが判明。そして百合根警視とSTの面々、所轄綾瀬署の塚原部長刑事が調べるうちに、苦楽苑内での阿久津昇観と内弟子の篠崎雄助の対立、同じグループで修行をしていたはずの町田智也の当日の不在などが浮かび上がってきます。

STシリーズ6作目。今回は宗教法人絡みの事件ということで、曹洞宗の僧侶でもある山吹才蔵が活躍します。今回は山吹の自宅の寺で行われる座禅の場面が見所。百合根キャップも参加するのですが、キャップが座禅に対して感じた発見は、私にとっても新鮮な驚きでした。座禅や修行に対して、いかに日頃情報量が少ないまま思い込んでしまっていることが多いか、実感してしまいます。そして普段は常に穏やかに人に接する山吹も、初めから今のような姿ではなかったのですね。過去の体験なども語られ、だからこそ現在の山吹があるのだと実感。今回クローズアップされているのは、人間の弱さと、しかしそこから再生する力を人間が持っているということでしょうか。そして普段は謙虚すぎるほど謙虚なキャップ・百合根の素直さの持つパワーが光る作品でもあります。おそらく本人以上に、STの面々は百合根のことを理解し認めているのでしょうね。今野作品は登場人物の魅力が常に前面に出ているのが特徴ですが、今回も期待通りでした。
作中の阿久津昇観の会話の中で、本を読むことについてが言及されています。それによると、本を読むと前頭葉が発達し、情緒や想像力が養われるのだそうです。そして本を読むという行為自体が、精神的な訓練になるのだとのこと。読書に慣れていない人間は、なかなか本に集中できずに何度も同じところを読み返さなければならないのですが、読書に慣れた人間は、すぐに文字の世界に没頭することができ、しかもそれは仏教における「瞑想」とも相通じるというわけです。なるほど、確かに私はすぐに文字の世界に没頭できるのには自信がありますが… しかし情緒や想像力は… どうなのでしょう?
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