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このページは、貴志祐介さんの本の感想のページです。

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「青の炎」角川文庫(2003年5月読了)★★★★★お気に入り
櫛森秀一は湘南の高校に通う17歳の高校2年生。父は交通事故で亡くなっており、インテリアデザイナーの母と中学2年生の妹との3人の暮らし。しかし10日前に母の昔の再婚相手だった曾根隆司が入り込んできた時から、3人の平和な生活は破られることに。結婚している間も怠け者で酒乱、しかもギャンブル中毒で女癖が悪かったという曾根は、秀一の妹の遙香にまで色目を使い、遙香は怯えきっていました。しかしなぜか煮え切らない態度の母。秀一は自分で、母が曾根と別れた時、離婚調停の時に世話になっている加納弁護士に相談します。しかし弁護士が間に入っても全く埒が明かないのです。苛立った秀一は、家族と自分のために曾根を「強制終了」させることを決意。早速計画を立て始めます。そして秀一が思いついたのは、「ブリッツ」という完全犯罪でした。

犯罪を犯人側から描いた作品というのは数多くあると思うのですが、これほどまでに切なく、犯人に捕まらないで欲しいと願ってしまった作品というのも珍しいのではないかと思います。もしこの事件がワイドショーなどによって一度取り上げられれば、単なる少年犯罪という言葉で一括りにされてしまいますし、さぞ分かったような物言いをする識者によって画一的に分析をされてしまことになります。現実的には、殺人はどのような理由があるにせよ許されることではありません。それでもやはりここまで秀一に感情移入してしまうのは、それだけの描かれ方をしているから。正直、殺人の動機自体は少々弱いと思うのですが(しっかりしているように見えて、やはりまだ子供だということでしょうか)、追い詰められた家族の姿と、「母と妹のため」という心情がきめ濃やかに描かれているからなのでしょうね。高校生としては少々出来すぎの感のある秀一ですが、優しさや弱さといった人間的な部分、そして心の中の葛藤や受けているプレッシャーがとてもよく伝わってきて痛いほどです。読みながらついつい、完全犯罪の成功を祈ってしまうほど。石岡さえいなければと思ってしまいます。しかしこの石岡の存在によって、家族を守りたいがためだけのギリギリの犯罪だったはずの殺人が、ここで単なる少年犯罪となってしまうことになるのですね。捕まっては欲しくないし、必要以上に苦しんでも欲しくない、そんな感情からすれば、このラストはほっとできる部分もあるのですが… しかし読後の胸中は複雑。このラストは実際どうなのでしょう。いきなり現実感を失い、まるでゲームブックの三択肢から選んだ道のように感じてしまったのですが…。
非常に読みやすく、ぐいぐいと惹き付けられました。タイトルがまたいいですね。青は赤に比べて内省的で思慮深い色でありながらも、燃える時は赤よりもはるかに高温だというのが皮肉。

P.328「瞋恚は、三毒の一つなんだよ」「え?」「一度火をつけてしまうと、瞋りの炎は際限なく燃え広がり、やがては、自分自身をも焼き尽くすことになるって」

「硝子のハンマー」角川文庫(2004年11月読了)★★★★
六本木センタービルの最上階から3階を占める、介護ヘルパー会社・ベイリーフ。株式上場を控え、社長、副社長、専務、それぞれの秘書、そして数人の社員たちが日曜出勤していました。その日行われたのは、近々行われるプレゼンのための、介護ザルと介護ロボットを使った実演。しかし昼食後、社長室に篭って昼寝をしていた社長が撲殺されているのが、窓拭きの業者によって発見されます。エレベーターで最上階の12階に上るには暗証番号の入力が必要。社長室の前の廊下には監視カメラが設置されており、犯行時刻の前後には誰も出入りしてなかったことが確認されていました。容疑者となったのは、副社長の部屋を挟んで社長の部屋と続き部屋を持っている専務の久永篤二。しかし久永は、秘書の河村忍が毛布をかけたまま寝ていたのです。久永の家族の依頼で久永を弁護することになった弁護士の青砥純子は、密室の謎を解くために、防犯コンサルタント・榎本径の力を借りることに。

物語は2部構成。第1部は、不可能犯罪の発生とその推理。暗証番号付きのエレベータに監視カメラ、非常階段はオートロック、窓は防弾ガラスと、完璧なセキュリティを誇るビルの最上階の密室での殺人。これがまず本格心をくすぐりますね。考えれば考えるほど、その不可能さが強調されるというのは、わくわくしてしまいます。しかも密室のための密室という、突飛な設定ではないのです。それに、弁護士と組んで探偵役となっている、叩けば埃の出そうな防犯コンサルタントというキャラクターがなかなかいい味を出していますね。推理や発想自体も面白かったですし、豊富な防犯知識に裏づけされた推理には、リアリティがありました。しかし第1部が最高潮に盛り上がったところで、物語は第2部へ。今度は犯人からの視点で語られる倒叙形式となります。本格ミステリというよりも、サスペンス物のような雰囲気。確かに犯人の心情を語るにはこの形式が一番良かったのでしょうし、こちらの第2部の方が、おそらく貴志さんの本領発揮なのでしょうね。しかしこちらもとても面白かったのですが、第1部の盛り上がりを分断されてしまったのと、最終的な謎解きが唐突な気がしてしまったのだけが、少々残念でした。
榎本径と青砥純子のコンビとは、また会えるのでしょうか。青砥純子に関しては薄味だったのですが、榎本径がとてもいい味を出していたので、これはぜひシリーズ化して欲しいものです。
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