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このページは、加賀美雅之さんの本の感想のページです。

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「双月城の惨劇」カッパノベルス(2004年7月読了)★★★
パリに滞在中のパトリック・スミスは、ライン川流域の「双月城」と呼ばれる古城・エールシュレーゲル城に滞在していたウィーン大学時代の恩師・ノイヴァンシュタイン博士から、毒殺未遂事件が起きたため、至急シャルル・ベルトランと共に城に来て欲しいとの依頼の手紙を受け取ります。ベルトランとは、パトリックの母方の伯父であるパリ警察予審判事。数々の難事件を解決した実績があり、パトリックはオブザーバーとして、同行した事件を本にまとめて出版していたのです。しかしベルトランの到着を待たずに、密室状態の「満月の部屋」で、当主である双子の姉妹の片割れ・マリアと思われる女性の死体が発見されることに。死体からは、首と手首が切断されていました。ベルトランは、生涯の好敵手であるベルリン警察主任警部、フリードリヒ・フォン・ストロハイム男爵と共にこの事件に当たることになります。

光文社の「カッパ・ワン」からデビュー。同時デビューは、東川篤哉さん、石持浅海さん、林泰広さんの3人。
双子の美人姉妹である古城では、古い伝説をなぞられるような不可解な密室殺人事件が起こり、生涯の好敵手という2人の探偵役が登場するということで、雰囲気は満点。いかにも推薦者の二階堂黎人さんが好みそうな、「人狼城の恐怖」を彷彿とさせる舞台設定ですね。古典的なミステリが好きな人には、これは堪らないかも。実際、シャルル・ベルトランというキャラクターは、名前こそ変えられているものの、カーター・ディクスンの探偵・アンリ・バンコランその人なのだそうです。(作中のフェル博士の名前はそのままなのですが)
しかしこの雰囲気はとても良かったのですが、登場人物たちの大仰な台詞回しを始めとして、全般的に文章が読みづらく、思わぬ苦戦をしてしまいました。それに、明らかに別の可能性があるのを無視している部分が多いのも気になります。例えばマリアの死体が発見された場面。多少ミステリに慣れた読者なら、双子が登場するという時点でかなり身構えるはずです。少し後になっていくつかの可能性が考察されるのですが、それも十分とは思えません。その他にも、動機がないからというだけで容疑者から外されてしまったりと、ひっかかってしまう場面がいくつかあり、もう少し上手くカバーしてくれれば、気持ちよく騙されたのにと思うと残念。それでも全体的な雰囲気はとても好きですし、新人離れした大胆で濃密な作品だったと思います。次作以降も楽しみです。
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