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このページは、近藤史恵さんの本の感想のページです。

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「賢者はベンチで思索する」文藝春秋(2005年6月読了)★★★★

【ファミレスの老人は公園で賢者になる】…服飾関係の専門学校を卒業したものの、希望するような仕事を見つからず、ファミリーレストラン・ロンドでバイトをしている七瀬久里子。同僚の土田美晴に犬を飼わないかと言われてその気になるのですが…。その頃、近所で犬相手の悪質な悪戯が続いていました。
【ありがたくない神様】…ロンドに新しく入ったバイトの弓田譲にときめく久里子。しかしその頃、ロンドで出した料理に変な味がしたと文句を言われる出来事が立て続けに起こります。
【その人の背負ったもの】…ロンドの常連客の子供が失踪するという事件が起こります。しかも事件の当日、国枝がその子供を連れて歩いていたのを見たという目撃情報が。

3つの短編それぞれにも謎はあるのですが、この3つの短編を通して存在する大きな謎は、久里子が働いているファミリーレストラン・ロンドに週3回ほどやって来て、いつも同じ席でコーヒーを飲んでいる国枝老人の謎。白髪で痩せていて背中が曲がっていて、一見ごく普通の老人なのですが、久里子がロンドで見ている時と公園で見かける時、そしてその他の場所で見かける時とではそれぞれに雰囲気が違います。物語全体にこの老人の謎が大きく絡んでくるという構成がいいですね。そして脇役に至るまで、それぞれのキャラクターが魅力的。久里子のバイト先の同僚に至るまで、それぞれに顔や姿が見え、声が聞こえてくるような気がします。久里子の弓田評に対する久里子の同僚2人の反応や、その2人の反応に対する久里子の反応なども、いかにもあり得そうなところが可笑しかったです。そしてこの物語は久里子と信の成長物語でもあるのですね。どこか構えていた2人の肩の力が抜けていく様子がとても良かったです。
これはシリーズ物になるのでしょうか。この終わり方だと、微妙なところだと思うのですが、このまま終わらせてしまうには惜しい作品ですね。

P.25「それでも、こんなところで、やさぐれているのだから、悲しいんだろう」


「黄泉路の犬-南方署強行犯シリーズ」文藝春秋(2005年10月読了)★★★★★

東中島で強盗事件が起こり、黒岩と會川圭司も現場へと急行します。被害者は長谷川姉妹で、妹の琴美が刃物によって傷つけられるのですが、強奪されたのは現金2万円のみ。明らかに最近の窃盗団ではなく、素人の手口でした。しかし姉妹が可愛がっていたチワワも盗まれていたのです。そして特に捜査に進展がないまま2ヶ月ほど経ったある日のこと。琴美が南方署に黒岩を訪ねて来ます。チワワのティアラがまだ見つかっておらず、琴美は黒岩のアドバイスに従ってインターネットの掲示板に迷い犬探しの件を書き込んだり、近所に貼り紙をしていたのですが、そのうちに気になるメールをもらったというのです。

「狼の寓話」に続く、南方署強行犯シリーズ第2弾。
前作も切ない内容だったのですが、今回も動物好きにはかなり辛い展開です。その中の1つ、黒岩と圭司が踏み込むことになる驫木有美の家の状況も相当悲惨で想像したくないもの。アニマル・ホーダーに関しては初耳でしたが、このような病気もあったのですね。最初が善意からのスタートだけにやり切れない気持ちになってしまいます。そして今回は初登場の雄哉の存在が効いていますね。ペットといえば法的には物扱いしかされませんが、命を持っていることには変わりありませんし、その飼い主にとっては家族も同然のはず。それなのに都合が悪くなると、当然のように飼い主に捨てられてしまうこともあるのです。そこには、仕事にかまけて雄哉に構おうとせず、学校が休みになると都合よく黒岩に押し付けてしまおうとする雄哉の父親の存在が重なります。そして雄哉に対して黒岩が抱く迷いもまた、捨て猫を「見てもうたんやもん」と言う圭司と重なります。相手が動物でも、人間相手と何ら変わることはないはずなのに、どこで道が違ってしまうのでしょう。
しかもあとがきに書かれている通り、動物絡みの事件というのは大抵、動物が嫌いな人間よりもむしろ動物好きの人間のせい。確かに動物嫌いの人間は余程のことがない限り、自分からは動物に歩み寄ろうとはしないものですものね。作品の中では、動物愛護ボランティアの人々の苦しい立場や、ブリーダーたちの儲け第一の非人間的な動物の飼い方にも触れられていて、色々と考えさせられます。もしかしたら、早紀のような動物愛護ボランティアの人間に動物を拾うことを強要する人々の中には、元々の飼い主もいるのかも…。しかし長年動物を飼っている割に「虹の橋」というのは初耳でした。本当にそういう話があるのですね。本当に待っていてくれると嬉しいのですが、そのような話すらも逆手に取ってしまう人間がいるとは、全く考えられません。
今回、黒岩の意外な母性本能が見られたのも良かったです。そしてそんな自分の感情に戸惑い迷う彼女に対する、宗司の言葉がまたいいですね。


「にわか大根-猿若町捕物帳」光文社(2006年6月読了)★★★★★

【吉原雀】…千次郎とお駒が伊勢参りと京見物に出かけて、玉島家に1人残された千蔭は、小者の八十吉と共に吉原の遊女が3人立て続けに亡くなった事件を調べることに。
【にわか大根】…千蔭は八十吉と共に、千次郎とお駒、おふくのお供で市村座に芝居見物へ。しかし以前は相当の人気があったという女形・村山達之助の演技が冴えないのです。
【片陰】…天水桶の中からみつかったのは、男の死体。桜田利吉が巴之丞に言われて谷与四郎の行方を捜していると聞いた千蔭は、その死体が与四郎かもしれないと考えます。

猿若町捕物帳第3弾。
水準以上ではありながらも、梨園シリーズや整体師シリーズなどの他のシリーズ物に比べるとどこか印象が薄かったこのシリーズなのですが、これまでの3作品の中で一番面白かったです。もちろんこれまで通り、巴之丞や花魁の梅が枝の存在が物語に華を添えていますし、仏頂面の千蔭もいい味を出しています。今回はこれに加えて、若い義母となったお駒とのやり取りが見られるのが楽しいところ。お駒が初々しい新妻でありながら、それでいて立派に母親となっているところが微笑ましいですね。八十吉ではありませんが、やはり拵えというものは人を変えてみせるものなのでしょうね。冒頭のお駒の千蔭のやりとりが楽しかったです。しかしそれ以上に気になるのが梅が枝。美貌と気風の良さが売りの彼女の本心はどこにあるのでしょうか。今後どのように展開するのでしょうか。ついつい期待してしまいます。そして千蔭は…。次作もとても楽しみです。


「ふたつめの月」文藝春秋(2007年7月読了)★★★★

【たったひとつの後悔】…1年前から契約社員として働いていた「ベルスール」という服飾雑貨の輸入会社に、正社員として雇われて2ヶ月も経たないうちにリストラされてしまった七瀬久里子。その日の晩の10時頃、直属の上司から突然「明日から来なくていい」と言い渡されたのです。
【パレードがやってくる】…久しぶりに弓田譲と会えるとあって舞い上がっていた久里子。しかし実際に会ってみると譲との距離を思い知らされたような気がして、逆に落ち込んでしまうことに。
【ふたつめの月】…譲はイタリアに戻り、久里子は書店で働き始めます。そんなある日、赤坂が歩道の下で轢き逃げされたのです。

「賢者はベンチで思索する」の続編。
今回は3編とも久里子の居場所探しの物語だったような気がします。居場所は大きく2つ。1つは社会の中での自分の居場所。せっかく正社員になったと思えばリストラに遭った久里子は、そのことを家族に言い出せなかったため、平日の朝はいつもと同じように家を出て、昼間ずっと時間を潰しています。皆が働いている昼間に自分1人が所在無く過ごしているというのは、相当心細いものでしょうね。そしてようやく次の仕事を見つけても、それは服飾とはまるで関係ない職場。本当にこれでいいのかと悩みは尽きません。本来、直属の上司の言葉とはいえ、「明日からこなくていいから」などという一言で本当に翌日から会社に行かないということ自体信じがたいのですが、その後の久里子の行動が本当に久里子らしく、それはそれで良かったような気がしてしまうのが、近藤作品らしいところなのかも。そしてもう1つの居場所は、会いたいのに地球の裏側に行ってしまったために会えない人という、プライベートな自分の居場所。彼が日本に戻ってきても逆に距離を感じてしまい、家に招かれたのが自分だけでないことを知った久里子は、彼を兄のように慕う明日香に嫉妬することになります。この辺りはよくある展開だと思うのですが、久里子と譲の感情のすれ違いや気持ちの揺れを1つ1つ丁寧に描きこんでいるので、2人の気持ちがとてもリアルに伝わってきていいですね。
前回の終わり方から続編は難しいと思っていたので、今回の続編には驚きましたが、登場人物もとても好きですし素直に嬉しいです。そして実際読んでみると、まるで違和感なく読めました。相変わらず、赤坂の言葉には含蓄がありますね。特に怒りや憎しみといった心の働きと、冷静な判断を下す頭の働きは別物で、どちらを優先させてもいけないという部分は強く印象に残りました。詐欺師ではあっても、鋭い観察眼と独自の価値基準を持っている赤坂老人、やはりとても惹かれるものを感じます。

P.148「心と頭は一緒のようで別々に働いているんだ。それを同じように考えると悲劇が起こる。怒りに満ちた頭では冷静な判断ができないのに、自分の怒りを優先させて、悲劇を拡大させてしまうこともあるし、反対に、頭で判断する正しさを大事にするあまり、怒ったり悲しむこともできずに、心が壊れてしまう人もいる」
「今、日本では人を殺す人よりも、自分を殺す人の方がずっとずっと多いんだ」


「モップの魔女は呪文を知ってる」実業之日本社ジョイ・ノベルス(2007年8月読了)★★★

【水の中の悪意】…スポーツクラブでフロア・スタッフのバイトをしている殿内亨は、27歳。インストラクターの村上芹香にときめき、遅番の仕事が終わった後、プールで一泳ぎをするのが楽しみ。しかしそんなある日、プールの中で身体に熱いものがかかって火傷をしたという女性が現れます。
【愛しの王女様】…大学のために東京に出てきて1ヶ月足らず、中学でも高校でもすぐに友達が出来たのに、なぜか大学では1人の友達も出来ず淋しい日々を送っていた鶴田奈津は、ペットショップで22万円もするスコティッシュフォールドの子猫に一目惚れしてしまいます。
【第二病棟の魔女】…いつでも「最低よりは少しマシ」という状態の只野さやかが就職したのは、病院の小児科病棟。子供が苦手なさやかにとっては、職があるだけ「最低よりは少しマシ」状態。日に日に要注意人物が増えていきます。
【コーヒーを一杯】…アクセサリーの通販会社・ボーノの女社長・坊野美穂は、可愛がっていたはずの妹の果穂を、クリスタルの灰皿で殴り殺してしまいます。

キリコシリーズの3作目。
このシリーズはキリコも可愛いし、読みやすくて好きなのですが、前2作に比べると若干物足りなかったような気がします。事件の方は相変わらず、人間の暗部を覗き込むようなもの。相当酷いことも行われるのですが、それでも最後には少し救われて気分が上向きになるというパターン。そして今回の4編は全て事件の当事者の視点。そこまではいいのですが…。謎解きこそキリコがしますし、それぞれに意表を突いた結末が待っているものの、キリコ自身はあくまでも縁の下の力持ち、単なる脇役という印象。もちろん、清掃業という仕事柄、縁の下の力持ちというポジションはキリコに合っているのかもしれませんが、今回は清掃業というキリコの仕事が生かされている感じもあまりなく、しかも大介などキリコ側の人物は誰も登場しないのが淋しいですね。キリコの身辺でも大きな出来事があったようですし、次回はぜひともキリコ自身の物語を、もっと読みたいものです。
今回面白かったのは、スポーツクラブに通い始めたキリコの言葉。習い事をしている場合、同じクラスの人と自然に知り合いになって挨拶したり少し話したりするようになるけれど、毎朝駅で顔をあわせる人とは、仲良くなろうとも思わないし、挨拶もしないもの。「スポーツクラブはそれが入り混じっているような気がする」という観察が面白かったです。


「サクリファイス」新潮社(2007年10月読了)★★★★★お気に入り

紳士のスポーツともこの世で最も過酷なスポーツとも呼ばれる自転車のロードレース。大学に入る時に、それまで続けていた陸上競技をやめて自転車を始めたチカこと白石誓は、今は国産自転車フレームメーカーが母体のチーム・オッジに所属する若手選手。チームのエースは33歳のベテランで峠を得意とするクライマーの石尾豪。そしてその次の位置につけているのが、チカと同期でまだ23歳の伊庭和実。明らかに次期エースの座を狙う伊庭の態度に、チーム内に緊張が走っていた頃、日本で行われる数少ないステージレース、ツール・ド・ジャポンに、チカもチームのアシストとしてすることになります。しかしアシストに徹するはずが、南信州の山岳コースでの番狂わせで、思いがけずチカが総合トップに踊り出てしまうのです。そしてその時、エースの石尾にまつわる3年前の黒い噂が明るみに出て…。

久々のノンシリーズ作品。
自転車競技については関心も知識もまるでないのですが、この作品はとても面白く読めました。集団の先頭を引っ張る選手が空気抵抗を1人で引き受けることになるので、レースの最中でも、相手がライバルだったとしても、順番に先頭交代するのがマナー。ロードレースにはエースとアシストという役割分担があり、実際には個人競技というよりも団体競技に近いもの。チームのためにアシストは自分の成績を犠牲にしてまでエースの風除けとなり、エースとは違う場所でレースを作り、逆にエースは自転車にトラブルがあった時はアシストの自転車を容赦なく奪い、傲慢なまでに勝ちを狙う… まるで知らない世界がとても新鮮に感じられましたし、素直に興味も持てました。ずっと陸上競技で周囲の期待を担ってきた主人公が、自転車のロードレースでは1位になるために走るのではなく、アシストに徹するのが好きだというところも、とてもよく分かります。しかしアシストに徹したい主人公の思いとは裏腹に、思いがけずエースへの道が開けてしまった時。周囲の人間の主人公に対する視線や態度は変わり、様々な思惑が交錯して…。
そんな風にロードレースの魅力やそれにまつわる人間ドラマを描いていたはずなのですが、この作品はやはりミステリだったのですね。しかもそのミステリ部分はそれまでの人間ドラマ部分と見事に連動しているのですね。エースの石尾は、本当に噂されるような人物なのか。それともチカの目に映っている通りの人物なのか。スペインのチーム、サントス・カンタンの思惑は、チームの空気にどのように作用するのか。そのミステリが解けた時、無理矢理人間の暗部を覗き込まされるのではなく、その解決によって全てが見事に反転することに…。この解決によって、自転車のロードレースがそれまで以上に理解できたような気がしました。まさにこれ以上の結末はないのではないでしょうか。冒頭の文章から最悪の結果も考えていたので、このラストには本当にほっとしました。良かったです。


「タルト・タタンの夢」東京創元社(2007年11月読了)★★★★

【タルト・タタンの夢】…ビストロ・パ・マルは、店長で料理長の三舟忍、料理人の志村洋二、ソムリエの金子ゆき、ギャルソンの高築智行の4人が切り盛りする小さなフレンチ・レストラン。その日も常連客の西田がやって来ます。その日の連れは、最近婚約したという串本法子という女性でした。
【ロニョン・ド・ヴォーの決意】…あまりにも偏食のひどい粕屋からの予約が入り、三船シェフは専用メニューを薦めるように指示。その日のコースは滞りなく進むのですが…。
【ガレット・デ・ロワの秘密】…クリスマスの日、志村の妻でシャンソン歌手の麻美が店で歌うことになります。仕事が入っていたホテルが小火を出して、急にスケジュールが空いたのです。
【オッソ・イラティをめぐる不和】…季節外れの台風の日に飛び込んで来た客は、以前にも妻らしい女性と2人で来店していた客。その客が2夜続けて来店します。
【理不尽な酔っぱらい】…お盆休みの暑い日にやって来たのは、近所の甘味屋<はぎのや>の主人と、高校時代の友人2人。高校野球で甲子園を目指していた仲間でした。
【ぬけがらのカスレ】…予約を入れた御木本が食べたがったのは、鵞鳥のコンフィのカスレ。御木本が編集を担当している作家の寺門小雪が食べたがっているというのです。
【割り切れないチョコレート】…いつになくランチが忙しかったある日。痴話喧嘩らしき状態だったテーブルの男性客が、食後にシェフにデザートのチョコレートの文句をつけたのです。

気取らないフランスの家庭料理を出す小さなビストロが舞台の連作短編集。まだ勤め始めて2ヶ月という高築智行視点で進みます。基本的な流れとしては、ビストロにやって来たお客の抱える、食べ物絡みの悩みや問題を、三舟シェフが美味しいお料理と共に鮮やかに解決してしまうというもの。美味しいお料理で、お客は心もおなかもすっかり満足して帰ることに。
謎自体はそれほど派手ではないのですが、きっとこうなるのだろうとは思っても、なぜそうなるのかまでは分からないという謎が多く、それだけに三舟シェフの謎解きがシンプルで鮮やか。特に驚かされたのは、夫婦のことは夫婦にしか分からないと実感させられる「ロニョン・ド・ヴォーの決意」。謎解きの際の三舟シェフの言葉がいいですね。トリックに単純にびっくりさせられたのは、「理不尽な酔っぱらい」。それしかないとは思っても方法が分からなかったので驚きました。高校野球の不祥事ということで重くなりそうなところを、鮮やかに驚かせてくれます。「ぬけがらのカスレ」だけは、私自身ももし同じことがあったら寺門小雪と同じような行動を取ってしまいそうなだけに、少し痛かったのですが…。
それぞれの謎が三舟シェフの作るフレンチのお料理ともしっかりからみあって、とても暖かい満足感が残ります。シェフが謎解きの後に出すヴァン・ショーが飲みたくなりますね。

P.66「わたしの料理は、ただ、おいしく食べてもらうことだけを考えている。もちろん、それで人を喜ばせたいと思ってるわけだし、自分でもその方針を変えるつもりはない。だが、すべての料理がそういうためだけに作られているのではないはずです。」


「ヴァン・ショーをあなたに」東京創元社(2008年8月読了)★★★★

【錆びないスキレット】…三舟シェフと志村さんが珍しく喧嘩。その原因は、三舟シェフがつい餌付けしてしまった黒い痩せた猫。責任を取って飼えと言われたシェフは、早急に貰い手を捜すことに。
【憂さばらしのピストゥ】…三舟シェフがかつて働いていた店の後輩がオーナーシェフとして出店。そして数ヵ月後、思わぬところで隣の市の<ル・ヴァンテアン>と南野シェフという名を聞くことに。
【ブーランジュリーのメロンパン】…オーナーの小倉さんの頼みは、新たにオープンするパン屋のカフェのメニューを考えるのを手伝って欲しいということ。店を経営する2人の女性がやって来ます。
【マドモワゼル・ブイヤベースにご用心】…三舟シェフに好きな人がいるらしいと聞いて驚く高築。その相手は、来るたびにブイヤベースを頼む「マドモワゼル・ブイヤベース」ではないかというのですが…。
【氷姫】…3年一緒に暮らした杏子が出て行った夜。焼酎を飲みすぎて吐き、体調が最悪だった圭一は、恩師との約束で訪れた<パ・マル>で意識を失ってしまいます。
【天空の泉】…夏の終わりに車を飛ばしてコルド・シュル・シエルにやって来たヒサコは、トリュフのオムレツが絶品だという<シェ・アルチュール>を訪れます。
【ヴァン・ショーをあなたに】…23歳の時、ストラスブールの町のユースホステルで寝込んでしまった貞晴は、同じ部屋に入って来た三舟に味噌汁を飲ませてもらうことに。

「タルト・タタンの夢」に続く三舟シェフのシリーズ。
相変わらずお料理は美味しそうですし、<パ・マル>の雰囲気もアットホームで素敵です。今回は<パ・マル>を開店する前、フランスにいた頃の三舟シェフの物語も2つあり、そのうち表題作の「ヴァン・ショーをあなたに」では、前作「タルト・タタンの夢」で登場したヴァン・ショーを作るきっかけとなった出来事が語られていました。全体的に謎解きとしては少し小粒に感じられましたが、その分三舟シェフの素顔を見せてくれているようで、物足りなさは感じなかったです。前回のように、毎回謎解きの後にヴァン・ショーが登場するというわけではなかったのは、「ヴァン・ショーをあなたに」を際立たせるためだったのでしょうか。そして前作のように高築視点だけの物語ではないのですが、それもまるで違和感を感じさせずにすんなりと読ませてくれていいですね。
今回特に気に入ったのは、「ブーランジュリーのメロンパン」と「ヴァン・ショーをあなたに」の2編。どちらも家族の絆の大切さを感じさせるような作品でした。

P.14「猫に餌をやるということは、そういうことです。その猫に責任ができるのです。だから、シェフ、きちんと責任を取ってください」


「寒椿ゆれる-猿若町捕物帳」光文社(2008年12月読了)★★★★★

【猪鍋】…お駒が妊娠。つわりが酷く何も食べられないお駒のために、千蔭と八十吉は巴之丞の元へ。お駒の母・佐枝が、お駒は珍しいものの方が喜んで口にするかもしれないと言ったのです。
【清姫】…組屋敷を訪ねてきた巴之丞に誘われて、千蔭とおろく、そして八十吉は安珍清姫の世界を下敷きにした新作のお芝居を観にゆくことに。そしてその数日後、巴之丞が刺されます。
【寒椿】…北町奉行の同心・大石新三郎が伊勢町の金貸し・内藤屋に入った盗賊の手引きをしたと書かれた投げ文が奉行所にあります。どうやら大石は陥れられたらしいのです。

猿若町捕物帳第4弾。
今回初登場の「おろく」がいいですね。物が見えすぎ、色々なことに気付きすぎてしまうおろく。普段は数字を勘定することでその面を和らげようとしているようですが、いずれにせよ「変わり者」の評判が立つのは同じ。そんなおろくの良さを見抜いている千蔭も良い味をだしています。最後の最後はさすがに人が良すぎるのではないかと思ってしまいますが。
巴之丞も梅ヶ枝も相変わらず。今回、梅が枝がとても可愛らしく見えました。続きも本当に楽しみなシリーズです。

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