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このページは、狩野あざみさんの本の感想のページです。

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「亜州黄龍伝奇」トクマ・ノベルズ(2003年2月読了)★★★★
数週間前舞い込んだ1通のエアメールがきっかけで、香港に行くことになった工藤秋生。それは母方の祖母の兄の孫の結婚式への招待状でした。秋生の曾祖父に当たる人が会いたがっているので、是非来て欲しいというのです。母方の祖母は、祖父が中国から連れてきた女性だという話は聞いたことがあるものの、早くに亡くなっているため秋生とは面識はなし。しかも確認しようにも、祖父も母も既に亡くなっていました。ニューヨークに赴任している父親に言われるがまま、秋生は大学を休んで観光旅行気分で香港へ。しかし香港に着いた途端、奇妙な老人にパスポートを狙われます。その時は出迎えのセシリア(朱明)に助けられて事なきを得たものの、翌日もまた香港の街中で警官を名乗る数人の男に追いかけられ、黒ずくめに太陽眼鏡の男に助けられることに。さらに翌日には、アニタという女性に強引に結婚をせまられ、見知らぬ家へと連れて行かれることに。

香港を舞台としたファンタジーです。風水や陰陽五行をモチーフに、黄龍と、黄龍を守る四聖獣、黄龍を狙う人々の巻き起こす大活劇。今まで読んだ狩野さんの歴史物とは全く雰囲気が違う作品です。まるで香港のアクション映画を見ているかのような印象。物語がテンポ良く展開していきます。
主人公の秋生はごく普通の大学生ですが、美少女の従妹、セシリア・朱、黒ずくめに太陽眼鏡のやくざ風の男、ヘンリー・西、香港でも有数の青年実業家のビンセント・青、密輸船をあやつる玄冥という4人のメンバーは本当に濃いですね。それぞれに個性的で魅力的。このキャラクターの活躍だけでも十分楽しめます。しかも物語の設定がまた魅力的なのです。伝説の黄龍を得た者が地上を支配するという話を信じて、密かに動く人々。この黄龍問題が、現代の香港の原子力発電所問題に絡まっていきます。中国の古い伝奇を、巧みに今の時代に甦らせているという印象。
最後の場面で、柳宣評に語られたこの世の成り立ちや人間の存在については、驚かされてしまいました。柳宣評があまりにあっさりと納得してしまったのは少々解せないのですが、あまりに突拍子もないことが目の前で繰り広げられているので、疑う気にもなれなかったということでしょうか。そして、なぜ青銅の編鐘・黄鐘がこの世に存在するのかというのも不思議です。一体誰が、どのようにして作ったというのでしょう。しかも実際に効果がありそうなのですが…。これを考え始めると、メビウスの輪に入りこんでしまいそうではありますが、しかし全体的にはとても面白い物語でした。

「亜州黄龍伝奇2-爆風摩天楼」トクマ・ノベルズ(2003年3月読了)★★★★
春先に短い香港旅行から帰国した秋生は、しばらく香港に住むことを決め、即座にビザを申請して再び香港へと向かいます。しかしニューヨーク勤務だった秋生の父が東京本社に戻って香港を含む極東担当となり、仕事で香港へとやって来ることになったから大変。ビンセントの家に居候している理由を説明できない秋生のために、ビンセントは会社所有のマンションを家具付きで提供、セシリア・朱は細々とした買い物のために、秋生を連れて街へ。しかし2人は買い物の途中で強盗事件に巻き込まれます。そして仕事へ向かうためにビクトリア・ピークへの山道を走っていたビンセントのロールスロイスも狙撃されます。車はカーブを曲がりきれず、転落。再び「黄龍」を狙うものが現れたのか。どうやら「中国は一つであらねばならない」という言葉がキーワードのようなのですが…。

今回の秋生は、自分が積極的に狙われるのではなく、巻き込まれ型。アニタ・李も尹虎嶺も前作に引き続き登場しますが、今回は特に黄龍を狙ってはいません。前作同様、乱闘や銃撃戦で賑やかな展開。本当に香港のアクション映画を見ているようです。ただ、ストーリー展開は前回の方が引き締まっていたようにも思えます。今回は、物語の焦点が、中国の広州を独立させようとする一派とそれを阻止しようとする一派の争い、そして秋生の父の来港という、お互いに少し離れた場所に設定されていたからでしょうか。アニタ・李や尹虎嶺の登場も、物語を散漫にさせていたような気がしてしまったのですが…。もちろん楽しかったのですが、1つの目的に向かってパワーを炸裂、という場面がもっと欲しかったような気がします。

「西蔵大脱走-亜州黄龍伝奇3・4」上下 トクマ・ノベルズ(2003年3月読了)★★★★★
日本語会話教室のバイトを終えた秋生は、セシリアとの約束に向かう途中で1人の美女と出会います。なぜか秋生を見て微笑んだ美女を、秋生はパーク・レーン・ホテルまで案内することに。彼女の名前はツェリン。彼女は、日本のTV局が北インドのヒマラヤ山中にあるラダックという、チベット仏教が原形に近い形で残っている古い土地の仏教儀式を取材することになり、その案内役を請け負っていたのです。パーク・レーン・ホテルへ向かおうとしていたのも、そのテレビ局のディレクターである及川との打ち合わせのため。行きがかり上、ツェリンたちの打ち合わせに同席することになった秋生は、突然チベット語を思い出して戸惑います。そして次の日。ツェリンと及川がが秋生を訪ねて来ます。元々チベット語が話せてレポーター役をするはずだった青年が急病になり、秋生に代役として取材に同行して欲しいというのです。ツェリンに頼まれて乗り気になる秋生。ビンセントは渋りますが、結局セシリアが同行してチベットへと向かうことに。

舞台は香港からチベットへ。香港アクション映画に秘境探検という味付けがされることになります。私のチベットの仏教寺院に関する知識は、映画「リトル・ブッダ」で見たことがある程度。なかなかおいそれとは行けない場所ですし、とても興味深かったです。それにしても観音菩薩と文殊菩薩に続く、弥勒菩薩の転生とはすごいですね。てっきり、ダライ・ラマを始めとする高僧たちの転生だけなのかと思っていました。
アクションに関しても、今回は今までで一番の盛り上がりだったように思います。セシリアがついていれば秋生も大丈夫だろうというビンセントの予想はすっかり覆され、誰も予想もしていなかった強敵が登場。しかしまさか黄龍がそのようなことを考えていたとは、誰も思ってもいなかったでしょう。こういう存在はなかなか面白いですね。しかも、ここでもきちんと陰陽を満たしているのですね。クライマックスにも十分読み応えアリ。しかし「あるべきところ」とはどこなのでしょう。それがとても気になります。

「博浪沙異聞」新人物往来社(2003年2月読了)★★★★★お気に入り
【博浪沙異聞】…秦の軍勢が韓の都に攻め込み、両親が目の前で殺されて以来12年、始皇帝に復仇を誓う張良。しかし始皇帝暗殺計画は失敗。秦兵に追われた張良は不思議な貴人に助けられます。
【ト筮】…晋の六卿の1人知伯揺は、ある時身分を隠して、よく当たると評判の卜筮者を訪れます。結果に満足する知伯ですが、その卜筮者が晋公に出仕すると知り、斬り殺してしまいます。
【妖花秘聞】…晋の献公が驪戎を伐った時に得た驪姫。年長の公子たちを差し置いて我が子・奚斉を太子につかせた驪姫の話をしたためる老人の前に、古風な深衣姿の見知らぬ美しい女人が現れます。
【窮鼠の群】…徹底した法治主義を敷き、秦を強国へと導いた衛鞅。しかしその人としての情けを無視した厳しすぎる法は、最後には衛鞅自身をも厳しく裁くことになります。
【帝たらんと欲せしのみ】…人相見の老人の言葉通り、刑を受けた後、王となった黥布。30年後、その老人に再会し、黥布は老人に感謝します。しかし老人はあくまでも黥布の持つ天命だと言うのです。
【覇王の夢】…公子・季札は、先代の呉王である寿夢の願いにより、現呉王である兄・諸樊の後を継いで呉王となることに。しかし兄からの使者を待つ間に、季札は見慣れぬ枕で転寝をしてしまいます。

「史記」などに題材をとり、実在の人物や史実を使って書かれた短編集。表題作「博浪沙異聞」は、第15回歴史文学賞を受賞したというデビュー作です。よく知られている出来事を斬新な解釈で描き、時には神仙や占いなどによってなんとも不思議な雰囲気を生み出していくその筆力には目を奪われます。
私がこの中で一番好きなのは、「博浪沙異聞」。元々こういう話は好きなのですが、歴史上の実在の人物とその史実が、これほど幻想的な物語に仕立て上げられているのには驚きました。赤松子と名乗る男の屋敷での生活、特に赤松子や老人と戦わせる中国象棋にはわくわくさせられます。しかも張良はこの後、再びきちんと歴史の中に戻っていくのですからすごいですね。そして次に好きなのは、「覇王の夢」。1つの出来事が入れ替わることによって、歴史がどんどん変わっていきます。しかし小さな流れの1つや2つ変わったところで、大きな流れとしては、結局何1つとして変わらないのでしょうね。そのように見せてくれるところが、本当にお見事です。パラレルワールドのような場所がもし実在するのなら、本当にこういう出来事が起きているのかもしれませんね。そして「妖花秘聞」では、晋を乱した悪女とされている驪姫の別の姿を見ることができます。それでも歴史は男性の手によって書き綴られていくのだというのが、なんとも皮肉。「帝たらんと欲せしのみ」黥布が叛乱を起こした本当の理由とは。全てが終わった時、彼は果たして何を思っていたのでしょうね。その顔は、実は満足の笑みを浮かべていたのではないでしょうか。

「隋唐陽炎賦-亜州黄龍伝奇5」トクマ・ノベルズ(2003年3月読了)★★★★★
煬帝が宇文化及らに弑されて3ヶ月余りたった頃、李密の元を1人の青年が訪れていました。その青年の名前は青陽。隋の時代の黄龍を見守る青龍でした。そして李密こそが、この時代に転生した黄龍。しかしその李密自らが黄龍の伝説を知り、黄龍を求めて黄鐘を探させていたのです。青陽は李密に近づき、黄鐘が李密の手に渡って目の前で鳴らされてしまうのをなんとか防ごうとするのですが…。

「亜州黄龍伝奇」シリーズ番外編。時代は隋末期から唐の初期にかけての動乱期です。オークションで隋の時代の刀剣を競り落としたビンセント・青が、その刀を眺めながら当時のことを回想するという物語。
李密は、今まではそれほど良い印象がなかった人物なのですが、しかしここではなかなかの英傑ぶりですね。確かに、そうでなければあの魏徴が付き従っているはずもなく(その割に、この作品の中ではあっさりと李淵に下ってしまうのですが)、煬帝があれほど警戒するはずもないのですが… それにしても筋の1本通ったなかなかの人物です。李密と青龍、本当にかっこいいです。しかし柳の代わりに李の家が天下を取るという風評から、天下を取るものとばかり思われていた李密ですが、実際に唐を築くことになるのは李淵。黄龍とはいえ常にいい位置につけるわけでなく、今回のように天下を望める位置にあっても、結果が良いとは限らないというのが、なんとも皮肉。青龍が李密に忠誠を誓う場面や、行きがかり上黄龍のふりをする場面、そして最後の李密と青龍の別れの場面などの切なさにとても惹かれます。

「天邑の燎煙」新人物往来社(2003年2月読了)★★★
上帝の末裔として中原を支配する商。商が夏を滅ぼして中華の覇者となったのは、湯王・天乙の時。それ以来、兵車を中核とする強大な軍によって、商は周辺の小国を従え、中原を支配し続けてきたのです。それからおよそ600年後の第31代の王・受の時代。商の領土は限界まで広がっており、東からは人方という蛮族が、西からは周が商を脅かしていました。国力を傾けてまで東夷征伐をしようとする受。度重なる東征に、商やその民は徐々に疲弊していきます。

商(殷)の滅亡と周の台頭の物語。商王である受(紂王)の描き方が面白いですね。史書の上では希代の暴君とされ、酒池肉林であまりにも有名な受なのですが、ここに登場する受は全く暴君ではありません。滅びの予感を感じさせる商王国を立て直すことに全力を尽くしています。そしてそんな商の滅亡の原因とされた希代の悪女・妲己もまた、全く別の面を見せてくれます。商が滅びたのは、この2人が直接的に悪かったというわけではなく、歴史の大きな流れに逆らえなかったからという印象。
実際、商の滅亡の歴史は、商を滅ぼした周によって書かれていますし、受を紂王と名付けたのも周。商から周王朝への政権交代を正当化するために、商は必要以上に悪く書かれている可能性が高いのです。しかし今まで、その暴君ぶりや悪女ぶりについて疑問を投げかける作品というのは、ほとんどなかったような気がします。
呂尚(太公望)の出自や周に下る経過についても、とても面白かったです。
ただ、物語が淡々と綴られているのはいいのですが、書き込み方が少々浅すぎるような気もします。物語として描かれているいうよりも、史実の羅列のように感じられる部分が多かったのも不満。せっかく受や妲己を魅力的に描こうとしているのですから、もっとその人物像や物語をふくらませて欲しかったです。

「 妖姫の末裔-華陽国志1」中央公論社C★NOVELS(2004年8月読了)★★★★★
諸子百家が並び立つ戦国時代の中国。秦、韓、魏 、趙、燕、斉、楚、蜀という8つの大国のうち、大陸統一を目指す強国・秦は、陽平関の古道を通 り、蜀に攻め入ろうとしていました。その将軍は秦に名高い勇将・司馬錯。兵の数は2万余。相対するのは、国都・華陽からきた蜀の太子・姫英の軍と、同年の南鄭君・姫惺。蜀は周王朝最後の王・幽王と褒じ(女+以)の息子・伯服を祖とする国。蜀の騎馬隊は秦の兵車や歩兵部隊を寸断・撹乱し、その時現れた黄金の仮面 の騎馬の働きもあり、秦を撃退。それは姫惺の弟である、姫皓こと朱華公子でした。太子英は、姫惺と朱華公子を伴って華陽へと帰還することに。

華陽国志全6巻の第1巻。
私は、中国の歴史の中で一番面白いのは春秋戦国時代だと思っているのですが、その戦国時代の中国を舞台に、蜀という架空の国の3人の公子たちが活躍する歴史ロマン。蜀以外の国は史実通 りで、秦の宰相の張儀や様々な法を定めた公孫鞅(商鞅)、将軍・司馬錯は、秦の恵王に仕えていた実在の人物ですし、他にも楚の屈原が登場していたりします。歴史の虚実の入り交じり方が絶妙で、華やかでありながら重厚、とても架空の話とは思えない大河ドラマとなっています。
暗愚な現王・姫共と秦氏、乱暴者と悪評高い太子・姫英、武勇にも智略にも優れていた先の太子・姫高の息子で、さらに君主としての徳をも備えているという評判の公子・姫惺、そして夢幻がそのまま形になって現れたかのような美貌の持ち主という朱華公子こと姫皓。物語を読み始めた時は、てっきり英がもっと粗雑でどうしようもない太子なのかと思っていたのですが、意外と男気があるさっぱりとした気質のようで、それがとても好ましかったですし、姫惺の優雅で冷静沈着なたたずまいもいいですね。美貌の朱華公子を挟んで、2人がどのような関係になるのかと思えば、これがなかなかの組み合わせのようです。男装の麗人という設定も、それほど独創的ではないながらも、やはり魅力的。今後のこの3人の バランスを含めて、屬の国がどうなっていくのかとても楽しみです。

「流血の都城-華陽国志2」中央公論社C★NOVELS(2004年8月読了)★★★★★
南鄭君姫惺と楚姫の婚礼が無事に執り行われた蜀。姫惺を秦に人質として差し出すという話はなくなったものの、王は秦からの妃の輿入れにこだわり、重要な守りの要である陽平関の古道の整備と拡張の工事を秦に請け合うことに。しかし秦の真の狙いは、この整備された道を通 って蜀に攻め入ることにあったのです。王は、秦の考えを見抜いた段栄らの諌言にも耳を貸さず、却って意地になって工事を早めるように命令する始末。王の叔父に当たる巴君姫宗の言葉にも耳を貸さない王の態度を見た太子英は、かねてから秘かに朱華公子と練っていた策を実行に移すことに。

華陽国志2巻。朱華公子とのことをあっさりと姫惺に告げた太子英の行動には驚きましたが、しかし所有欲が垣間見えるとはいえ、実に男気のある行動ですし、内密の相談のために必要だという説明も理に適ったもの。そして2人が練る策に関しても、英の意外な策士ぶりには驚かされますね。どこが「ただの乱暴者」なのでしょうか。姫惺よりも余程魅力的。
しかし英の夫人である段氏や、楚姫が朱華公子のことを知った時、どのような行動に出るのでしょう。この時代の女人たちは妾の存在を当たり前に考えているとはいえ、やはり普通 とはかなり状況が違うはず。乳兄弟である梁小鳬の気持ちがどこにあるのかも気になります。その辺りに今後落とし穴となる部分がありそうで、少々不安です。

「乾坤大戦記-亜州黄龍伝奇6・7」上下 トクマ・ノベルズ(2003年3月読了)★★★★★
アメリカのワシントンDCにあるCIAで東アジア、特に中国を担当する部署についているシャロン・リー。大規模な騒乱の兆候を見せたチベットの独立運動が突然終息したことに疑問を持っていた彼女は、自治区政府から全土に通達された手配書に載っている工藤秋生の写真を見て、その顔に見覚えがあると感じます。そして良く似た人物が半年前の中国広東省での原発のメルトダウン事件の時の資料にも写っていたのを思い出してしまうのです。さらには、監視衛星による香港で起きた爆破テロ事件の写真の中にも秋生の写真が。呉先生とも古い知り合いのシャロンは、黄龍と四聖獣の存在を知ることになり、早速5人を狙い始めます。一方、中東では軍事大国イラクが隣国クウェートへ電撃的に侵攻し、わずか1日で占領に成功。イギリスとアメリカはイラクを非難する声明を発表し、国連はイラクに無条件撤退を求める決議を採択。しかしサダム・フセインは応じる気配を全く見せず、膠着状態となっていました。

「亜州黄龍伝奇」シリーズ最終章。1巻の時と同じような黄龍争奪戦となります。しかも今度は黒幕同士の奪い合いではなく、国家レベルでの奪い合い。CIAに狙われているかと思えば、モサドにかっさらわれ、イスラエルに向かった飛行機をアラブゲリラにハイジャックされ…という大騒ぎ。四聖獣たちも苦しい戦いを強いられます。シャロン・リーの論理には同感できませんが、しかし四聖獣がいるからこそ、黄龍の存在が目立ってしまうという言い分には一理ありますね。いくら四聖獣が黄龍の人生に不介入だと言っても、人間を越えた存在が4人もいれば確かに目立ちます。黄龍だけなら、それほど目立った行動をとることもないわけですものね。そして目覚めを司る四聖獣の存在は、ここに至るための伏線だったのかと納得しました。…しかしたとえ一旦悪夢から目覚めたとしても、やはり人間は同じ歴史を辿り、同じ間違いを繰り返してしまうのでしょうね。
今まで女好きと言われてもぴんとこなかった秋生、最後は「やはり女好きだったのか!」と思ってしまいました。(笑)今まではセシリアに負けていただけなのでしょうか。本編はこれで終わりとのことですが、アンソロジー「チャイナ・ドリーム2」に収められている「黄帝の末裔」も、このシリーズの外伝にあたります。歴代の黄龍にはかなりの著名人も含まれているようですし、またぜひ外伝などで彼らに再会したいものです。

「われ天の子たらん」新人物往来社(2003年3月読了)★★★
秦の時代。政が13歳で荘襄王の跡を継いで王となり、4年が経過した頃。政は未だ加冠前で、政治の実権は母である趙太后と宰相の呂不韋が握っていました。呂不韋が政治に関心のないはずの母にばかり相談、報告をするのを不審を思っていた政は、母の年若い侍女に問いただし、2人の関係が父の崩御から1年としないうちから始まっていたのを知ってしまいます。そして別の古参の侍女もまた、政の母である太后が身ごもったのが、荘襄王の元に上がってからなのか、それ以前なのか分からないということを政に告げてしまうのです。太后は元々呂不韋の落籍した舞妓であり、その姿を一目見て気に入った父・荘襄王が、彼女を呂不韋から譲り受けたという経緯がありました。自分がどちらの子なのか、どちらの面影を持っているのか、政は銅鏡を見つめます。

自分の本当の父が誰なのか分からず、母を信じることもできず、どんどん人間不信の方向へといってしまう政。彼がここまで頭の良い青年でなければ、もしくは繊細な部分などほとんどない、豪放磊落な人間であれば、ここまで心が冷え切ってしまうことはなかったのでしょうね。人質に出され、父や母とあまり触れ合うことのなかったという生い立ちもまた、彼にとっては不幸な偶然だったように思えます。どれか1つでも欠けていれば、今とは違った形で歴史に名を残す聡明な王となれたかもしれません。もしくは、愛し愛される人間を持つ、平凡でも幸せな人生を歩めたかもしれません。秦もここまで色々な面で厳しい国にはなっていなかったことでしょう。
しかし一度冷え切ってしまった心には、最早本当の父だと名乗る声も届かないのです。彼が呂不韋を遠ざけたのは、やはり顔を見るたびに、無意識に自分と共通する部分があるかどうかを探してしまうのが辛かったからなのでしょうね。自分にとって、真の父親など必要のない存在、父が誰なのか分からなくても自分は自分、そんな風に思い切るためには、呂不韋の存在は邪魔だったのでしょう。「朕は天の子、地上の天となる」 その言葉を発した政の心を思うと、なんともやりきれない気持ちになってしまいます。
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