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このページは、ほしおさなえさんの本の感想のページです。

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「ヘビイチゴ・サナトリウム」東京創元社(2004年3月読了)★★★★★お気に入り
中高一貫教育の女子校・私立白鳩学園。その南校舎の屋上から高校3年生の江崎ハルナが墜落死。ハルナは美術部に所属し、芸大は確実と言われていた才能の持ち主。しかし事故によって目に傷がつき、一時的に視力を失っていました。実は美術部では、美術部部長を務めていた杉本梨花子に続く2人目の墜落死。そしてハルナが死んで以来というもの、校舎のあちこちでハルナそっくりの幽霊が出るという噂が広まります。国語教師の宮坂もまた、ハルナの幽霊を何度も目撃していました。視聴覚教室から宮坂とハルナのことを書いたメモが見つかり、宮坂が何かを呟きながら追っていたという場面が目撃され、宮坂とハルナの噂は学園中に広がります。宮坂は小説家志望。密かに付き合っていたハルナの持って来た文章を使って小説を書き上げ、「海音」新人賞に応募していたのです。しかし受賞が決まった後、宮坂は自分の小説の中の文章と同じ物が、2年も前に発表された連載小説の中にあるのに気づきます。そして宮坂もまた屋上から墜落死。美術部に所属する中学3年生・西山海生と新木双葉、そして宮坂の同僚の数学教師・高柳は、真相を探り始めます。

ミステリ・フロンティア第2回目配本。ミステリとしてはこれがデビュー作となるのですが、ほしおさなえさんは、「大下さなえ」という名前で、既に詩人として活躍している方なのだそうです。それも納得。読んでいてどことなく不思議な心地良さを感じたのは、やはり詩人としての感性によるものなのでしょうね。
ミステリとしては一応解決されるのですが、果たしてこれが最終的な真相だったのか、何かまた1つ明らかになれば、またあっさりと形を変えてしまうのではないのか、そんな揺らぎを覚える作品でした。元々この作品は第12回鮎川哲也賞の最終候補に残った作品なのだそうですが、結果としてミステリという形式をとっただけで、それほどミステリには拘っていないのかもしれないですね。構造が少々複雑になりすぎて、最後のインパクトが薄れてしまったせいもあるのですが、逆に幻想的に終わらせてしまっても良かったのではないかと感じました。どちらかといえば、謎そのものよりも、文章というものの匿名性の高さ、もしくは「個」としての存在の薄さが興味深かったです。全く違う人物の書いた文章でも、パソコンやワープロ上で一度融合してしまえば、確かに見た目ではまるで境目がなくなってしまいますものね。私は普段、ある程度知っている人の文章なら、名前が書かれていなくても、読んだ時に気配を察することができるのではないかと思っているのですが、それでもそこに第三者の手が入ってしまえば… 恐らく全く分からなくなってしまうのでしょうね。
ポール・オースターのニューヨーク3部作の1作「鍵のかかった部屋」と、ジェフリー・ユージェニデスの「ヘビトンボの季節に自殺した五人姉妹」が重要モチーフとなっています。どちらも読んだことがない作品なので、ぜひ読んでみたくなりました。ほしおさんの次作もとても楽しみです。
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