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このページは、畠中恵さんの本の感想のページです。

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「まんまこと」文芸春秋(2007年7月読了)★★★★

【まんまこと】…神田の古名主、高橋宗右衛門の自慢の息子・麻之助は、16歳になった途端に生真面目で勤勉な青年から、お気楽な若者へと変貌してしまいます。そんな麻之助も22歳。ある日、悪友の八木清十郎に男色の仲だと宣言して欲しいと言われ、さすがの麻之助も驚きます。
【柿の実を半分】…質屋の三池屋の柿を盗ろうとした麻之助は、突然下から竹の棒で突付かれて、危うく木から落ちそうになりながら逃げることに。毎年通っているのに、こんなことは初めてでした。
【万年、青いやつ】…麻之助に来た縁談話は、武家の娘で、教養も深く、優しく美しいというお寿ず。麻之助は縁談から逃げるように、松野屋へ向かうのですが…。
【吾が子か、他の子か、誰の子か】…幸太が自分の息子の忘れ形見なのではないかと言い出したのは、松平家の家臣・大木田七郎右衛門。麻之助が真相を調べることになり、清十郎が激昂します。
【こけ未練】…水元又四郎の容態が悪く、麻之助に会いたがっていると聞き、清十郎と共に見舞いに向かう麻之助。しかし途中で見知らぬ狆とおしんと名乗る娘を拾ってしまい…。
【静心なく】…いよいよお寿ずのことを真剣に考えなくてはならなくなった麻之助。そんな時に幸太が誘拐されて50両を要求される騒ぎが起こります。

新シリーズの連作短編集。今回中心となるのは、主人公の高橋麻之助、女好きの八木清十郎、堅物の相馬吉五郎という3人組。それほど一緒に行動するわけではないのですが、麻之助のところに持ち込まれた揉め事を、麻之助が友人たちの助けを借りて調べ、人情味たっぷりに解決するというのが基本的な流れです。八方丸く収まって読後感が良いところは、さすが畠中恵さんの作品らしいところ。やはりこの方の作品には、江戸の雰囲気がよく似合いますね。しかし同時に、まだシリーズ最初の作品のせいか、まだどこか定まりきっていない印象もありました。麻之助の機転がきくところはいいのですが、どうしても麻之助と清十郎の造形が若旦那と栄吉に重なりますし、そうなると妖(あやかし)がいない分、こちらはやや部が悪い気がします。麻之助が16歳でお気楽になってしまった理由に早々に見当がついてしまったのも残念。「しゃばけ」シリーズでは常時登場して活躍する女性がいないので、今後のお寿ずの活躍に期待でしょうか。


「つくも神貸します」角川書店(2008年1月読了)★★★★

【序】…長年大切に扱われてきた器物の中には、百年を経ると妖(あやかし)と化し力を得て、付喪神となるものがあります。お紅と清次という姉弟が切り回している、深川の出雲屋という小さな古道具屋兼損料屋にはそんな付喪神となった古道具が沢山あり、日々様々な場所に貸し出されているのです。
【利休鼠】…その朝、貸し出していた夜着を引き取りに深川の料理茶屋・松梅屋を訪れた清次。珍しく馴染みのおきのが残っており、困りごとがあるという武家・佐久間勝三郎を紹介します。
【裏葉柳】…両親と祖父を失い、まとまった金子を受け継いだ鶴屋が深川に店を買って料理屋を開くことになり、出雲屋も様々な品を貸し出すことに。しかしそこは幽霊が出るという噂の店だったのです。
【秘色】…お紅がずっと捜し求めている蘇芳という銘の入った香炉。しかし探しているのは本当は香炉ではなく、その香炉を持っている本人なのです。そして蘇芳らしき人が鶴屋に現れます。
【似せ紫】…新たに出雲屋にやって来たのは、琥珀の帯留めの黄君。黄君は日本橋の小玉屋にいた頃のお紅と飯田屋佐太郎、そして清次を知っていました。そして、話の続きはお紅が祖母からもらった守袋の青海波へ。
【蘇芳】…飯田屋佐太郎が姿を消して4年。ふらりと日本橋へと帰ってきた佐太郎がまた姿を消したと母親の十女が出雲屋を訪ねて来ます。

掛け軸の月夜見(つくよみ)、蝙蝠の形をした根付の野鉄、姫様人形のお姫、煙管の五位、櫛のうさぎ、金唐革の財布・唐草。そういった古い品に妖しの力が宿り、つくも神になるという設定はいいと思いますし、実際このつくも神たちもとても味のある愛嬌のある品々。そしてお紅と清次もなかなかいい感じだと思います。しかしつくも神たちと人間2人の距離が中途半端に開いてしまっているのが、どうしても読んでいて気になってしまうのも事実。つくも神たちは人間2人を気にせず喋りまくり、しかし人間に話しかけられた時は返事をしない。2人が何か知りたいことがある時は、わざとつくも神たちの目の前でそのことを話題にし、それからつくも神の品々を関係各所に貸し出す。「しゃばけ」シリーズとはまた違うのは良く分かっていますし、「しゃばけ」とは違う個性を出さなければいけなかったというのも良く分かります。これもまた決まりごとの1つとして成立しているのでしょうけれど… あまりに不自然なような気がしてしまうのです。つくも神たちも期待したほどの活躍ではありません。やっていることといえば、結局のところ、単なる噂集めのみ。実際には、つくも神がいなくても特に困るほどではありません。しかも、たとえそれが読んでいるうちに気にならなくなってきたとしても、ラストがあまりにあっさりとしすぎているのではないでしょうか。あれだけ騒いでいたのに、途中経過の一波乱二波乱もなく、これほど簡単に決着がついてしまうと、少々拍子抜けしてしまいます。可愛らしい話なだけに、それらの部分がとても惜しいと思います。


「ちんぷんかん」新潮社(2008年2月読了)★★★★

【鬼と小鬼】…夜中の火事で仁吉と佐助に起こされた若だんな。しかし中庭に向いた離れの板戸を開けた途端、煙を大量に吸いこんでしまった若だんなは、気づくと賽の河原にいたのです。
【ちんぷんかん】…貧乏武士の3男・秋英は9歳の時に上野の広徳寺に入り、妖退治で名高い寛朝の弟子となります。それから13年。寛朝に客があり秋英が寛朝を探していると、そこには若だんなが。
【男ぶり】…火事後の再建が進む通町。長崎屋では松の助の縁談が進められていました。たまたま母のおたえと2人きりになった若だんなは、なぜ金も身分もない手代の父と結婚したのか尋ねます。
【今昔】…ようやく長崎屋の新しい家屋が出来上がり、一太郎の真新しい離れで妖たちの宴が開かれます。しかしそんな時、突然一太郎が陰陽師の操る式神に襲われて…。
【はるがいくよ】…松の助の縁談がようやくまとまり、三春屋の栄吉も修行のためにしばらく店を離れることに。

しゃばけシリーズの第6弾。
今回、いきなり若だんなが三途の川のほとりに行ってしまって驚きましたが、他の短編も「死」「別れ」を強く意識させられる作品ばかりでした。特に最初の「鬼と小鬼」「はるがいくよ」の2作。そして「はるがいくよ」は、とても余韻が残る作品ですね。生まれたその日から病弱で、いつまで命が持つのか分からない若だんな。たとえ若だんなが病で亡くなることがなく、寿命を真っ当したとしても、人としてせいぜい数十年を生きるのみ。後に残される妖たちは、その後も長い年月を生きることになります。しかし普段、自分自身が「病」を通してあまりに「死」の近くにいるため、若だんなはそんな妖たちの気持ちになかなか気づくことはありませんでした。「鬼と小鬼」で賽の河原に行ってしまっても、自分のことを思い悩むというよりも、妖たちを無事にこの世に戻したいという一心から生き返ろうとするのですから。しかし「はるがいくよ」では、自分の寿命が終わるというのではなく、自分が置いていかれる身になって初めて、周囲の気持ちに改めて気づかされることになる若だんな。小紅の存在が切ないながらも、とても健気で可愛らしいです。


「こころげそう-男女九人お江戸の恋ものがたり」光文社(2008年10月読了)★★★

【恋はしがち】…長屋に女の幽霊が出ると聞いた長次は、宇多に調べるように言いつけます。その幽霊は由紀兵衛長屋に出るのだというのです。
【乞目(こいめ)】…夜更けに宇多を訪ねてきて起こしたのは、於ふじ。幼馴染の刺激地が新橋の袂で水に浸かって倒れているを見つけたから助けて欲しいというのです。
【八卦置き】…おまつとお品が茶屋で掴み合いの大喧嘩。お品が弥太とお染のことを棟梁に言いつけたのです。その頃、お品が通っていた八卦置きの易者が消えたというのですが…。
【力味(りきみ)】…おまつが長屋に押しかけてきて帰ろうとしないと弱った弥太は、宇多の元へ。丁度そこに弥太の祖父の友人だったという深川の平五郎が転がり込んできます。
【こわる】…夜更けに男と言い争っていたのはお品。しかし助けに入った於ふじを見て驚いたお品は走り去ってしまいます。そして宇多は丸中屋絡みでいざこざが続いているという話を調べていました。
【幼なじみ】…夜の神田川を流れていくお品をみつけた於ふじ。助けようと手を伸ばす於ふじですが、於ふじの手はお品の体をすり抜けてしまいます。そして自分が溺れた時のことを思い出すのです。

9人の幼馴染たちの物語。岡っ引の長次の家に居候中の下っ引き・宇多、長治の娘・お絹。この物語が始まった時は既に亡くなってしまっているのですが、大和屋由紀兵衛の息子・千之助とその妹・於ふじ。大工の棟梁の娘のお染、野菜のぼて振りの弥太、叔父の口入屋・永田屋の手代をしている重松、鶯茶屋の看板娘のおまつ、裕福な煙管屋・岡本屋の娘・お品。
幼い頃から仲良しとして育った9人も、そろそろお年頃。小さい頃は男女の区別もなく走り回っていた9人も、成長するにつれて相手を新しい目で見ることになります。男女の区別や家の違い。お互いを男や女として意識することも。しかし9人なのです。その数からもある程度予想はつく通り、彼らの恋心はそのグループの中で綺麗に収まりそうにもありません。それぞれの生活が忙しくなり会う機会が減ることもあり、それぞれの思いはすれ違い行き違い、恋愛も友情もなかなか上手くいかないところが切ないのです。
6編の連作短編集は、於ふじと千之助の死の真相を探るという大きな流れがあるミステリ作品なのですが、むしろ9人の青春物語といった印象でした。しかし9人というのは多いですね。せいぜい7人でしょう。9人の描き分けができているとはあまり思えませんでしたし、その反面、あまり好みではない部分が目についてしまったような気がします。結局あまり感情移入できるような人物がいなかったのが残念です。


「いっちばん」新潮社(2009年2月読了)★★★★

【いっちばん】…日限の親分が若だんなのところへ。最近通町で横行している質の悪い掏摸は、おそらく打物屋の老舗の大店の次男坊が飴売りの女の共謀。しかし肝心の証拠がなく…。
【いっぷく】…仁吉と佐助がいつも以上に心配性となって暴走。実は妖を探している者がいるという噂があり、その中には鳴家も入っているというのです。妙に妖に詳しい者らしいのですが…。
【天狗の使い魔】…熱が出て夕餉の後早めに床についたはずなのに、気がついたら空を飛んでいて驚く若だんな。なんと天狗に連れられていたのです。
【餡子は甘いか】…栄吉が修行に来ている安野屋の蔵に砂糖泥棒が入り、箒の柄で叩いて気絶させる栄吉。しかしその盗賊・八助は砂糖の違いが分かり、修行に入ることになるのです。
【ひなのちよがみ】…若だんなを訪ねて来たのは紅白粉問屋一色屋のお雛。千代紙で白粉袋を作ろうと考えており、その千代紙を長崎屋で扱うことができないかと相談しに来たのです。

しゃばけシリーズの第7弾。「ひなのちよがみ」だけは雑誌掲載時に既読。
相変わらずのしゃばけワールドぶりで、若だんなだけでなく妖たちも相変わらず。このシリーズはこのまま偉大なるマンネリズムで頑張って欲しいという気持ちと、そろそろ狐者異を再登場させてみては… という気持ちとが半々。もちろん今のこの人気では、やめようとしてもおいそれとは出版社がやめさせてくれないのではないかと思いますが。
今回は妖たちが勢ぞろいする「いっちばん」が楽しいですね。若だんなを喜ばせようと妖たちが頑張っているのですが、なかなか上手くいかないまま最後になだれ込み… 気がついたら事件もすっかり解決していてめでたしめでたし、というこの構成が堪りません。そして「餡子は甘いか」では、相変わらず菓子作りが下手な栄吉が頑張っている様子が見られて良かったです。器用貧乏な人間よりも、栄吉の方が一度コツを掴めば安定度はずっと高いはずですし、常人以上に伸びるのではないでしょうか。めげずにこれからもぜひとも頑張っていって欲しいものです。

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