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このページは、藤水名子さんの本の感想のページです。

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「流瓢万里-戦国哀恋記3」集英社コバルト文庫(2003年1月読了)★★★★
毒でやられていた身体もようやく癒え、ようやく琳姫と小曳を連れて八賢老東風道人の元を出立する黎燎。しかし国境を越える山を降りてほっと一息つく間もなく、次に3人の前に現れたのは、秦に滅ぼされた尹邑の生き残りだという男たち。山を降りる時に転落して身体を痛めている小曳のこともあり、黎燎はやむなく彼らに下ります。一方秦都では、呂不韋が黎燎の親友だった魏信に、逆臣としての黎燎の討伐を命じていました。

戦国哀恋記3冊目。
黎燎と琳姫は未だ結ばれていませんが、しかしここまでくればきっと大丈夫なのでしょう。どちらかといえば、秦に滅ぼされた邑々から生き残った男たちや、東風道人や露月老、新たに登場するはずの少女希、秦からの追っ手・魏信など、恋愛沙汰以外のことで、黎燎の身辺が騒がしくなっています。魏信もあるべき位置に収まったという印象。しかも後の始皇帝となる太子の政の特異な個性も徐々に明らかになり、今10歳の政がこの後どのように成長するかというのも、目が離せないところです。

P.22「それは、名流の血を継ぐ貴人特有の酷薄さ、と言えるかもしれない。自分は平然と他人を切り捨てることができるくせに、他人に拒絶されることは許せない。そんな身勝手な自我が、魏信の根底では常に渦巻いている。それ故、望んでも得られぬ黎燎の心を、はじめは渇望し、とうとう得られぬとわかると、遂には呪った。」

「風月夢夢秘曲紅楼夢」講談社文庫(2004年8月読了)★★★★
1750年、清の乾隆帝の時代。清明節の人出を見込んで小遣い稼ぎに町に出てきた没落貴族・曹霑は、江南の地を初めて訪れた天子とその一行のためにあてがはずれ、いつしか城の西郊へ。しかしそこにある場末の妓楼・春月楼にも天子の兵が溜まっていたのです。馴染みの虹春にも待たされ、1人酒を飲んでいた曹霑の耳に届いたのは、隣の家から聞こえてくる琵琶の音色。その琵琶を弾いている女性の後姿を見て、王昭君さながらの美女と見てとった曹霑は慌てて虹春の部屋を飛び出し、ぶつかった満州兵と間に揉め事を起こしてしまいます。そして翌日の夜、家を突き止めて襲ってきた兵から危うく逃げ出した曹霑は、幻の美女と再会。仙境へと迷い込むことに。

「紅楼夢」とは、「三国志演義」「水滸伝」「西遊記」と共に「中国四大奇書」とも言われる有名な作品。(「紅楼夢」ではなく、「金瓶梅」が入るという説の方が有力ですが) 栄国邸の貴公子・賈宝玉と林黛玉の悲恋を中心に、賈家の大観園に集う12人の美女たちの物語。この「風月夢夢秘曲紅楼夢」は、そんな「紅楼夢」の作者・曹雪芹こと曹霑が、とある事件に巻き込まれ、そんな中で紅楼夢を書いていくという物語です。
清朝である現実世界での曹霑をめぐる物語と、曹霑によって書かれていく「紅楼夢」の作中世界が平行して進んでいきます。曹霑をめぐる現実世界の方では、見かけは可憐だが口うるさい義妹・繁怜と武芸に秀でた色男の異母弟・曹雹、女賞金稼ぎ・花紅玉ら魅力的な面々が登場、活劇はもちろんのこと、南宋の忠臣・文天祥の財宝探しや曹霑自身の不思議な体験、そして艶っぽい場面などもあり、藤さんらしい波乱万丈な武侠小説ぶりが楽しめます。「紅楼夢」の作中世界も、黛玉や宝玉がなかなか魅力的ですし、読んだことのない読者にも分かりやすく描かれているのがいいですね。しかしいかんせん、この2つの世界の繋がりが薄く、「紅楼夢」の作者の創作秘話というだけでは、文庫にして787ページというこの長さは、少々つらいものがあるようにも思います。この作品では、現実世界と作中世界のバランスが丁度同じぐらいでしたが、どちらかに的を絞るなど少しバランスを変えた方が、より印象的な作品になったような気が… その辺りが少々勿体無く感じられますね。

「独狐剣」ハルキ文庫(2003年1月読了)★★★★
激しい黄風が吹き荒れる中、隠華荘という小さな宿場に現れたのは、見事な肥馬に乗った男。優に六尺を越える全身を被う真っ黒い外被に深めの蓋笠、そして閃くような白銀の剣を持つその男は、彼を狙った男たちを瞬時に葬り去るという比類なき独狐剣の使い手でした。しかしその額には、刑場帰りの罪人であることを示す金印(いれずみ)があったのです。金印に気づいた人々は男を遠巻きにし、無口なその男もそれを気にかける様子もありません。しかしすぐに避けようもない騒ぎが巻き起こります。

藤水名子さんの中国を舞台にしフィクションといえば、まず時代活劇ロマンスが頭に浮かびますが、それらとは全く雰囲気が違う作品。剣戟小説です。特有の明るさや華やかさはすっかり影を潜め、かなり硬派な雰囲気の作品となっています。これまでの作品だと、主人公の男性に愛嬌があり、その相棒となる女性も華やかで、その楽しげなやり取りも大きな魅力となっていましたが、この作品では陰のある謎の男が主人公。無口で暗い人物です。相手役の女性も、場末の酒場の女主人という設定は今までにもあったはずなのに、驚くほど華がありません。しかし何かを心の奥底に秘めている男の存在感が、物語に独特な味わいを醸し出しています。たとえてみれば、木枯し紋次郎のような雰囲気ですね。女性とのシーンもあるのですが、艶のあるシーンというよりは、もっとストイックなイメージ。そして物語自体も、今までの活劇ロマンスとはまるで違い、どちらかといえば、ミステリ的な要素を持った作品です。
華やかな作品も大好きですが、この独特な雰囲気もなかなかいいですね。しかしこの作品は、きっとシリーズ物にはならないのでしょうね。これだけの雰囲気を作り出しておいて、シリーズ物にならないのはもったいないような気もします。
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