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このページは、藤水名子さんの本の感想のページです。

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「涼州賦」集英社文庫(2002年12月読了)★★★★
【涼州賦】…唐の末期。長安から新任県尉として涼州への赴任してきた尚参は、赴任早々正義感と生来の要領の悪さから、この町の有力者である西域商人・薫石公の賄賂を撥ねつけてしまいます。そして怒った薫公の手下に命を狙われる羽目に。そんな尚参を助けてくれたのは、賞金稼ぎの呂豹狄と酒場の女主人の小杏。都督府からも焼き出されてしまった尚参は、小杏の酒屋にやっかいになることに。
【秘玉】…江華は、普段は妓館「蘭花楼」の看板妓。猩猩とまであだ名されるほどの大酒飲みで有名な彼女は、実は都を騒がす女盗賊。盗みの現場に伽羅の芳香を残して去ることから、「偸沈香」と呼ばれていました。そんな彼女の元に客としてやって来たのは、蘇州の大富豪の御曹司・項南之と名乗る若い美男。しかし彼は、これまた都で評判の小盗跖と名乗る変幻自在の怪盗だったのです。

「涼州賦」小説すばる新人賞受賞の、藤水名子さんのデビュー作。どこまでも人の良い尚参のへっぴり腰ぶりが情けなくも可愛らしく、それとは対照的に、強く男気のある呂豹狄と気風の良い小杏の2人が小気味良く、この3人の勢いで読めてしまいます。あまりに冴えない尚参の前を、ロマンスまでもが素通りしてしまうのが笑えますね。デビュー作ということで少々荒削りな部分もあるように感じますが、しかし既に物語のテンポの良さは確立されているようで、とても面白いです。最後の尚参の活躍ぶりがまた笑えます。「秘玉」怪盗物というのがまた藤さんの作風にぴったりですね。2人とも颯爽としていて、騙し騙されのいい関係。絵に描いたような怪盗カップルに、何も考えずに楽しめてしまいます。最後のオチもなかなかです。

「開封死踊演武<朱雀篇>」徳間文庫(2003年2月読了)★★★★
舞台は大宋の都・開封、徽宗皇帝の時代。女ばかりの歌劇団「芙蓉棚」の看板女優にして座長を勤めている、現在24歳の劉蘭姫には、実は香桂樹の珠蘭という二つ名がありました。10歳の頃に養い親を失った蘭姫は、開封府の武術師範・毛範泰によって秘密結社・朱雀演武社、通称廬山黒蓮社に連れていかれ、刺客として武芸十八般を鍛え上げられていたのです。そんな彼女に、恩人である毛範泰から、なかなか公にはできない事件を隠密裏に始末するために腕を貸して欲しいという話が舞い込みます。蘭姫の他に集められたのは、無口な美青年拳法使い・伏之竜、巨漢の怪力怪破戒僧・玄敢、そして遊び人の剣客・盧天将、通称・虎郎将の3人。報酬は1回につき銀3両。

【“蘭姫見参!”の巻】… さるご大身の士太夫の屋敷に侵入、家族家人らを人質にとって立てこもった盗賊団「獄門党」。範泰の持ってきた仕事は、総勢30余名の盗賊団を隠密裏に討果たすこと。
【“愛憎ひと夜”の巻】…滄州の牢城を脱した8人が、近在の村々強盗殺人や婦女暴行などを繰り返しながら開封に入ったという噂。自分たちを滄州送りにした府尹に復讐するためらしいのですが。
【“あやうし必殺拳!魔の秘奥義…”の巻】…之竜は、1人の壮漢が人相の悪い10数人のよた者を相手にしているのに遭遇。素手で人間の肉体を裂き、血を流させるという恐ろしい真空拳の使い手でした。
【“郎将慚愧”の巻】…贋金造りを一網打尽にするため、囮として一味の李二という男に近づいた天将。李二に言われるまま開封府の役人に斬りつけた彼は、密告されて捕吏に引っ立てられることに。
【“相愛坂奇譚”の巻】…殺された恋人たちの幽霊の祟りで、恋人同士で歩くと必ず別れる運命となると言われる相愛坂の付近で、若い女性の失踪事件が相次ぎます。蘭姫と天将が囮となることに。
【“追想…遥けき日々”の巻】…範泰が妻・珀妹の墓を訪れると、その墓前に供えられていたのは、珀妹が最も好きだった虞美人草の花。一体誰がこの季節に咲く虞美人草の花を見つけてきたのか…。

開封死踊演武シリーズ1作目、朱雀篇。
表立っては裁けない罪を、闇から闇へと葬って始末するという、まるでテレビドラマの「必殺仕事人」シリーズのような連作短編集。仕事を持ってくるのは毛範泰。その仕事をこなすのは、蘭姫、之竜、玄敢、天将、そして範泰自身。物語途中で梅子游という青年も加わることになります。1作ごとに1つの事件の決着がつき、本当に45分のテレビドラマのよう。テンポが良いストーリーに小気味良いアクションもたっぷり。これだけでも勧善懲悪活劇として楽しめるのですが、ここに範泰の黒幕が誰なのかという謎、蘭姫の出生の秘密、そして一進一退を続ける蘭姫と天将の恋が絡み、大きな流れとしても、なかなか華やかな物語となっています。

「開封死踊演武<白虎篇>」徳間ノベルス(2003年2月読了)★★★★
【“激闘!小嶺谷”の巻】…初の出張仕事は、小領谷に立て籠もった高荘の反乱軍の鎮圧。蘭姫が砦の中に忍び込んで中から門を開けることになるのですが、逆に間者として捕らえられてしまいます。
【“花和尚、号泣”の巻】…故郷の県令を殴り殺すという大罪を犯して都に逃げてきている玄敢とその妻・阿蓮の前に現れたのは、2人の過去を知る李小乙。今回3両で微行中の大宋皇帝の身辺警護を請け負っている玄敢に、小乙は100両で皇帝殺しを持ちかけます。
【“秋芳慕情”の巻】…都で評判の神仙道士・杜秋峯は、蘭姫の初恋の相手・杜士俊。その杜秋峯が上流貴族や富豪夫人を言葉巧みに騙し、莫大な金品を入手しているという噂を、蘭姫自ら調べることに。
【“必殺の掟”の巻】…都では、貴族の馬鹿息子たちがか弱い娘を手篭めにして、娘が自殺を図るという出来事が立て続けに起こっていました。天将の無神経な物言いに傷つけられた蘭姫は、朱進の元へ。
【“誘惑の黒い罠”の巻】…芙蓉棚の花形・文翠玲が恋に落ちます。相手は20歳前後の見るからにチンピラの于恭という男。始めは口出しするつもりはなかった蘭姫ですが、于恭人殺しをする場面を、翠玲が目撃してしまい、逆に命を狙われてしまったことから、手を出さざるを得なくなります。
【“天花乱堕”の巻】…24歳の若さで寡婦となり、命まで狙われようとしている公主の身代わりとなることになった蘭姫。蘭姫の出生の秘密が明らかになります。

開封死踊演武シリーズ2作目、白虎篇。
天将と蘭姫も結ばれて一件落着かと思いきや、相変わらずの技楼通いの天将。女遊びがやむ気配も一向になく、平気で女心を傷つけるような物言いをする天将に、だんだん本気で嫌気がさしてくる蘭姫。そんな蘭姫の前に現れたのは、豹豺牙狼の朱進。この朱進がなかなかいい男ですね。天将よりも余程大人で包容力があって魅力的。私なら断然朱進の方が好みですし、蘭姫とも上手くいって欲しいところなのですが。
この2冊目では、とうとう蘭姫の出生の秘密が明らかになります。それ以外にも、玄敢と阿蓮の過去とその夫婦愛、之竜の周りで芽生えた恋、ヘマばかりしている子游の猛特訓ぶりなども物語に色を添えています。1作目ほどのインパクトはないかもしれませんが。
しかし1冊目が朱雀篇なのは分かりますが、2冊目はなぜ白虎篇…。何か読み落としてるのでしょうか、私。

「開封死踊演武<青龍篇>」徳間ノベルス(2003年2月読了)★★★★
【“黒蝶、妖乱舞”の巻】…相国寺の境内で見事な竿技を披露していたのは、蘭姫と同じく黒蓮社出身で、暗黒蝶という二つ名を持つ項彩長。実力は全く互角の暗黒蝶は、今は旅芸人の一座に入り、諸国を巡っていました。無二の親友との再会に喜ぶ蘭姫なのですが…。
【“虎豹たちの挽歌”の巻】…朱進に頼まれ、蘭姫は陳窪瓊という男の持つ高級茶館へ。南唐後主の李Uが遺した100万とも500万とも言われる幻の軍資金を横領したという陳窪瓊の金の隠し場所は…。
【“柳巷無情”の巻】…売れっ子の娼妓ばかり3人立て続けに殺され、天将は殺人鬼を追うことに。一方故郷から天将の義姉の珪華が都へ。父親の病気が篤く、天将に会いたがっているというのです。
【“之竜、乱心ーところは清風楼”の巻】…さる高位の高官の息子が誘拐されます。要求は身代金1万両と之竜の身柄。早速その息子を救いに向かう蘭姫たち。しかし肝心の之竜は仕事がしたくないと、技楼に登楼ってしまいます。鳳凰拳の鄒秀鳳と名乗った誘拐犯。之竜の知り合いのようなのですが…。
【“地獄の徐州行”の巻】…今回の仕事は、一大盗賊団・蛟党の首領・鱶鰭の黄十郎を徐州まで密かに送り届けること。2日目の晩、蛟党の残党に襲われ、蘭姫と天将、黄十郎の3人となってしまいます。
【“さらば、開封!”の巻】…禁軍教頭の豹子頭・林冲が滄州の牢城送りとなります。範泰もまた罠にかけられ、結局役所を辞職することに。一方、蘭姫は都大路で死んだはずの黒蝶を見かけて後を追います。黒蝶が入って行った屋敷にいたのは、なんと黒蓮社大総師・夭麼蟲だったのです。

開封死踊演武シリーズ3作目、青龍篇。
前回は蘭姫と玄敢夫婦の過去が語られましたが、今回は天将の義理の姉や、之竜の昔馴染みが登場。この之竜の慌てぶりがなんとも可愛らしくて笑えます。そして今回は、蘭姫の昔所属していた黒蓮社の刺客が登場。これがクライマックスで、なかなかの緊迫感となっています。エンディングにも満足。…朱進がまたしても長い仕事に出てしまっていたのだけは、とても残念でしたが。
この後外伝が出て、さらに「隆生篇」と「降魔篇」とあるのですが、しかし本当はここで終わりの予定だったのかもしれないですね。次に繋げられる余地は残っていますが、ここで終わりという方が潔くていいような気も。
…前巻の白虎篇の「白虎」の理由がようやく分かりましたが… しかし今回の青龍は何だったのでしょうか。

「黄帝無頼-中国神武伝奇」集英社スーパーファンタジー文庫(2003年1月読了)★★★
未だ神話の時代の中国。人々に初めて農耕の仕方を教えたという人身牛首の神・炎帝が地上を去り、早500年が過ぎた頃。東海の豪族の長である公孫氏の跡取り息子・姫凌(きりょう)は、一族を滅ぼされて以来、東海の果てにある蓬莱島の蓬莱仙人の下で修行に明け暮れていた毎日に決別し、5年前に再び大陸へと戻っていました。行く先々で魔物を殪して歩き、現在は「如虎(ルウフー)」ともあだ名される評判の英雄児となった凌。そんな彼はある日、今年17歳になる西陵王の娘・慧姫(けいき)の評判を耳にします。慧姫は、太昊青帝の妹・女禍がその美しさを称えて「梨佳(れいか)」という名前を与えたほどの絶世の美女。美しい彼女を妻にと望む男性は後をたたず、しかし父である西陵王は、全長20尺もある毒蛟を素手で倒すことを婿となる条件としていました。挑戦した勇者たちは、ことごとく毒蛟に丸呑みにされてしまっている状態。凌は早速西陵王の元を訪れ、難なく毒蛟を倒します。しかし西陵王の計にはまり、天望山にいるという不死の怪物・軒轅(けんえん)をも倒しに行くことに。

中国神武伝奇シリーズ1作目。イラストは沖麻実也氏。
豪放磊落で勇猛果敢。しかし実は傲岸不遜で乱暴で、人一倍好色なヒーロー・凌。蓬莱老人の元で修行をこなした彼が大陸に戻り、魔物退治を重ねるうちに、伝説の聖王・黄帝となっていくまでの物語です。そんな凌と一緒に旅をしているのは、紺碧の愛馬。しかしこれがただの馬ではなく、実は天上界の4つの門の1つ・東天門を護るべき四神の一、青龍の化身。力比べで負けて以来凌の従者に甘んじているという存在です。そしてこの1巻でもう1人加わるのが、絶世の美女・梨佳。一目会った時から凌に惹かれながらも、生来の気の強さを発揮する彼女には凌もたじたじで、少々子供っぽいながらも、なかなか楽しいカップルとなっています。崑崙にいる西王母が薄汚れた老婆の姿というのには少々がっかりしましたが、代わりに暗黒神・羅堰という美形の神様も顔を出しますし、梨佳の兄である璃瑜も、まだまだ出番がありそうな予感。どんな物語が展開されるのか楽しみです。ただ、集英社スーパーファンタジー文庫ということで、対象年齢層は低めかも。

「色判官絶句」講談社文庫(2002年12月読了)★★★★★お気に入り
明の時代。港町・寧波にやって来たのは、都から派遣された市舶司提挙(長官)の柳禎之(りゅうていし)と従者の馬元籍(まげんせき)。しかし彼らは直指の任を全うするために、馬元籍が提挙、柳禎之は判官、と密かに身分を入れ替えていました。彼らが寧波港に着いた時、港では日常茶飯事の喧嘩騒ぎが起きており、彼らは寧波港の担夫たちを一手に仕切る高家の一人娘・悠環(ゆうかん)と寧波一の富商の当主・鷹訓(ようくん)がその場を収めるのを見物します。悠環は皇帝の後宮にもいないほどの美少女でありながらも、火竜娘とも呼ばれる札付きの女侠。鷹訓は別名鷹如翔とも呼ばれる冷酷非常な男。2人は幼馴染であり、鷹訓が2年も前から悠環に結婚を申し込んでいるという仲でした。倭寇との密貿易を行っている鷹訓は、新任の提挙と判官を抱き込もうと、金や女、しまいには船で小島に連れ出して脅しまでかけるのですが、なかなか上手くいきません。それどころか逆に、素人娘も玄人女も夢中になる怜悧な美貌を持つ柳禎之が、悠環に興味を持ってしまい…。

悠環の男勝りの活躍と、その活躍から垣間見える仄かな乙女心がいいですね。体にピタリと密着して裾の両端が膝下あたりまで大胆に割れた女真服を身にまとい、背中には豪奢な白銀細工の鞘に入った倭刀を背負い、漆黒の馬に乗って駆け回るというこの姿の勇ましくカッコイイこと。これで見た目も男のようなら誰も何も思いませんが、顔立ちも肢体も抜群なのですから、言うことありません。そしてそんな彼女を巡り、鷹訓と柳禎之が火花を散らすわけですが、そのどちらに軍配が上がるかというのも読みどころ。鷹訓の不器用さと、柳禎之の思わぬ所で見せる可愛らしさ、どちらもなんとも愛嬌があっていい感じ。もちろん冒険活劇ですから悪役もきちんと用意されていますし、人間ドラマも見せてくれます。倭寇という形で日本人も登場、港町ならではの活気に満ちた物語となっています。
読み終えてみると、この題名がなんとも粋に感じられます。いいですね。面白かったです。

「血闘!殺熊嶺-開封死踊演武外伝」徳間ノベルス(2003年2月読了)★★★★
毛範泰の仕事で、蘭姫、之竜、玄敢、天将、子游は夜半の開封市外へ。今回の仕事は、例によって盗賊一味の捕縛もしくは殲滅。しかし最後の1人を討ち取ろうとした時、その賊は10万両もの大金が殺熊嶺に隠してあると言い出します。州諸司の軍隊が遼の大軍とやりあった時に大負けに負けて、逃げるためになりふり構わず捨ててしまった軍資金を拾ったのだというのです。その話が事実だと分かり、蘭姫たちは、軍費一切を司っていたという元五軍従義郎の傅耐典を案内役に、殺熊嶺へと向かいます。しかし蔡京の手先や国境を越えてきた金の女真族、蛮族の盗賊などに、一行は次々と襲われることに。

開封死踊演武シリーズ外伝。3冊続いて連作短編集となっていたこのシリーズですが、これは長編です。時期的には白虎篇と青龍篇の間にあたるとのことで、豹豺牙狼の朱進も登場するのがとても嬉しい1冊。
旅をするのは蘭姫、之竜、玄敢、天将、子游というお馴染みのメンバーと案内役の傅耐典。そして途中で加わるのは、父を探して并州に旅をしている途中だという周螺娘、最後に朱進。周螺娘の存在はあまりに怪しすぎて、何もないと思う方が無理なのですが(笑)、しかしそれでも意外な部分は最後まで残っていました。それにしても蘭姫と天将と朱進が同じ旅の一行になるとは、なかなか際どいですね。蘭姫と朱進を応援している私としては、天将はもういいんですけど…。でもやっぱり最後は天将なのでしょうか。

「佳人乱調-中国神武伝奇2」集英社スーパーファンタジー文庫(2003年1月読了)★★★
暗黒神・羅堰に消されたかと思われた青龍も戻り、元通り3人で旅を続けることになった凌と梨佳。3人は、黄河沿岸の無安という宿場町を通りかかります。しかしその町に漂っているのは一種異様な雰囲気。なんと魔姑娘という稀代の淫乱女怪が無安の町の外れに住み着いて手当たり次第に男をたぶらかし、町に残っているのは女子供と老人だけだったのです。魔姑娘は、百鬼王というこの世に存在するあらゆる妖魔の王の妹で、その神通力は強大。百鬼王には天帝も一目置いているほど。元々女怪が苦手な凌は、梨佳がいくらせっついても退治しに行く様子もなく、業を煮やした梨花は自ら魔姑娘の城へと向かいます。

中国神武伝奇シリーズ2作目。
一応結ばれた形となった凌と梨佳。しかし2人が本当に夫婦らしくなるには、まだまだ先が長そうです。お互いに夫となり妻となることを通して、徐々に大きく成長していくのでしょうね。今はまだ可愛らしいままごとといった感じ。似たもの夫婦のあまりに子供っぽい意地の張り合いには、少々戸惑うほどです。しかしそれぞれに、1つずつ着実に試練を乗り越えていっています。
後書きによると、梨佳は元々は「ただただお上品でお淑やかで、心優しい絶世の美少女。儚く、可憐で、男に守られて生きるしかこの世に存在のしようがない女性」だったはずなのだそうです。それが沖麻実也氏のイラストのパワーにひきずられて、今のように男勝りで気が強い女性になってしまったのだとか。面白いですね。実は「黄帝無頼」を読んでいた時に、梨佳のキャラクター に微かに違和感のようなものを感じていたのですが、これは思いもかけず的を得ていたようです。本来は、大人しいだけの美少女の方が物語自体には合っているような気がしますが、しかしやはり今の梨佳の方が、ずっと藤さんらしいですよね。

「赤壁の宴」講談社文庫(2003年1月読了)★★★★★お気に入り
魏、呉、蜀という三国が覇権を競った三国時代。呉の「小覇王」孫策と、後に呉の将軍となる周瑜は、13の齢からの付き合いで、主従というよりは友人、ほとんど兄弟同然。濃く太い眉に燃えるような瞳、しっかりとした鼻梁、薄く引き締まった唇という男らしい美貌を持つ孫策と、並の女性には太刀打ちできないほどの花の如き美貌と文武や音楽の才を持つ周瑜。お互いに友情以上の好意を持ち、しかしそれをお互いにひた隠しにしたまま生き抜きます。三国志で有名な赤壁の戦い前後を、孫策と周瑜の視点から描いた作品。

孫策と周瑜という2人の関係は時には友情を越え、限りなく愛情に近く描かれており、具体的にどうということはないものの、ボーイズラブ系の好きな人には堪らないであろう作品となっています。真面目な三国志ファンにはあまりオススメできない作品かもしれないですね。好みがはっきりと分かれそうな1冊です。しかしそれでも、孫策の一挙一動に翻弄されながらも、あくまでも自分を抑えて冷静な表情を保つ周瑜がとても切ないですし、孫策を失った後の痛々しさが直に伝わってきます。物語の大半は周瑜の心情が中心で、孫策の想いが表に現れるのは死の直前だけ。しかしそれがとても効果的に感じますね。これがあるからこそ、ラストで安心できるのでしょう。
それにしても、敵とはいえ、劉備や諸葛亮のあまりな言われようには、少々気の毒になってしまいます。諸葛亮は「端整な顔立ち」と言われているからまだいいものの、劉備なんてひどいものです。周瑜は劉備を見た瞬間「なんと、卑しげな男だろう」と怖気をふるい、手をとられた時は「あまりの悪寒に目眩を覚え」ますし、孫策の一番下の妹である恵姫も「あんな優柔不断で冴えないオジサン」と言い放つぐらいなのですから。(笑)

P.305「もし一度でも、女のように愛されていたら、或いは私は、あっさりあの方を忘れてしまえたやもしれぬ」

「開封死踊演武<隆生篇>」徳間ノベルス(2003年4月読了)★★★★
【幻の女-揚州夢芝居-】…雨に降られ、開封の城門から外にある古びた辻堂に走りこんだ天将は、偶然伏之竜と再会。之竜とは半年振り。武者修行を続けていたはずの之竜が開封に戻ってきたのは、天将に会うためでした。なんと1年前に死んだはずの劉蘭姫が生きているかもしれないというのです。
【竜王の花嫁】…天将と共に江水遊覧をしていた蘭姫。しかし突然現れた大型帆船に船が乗っ取られてしまいます。乗っ取ったのは霸竜王率いる水賊。蘭姫は霸竜王とも呼ばれる呂紅旋に目をつけられ…。
【遠き楽土】…開封へと戻る子游に同行した玄敢夫婦が、宿をとった百花村で瑞幽という怪しげな道士の言葉に誑かされてしまいます。蘭姫たちは毛範泰に言われて瑞幽に会いに行くことに。
【開封平安】…1年ぶりに開封へと戻ることになった遊戯隊の面々。芙蓉棚に顔を出した蘭姫は、かつては立ち見客をも出した棚の凋落振りに驚きます。近くに美少年ばかりを集めた雑劇の一座ができ、客は全てそちらに流れてしまったのです。そしてそんな蘭姫を訪ねてきたのは、霸竜王こと呂紅旋でした。

開封死踊演武シリーズ5作目。
一度は死んだはずの蘭姫が復活!藤水名子さん御本人もあとがきで書いてらっしゃいますが、本当にシャーロック・ホームズのパターンですね。何はともあれ、蘭姫に再会できるというのはやはり嬉しいものです。元気な蘭姫はもちろんですが、登場し始めた頃の上流夫人・楓芝の姿もなかなか魅力的。しかし思い出してしまったとはいえ、蘭姫に戻るのが彼女にとって本当に幸せだったのか… このまま之竜との恋物語に発展した方が、よっぽど幸せだったのだろうなと考えてしまいます。そうなると、開封死踊演武シリーズとしては成り立たなくなってしまうのですが。
今回良かったのは伏之竜と呂紅旋。之竜は男の魅力アップ。呂紅旋の無邪気な好青年ぶりも一皮剥ければ、朱進のような男ぶりとなるのでしょうね。その分、天将の影がとても薄くなってしまったようです。しかし元に戻った蘭姫は、之竜への想いを忘れてしまったのでしょうか。この際、天将などすっぱり忘れてしまうというのもいいと思うのですが… そうもいかないのでしょうね。之竜がなんとも不憫です。
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