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このページは、板東眞砂子さんの本の感想のページです。

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「桜雨」集英社文庫(2001年8月読了)★★★★★お気に入り
小さな出版社に勤めている額田彩子は、幻想絵画の本を出版するという企画をすすめている時に、偶然一枚の絵画に出会います。それは闇の中の朱色の炎と桜の花びら、そして2人の女が描かれた日本画でした。彩子はどうしてもこの絵を本の図版に入れたくなり、持ち主である鬼塚と共に この絵を描いた画家を探し始めます。やがてこの絵のタッチが、戦前に池袋モンパルナスと呼ばれる地域で活躍した画家・榊原西游のものと似ていることが分かり…。放縦な日本画家・榊原西游と、彼を巡る二人の女性・早夜と美沙江の人生を描いた物語です。

ホラー色が強いということで敬遠していた作家なのですが、この「桜雨」は全くホラーではなく、むしろ作品に登場する日本画のように幻想的で情熱的な物語でした。何人もの男性が登場しますし、西游という画家も物語上とても大きな役割を担ってはいるのですが、しかしこの物語の主役はあくまでも「女性」でしょう。芸術家を素材にした他の物語同様、西游という画家のまわりには一般 常識は存在せず、だからこそ、彼を巡る女性たちの深い情念の溢れ出てくる様 は見事です。そしてこの3人の緊張感のある関係が、現代の彩子の元にも流れ込んできます。どの女性も、自分で選んだ人生とは言え、あくまでも自分に正直に、「女性」であり続けていくために、敢えて苦しい道を進んで行く強い女性たち。この情念の世界は、やはりホラーと言われる板東眞砂子の世界をかいま見せている物なのでしょうね。
現在と過去の交錯の仕方もとても上手いですし、最後も見事です。しみじみと、しかし一気に読ませてくれる作品でした。

「ラ・ヴィタ・イタリアーナ」集英社文庫(2002年2月読了)★★★★
長編小説の執筆のために、1年間イタリアに滞在することになった板東さんのエッセイ。イタリアのパドヴァに着いて、空港の荷物の受け取りカウンターで自分の荷物が出てこなかったことに始まり、滞在許可証や現地の大学の学生証の申請の苦労話、自動車免許取得の奮戦振り、そして様々な土地での様々な人々とのやりとりなど、色々な出来事が綴られていきます。

板東さんは、なかなかさばけたおおらかな人のようですね。肩の凝らないエッセイで、とても楽しかったです。出会って仲良くなるのもイタリア人ばかりではなく、色々な国の人間。物怖じしないタイプの方なのでしょうね。イタリアでの長期滞在は2度目らしく、言葉にも不自由はないようです。出合った人とどんどん仲良くなってしまうのは、読んでいて羨ましいぐらい。様々なお国柄の出たやりとりもとても面白いです。パドヴァでの大家・コニリィオ夫人がアパートに「心臓を置いている」話、イタリア人の友人マッシモとその家族の話、マッシモの友人のジジやアンドレアを交えての別荘での休暇と「イタリア式礼儀」の話、中国人のメイリンやシュウフェンと彼女たちの苦労話など…。あと自動車免許の取得には四苦八苦している所も面白かったです。自動車の交通法規が、免許をとるための教室にしか存在しなおらず、実際街中では誰もそんなものは守っていない話もか。頭の中で想像するイタリアそのままの姿で笑ってしまいます。色々と苦労して大変だったのは分かるのですが、こんな生活だったら私もしてみたいと思ってしまうようなエッセイでした。
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