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このページは、平石貴樹さんの本の感想のページです。

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「だれもがポオを愛していた」創元推理文庫(2003年1月読了)★★★★★
ニューヨークからボルティモア・ワシントン空港に降り立った外交官の更科(サラシーナ)と娘の丹希(ニッキ)。休暇のためにボルティモアにやって来た彼らを迎えたのは、ボルティモア市警察の刑事・ナゲット・マクドナルド。この日のために1日休暇をとっていたナゲットでしたが、しかし郊外で起きた事件のために、休暇はふいになってしまっていました。それはロバート・アシヤとメアリアン・アシヤという日系人の兄妹の2人が住む屋敷で起きた爆発事件。まるでエドガー・アラン・ポオの「アッシャー家の崩壊」のように、屋敷の半分が家の前にある沼の中に沈んでいたのです。しかも爆発の直前には、地元テレビ局のWBALに男性の声で「こちらはエドガー・アラン・ポオだ。諸君はアッシャー家の崩壊を見出すであろう」という予告電話が。ニッキのたっての希望で、ナゲットはニッキを爆発現場へと連れて行くことに。

「アッシャー家の崩壊」「ベレニス」「黒猫」と、ポオの作品に見立てられた連続殺人事件。そして「ユーラルーム」を始めとするポオが書いた詩も事件の手がかりとなります。古典的な味わいのある本格ミステリ。
登場人物がかなり多いので混乱しやすいのですが、しかし登場人物表が載っているので、それを言うのは酷というものでしょうね。後書きで有栖川さんが書いてらっしゃるように、「話についていくのが難しくなったら、前に戻ってきちんと理解してから進む、という労を厭わないこと。」というのが重要だと思います。私も実際に何度か戻ることになりましたが、解決編にはそれだけの価値がありました。
しかしニッキが法務省の一種の秘書というのは、どういう意味だったのでしょうね。彼女があまりにすんなりとアメリカの警察の捜査の中に入れてしまったのには違和感を感じてしまいました。しかも目の前に殺人が起きているというのに、あんな態度をとる名探偵というのは…。その他の場面でのニッキが魅力的に描かれているだけに、ギャップが激しすぎる気がします。これがメルカトルなら、何の不思議もないのですが。

P.105「あたしはままでその二つが両立不可能なものだなんて考えたことがなかったもの。詩人と警官と。…あたし、もちろん詩人になりたいと思ったことなんてないわ。これからもないでしょうね。でも、そうなる可能性はそのまま残っていると思ってたの、何となく。警官になることが、あたしの中のその可能性を殺すとは予想してなかったわ」(ニッキ)
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