Livre TOP≫HOME≫
Livre

このページは、はやみねかおるさんの本の感想のページです。

line
「怪盗道化師(ピエロ)」講談社青い鳥文庫(2003年9月読了)★★★

「どんで」という名前の小さな町にある西沢書店。毎日暇な時間を過ごしていた「西沢のおじさん」は、貯金箱を握り締めてアルセーヌ・ルパンの本を買いにきた少女を見て、自分が怪盗になることを思い立ちます。おじさんが目指すのは、何か盗んでも笑顔を残していけるような、ピエロのような怪盗。おじさんは黒いマントにシルクハット、そして片眼鏡という扮装をして、ビラを電柱に貼り始めます。そのビラに書いてあったのは、

 怪盗道化師(ピエロ)参上!!なんでもぬすみます。ただしー
    ☆ 世の中にとって値打ちのないもの
    ☆ 持っている人にとって値打ちのないもの
    ☆ それをぬすむことによってみんなが笑顔になれるもの
                             れんらく先は西沢書店まで

早速おじさんのところに、アルセーヌ・ルパンの本を買った女の子から、怪盗ピエロへの依頼が入ることに。

第30回講談社児童文学新人賞に入選したという、はやみねかおるさんのデビュー作。
アルセーヌ・ルパンの本からヒントを得て怪盗になることになった、西沢のおじさん。服装こそ怪盗らしいものの、そのカッコよさはルパンにはほど遠いのですが…、しかし依頼人のために頑張るその姿は、暖かくてとても素敵。そんな怪盗ピエロが盗んで欲しいと言われるのは、悪口や悪い心、恋心、幽霊、10階建てのビルの影、クリスマス、運命、悪い運動神経、現実、夢… と一筋縄ではいかないものばかり。しかし怪盗ピエロは、色々と考えて工夫しながら一生懸命盗んでいきます。この中で一番印象に残ったのは、第5話の「影を盗む男」でした。ビルの影など盗めないと諦め気味でビルを建てる会社の社長の家に行った怪盗ピエロ、しかし彼に向かった社長の言葉はなかなか深いですね。そして最終話の「最後の仕事」には驚かされますが、その後にあとがきを読むのをお忘れなく。(先にあとがきを読んではダメです!)
本の裏には少学上級からとなっていましたが、低学年から読めると思います。
ところで「どんで」という町の名前は、スペイン語の「Donde」でしょうか。もしこれだとすれば、英語の「Where」に相当する言葉。なんとなく「NowhereMan」のようで、ニヤリとさせられてしまうのですが…?


「バイバイスクール-学校の七不思議事件」講談社青い鳥文庫(2001年9月読了)★★★

生徒が全部で6人という大奥村小学校。今期限りで廃校になることが決定した、最後の終業式の挨拶。ポンポコリン校長がしたのは、学校の七不思議の話でした。それは「理科室のがいこつ標本が踊る」「校庭にある『かみなりさんのへそのゴマ』という岩が歩く」「階段をボールが上る」「体育館にある絵に描かれた少女が一人増える」「花壇の花の色が真っ赤に変わる」「プールに女の人の顔がうつる」「階段が一段減って十三段になる」というもの。不思議に思うワコたちでしたが、実際に七不思議が目の前で次々と起こり、驚きながらも真相を推理することに。

夢水清志郎シリーズよりも、もう少し低学年向けという印象の作品。学校の七不思議といういかにもなテーマがとても楽しく描かれています。ワコこと宮沢和子を始めとする生徒も、彼らの周りの先生などの大人たちもとてもいい感じで、やはりはやみねさんの作品は、作品自体や登場人物の明るさと悪意のなさが一番大きな魅力ですね。子供から大人まで安心して読めますし、しかも読んでいると気持ちが和んでくるのが嬉しいところです。
肝心の謎に関しては途中で気がつく可能性が高いと思うのですが、これを言うのは今更というものですね。読者への挑戦も挿入されていて、子供向けながらもきっちり本格推理的な要素は備えた作品です。


「オタカラ ウォーズ-迷路の町のUFO事件」講談社(2003年10月読了)★★★

山之城町は、400年ほど前に空から落ちてきた男によって作られた迷路の町。身体にぴったりあった、縫い目のない銀色の服を着たその男は、落ちてきた次の日に広場に城を作り、その次の日には村の道を迷路のように作り変え、さらに火の見やぐらや堀や用水路、井戸や水車小屋などを作って、村をすっかり作り変えてしまったのです。男は「絵者」と名乗り、村の娘と結婚して、死ぬ前に空から持ってきた「宝」を村のどこかに隠していました。その「絵者」の子孫とされているのが、現在小学生の岡本遊歩。遊歩とタイチと千明は、全財産をつぎ込んだ手作りの飛行機の実験に大失敗、残った300円を神社のお賽銭につぎ込みます。しかし鰐口を鳴らした途端、鰐口が切れて賽銭箱を直撃。壊れた賽銭箱からは、直径10cmぐらいの銀色の円盤のような物が出てきたのです。

あとがきによると、「最初は純粋本格推理小説になる予定だったのに」、いつの間にやらSF冒険小説となったという作品。はやみねさんの作品では唯一のSFです。確かに宇宙人の残した宝を探す、という話は推理小説になりにくいかもしれません。しかし実は暗号で書かれた宝の地図という、これこそ純粋なミステリ分野の小道具が登場します。この地図は、簡単ながらも良く出来ていますね。すっかり盲点をつかれて驚いてしまいました。鮮やか!宝探しも面白かったし、偽者探しも面白かったです。巻頭に載っている「山之城町の地図」が物語にあまり生かされてないのが残念だったのですが、きっと「純粋本格推理小説」になるはずだった名残なのでしょうね。推理小説になっていたらどんな作品になっていたのでしょう。色々と想像してしまいます。


「そして五人がいなくなる」講談社青い鳥文庫(2001年7月読了)★★★★★お気に入り

4月1日、エイプリル・フールの日に隣の洋館に引っ越してきたのは、「名探偵」夢水清志郎でした。しかし表札にも名刺にも名探偵と書いてあるにもかかわらず、本人は昔の事件はすっかり忘れており、全く頼りにならない状態。そんなある日、巨大遊園地・オムラ・アミューズメントパークで行われたマジックショーで1人の少女が消失します。「伯爵」と名のる人物から犯行声明が出され、伯爵はさらに4人を消失させると予告。警察側は連れ去られる少年少女を予測して厳重な監視をつけるのですが、彼らはオムラ・アミューズメントパークの中で1人、また1人と消えていくのです。

ずっと読んでみたかったシリーズです。図書館では見つけられずにどうしようかと思っていたのですが、それもそのはず、この青い鳥文庫は児童書だったのですね。しかも新書サイズ。いやいや、騙されました。(笑)
最近まで小学校の先生をしておられた、はやみねさんの書かれる作品は、子供用のミステリが中心。しかし子供用と侮るなかれ!これがなかなか本格的なのです。個々のキャラクターがとても魅力的ですし、謎の解決の仕方もとてもハートウォーミング。夢水清志郎シリーズで、教授の「名探偵は、謎を解くだけが仕事じゃない。みんなが笑顔になれるような解決をしなきゃいけない。」という台詞がありますが、これがはやみねさんの作品全体におけるテーマのように思えます。 ミステリ慣れしていない人にとっては入門編として最適ですし、逆にミステリ慣れしている人にとっては、作品の中に散りばめられた古今東西のミステリのネタを楽しめると思います。読んでいる間に犯人やトリックが分かってしまうこともあるとは思うのですが、そういうことが些細に思えてしまうほど素敵な作品ばかりです。
ということで、これは名探偵・夢水清志郎シリーズの第1弾。清志郎を中心に岩崎姉妹や上越警部などのキャラクターがとても楽しく、テンポよく読める作品です。人間が次々に消えるトリックもなかなか読み応えがあって良いのですが、一番良かったのは清志郎の事件の解決の仕方。とにかく真相を掴むことに全力を注ぐ探偵も多い中で、彼の解決はとても人間的。自分の名声やプライドよりも事件の当事者のことを大切に考えています。本当に名探偵と呼べるのは、こういう人のことなのかもしれませんね。


「亡霊は夜歩く」講談社青い鳥文庫(2001年7月読了)★★★★★

岩崎3姉妹が通う中学校・虹北学園が文化祭の準備で盛り上がっている頃。故障していたはずの時計塔がいきなり動き出し、さびついたオルゴールが曲を奏で始めます。そして誰ともなくつぶやく「時計塔の鐘が鳴った…」という言葉。実はこの学校には4つの伝説があり、その1つが「時計塔の鐘が鳴ると、人が死ぬ」なのです。さらには学校の校庭には魔方陣が描かれ、文芸部で亜衣が使うワープロには「亡霊(ゴースト)からの謎のメッセージが。しかしそれらの出来事は、星占い同好会の会長・間直玲子が事前に紫水晶のお告げを受けたもの。亡霊とは何者なのか。そして虹北学園の4つの伝説との関係は。

夢水清志郎シリーズの第2弾。上記の謎の他にも、魔方陣の回りにバラバラにされたハードルが置かれていたり、上空から落下したように見える椅子と机が足跡のない魔方陣の中心に落ちていたり、衆人環視の中で亡霊の姿が消えたりと、小さな謎と大きな謎がたくさん詰まった物語です。それら一連の出来事は、どうやら15年前に亡くなった文芸部所属の女子生徒がキーワードとなっているらしいということで、比較的簡単に予想できてしまうのですが、それでもやはりテンポの良さで最後まで楽しく読めてしまいました。校則のあり方や存在意義、校則で生徒を締め付けることへの疑問など社会問題も含んでいますし、最後に切なさの残る作品ですが、作品全体の明るくて楽しい雰囲気はそのまま。とても読後感の良い作品です。レーチこと中井麗一は今後どうなるのでしょうね。最後の最後の亜衣ちゃんの謎もとても可愛いです。


「消える総生島」講談社青い鳥文庫(2001年7月読了)★★★★★お気に入り

なんと岩崎姉妹が映画に出演?!ミステリ映画のイメージガールのオーディションに受かった岩崎姉妹は、映画の予告編のロケのために総生島(そうせいじま)へとやってきます。そのロケには、「何かとても奇妙で呪われた事件が必ず起こる」と夢水清志郎も同行。しかし総生島についた途端、クルーザーは爆破、電話線も切られ、一同は島に閉じ込められてしまうことに。そして人が消え、山が消え、島が消え… 名探偵の推理が冴えます。

夢水清志郎シリーズの第3弾。鬼の伝説があるという総生島はまるで横溝正史の世界ですし、映画のタイトルは「黒死館の惨劇」。建物の設計を最初中村青司に依頼して断られたというエピソードや(しかも建てられた建物の名前は「霧越館」)、「五十円玉二十枚の謎」ならぬ「五円玉九枚の謎」があり、「読者への挑戦」が挿入され、「このミス」などが小道具として使われているなど、遊び心も満載です。トリックは、島田荘司ばり。謎自体はそれほど難しくないのですが、それでも最後の最後まで目が離せません。こういう物語を読んで育った子は、後で横溝正史や綾辻行人などの本格物と出会い、今の私とは違った意味でニヤリとするのでしょうね。ミステリの楽しさやエッセンスがたくさん詰まっている物語です。子供たちやミステリ初心者はもちろん、ミステリ上級者にまでオススメの作品です。


「魔女の隠れ里」講談社青い鳥文庫(2001年7月読了)★★★★★

旅と料理の情報誌「セ・シーマ」の編集員・伊藤真里が夢水清志郎を訪ねてきます。なんと「名探偵夢水清志郎の謎解き紀行」のシリーズを始めたいというのです。教授こと夢水清志郎はもちろん断るのですが(理由は「面倒くさいから」!)、岩崎3姉妹の説得や旅先の名物菓子の誘惑に負けて、結局出発することに。そして当然のように不思議な事件に巻き込まれます。第1の行き先は、N県のA高原のスキー場。伝説「雪霊(ゆきだま)の藪」の謎を解くこと。第2の行き先は、桜の咲く笙野之里(しょうののさと)。ここでの役目は、笙野之里振興会による村おこしの推理ゲームを作る手伝い。この2つの物語の間には、「休憩 羽衣母さんの華麗な一日」が挟まれています。

夢水清志郎シリーズの第4弾。今回は謎解き紀行つながりの2部構成です。第1部のスキー場の「雪霊の藪」の謎は、謎自体はそれほど大したものではないのですが、謎解きをする前に教授がつける条件がなんともいいですね。確かに人間の都合ばかりを、あまりいろんな所に押し付けてはいけません。私はこの謎そのものよりも、謎がなぜ伝説となったという部分が好きです。そして「休憩 羽衣母さんの華麗な一日」。これは岩崎3姉妹のお母さんのエピソードなのですが、やはり母は強かった。(笑)岩崎3姉妹以上に教授の扱い方を心得ていますね。少し切なく、ほんのりと暖かいエピソードです。そして第2部の「魔女の隠れ里」。何者かによって人数分のマネキン人形が送り付けられたり、「魔女」からのメッセージがあったりと、小道具使いが雰囲気を盛り上げています。しかも20年前のある家族の行方不明事件まで絡んできて…。1つだけ推理の仕方に解せないものがあったのですが(全員が全員、同じ考え方をするとは思えないのです)、しかし桜の花によく似合うミステリでした。それにしても、なかなか謎を解こうとしない名探偵ですね。事件を未然に防ぐという考えはないのでしょうか?


「踊る夜光怪人」講談社青い鳥文庫(2001年7月読了)★★★★★

今回「セ・シーマ」の伊藤真里が持ってきた謎は、この町の桜林公園に出没するという噂の「夜光怪人」。全身が黄金色に輝き、首を取り外しできる巨大な人影が徘徊するという噂が町の大人の間で噂となっていたのです。一方、亜衣とレーチは文芸部の後輩である千秋から、彼女の父親についての相談を受けていました。虹斎寺の住職である彼女の父親が、最近見つけた1枚の紙をずっと手放さずに何かを考え込んでいるというのです。和尚が持っているその紙こそが、この地方に伝わる黄金の仏像の伝説に関する暗号。早速レーチが解読に挑戦することに。

夢水清志郎シリーズの第5弾。教授と岩崎3姉妹のほかに、「亡霊は夜歩く」に登場していたレーチも再登場します。今回のメインのトリックは暗号。レーチも「コウダヨシサルが知っている」という暗号を解くなど大活躍。それに地底探検のオマケ付き。とくれば、まるで江戸川乱歩の少年探偵団シリーズのようで、読んでる側もワクワクするような楽しい作品です。
今回もなかなか謎解きを始めようとしない教授なのですが、いざ始めると、きちんといろんな事を熟慮した上での解決ということで、相変わらずの読後感の良さとなっています。「名探偵は、謎を解くだけが仕事じゃない。みんなが笑顔になれるような解決をしなきゃいけないってことも。」という台詞がありますが、全くその通りですね。
そして亜衣とレーチの進展しそうで進展しない仲も、物語のお楽しみの1つ。今後の展開も楽しみです。


「機巧館のかぞえ唄」講談社青い鳥文庫(2001年7月読了)★★★★★お気に入り

教授こと夢水清志郎と岩崎3姉妹は、大ベテランの推理作家・平井龍太郎の「デビュー五十周年記念パーティ」に招かれます。パーティが開かれたのは、現在平井が住んでいる「機巧館(からくりやかた)」。この館の名前の由来は、館内に多数展示してある国内外のからくり人形と、さらには館自体に仕掛けてあるという様々な「からくり」。平井はパーティの席上で見立て殺人が出てくるという次作「夢の中の失楽」について披露し、その後書斎へと引き上げます。その後しばらくたち、書斎の方からすさまじい悲鳴が。しかし上越警部や教授が部屋に駆けつけてみると、密室状態の書斎の中には平井の姿はなかったのです。事件は「夢の中の失楽」通りに進んでいきます。

夢水清志郎シリーズの第6弾です。現実だと思えば原稿に書かれた物語、しかしその物語を読んでいる現実もまた… と、複雑な入れ子構造になっていて、その構成がとても効果的。これによってどちらが現実でどちらが物語の世界なのか、読んでる側にもだんだん分からなくなってきてしまいます。まさに「夢の中の失楽」ならぬ「匣の中の失楽」ですね。あまりに複雑なので、これは本当に児童書かとも思ってしまうほどなのですが、しかし昨今の「児童」は侮れないので、このぐらいの作品の方が読み応えがあって良いのかもしれませんね。
本格推理についての薀蓄も楽しいですし、パーティの場面で登場しているミステリ作家たちの描写にはニヤリ。それに教授がタキシードを着たがらない理由はアレですね?ミステリ入門編にぴったりのこのシリーズなのですが、今回はある程度の知識を持って読んだ方が色々と楽しめるかもしれません。


「ギヤマン壷の謎」講談社青い鳥文庫(2001年7月読了)★★★★★

名探偵・夢水清志郎左右衛門が19世紀のエディンバラに現れた?!ここで彼が解いたのは、エディンバラ大学の医学部教授・ジョゼフ=ベル氏の謎。そして舞台は一転して幕末の日本へ。帰国した清志郎左右衛門がまず解くのは、長崎の密室から消えた「ギヤマン壺の謎」。そして才谷梅太郎と名乗る人物と一緒になった江戸への道中での「六地蔵事件」。新キャラクター・中村巧之介が登場し、新撰組も絡んでくる外伝「やつの名は巧之介」を挟み、「名探偵IN大江戸八百八町」へ。江戸に着いた清志郎左右衛門は、回船問屋の3姉妹・亜衣・真衣・美衣の三姉妹に世話になりながら、かわら版屋の真里が持ち込む「大入道事件」を解決します。そして大江戸編下巻「徳利長屋の怪」へと続きます。

夢水清志郎シリーズの第7弾。舞台は一転して江戸時代です。…という割に、いきなりオープニングがエディンバラというのには驚きましたが…。エディンバラから長崎港に戻ってきた教授は、そこから江戸へと向かいます。しかしまあ、教授はどこに行っても教授のままですね。黒尽くめの格好をしているのも、食べ物につられるのも、常識が全くないのも、物忘れが激しいのも、謎解きがハートウォーミングなのも、全て一緒。確かに同心や岡っ引きも事件を解決しますが、多くの場合、客観的に善悪白黒をつけるだけなので、教授の解決にはいつもながらにほっとしてしまいます。
時代考証に関しては、はやみねさんご自身も書いてらっしゃいますが、あまりきちんとしてません。しかしそれを言うのは野暮というもの。そして今回も楽しいお遊びが満載です。今回まずニヤリとするのは、まずシャーロキアンでしょうか!

Livre TOP≫HOME≫
JardinSoleil

Copyright 2000-2011 Shiki. All rights reserved.