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このページは、馳星周さんの本の感想のページです。

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「鎮魂歌(レクイエム)-不夜城II」角川文庫(2003年6月読了)★★★★
前回の抗争事件から2年。今の新宿は、北京系のボス・崔虎と上海系の朱宏が勢力を二分し、辛うじて均衡を保っている状態。しかしその後ろにいるのは、やはり楊偉民でした。楊偉民は札幌に住む台湾人の殺し屋・郭秋生を東京へと呼び寄せます。今回の仕事は、大久保のマンションにいる「北京のやつら」を全て殺すこと。秋生はいつも通り首尾よく仕事を終えるのですが、普段ならそのまま札幌に帰るはずなのに、今回はそのまま東京に居続けて上海系のボス・朱宏の愛人・楽家麗のボディガードをするよう言いつけられます。一方、秋生によって幹部の張道明を殺された北京系のボス・崔虎は、元刑事の滝沢誠に、その事件を調べるよう指示。その日その時間その場所に張らが集まっていることは、身内の人間3人しか知らないことだったのです。それは魏在欣、陶立中、陳雄の3人。いずれも崔虎が育て上げた精鋭。死んだ張を入れて四大天王と呼ばれる存在でした。

第18回吉川英治文学新人賞受賞のデビュー作「不夜城」の2年後を描いた作品。こちらは第51回日本推理作家協会賞を受賞しています。
前回はまだまだ線が細い印象のあった劉健一は、今回はまるで別人のよう。自分の恋人を殺さざるを得ない状況に追い込んだ楊偉民に対して深い恨みを持ち、復讐の念を抱き続けています。それ以外の感情は、どこかに置き忘れてきてしまったかのよう。しかし今回の劉健一は陰の存在。今回の表向きの主人公となるのは、自ら犯し殺してしまった血の繋がらない姉・真紀を想い続けている、台湾海軍の特殊部隊上がりの殺し屋・秋生。そして中国人ホステス・林宗英とのSMプレイに嵌まり込んでいる元悪徳刑事の滝沢。この2人の姿が交互に描かれていきます。劉健一は裏からこの2人を操る存在。結局のところ、揚偉民と劉健一の代理戦争なのですね。秋生も滝沢も、2人の手の平で踊らされているだけ。
しかし手持ちの駒のように扱われる秋生と滝沢も、それぞれに1人の人間であることには変わりありません。最後まで楽家麗を信じる秋生と、最後に自分の本当の望みが分かる滝沢。暴力や欲望、裏切りが剥き出しになり、信じられるのは自分だけという世界に住む2人の、その2人ともが純愛であるだけに、なんとも哀れですね。秋生の姿を見ていると、劉健一の姿に重なる部分もあると思うのに、なぜこうなってしまうのか…
昼間の新宿を歩くだけでは想像することもできないアンダーグラウンドな抗争の世界がスリリング。デビュー作ほどの衝撃はありませんでしたが、しかし相変わらずの密度の濃さです。
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