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このページは、藤岡真さんの本の感想のページです。

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「ゲッベルスの贈り物」創元推理文庫(2002年10月読了)★★★★
広告代理店のプロデューサー・藤岡真は、社長命令で「ドミノ」を探すことになります。ドミノとは、半年前にデビューした謎の少女シンガー。素人ビデオの番組に送られてきたビデオが放映されたことがきっかけでブレイクし、当人が名乗り出る気配もないまま、アカペラで歌う姿を撮影したビデオだけが、週に1〜2回、各テレビ局宛てに送られてきているのです。歌は「ささやき」と名づけられ、ドミノの謎めいたイメージが視聴者の好奇心を刺激し、人気は高まる一方。藤岡がドミノを探すことになったのも、ドミノをCMに出演させたいという得意先からの要望でした。藤岡は早速知り合いを当たり始めます。一方、その頃日本全国で10代20代の若者を中心に自殺者の数が急増していました。そしてその中には、自殺に見せかけて殺された人気俳優、人気キャスター、国際的な数学者など有名人も混ざっていたのです。

なんともすごい物語です。語り手は藤岡真の「おれ」と、殺し屋である「わたし」の2人。序盤から飄々としたテンポで物語が展開し、ものすごい勢いで大風呂敷が広げられていきます。仕掛けや伏線もたっぷりで、どうやってこの物語をまとめるのだろうと心配してしまうほど。そして謎解きに入る中盤以降は、まるで坂道から転げ落ちるような急展開。広げられた風呂敷もあっという間に畳まれてしまいます。このまとめ方は凄いですね。少々強引ながらも、お見事です。読者を驚かそうという一心で書かれているのがよく分かります。作中の仕掛けや伏線に関しては、藤岡さんがあとがきに書かれたかくれんぼうの話を読んで納得。少年時代から独創的で凝り性だったのですね。私は「意外な結末に総毛立ち」し「思わず長い溜め息を漏らす」ほどではなかったのですが、ゲッベルスの贈り物や色々な人物の謎については本当に驚きました。特にゲッベルスの贈り物は、単純だからこそ却って威力を発揮するトリックですね。
作者の藤岡さんは、この作品の中に登場する「藤岡真」と同じように広告代理店でCMを作る仕事に携わっているのだそうです。1993年に書かれた作品ということで、当時に比べると意外性は多少落ちてはいるものの、今でも十分通用する作品だと思います。

「六色金神殺人事件」徳間文庫(2002年10月読了)★★★★
保険会社の調査員の江面直美は、青森での調査が終わって空港に向かう途中吹雪に遭い、道に迷ってしまいます。しかも乗っていた車はガソリン切れ。仕方なく車を捨ててスキーを履いた直美がようやくたどり着いたのは、津本町という小さな町でした。そこでは折りしも六色金神祭が行われようとしているところ。六色金神祭とは、この地の名家・東元家に伝わる「六色金神伝紀」に基づいて催されるもので、この祭りに参加するために東京から若手人気女優の貴島麗子も津本町に来ていたのです。雪で交通が完全に遮断され、電話も通じないことから、直美は津本のホテルに泊まることに。しかし直美が津本町についたその時、雪の中に真っ赤なミイラが見つかり、その後の祭のシンポジウムの席上では、歴史学者の岡島厚夫がいきなり宙に浮き、しばらく飛び回った挙句天井に激突して死亡。「六色金神伝紀」の見立てとしか思えない連続殺人事件が起き始めます。

制服を着たミイラ化した死体や、何も仕掛けがないのに大勢の人間の目の前を飛び回る歴史学者、流れ星のように空から落ちてきた焼死体など、どう見てもあり得ない状況で人々が殺されていきます。あまりの不可能状況に、読んでいて眩暈がしそうなほど。しかも上空を飛ぶ大きな船のような物体を見て、「雨浮船に乗った山幸彦が、21万7千年ぶりに六色金神の末裔を殺しに来た」と主張する老人や、フランス人形のような双子の老婆と意味深な会話など、なにやら不気味な雰囲気の目白押し。徳間文庫ということもあり、このまま伝奇路線をまっしぐらかと思ったのですが…。いや、驚きました。立派な本格ミステリだったのですね。ここまでは想像してなかったです。凄い荒業ではありますが、しかし分かってみれば納得。「ゲッベルスの贈り物」も怪作だと思いましたが、こちらはそれ以上でした。好き嫌いは分かれると思いますが、読み終えてみれば、なかなか楽しめた作品でした。
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