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このページは、ライナー・チムニクの本の感想のページです。

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「クレーン男」パロル舎(2009年1月読了)★★★★★

町が大きくなるにつれ、貨物駅では山のような荷箱や石炭、牛や豚をさばききれなくなり、市長と大臣と12人の市会議員たちは、町の正面の空き地にクレーンを一台すえつけることを決定。そして翌日から早速クレーンのすえつけ工事が始まり、沢山の男たちが働き始めます。その男たちの中にいた1人の若者が、そのクレーンに惚れ込んでしまったのです。それは青いぼうしに羽を一本さした若者。彼は他の男たちよりも3倍も早く金づちをふるってびょうを打ち、みなが家に帰った後は、クレーンのてっぺんまでよじのぼって自分のハンケチでねじを磨き上げ、朝はクレーンの影をぴょんぴょんと飛び跳ねます。そして国中で一番大きなクレーンが完成した時、クレーン男となってクレーンの舵をとることに。(「DER KRAN」矢川澄子訳)

夏の日も冬の日も、晴れの日も雨の日も荷物を積み替えし続けるクレーン男。その仕事が楽しくて仕方なくて、誰にも譲りたくないのです。一度下に降りてしまえば誰かに仕事を取られるような気がして、夜寝るのもクレーンの上。しかし水が欲しければつかみ機で川から汲み上げますし、必要なものはトラックの運転手たちに買って来てもらえます。親友のレクトロも毎日会いに来てくれますし、髪が伸びればレクトロのお兄さんがただで刈ってくれます。そして日曜になれば娘たちがクレーンの周りで踊るのです。全く寂しくなどありません。それが戦争が始まって状況は一変。この町にも「白い騎士」が現れたのです。突然1人ぼっちになってしまうクレーン男。しかし誰もいなくなっても、辺り一面が海になってしまっても、それでクレーン男はクレーンから降りようとはしません。自給自足の生活を送り、クレーンの手入れを地道に続けます。
平和な頃に楽しい夢にふけるレクトロの絵があまりに幸せそうなので(レクトロの絵はどれも表情がいいですね)、それだけに物語の明暗がはっきり感じられてしまいます。しかしクレーン男が孤独な生活となってからも、様々な印象に残る情景がありました。まず印象に残ったのは最初のクリスマス。これは本当に素敵です。添えられているのはモノクロの絵なのが信じられないほど鮮やかな色彩を感じます。あまりに美しいので、思わずまったく別の展開を想像してしまいましたが…。そしてその後でクレーン男は1羽のワシと友達になるのですが、ずっと仲良くしてきたこのワシとクレーン男がただ一度仲たがいした時の哀しさときたら。さらに最後のクレーン男の言葉とその幕引きは、美しいながらも寂しくて胸が詰まりそうになりました。


「タイコたたきの夢」パロル舎(2009年1月読了)★★★★★

むかしむかしのある日のこと、大きなもりの中にぽつんとある町の通りを、1人のせむし男がタイコをたたきながねり歩き、さけびだします。「ゆこう どこか にあるはすだ もっとよいくに、よいくらし!」 町の人々はその男を牢屋にとじこめようとします。しかし町をくまなくしらべてみても、どこにもその男はいないのです。その夜、ひとりの老人がタイコを持っているのを見つかり、牢屋にとじこめられてしまいます。人ちがいだと言っても、だれも聞いてくれません。そしてあくる朝、またしても同じようにさけぶ声が。老人と牢番が一緒にタイコをたたきながら、同じようにさけんでいたのです。(「DIE TROMMLER FUR EINE BESSERE ZEIT」矢川澄子訳)

たった1人が叫んだ「ゆこう どこかにあるはすだ もっとよいくに よいくらし!」 という言葉。最初は1人だったのが2人となり、8人になり、見る見るうちにどんんどん増えて、あちらでもこちらでも人々がタイコをたたき始めます。それは水滴が集まって水となり、やがては川となって勢い良く流れていくような印象。読んでいる私まで、その奔流に飲み込まれてしまいそうになります。1つの町で始まった行進は他の町も巻き込み、見る見るうちに勢いを増し、しまいにはとてつもない大きさになり、まるでレミングの行進のようです。しかし可笑しいのですが、笑うに笑えない雰囲気。何があってもあくまでも前進してゆく人々の姿が、痛々しく見えて仕方ありませんでした。それだけにすごく印象に残るとも言えるのですが。これは何を意味しているのだろうと思いながら読んでいたら、最後にライナー・チムニクの紹介が。1930年にポーランドに生まれ、ミュンヘン在住の作家さんだと分かり、深く納得。
グレー地に、ライナー・チムニクが自ら描いたという細いペン描きの絵があり、とてもシックでお洒落な本です。絵も少し細かいのですが、とても可愛らしいし味わいがある絵。そして矢川澄子さんの訳がやはり素敵。「ゆこう どこかにあるはすだ もっとよいくに よいくらし!」 ...このリズム感がいいですね。明るく力強いです。誰かが本当にそのまま叫びだしてもおかしくないほど。しかしその時は「どこかにあるはずだ」だと言うのではなく、自分たちで作って欲しい、と願ってしまいます。

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